例会速報 2017/04/16 多摩大学附属聖ヶ丘中学・高等学校


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授業研究:授業開き みんなの発表
 4月の例会の冒頭は恒例の「授業開き交換会」。年度の最初の授業の様子をみんなで紹介しあう。

 小沢さんの報告は、向かい合う座席で話し合いを中心に進める「課題方式」を、3年生でも始めたというもの。2年生ですでに定着しているが、3年生では理系の生徒ばかりなので考えの幅が広がらず、また、塾で先取り学習をしている生徒にとって、物足りないレベルになってしまうことを心配していたという。しかし、演示実験と説明中心では、生徒の思考活動を十分に引き出しきないと感じ、今年から導入した。
 授業運営では、次のような工夫をした。
・毎回席替え(ローテーションでずれていく)→座る位置によってホワイトボードの見やすさが違うため。
・厚紙で作った名前の立て札を使用→指名用と選択混合授業の生徒同士が名前を知るため。

 授業の<課題>の例
・ダイソーのプラレールの円軌道の内側に沿ってビー玉を運動させる。1本レールを取ると、ビー玉はその先どんな運動をするか。
・かつて後楽園ゆうえんちにあったというローターという乗物で、壁に押しつけられている人が受ける力の矢印を描け。

 この課題は、班単位で観察させることが効果的だという提案には、その場で実践を紹介をしてくれた参加者もおり、YPCメンバーの教材は豊かだと感じた。また、ローターの動画が別の参加者のPCからすぐに出てきたことも驚きだった。ローターの動画は、YouTubeで「rotor attraction」で検索できる。後楽園のものは「岩波・たのしい科学教育映画DVD第1集VOL.7」に収録されている。


 平野さんの授業開きは、今年も例年どおり、「ニワトリの姿を思い浮かべてスケッチさせ、次に、実際のニワトリの写真を見ながらスケッチさせる」ことを実施した。これは、生徒に「先入観にとらわれない観察の姿勢」を身につけさせることだけでなく、他の教員に生徒の現状を把握してもらうことを目的としている。今年も約1割の生徒が足を4本描き、大部分の生徒が全体の体つきに比べて足を極端に細く描いた。はじめに「本物のニワトリらしく…」のような表現をせずに、頭の中にあるニワトリをそのまま描かせたほうが効果的である。
 

 成見さんの授業開きは、次のように進めた。

中2【理科】
1年を通じて実験が多いことや授業スタイル、ノートやレポート提出の方法など(10分)
レポートの書き方、目的、使用器具、考察と感想の違いなど(10分)
『目盛りを読む』というテーマの自作プリントによる授業(25分)】(写真左)

高1【科学と人間生活(波動とレンズ分野のみ)】
カリキュラム上、この半年の学習のみで高校物理が修了する生徒がいるため、物理は波動領域だけでないことをまずは説明。
物理量、有効数字、10の累乗について。
波の授業(20分)
波が振動であることを音叉を水につけて示す。糸電話やばね電話で媒質についての説明。さらにいくつかの課題に取り組む。
最後に、自作のカラフル・ウエーブマシンで盛り上がる(写真右)。動画(movファイル4.1MB)はここ
 

 車田さんは、「情報」の免許を持っているため、今年度は「社会と情報」を2時間続きで3クラスを教えることになった。理科の持ち時間が減り、理科部会物理研修委員長でありながら皮肉にも物理を持たない1年間となってしまった。教えるのは主に「化学」。「化学基礎」の授業の最初は「色変わり実験」から入った。
 化学の醍醐味は化学反応だ。まず、化学反応で劇的に色が変わる実験を披露した。コーラをスプライトに、あるいはコーラをCCレモンにするという酸化還元マジックだ。動画(movファイル17MB)はここ
 予め食紅で色を付けた水にイソジンで着色する。種はチオ硫酸ナトリウム(俗称:ハイポ・実は誤称)である。ヨウ素分子が還元されて、ヨウ化物イオンに変わり、褐色が消える。生徒には、マジックには種があるとことわって、種を入れて見せて色が変わるところを披露した。1年間の授業の最後に同じ実験を見せる。授業を受けていくと意味が分かるよ!と予告した。「化学基礎」では酸化還元の後半に酸化還元滴定の生徒実験を行う予定。
 

 次なる化学マジックは、指マッチと燃えるお札。SCN東京3月例会での来年度の授業開きの発表で平松さんから教わったアイデアだ。
 アセトンと水を1:1に混ぜた溶液を用意し、指を浸して火をつけると炎が上がる。アセトンを水で薄めた溶液に本物のお札を浸し、火をつけるとお札が燃えるように見える。実際にはアセトンは蒸発しやすい液体で、蒸発した気体だけが燃え、蒸発するとき回りから蒸発熱を奪ってお札を冷やすのでお札は燃えない。指につけて燃やしても、同じように指はそれほど熱くならない。動画(movファイル3.0MB)はここ
 コツは、アセトンは蒸発しやすいので、乾かないうちに水溶液から出したらすぐに火をつけることと、指を真上に垂直に立てること。物質の三態変化の際にエネルギーが必要だということが実感できる。化学だけではなく物理でも使えるネタだ。
 

