例会速報 2017/07/09 慶応義塾高校
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授業研究:モータの回るしくみ 高杉さんの発表
メーリングリストに、「『モーターが回るしくみ』を授業でどのように説明しているか、実践例と工夫・アイデアを持ち寄って紹介してもらえないか?」という、たかすぎさんの書き込みがあった。ちょうど例会直前だったので、まずたかすぎさん自身に実践報告(中2)で口火を切ってもらうことにした。
この単元の1番のポイントは、空間的・立体的な「方向」を正しく把握させることだろう。たかすぎさんは次々と自作の小道具(教具)を繰り出して、生徒の、特に奥行き方向のイメージを簡潔に示すことにしている。
下の右手と左手の模型も自作だ。手の写真を型紙にしてウレタンフォームを切り抜き、指の部分にはアルミの針金をさしこんである。自在に変形でき、その形を維持できる。このまま製品化できそうなアイテムだ。
写真左はコピー用紙の箱を加工した演示用の磁石の模型。ダンボール工作だが、生徒にはむしろこちらの方がウケがいいとのこと。右の写真のブラシの部分は牛乳パックを使っている。回転子の模型にコロコロクリーナーを使ったら?という学生さんのすばらしいアイデアの紹介もあった。後生畏るべし。
初学者(中学生)への解りやすさを優先しているため、高校でのより厳密な定義や解釈とうまく擦り合わない(誤理解を誘発する)点の指摘も多く出て、有意義な議論になった。「情報は発信するところに集まる。」という言葉は、『理科の部屋』の楠田さんの名言だが、より多く情報を集め、より深く理解したいのなら、授業研究でもそのほかの発表でも、躊躇せず自ら発信すべきだ。テレビバラエティのひな壇芸人のツッコミよろしく、YPCの「腕自慢」が盛り上げてくれる。
たかすぎさんの報告に続いて、他の参加者からも教具や教え方の披露があった。写真は喜多さんの自作教具(左)と、島津製の教具(右)。こちらは実動する。動画(movファイル2.4MB)はここ。
下は武捨さんの自作教具。武捨さんは塩ビパイプを継手でロの字にした1巻きコイルの模型でイメージをつかませた後、工作用紙で作ったコイル(断面)の模型(右)で2次元に落とし込んで電流や磁界・力の方向を確認する。たかすぎさんとは順序的な方針が逆だ。生徒の発達段階に沿って最適なやり方が変わってくることはままあることだ。
写真左はナリカの製品。整流子の働きが見やすい。同社のアルニコ磁石に合わせたサイズになっており、コイル部分をまたぐように磁石を置いて電流を通じると実際に回転する。さらに武捨さんは、今はなき「理科ねっとわーく」のアニメーションも活用して説明する。公開終了は本当に残念だ。
アーチ構造を作って!乗ってみよう 車田さんの発表
車田さんはYPC2000年12月例会で発表した「人が乗れるセブンブリッジ」(喜多さん開発の「セブンブリッジ」の大型版)を復刻し、6月17日に国立科学博物館で物理教室「アーチ構造を作って!乗ってみよう」のプログラムを実施した。対象は小中学生約20名。
各ブロックの面間に働く圧縮応力で各部の重さや上からの荷重を支える。一番下のブロックでは水平方向の摩擦力がどうしても必要なので土台には目の粗いサンドペーパーを使った。
ほとんどのブロックは車田さんが用意したが、参加者にも1個だけ発泡スチロールカッター(電熱線式)で切り出しを体験してもらった。各自7つのブロックを組み立て、片足で乗ってアーチ構造の強さを体験した。最後に全員が作ったアーチを並べて、上に板を乗せて渡った。
レーザー距離計 高橋さんの発表
対象物に向けてレーザーを照射するだけで距離が測れる。ボタンを1度押すと赤い点が映しだされるので、位置を合わせてをもう1度押すと距離が表示される。測定可能距離は0.05~
50 mまで、測定精度は ± 1.5 mm。50 mまで測定できるといっても、遠くなると測定点を確認するのが容易ではない。
測定原理は公表されていないが、対象物から返ってくる反射光の光波と内部基準の光波との位相のずれを見る「位相差方式」と思われる。光が往復する時間を計っていることになる。さらに「ピタゴラス測定」というモードを使うと、斜めに向けて照射した点の「高さ」を計算してくれる。実際に測定するのは直角三角形の「斜辺」だけだが、重力センサー内蔵で距離計自身の傾きも測定しているので高さが計算できるのだろう。
写真はBOSCH社のGLM50Cという機種で、スマートフォンやPCと連動させて使うこともできることもあって比較的高価(実売価格1万3000円程度)だが、各社から安価ものも出ているので、「レーザー距離計」で検索するか、ホームセンターで探せばいろいろ見つかる。測定範囲は様々なので要確認。
余談になるが、会場の実験卓から天井までの距離を測ったところ、1.996 mと出たのでずいぶんキリのいい高さだと思ったら、この教室は天井まで3m、実験卓は1
mちょうどの高さに作られているとのこと。写真左は連携アプリで測定値を写真に重ねたもの。ただし矢印を書くと測定できるというわけではない。
