例会速報 2023/04/16 麻生市民館・Zoomハイブリッド


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授業研究:授業開きの報告みんなの発表 
 例年、4月の例会では授業開きの様子を報告し合っている。

 佐藤さんは、高校1年生で初めて物理基礎を学び、かつ、勉強に対して苦手意識を持つ生徒に対する第1回目の授業を想定して授業を組み立てた。勉強が苦手な生徒にとって、数字や記号が暗号のように並ぶ理系科目は、ワクワクする存在ではなく、(成績を下げ)自尊心を傷つけてくる近寄りがたい存在なのかもしれない。しかし、物理学は「世界に対する解像度を高め、人生を楽しくしてくれる存在」である。本授業を通じて、物理学の学習に対するワクワク感を高め、抵抗感を軽減したいと佐藤さんは考えている。
 佐藤さんの勤務校は男子校で、スポーツや恋愛に関する話題に強い関心を示す傾向があるので、授業では部活動や恋愛に関連した物理的知識やジョークを交えながら進めるように心がけている。以前に本授業を受講した生徒は、3年生になっても「科学の眼鏡」というキーワードを記憶しており、物理学に対する印象を少しだけ変えることができたと佐藤さんは感じている。
 

 堀内さんは、1年生の初回の授業で使っているパワーポイントの内容を紹介してくれた。45分の授業は以下の3点を柱として内容を構成してある。
1.科学の始まりと、その中での物理学の役割
2.自然科学の中での物理の位置づけと他分野との関連
3.今後授業を展開していく上での約束事
 これに加え、進路選択と選択教科としての物理の位置づけについても述べている。
 まず、古代の人は地震や雷などの自然現象をどのように説明していたのか発問し、神話的な世界像を提示する。そこから古代4大文明のうちの二つ、メソポタミア文明とエジプト文明の位置を世界地図で確認し、その二つから程よく離れたギリシャに花開いた文明に焦点を当てる。そこから神話的な世界観を排除して、世界の成り立ちを説明しようとする自然哲学者の登場を紹介し、その代表であるターレスの名を挙げた。さらに古代ローマの覇権とその奴隷社会、キリスト教の広がりと学問の衰退、中世からルネサンス期の末期に現れたガリレオへと話をつないでいく。
 ガリレオが確立した科学の手法(仮説をたて、実験可能な帰結を導き、実験を行うことで仮説の妥当性を検証する)を確認し、物理学がどんな分野を扱って、どんな分野で利用されているのかを説明する。アインシュタインの言葉を借りて、物理では「自然現象を表す言語として数学を用いる」ことを強調し、最後に授業を受けるうえでの約束事を確認するという流れで初回の授業を展開した。
 

 車田さんは、現在受け持っている授業がすべて化学の授業のため、化学基礎の授業開きでの水素の爆鳴気の演示を紹介した。バットの中に少量の洗剤入りの水を入れ、水素で泡を立てる。水素だけのときは、チャッカマンで火をつけても大きな音はせず、大きな炎が上がるだけである。これは生徒にとっては意外らしい。次に、水素缶で泡を立てたあと、続いて酸素缶でも泡を立てる。この泡にチャッカマンで火をつけると大爆音が轟く。
 なお、車田さんが見せてくれた動画(下の写真)はSCN神奈川での研修の模様で、演示者は鎌倉学園の山本先生とのこと。
 

 小沢さんは「物理基礎」の授業を担当していないので、「物理」の生徒とは初対面になる。そこで課題方式の授業に慣れさせるために、サンプルとして混合気体の課題を示すことにした。3年生には簡単すぎると思いきや、1/3程度が間違える。気体の分子が運動していることは習っているはずだが間違えることから、「わかる」とはどういうことなのか考えてもらいたいと思っている。
 力学の最初の授業では、「自由落下している物体には、どのような力がはたらいているのか」について、直接測れないので、どのようにすれば、それを知ることができるのかを考えさせている。習ったことを覚えているかが大切なのではなく、現象をもとに、論理的に考えていくことが大切であることを伝えようとしている。
 

 越さんは、3年選択物理の最初の授業が2時間続きだったので、授業開きとして物理的競技「ストロークレーン」を行った。これは2011年12月例会で紹介したもので、ストローでできるだけ大きくて丈夫なクレーンを作る競技だ。今回は2人組で曲がるストロー40本を材料とし、製作時間は50分とした。生徒は議論しアイデアを出し合い、さまざまなタイプの構造物を製作した。
 