 益田さんは、この春から改訂した実験プリントなどを披露してくれた。評価法を少し変え、評価の観点を公開しているという。こうして情報交換・意見交換する中で授業力が育っていくのである。


コッククロフト・ウォルトン回路説明器 山本の発表
 線形加速器などの加速用高電圧を得るのに使われる電圧増倍回路に、コッククロフト・ウォルトン回路(以下CW回路)というものがある。直列に積み上げた二系列のコンデンサーを互い違いにダイオードで結んだ構造をしている。N段のCW回路の場合、交流電圧(振幅V)を加えると先端部に2NVの直流電圧が現れる。
 山本はふと思い立って、手元にあったジャンクパーツでCW回路の動作を観察する装置(写真左)を作ってみた。ダイオードをLEDにして、電荷の移動がわかるようにする。コンデンサーはLEDが光る程度の電荷が必要なので470μFの電解コンデンサーを使った。基板のサイズの関係で4段回路とした。交流電源の代わりに、4.5Vの電池を逆転スイッチ(中央下の赤ボタン)を経由してつなぎ、スイッチを押すごとに左系列の基部の電圧が+・-に切り替わるようにした。各コンデンサーには放電用のスイッチがついている。
 

 左右各系列の電位差を、模式的に回路図を上下にずらして表してみる。下り坂になっているダイオード記号の部分だけが導通すると考えればよい。左系列の基部が負電位になっているときは右系列から電荷が流れ込み(写真左)、正電位になっているときは、逆に左系列から右系列の一段上のステージに電荷が流れ込む(写真右)。アースからくみ出された電荷が+・-を切り替えるたびに、一段ずつハシゴを登っていく感じだ。定性的な説明に過ぎないが、なんとなくわかった気になる、かな?
 

 実際の回路で動作を観察してみる。各段の電位をテスターで調べることもできる。左下の赤LEDがともっているときは左系列が正電位、青LEDがともるときは負電位だ。+・-を切り替えるごとに、緑色のLEDが1つおきに、交互に光り、電荷の移動経路がわかる。LEDは順方向電位降下がかなり大きいため、実際に有効な電圧は3Vぐらいになってしまうが、4段のCW回路で動作を繰り返すと、最終段の出力は最終的には20数ボルトに達する。コンデンサは下から順次飽和していくので、充電が進むにつれLEDは下から順に光らなくなる。
 

超小型GPSロガー 山本の発表
 CanMore社のUSB接続超小型GPSロガーGT-730FL-Sの試用報告。秋月電子で3800円で購入したが、人気商品なので、ネットショップ各店で入手可能である。充電式電池内蔵で、USBポートに挿して4時間満充電すると、連続で8~12時間動作する。PCがなくても単体でGPS情報の取得、自動記録ができ、あとからPCにデータを吸い出せる。記録されるデータは、世界時(日・時)、地方時(日・時)、緯度、経度、高度、速度(時速)である。データ処理・地図表示ソフトCanWayはCDで付属しており、経路はGoogleMap上に表示される。GoogleEarth用データやCSV形式の出力機能もある。
 とにかく小さくて(ライター程度)軽い(31g)ので、ポケットに入れて行動記録はもとより、ネコやハトなどにつけて動物の行動観察もできそうだ。ただし、確実に回収する工夫は必要。右の画面は、動作中のロガーを封筒に入れ、ポストに投函したあとの郵便物の経路記録。郵便屋さんがどのような経路をたどって郵便物を収集し、どの局に運び込んでいるかがよくわかる。
 

 左は、右上と同じデータを、GoogleEarth上に表示したもの。ボタン一発でデータ変換してくれる。右は、電車に乗車したときのログデータをCSVに出力してExcelで加工したグラフ。赤が時速、青が高度、灰色が走行距離で、横軸は時間(秒)である。格安かつ超小型ということもあってネットには多数の使用レポートがあり心強い。中には早々と分解した記事もある。
 