例会では、レーザー光線を筒の中を通して照射する実験も行った(写真右)。超音波距離計なら開口端反射で筒の長さが測定されるが、レーザー距離計では筒は無関係で、向こうの壁までの距離が出た。当然の結果だが・・・。光路を空気以外の物質で満たせば光学距離が測定されるはずだ。
集電カップ 喜多さんの発表
APEJの基礎実験講習会で静電気実験のインストラクターを担当することになった喜多さんはいろいろ予備実験と試行錯誤をした。テーマは「はく検電器とクーロンメータ」である。
発端は「摩擦電気を効率よく生じるこすり方は、一方向に押し出すようにする、一方向に引くようにする、何度も押し引きするのどれがよいか」という命題である。その為には帯電量を測定できなくてならない。どうすればよいか。
思い出したのがかつてのナリカ製品「電荷アダプター」である。クーロンメーターに装着し(写真左)、帯電させた塩ビやアクリルの棒を中に入れれば、静電誘導でほぼ帯電量と同じ量の電荷が周りに生じるという訳である。電気力線をほぼもれなく捕まえられるといってもよい。
同等品を自作できないかとセリア、キャンドゥ、ダイソーなどを探し回って、無地の缶を探した(写真右)。左から二つ目のものがスチールのベーシック貯金箱、その蓋を外しバナナ端子を付けたものが一番左のもの。右から二つ目はビール缶、右端のものは中が見える貯金箱のふたをそれぞれ缶切りで切り取り、底にバナナ端子を付けたものである。
更に色々物色しているうちに、底が平らで、商品名がシールに書かれているコーヒー缶に遭遇。「シールが剥がせるので、きれいな側面の缶がゲットできる!これだー!」と思った。加えてよかったことは、バナナ端子をキャップに取り付けるだけなので、上記の空缶などより、端子の取り付けが容易になったことである。左の写真は、底を缶切りでで切り落としたもの。これならば、シールをカッターで切り裂いて、取ってしまえば、無地の缶が入手できる。そして、キャップの中央に5mmの穴を開け、バナナ端子を取り付けるだけである。右の写真の右側のクーロンメータに付いているのが自作品。左のナリカ製品と性能的にも遜色ない。
右の写真の左側の装置では電荷アダプターの内側の側面に紙袋入りのストローをセロテープで取り付け、ストローを抜いたところである。プラス9nCを示している。マイナスに帯電したストローをこの中に入れれば、0nCになり、右のクーロンメータの集電缶に入れれば、マイナス9nCを示す。定量的に示すことができる有用な実験である。
さて、話を最初に戻すと、発端となった「押し、引き、何度も」については、喜多さんが行った実験では、有意な違いを見出すことができなかったそうだ。
新しいビースピを作りたい 櫻井さんの発表
YPCでは、ビースピが理科実験用の簡易速度測定器として注目され始めた頃からその使い方が議論されてきたが、それと同時にビースピの欠点や使用における注意点についても、多くの情報共有がなされてきた。櫻井さんは改めてそのような、YPCメンバーのビースピに関する枯れたノウハウに着目し、「新しいビースピを作るなら、どのような機能があるとよいか」という提案をした。
現在普及しているビースピvの外側を剥いてみると、センサ部は幅広な2組のフォトインタラプタであり、同様のセンサ部とマイコンがあれば、プログラマブルなビースピを自作する道筋は見えてくる。例会参加者からは次々に意見が述べられ、新しいビースピのイメージがあれやこれやと膨らんでいった。これまで何度も話題に上った個体差問題や、耐衝撃性の解決のほか、無線接続、コストダウン、カスタマイズ性、1機での加速度測定、複数機連携、力学台車の計測ができるようにする等々・・・・・・。「頂いた意見を参考に、できるところからチャレンジしていこうと思う。」と櫻井さんは意欲を示す。
cでながめるクーロン力 田代さんの発表
電磁気の研究の盛んであった19世紀はCGS単位系が使われていた。同じ電荷をCGS静電単位でq、CGS電磁単位でQとして比較する。このとき、q=cQとなる比例定数cは次元まで含めて光の速度であった。この精密な測定が1856年、ウェーバーとコールラウシュによって行われた。
田代さんはこのことをプリントで解説してくれたが、静電気のクーロンの法則の電荷qと同じに磁荷mを用い、「qとmはクーロンの法則がまったく同じ形であるために、次元もまったく等しい」という記述に、参加者から違和感を訴える感想があった。
われわれの世代はもっぱらMKSで教わり、教えてきたが、電磁気学の歴史ではかつてさまざまな単位系が使われていた。本件は次回の合宿例会で改めて時間を割いて学習・討論することになった。
アメリカ留学土産頒布 小河原さんの発表
小河原さんから、2014年度にロサンゼルス留学したときのお土産が頒布された。写真は、小さな球形の吸水ポリマーだが、水を吸う前の乾燥した状態で売られている。吸水前後の直径を測定すれば、だいたい何倍に膨らんだかがわかる。袋には500倍に膨らむと書いてあるが、それほど膨らまなかったとのこと。何倍に膨らむかで、屈折率の目安になりそうだ。
写真左は、新しいデザインの大気圧缶ホルダー。写真右は、所属したカリフォルニア州立大学フラトン校理数教育研究センターの紙バインダーと、AAPT南カリフォルニア支部の勉強会で入手したPASCO社のステッカー。ステッカーのロゴは、YPCメンバーにぴったりだ。小河原さん、ありがとう!