 長倉さんは、初回授業でアクティブラーニングを行う雰囲気づくりに力を入れた。一方向の講義だけよりも、お互いに話し合って協力しながら学習する方が全員が充実した時間が過ごせるということを伝えた。そのあとは早速授業に入り、物理基礎では爪が伸びる速さとハワイがプレート運動する速さの比較の課題に班で取り組んでもらう。班で一番効率の良い方法を決めて、司会が発表するというルールを付け加え、班での議論を促す。 1年あたりや一か月あたりなど、様々な生徒がでてくる。教科書のはじめにでてくる「単位時間」の説明がしやすくなるので長倉さんは気に入ってるそうだ。ウサイン・ボルトのv-tグラフのデータが掲載されているサイトの紹介もあった。 https://sites.google.com/site/harapekolixue/home
 

真空実験2023 車田さんの発表 
 車田さんが日本宇宙少年団 未来MM分団3月例会(日本科学未来館)で行った簡易真空実験の報告。簡易真空実験装置はYPCで開発されたものを用いたが参加者の年齢が幅広かったので改良を行った。この実験は井の頭恩賜公園で行っている「あおぞら実験室」でも何度か実施したが小さいこどもは保存容器のロックを閉められなかったり、力不足でシリンジポンプを何度も操作するのが難しいという問題点があった。そこで今回は蓋がスクリュー式になった保存容器を採用した。スクリュー式だと小さい子どもでも蓋の開閉が可能で、蓋を完全に最後まで閉めていなくても容器内を真空にしていくうちに外の大気圧に押されるので実験が可能になる。ただし100円ショップの製品にはパッキンがないので注意が必要である。
 

 シリンジポンプを何度も操作できない問題はシリンジポンプに空けた穴に貼るシールをビニルテープからマスキングテープに変えることで解決をすることができた。ビニルテープは経年劣化が起こると粘着面にベタつきが生まれてさらに操作が困難になる。マスキングテープ版は今年の2月に作ったのでまだ経年劣化の経験は無いがビニルテープよりはベタつかなさそうである。偶然の産物だが、今回使用した保存容器に貼られている丸いシール(Ag抗菌 食洗機OKのシール)とテルモシリンジ60mlの内径が丁度よく、また粘着力も程よいので内側に貼るシールとして用いた。
 

 実験としての工夫は簡易真空ポンプで簡単に袋が割れるお菓子を探したこと。日本のお菓子は包装技術が完璧でうまく割れてくれず予備実験では苦労した。車田さんのオススメは「いちごソフト」。小袋が確実に割れ、90%の確率で破裂音も確認できる。ソフトの部分はマシュマロなのでマシュマロの変化も楽しめる。もうひとつ選んだお菓子は「プチホワイトマシュマロ」という三角錐の形に包装されたマシュマロである。音を立てて破裂をすることはないが包装が裂けるように静かに破裂をする。もちろん中にあるマシュマロにも変化が起こる。他にも軽く膨らませた水風船や吸盤、変化しない物として発泡スチロールと綿も用意した。
 演示実験は油回転真空ポンプとデシケーターを用いた。「豆大福」と「ショートケーキ」の真空実験が車田さんのお気に入りだ。宇宙少年団のこどもたちなのでいちごはフリーズドライになるという予想をする人が数人いた。豆大福は真空下では大きく膨らみ、デシケーター内に空気を戻すと元の大きさにもどるのがポイントである。餅はシワシワになることなく元に戻る。豆大福に餅とり粉か片栗粉をまぶしておくと観察がしやすい。宇宙少年団の子ども達への実験なので「宇宙服を着ないで宇宙に行ったら人間はどうなるんだろう?」と考えさせた。包装用のプチプチを人間の肺胞に見立てて真空実験を行うことでイメージが沸くようにした。包装用のプチプチは簡易真空ポンプでは破裂しないが油回転真空ポンプを用いれば破裂させることが可能である。
 

 最後に、減圧沸騰も演示実験で見せたが用意した真空装置だと凍るところを見せることができない。そこで「Tブチルアルコール」(融点25.69°C)を使って凍るところを見せた。臭気があるので換気をしながら一番最後に実験をすることをオススメする。また、凍る瞬間は飛び散るので背の高い容器か平らなシャーレを使用すると良い。Tブチルアルコールを用いた真空実験は慶應湘南藤沢中高の平松茂樹先生が考案されたものである。
 今回の実験の為に作ったワークブック等はGoogleドライブで公開されている(科教協では「ワークブック、解説プリント、簡易真空容器、簡易真空ポンプ、実験材料」をセットにしたものを頒布予定とのこと。
 

