例会速報 2022/11/13 県立大船高校・Zoomハイブリッド


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授業研究:電磁誘導と電磁波の授業勝田さんの発表 
  勝田さんは渦電流と電磁波の授業実践を報告してくれた。一連の授業のねらいは、電磁誘導を「磁石とコイルの法則」から、「磁場と電場の法則」へととらえ直すことである。前時までに、ファラデーの電磁誘導の法則を学んでいる。コイルと磁石で実験を進めて法則を確立するわけであるが、あえて問いかけてみる。
 磁石はネオジム磁石でも、電磁石でも、地磁気でも構わない。なのにコイルはどうして特別なものとして扱われるのか?導線はぐるぐる巻くと、自然法則が変わるのか?真っ直ぐなままとか、導体板じゃダメ?あるいは、真空中で磁石を振っても、コイルがなければ何も起きないの?
 そこで、勝田さんは渦電流を橋渡しとして、電磁誘導を場との関連で捉え直し、電磁波へと繋げる授業を実践した。
  勝田さんの授業スライド資料(PDFファイル:12MB)はここ

 まず、簡単な生徒実験から。一円玉を机の上に立てて、ネオジム磁石を一円玉の近くに置き、急に遠ざけると、磁石の方に一円玉が倒れる。その後、急に近づけると、どうなるか?磁石に近づいてくると考える生徒も多数いるが、実際は磁石と逆向きに倒れる。これがどうしてなのか考えてみようと問うと、コインでも電磁誘導が起き、誘導電流が流れると考えてくれる。一方で、コインにはたらいた力は、誘導電流のつくる磁場との力と考える生徒と、ローレンツ力によるものだと考える生徒で別れた。
 

 そこで正解は言わずに、アルミパイプ中に磁石を落下させる実験に移る。ローレンツ力を受けるという考えに対して、ローレンツ力を受けるのはパイプなのだから、ローレンツ力が原因だったら磁石の落下には影響がないはずだという考えを引き出す。また、ローレンツ力の向きは、そもそも落下方向でない、という考えも出る。実験してみると、正しく予測できた生徒でも驚くくらいゆっくりと落下していく。
 

 さらに、渦電流振り子(電磁ブレーキ)を扱う。ここでの狙いは、先の課題での渦電流の考え方を、文脈を変えて適用させることと、エネルギーの視点から現象を捉え直すことである。自作の渦電流ふりこで、U字磁石の間をふりこが通過するとブレーキがかかることを演示し、力学的エネルギーはどこに行ったか考えさせる。
 勝田さん提供の動画リンクはこちら→ https://youtu.be/PSgGzPhlIxM
 

 さらに、渦電流が流れなくなるには?と問い、振り子の金属に切れ目を入れ、渦電流が流れないようにする実験につなげる。これは実験室から先日発掘された、古い渦電流振り子実験器(ワルテンホーフェンの振り子)を使った。
 勝田さん提供の動画リンクはこちら→ https://youtu.be/7FVNtn_-ZYo
 

 さらに、次の単元に進む。渦電流のところで、磁場の変化が(電流ではなく)誘導電場を生じることを扱い、それと同様に電場の変化も磁場を作ることを述べる。すると、それがどんどん繰り返されて、キリがない。これはどういう現象なのか?と問う。
 次に、Maxwell 方程式と、そこから導かれる真空中の電磁波の方程式を見せる。もちろん意味はわからないが、媒質中を伝播速度 vで伝わる波動方程式を見せて、全く同型であることを認めさせる。そして、電磁波の(媒質がないのに)伝播速度を、誘電率と透磁率から求めさせ、真空中の光速に一致することを気づかせる。Maxwellがこの結果を得た当時、光と電磁場に関係があるとは誰も考えておらず、電気回路の実験から得た値から、光速が得られたことは大変な驚きであったということを、少しでも実感させたかった。その後、電磁波実験器で、遮蔽、反射、回折、干渉など、確かに波としての性質を満たすことを確認した。
 勝田さん提供の動画リンクはこちら→ https://youtu.be/Whb1Q__qClI
 

 最後に、光に電磁気学の法則が適用できることが明らかになったことで、理解が急激に進み、光と物質の相互作用が解析できるようになったことを紹介した。時間に限りはあるが、1つでも身近な例を扱いたかったので、レイリー散乱を扱った。昼の空は青く、夕焼け空が赤い理由を、散乱断面積が波長の4乗に反比例することから考察し、スマホのライトとホットボンドのグルースティックで実験観察も行った。
 ちょうどこの授業の3日前に皆既月食があったので、タイムリーな話題として使えた。皆既日食は真っ暗なはずなのに、皆既中の月はどうして見えるのか?また、どうして赤いのか?を、レイリー散乱の理論を用いて考察した。
 「渦電流や電磁波の単元は、特に実践報告が少ないので、他の先生方がどのように授業をされているのかも、ぜひ知りたい。」と勝田さんは述べている。
 