「フーッ」と「ハァー」の違い 水野さんの紹介
 水野さんは、朝日小学生新聞に3月まで連載されていた「マナブくん な~んで?」の記事を紹介した。このコーナーは、東京・渋谷教育学園渋谷中学・高校理科教諭の佐藤マナブ氏が身近な物理現象を取り上げ、実験を通して謎解きをしていくというもの。例会では最終回で取り上げていた「フーッとハァ―」の息の温かさの違いがなぜ起こるか、を紹介した。「フーッ」と口をつぼめて勢いよく息を手のひらなどに吹きかけると冷たく感じ、「ハァ―」と口を大きくあけて息を吹きかけると暖かく感じるのはなぜか?というものだった。この現象の説明として「断熱膨張」説が一部にあるが、それが間違いであることを、動画で実験を通して説明していた。さて、どう説明すればいいだろう。
 なお、記事には「ある生徒が発見しました」と書いてあったが、実はこの現象はYPCのWebページが誕生するはるか前、1994年7月のYPCニュースの記事にもなっている。「はー」と「ふー」と題する右近修治さんの記事だ。長いビニル袋を一息で膨らませるパフォーマンスを例に引いて、周囲の空気の引きずりを効果的に例示していた。参考までにWebにはこんな記事もある。
 

ROCKETBOOK WAVE 益田さんの紹介
 スマートホンのアプリと連携し、目的別に7種類の送り先へノートを撮影した画像を自動的に振り分け整理できる。特筆すべきは、フリクションで記述が条件であるが、ノートごと電子レンジにかけることができ、記述内容を全部消してリサイクルできるノートであること。インクは無色になるが残るので再生回数は数回だろうか。1冊4000円弱とかなり高価だが、話の種にいかが?
 

四ヶ浦弘さんの本 越さんの書籍紹介
 越さんから「金沢・金の科学館」代表の四ヶ浦弘さんの著書紹介があった。

 左「実験で楽しむ宮沢賢治 サイエンスファンタジーの世界」(第3版)・細川理衣 絵
 難解で味わい深いと言われる宮沢賢治。賢治は宗教者、詩人、作家、化学教師と多彩
な面を持つ。高校化学の先生が、作品に出てくる科学実験を行いながら賢治の世界を
読み解いていく。挿絵がとても魅力的な本。
 「融銅はまだ眩めかず」、「雲はみんなリチウムの紅い焔をあげる」(詩集「春の修羅」の「真空溶媒」より)、といった賢治が行ったであろう美しい実験の追試を行いながら、作品を味わっていく。賢治の「美しいものを美しいと感じて、みんなで幸せになろう!」というメッセージを感じとりながら。詳しくは、こちら
 
 右「金沢のルーツ 砂金を探せ!」・細川理衣 絵
 「先生、金沢で砂金 採れるの 知っとるけ?」という生徒の言葉をきっかけに始まった金沢での砂金採りをめぐる冒険(?)をまとめた本。詳しくはこちら

物理学者の墓を訪ねる 神谷さんの書籍紹介
 山口栄一著「物理学者の墓を訪ねる ひらめきの秘密を求めて」日経BP社・1,728円(税込) ISBN:978-4-8222-3732-5 の紹介があった。

  京大大学院教授、物性物理研究者の山口栄一氏の著書。多くの訪問の中から、ニュートン、長岡をはじめ、海外7名、日本6名の墓の記録を集録している。
 研究者の墓を見ると、生存中から今まで、その人がどう扱われていたかがわかってくる、という。オットー・ハーンの墓は立派だが、核分裂が起こったことを明示したのにノーベル賞の受賞者になれなかったユダヤ人のリーゼ・マイトナーの墓は、朽ち果てそうな墓石で雑草に囲まれているという。彼女は、英国の核開発への協力要請を拒み、後に、ヒロシマ、ナガサキは自分のせいだと嘆いた。
 山口氏の楽しみのひとつは、ヨハン・バルマーの墓に行くこと。スイスの女子高の教師をしていた数学オタクで、水素原子の4つの線スペクトルの波長の値を 364.5で割って規則的な数列になることを見いだしたが、論文には書いてない「なぜ 364.5で割ったか」を知るヒントのかけらにでも、墓で出会いたい、とワクワクしているという。

グラフを見るときにはご注意を 市原さんの発表
 某お菓子メーカーと内閣府の研究プロジェクトの成果として「チョコレートが脳を若返らせるという検証結果が出た」、というプレスリリースが出たとき、あまりに作為的な棒グラフなので、Twitterなどで話題になっていた。実験方法や分析方法の問題点などもあるが、グラフの縦軸をいじって差を強調しているのも問題で、真っ当な分析をしているとは感じられないのが残念である。「物理」と直結しているわけではないが、論理性を扱う学問として、グラフに騙されない様にしようと、授業で扱っている。
 

二次会永山駅前「塚田農場 京王永山店」にて
 11人が参加してカンパーイ!今回初参加の新しい顔ぶれも加わって、科学談義に花が咲く。若い仲間が増えることは、サークルにとっても望ましいことだ。こんな気さくな雰囲気なので、ぜひ気楽に参加して欲しい。
 


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