R2D2のホログラムのおもちゃ 北村さんの発表 
 金沢からはるばる参加の北村満さんは「工房ヒゲキタ」の看板をかかげて「手作りプラネタリウム・手作り3D映像の全国出張投映」と「工作教室の出張指導」などの精力的な活動を行っている。
 そんなヒゲキタさんが例会に持ち込んで見せてくれたのは、ホログラムのような立体像が浮かび上がるビューワー(写真左)。映画「スターウォーズ」の1シーンをもじって、R2D2の前の空間にレイア姫ならぬ「令和姫」の青白い立体像が現れる(写真右)。ヒゲキタさんご自身のツイッター記事に動画が公開されている。
 

 このホログラムもどきは、床に置いてあるタブレットに見立てたパネルに秘密があり、株式会社パリティ・イノベーションズが製造・販売しているパリティミラーというデバイスを使用している。このデバイスは、2面コーナーリフレクタアレイというコーナーキューブ反射器に似た微細構造を持ち、パネルの下の物体の実像をパネルの上に作り出す。箱の中に物体を入れると、真上に空中映像が出現するわけだ。オンライン展示会EVORTのサイトに同社の詳しい解説と資料がある。
 したがって令和姫のフィギュアは床下の対称な位置にある。令和姫の顔は実はへこんでいて、まっ黒な粘土にフィギュアを押し付けて雌型をとり、蛍光インクを塗って作ったという。紫外線LEDで照らすと、青白いイリュージョンが浮かび上がる仕組みだ。R2D2はダミーで実は何もしていない。視点が限られるため、会場では参加者が代わる代わる装置の前に座り、令和姫の立体映像と音声を楽しんだ。
 

新課程で化学に新しく入ってきた物理的内容 堀内さんの発表 
 高等学校の化学は新課程になって、多くの物理的な内容が加わることになった。堀内さんはその概要を報告した。
 変更点1:原子軌道についてこれまではK殻、L殻、M殻といった主殻までの扱いだったが、s、p、d、f、といった、副殻まで扱うようになった。さらにsp3、sp2、spなどの混成軌道まで言及がある。これらを理解させるためには構成原理に加えて、パウリの排他律やフント則を教える必要がある。こうした内容は既に国立大学(浜松医科大学)で入試問題として取り上げられている。
 

 変更点2:熱化学方程式をエンタルピーを用いて理解することが求められる。これまでの等式を用いた熱化学方程式から、系のエンタルピー変化を用いて表す熱化学方程式に変更されている。教科書によってはエンタルピーの定義式も示されているので、単に系に出入りする熱という理解だけでは不十分と思われ、内部エネルギーと外部にする仕事の理解が必要になる。さらに高校物理では言及の無いエントロピーについても、乱雑さの指標として紹介されている。さらに加えて、ギブスエネルギーの定義ΔG=ΔH-TΔSまでが教科書に取り上げられており、ΔGが負になる方向に自発的変化は進行するとの記述がある。
 これらはいわゆる「発展的内容」の扱いだが、最近の大学入試では発展的内容も出題される傾向にあるので、これらの内容が、今後大学入試でどのような取扱いになるのか非常に気になるところだ。
 

新発見の石・ユーパーライト 堀内さんの発表 
 堀内さんは、紫外線を当てるとオレンジ色の蛍光を発するユーパーライト(Yooperlite)の実物を持参して見せてくれた。2017年6月にアメリカスペリオル湖畔で発見された閃長岩(アルカリ長石を主成分とする深成岩)の一種。日本では未発見の蛍光鉱物「方ソーダ石」を含み、紫外線ライトを当てるとオレンジ色に光る。見た目はごく一般的な石にしか見えないので、紫外線による蛍光を例示するのによい。Amazonで榎本通商という店から買うと4000円程度で4~5cm程度のものを手に入れることができる。
 

二次会 Zoomによるオンライン二次会 
 例会本体は、対面16名、遠隔8名、計24名の参加だった。帰宅後18:00から行われたリモートの二次会には8名が参加した。例会本体で時間切れのため発表できなかった西尾さんの発表の予告編もあったが、次回例会で正式に発表していただくことにした。
 二次会に特別参加の市原ジュニア(小学生)が、ミネラルマルシェで入手したという鉱物コレクションを見せてくれた。ユーパーライト、燐灰ウラン鉱などの蛍光鉱物に興味があるようだ。ルビー(写真左)も紫外線を照射すると鮮やかな赤色の蛍光を示す。右は鉄隕石。磁石につくことを確認して買ってきたそうだ。
 


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