巻尺定力装置 天野さん、勝田さんの発表 
 本年9月例会で櫻井さんが発表した自作の定力装置にヒントを得た天野さんは、市販の「巻尺」が定力装置の代用にならないかと思いついて、早速実験してみた。百均のコンベックスメジャーを鴨居に固定し、メジャーの先端におもりとスマホを入れた袋をつるす(写真左)。スマホアプリのphyphoxで「gを含まない加速度」の絶対値モードにして手を放し、降下時の加速度を測定した(写真右)。床についたことを示す鋭いスパイクの左側の部分が測定値だ。重力加速度9.8m/s2よりは小さな値で、初めは比較的大きな加速度、途中から小さめ加速度となり、やや減少しながらも安定しているように見える。
 

 会場校に島津のスマートカートがあったので、勝田さんのその場の提案で、巻尺に台車を引かせる実験が始まった。これが対面例会の醍醐味である。巻尺を2メートルほど引き出して、巻き取りながら台車にはたらく力と台車の速度を測定した。勝田さん提供のテータは右のグラフの通り。横軸の時間で3.4~3.7秒あたりは緑色の力のグラフはほぼ一定と言ってもよい。後半、つまり巻き尺の目盛りで1m以内の部分は不安定で力も弱くなっているようだ。どうやらこれが巻尺の巻き取る力の特性らしい。
 

 こちらは、同じく会場校でお借りした、ヤガミの定力装置。同様に測定してみると、さすがに専用装置だけあって後半も安定している。しかし、本物の定力装置と比較しても、巻尺の前半部分はそれほど悪くない。特性や限界を知った上でなら、使い道があるかも知れない。なにしろコストパフォーマンスは抜群によいのだから。
 

リソグラフの芯で閉管気柱共鳴 天野さんの発表 
 スマホアプリのphyphoxには「音源」モードがあり、任意のオーディオ周波数の正弦波を発することができる。天野さんが持ってきたのは、学校なら容易にタダで手に入る「リソグラフ印刷機」のマスターロールの芯。しっかりした紙筒で一方が閉じた「閉管」になっている。奥行きは約30cm。「音源」を起動して筒の口付近にかざし、周波数を変えていくと、およそ262Hzあたりで音が大きくなる様子が観察できる。仮に音速を340m/sとすると、波長の1/4は32cmぐらいになるので妥当な値だ。手軽なので生徒の個別実験としてもよいだろう。
 

フライングボールの遊び方 宮﨑さんの発表 
 ネットでニュースなどを見ているときに、『フライングボール』という商品のCMが流れてきた。軽い網目状のかごの中にプロペラが入っていて宙に浮くおもちゃだ。値段は半額セールで4000円台、高すぎると思ったが、少し調べると【Amazon限定ブランド】2,799円が出てきたので購入。さらに安いサードパーティ製品もあるようだが品質のほどは不明。
 うたい文句に『フライングボール 正規品 2022 世界で一番 おもちゃドローン 魔法の空飛ぶボール 子供/大人向けギフトおもちゃ ブーメラン スピナー LEDライト 超軽量 取扱説明書とビデオチュートリアルが付属しています (青い)』とある。
 

 網目状のかごの中のスイッチを押すとLEDが点滅を始める。野球ボールのように握って軽く振ると中のプロペラが回転する。手のひらの上で浮遊させることもできるがかなり難しい(写真左)。回転軸を後ろに40度ほど傾けて空中に斜め上向きに押しだすようにすると、ブーメランのように手元に戻ってくる(写真右)。箱書きの製品名はBoomerang Ballである。動画(mp4ファイル:26MB)はここ
 回転軸を後ろに40度ほど傾けて水平に投げるとまっすぐ進む。他にもいろいろな遊び方がある。お披露目が終わったボールは会場を提供していただいた、大船高校物理室にお礼にプレゼントされた。
 

「熱量」という用語 西尾さんの発表 
 教科書には「○○量」という太字の用語がたくさんあり、索引に掲載される「覚えるべき用語」になっている。これらの多くは概念を表す場合とその(単位を含めた)数量を表す場合がある。たとえば、質量という用語は、物体の慣性の程度を決め、重力の源となる「物体の何か」を指すし、kgなどで測定できるその数量も表す。一方、電気量、磁気量、熱量のように、「○○の数量」だけを意味する用語もある。とくに、熱量は電荷、磁荷、磁極の強さなど概念を表す物理用語が別にあるわけでもなく、教科書では多用され、熱と熱量は意識して使い分けられている。
 