ハンドスピナーの使い道 越さんの発表
巷で流行中のハンドスピナー。LED内臓の物(写真左)など、様々なタイプのものが売られている。価格は300円位から3000円位のものまで様々。基本はベアリング4個タイプのものだが、中心のベアリング部を持って、周りのベアリングを指ではじき、勢いよく回転させると、1~2分程度は回転し続ける。一般的な遊び方は、ただ回すだけで回転時間を競う、指に乗せてバランスを取るなど。
越さんは、もっと物理の実験器具としての使い方はないものかと考えてみた。例えば、2本指で挟んで、回転軸を変化させると、ジャイロ効果により力を受ける。また、のらねこ学会の「ジャイロ2輪車」の地球コマの代わりに取り付けることも考えられる。
更に越さんは、手元にあったDVDを両面テープでハンドスピナーに貼り付けてみた。ハンドスピナーを回転させ、DVDをほぼ鉛直にして床に置く(写真右)と、しばらく直立し、その後、併進し始める。また、DVDを上側にして水平に置き、その上に物を載せると、小さなターンテーブルとして使える。その他に何か物理っぽい使い道はないものだろうか?
3対1の衝突球 越さんの発表
写真の質量がm対3mの衝突球は、1回置きにmがvとv/2、3mがv/2と静止を繰り返すこと(動画1(movファイル2.8MB))はよく知られているが、島津の「YS-2」はmが1個、3mが5個連なっていて、m対3mの衝突と、3m5個の衝突の両方の実験ができるようになっている。
越さんはこの衝突球を授業で生徒に見せている時、ふと、m、3m、3mの3球で、初めにmを振らせてみた。そうしたところ、一見不規則で複雑な運動に見えたので、興味を持った生徒と一緒に追及してみることにした。動画2(movファイル3.3MB)はここ。詳しい解析の結果は、後日報告するとのこと。お楽しみに。
人工知能 越さんの書籍紹介
人工知能の急速な進歩が注目されている。越さんは、参考になる本を2冊紹介してくれた。
●「人工知能の核心」羽生善治、NHKスペシャル取材班
3月のライオン、29連勝の藤井壮太四段と、このところちょっとした将棋ブームだ。また、チェス、囲碁に続き、将棋もAIに佐藤天彦名人が負けたことなども大きな話題を呼んだが、先日放送されたNHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」や「人工知能 天使か悪魔か 2017 」も大変興味深いものであった。本書は、この番組の取材を通して羽生三冠が考えたことをまとめたものだ。氏はAIが社会に浸透していくことは避けられない、如何に人間が善く利用し、我々の知性も発展していくかが大切である、など、特に最終章に印象深い言葉が並ぶ。
●「人類の未来」ノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル他、吉成真由美インタビュー・編
「知の逆転」、「知の英断」に続く、世界の知の巨人たちへの吉成氏のツッコミ鋭いインタビュー集、第3弾。AIが人類の知能を上回るであろうとされる時期をカーツワイル氏は2029年と予測する。更に、2045年までには、脳と(コンピュータによるクラウド上の)人工の大脳新皮質が結びつき知能が10億倍にも達し、地球上に予測不能な歴史的変化がもたらされると予測する。氏はこの飛躍的変化を比喩的に「シンギュラリティー」
(元々は特異点、宇宙物理ではいわゆるブラックホールを指す言葉) と呼んだ。チョムスキー、カーツワイル2氏の、AIと人類の未来に対する見解が対照的で、大変興味深い。
二次会 日吉駅前浜銀通り「小青蓮」にて
14人が参加してカンパーイ!慶応例会の二次会はいつもなじみのこの店で決まり。リーズナブルなお値段で、たらふく食べて飲み放題。満足度の高い店だ。なお、YPCの二次会は「学生無料」のルールがある。この日も適用を受けた参加者がいたが、そうして育って、いまでは立派な教員として教壇に立っている人も、常連の中に何人もいるのである。こうしてYPCの遺伝子は受け継がれていく。
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