 しかし、そんな教科書でも、「熱」が熱量の意味で使われることがあるし、逆に潜熱では「熱量」が熱として定義されている。けっして首尾一貫してはいないのである。
 

 物理に限らず学習の基礎は「用語を覚えること」だが、それは少ない方がよいはずだ。もしも熱量保存則という用語のために「覚えるべき用語」になっているのだとしたら、それは本末転倒で、誤解を生じがちな熱量保存則という用語こそ使用を止めるべきである。教科書の文章中に熱量と書いても別にかまわないが、それは定義して太字にする必要はない。
 

科学者の社会的役割 宮﨑さんの発表 
 この夏、長崎大で開かれた「物理教育研究大会」の講演で、講師の鈴木達治郎先生は、『学生に科学者の社会的責任について教えてほしい』とおっしゃっていた。
 宮﨑さんは、かつて勤務校で書籍を指定して「読んで感想文を提出」という課題を出したことがあるがなかなか出てこない。NHK特集などのテレビ番組を録画し視聴させたこともあるが、授業時間の確保が難しい。そこで「漫画」を読んでもらう、という授業をしたところ反応がよかった。宮﨑さんの現役時代の授業報告である。
 「栄光なき天才たち2」集英社(1988年11月15日第5刷)の中の第13話「フリッツ・ハーバー」を生徒に読んでもらい、感想を書かせる授業である。
 この人物は空気中の窒素からアンモニアを製造する「ハーバー法」の開発者である。彼は祖国に尽くすことが使命だと考え、戦争犯罪を犯すが、それにもかかわらずノーベル賞を受賞した。しかしその後祖国から裏切られ、失意のうちに客死するという波乱に満ちた生涯を送る。前年の生徒の「良く書けている感想」をいくつか、提出用紙の後につけておくと、生徒の感想の文章量が格段と増えるという。
 「栄光なき天才たち」シリーズには、他の科学者も取り上げられているが科学者の社会的責任を考える上で、このハーバーの話が得るところが多いと宮﨑さんは考えている。

慣性力? 山本の発表 
 「慣性力確保、再生エネ大量導入へのカギ」例会の2日前の朝日新聞の記事の見出しである。「慣性力」という言葉に違和感を感じて記事全文を読んでみると、どうやら交流周波数に同期して回転する発電機のタービンの回転運動のエネルギーを、発電電力の変動を吸収するために活用するという話らしい。「タービンなどが回転し続けようとする慣性力を、系統全体で一定程度確保する」といった言い回しが見られる。(朝日新聞デジタル2022年11月11日の記事はここ。)
 物理の世界で「慣性力」といえば、慣性系に対して加速度運動する座標系に現われる「見かけの力」を意味し、遠心力やコリオリの力なども含むが、明らかにそれとは違う意味で用いられている。誤用と言うよりは「電力業界の業界用語」として用いられているらしい。
 Web検索をしてみると、日立系の電力関連会社のWebページ「EnergyShift」のサイトにも「電力システムを支える、回転系発電機の慣性力」なる 記事がある。ここでは「同期化力」という用語まで登場し、発電システムの回転慣性の重要性を訴えている。
 これらの記事をよく読めば、物理学に通じた方ならその言わんとするところは理解できるだろうが、いかに工学人口が多数派を占めるとはいえ、本来の物理学用語の定義を無視して、同じ用語を全く別の意味に用いるのはいかがなものだろうか。

二次会 Zoomによるオンライン二次会 
 例会参加者は対面11名、遠隔18名、計29名だった。慎重を期して二次会は帰宅後の20時からZoomのオンラインで行われ、9名の参加があった。オンライン二次会では各自ドリンク持参で気楽に語り合う。例会本体で時間切れのため発表できなかった話題が取り上げられることもある。
 市原さんは中学校の電気の実験で、配線の際ミノムシクリップでターミナルを上から挟むのはやめるよう指導している。接触不良の原因となるためだが、教科書にもそんな写真が載っているのは困りものだ。ターミナルには矢形チップかバナナチップで配線したい。市原さんはまた、オームの法則の実験を、手回し発電機を電源として、一定の電流を流しながらその時の電圧を読み取るという方式で行っている。電流Iを独立変数として横軸に、電圧Vを従属変数として縦軸にとって直接V=RIのグラフを描かせるためだ。東書の教科書では章扉にこの実験が紹介されているが、その向かい側のページでは従来通り、定電圧源を使って、電圧を変えながら電流を読む実験が生徒実験として採用されている。生徒のわかりやすさよりも教員の「教えやすさ」の方が優先されていないだろうか。
 


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