例会速報 2023/07/09 筑波大附属高校・Zoomハイブリッド


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授業研究:明日の授業(3年の力学)小澤さんの発表 
 小沢さんは、例会の翌日に行う授業をそのまま紹介してくれた。テーマは運動量。「ストローと綿棒で作った“吹き矢”は、吹く強さが同じとき、ストローの長さを変えると、飛び出す速さはどうなるか?」と問い、その理由を考えさせる。力積でも仕事でも考えられるが、ここでは力積と運動量の関係に着目させる。
 運動量保存の例として、平面上での2物体の衝突のストロボ写真をプリントにして配布。上にトレースする紙を重ねて、速度ベクトルや運動量ベクトルを作図させて、運動量保存の法則が成り立っていることを確かめさせる。三角定規は1人1セットこちらで用意して、必ず全員がベクトルの作図に取り組むようにする。ある参加者は、この写真を見た瞬間「PSSC物理だね」と出典を言い当てた。さすが・・・。
 

 最後に、コインの衝突の実験を一人ひとりが行う。Aの位置に置いたコインに対して、別のコインをA′の位置で衝突するように、写真の縦線に沿って手前から滑らせて当てる。衝突直後の2枚のコインの運動量の和は、縦線の向き(当てたコインの衝突前の運動量の向き)になることを、作図で確かめさせる。
 ちょっと複雑だが、「衝突直後の速度は滑った距離の平方根に比例」を用いて速度ベクトルを描く。さらに上級編として「20円玉」(2枚の10円玉を両面テープで接着したもの)に10円玉を衝突させる場合も行わせて、速度ベクトルの和ではなくて、運動量ベクトルの和を考えなくてはいけないことに気付かせる。
 参考文献 『川勝先生の物理授業(上巻)』p197~200(海鳴社)
 

トイレットペーパーを便器に流してよいわけ 永田さんの発表 
 永田さんは、個人で電子顕微鏡を所有していて、「タイニー・カフェテラス」というサイトに、たくさんの電顕写真を公開している。
 さて、その永田さんが今回注目したのはトイレットペーパー。NHKの「チコちゃんに叱られる」での説明は本当だろうかと、電顕で各種の紙を観察比較してみた。
 最初はポケットティッシュ。肌触りはトイレットペーパーに似ているが、電顕写真ではところどころに接着剤と思われる塊が見られる。これが繊維をほぐれにくくしているらしい。
 

 キッチンペーパー(左図)では接着剤が帯状に塗布されていることが分かる。より強固に繊維を固定しているわけだ。ところが、トイレットペーパーに(右図)はこうした接着剤の塊が見られない。電顕写真には比較的短い繊維が重なり合っている様子が映っている。トイレットペーパーは「紙そのもの」で繊維だけで構成されており、水に入れたときにほぐれやすいというわけだ。
 

風とゴムの働き(続編) 水野さんの発表 
 水野さんは、6月例会で小学3年生「風とゴムの働き」の単元の扱いについて批判的に報告した。その時「ではどんな授業プランをお持ちか?」という質問を受け、その時は「何も考えはありません」と答えた。その後、どんな授業を計画しらたいいか検討し「物体が動く面」に注目して授業を組み立てたらどうかと考えた。
 

 この単元で獲得させるべき科学的基礎概念は次の二つであると水野さんは主張する。
 ①止まっている物体が力を受けると、力の向きに物体は動き出す。
 ②大きい力を受けると、小さい力を受けたときと比べて勢いよく動き出す(速度変化が大きい)。
 この②を扱う場合、参考書や問題集では、物体が風やゴムから強い(大きい)力を受けると遠くまで移動して止まる実験をしている図が載っている。 しかし、面の状態によって、物体が同じ力を受けても動く距離は違ってくる。さらに面から浮かせた物体は、最初少しの力を加えただけで遠くまで移動していく。これらの実験を子どもたちに体験させることによって、「力を受けて動き出した物体は、力を受けなくなるとやがて止まる」という素朴誤概念に疑問を抱いて中学の理科の授業に臨んでほしいと思う。
 

斜面の加速度を測ろう 喜多さんの発表 
 喜多さんは6月例会での報告「電車の一区間で加速度を測定してみた」の報告の後、phyphoxの【gを含まない加速度】について、斜面上で測定してみた。使用したのは下図に示すように長さ1.8mの板を傾けて(水平に対して4.6°)台車の上にスマホを載せてY方向の加速度を記録した。いろいろと記録をみているうちに、板の僅かな曲がりに【gを含まない加速度】の値が影響することが分かった。僅かな曲がりとは、1mの金属製の物差しを表面に当てたとき、真ん中に隙間ができ紙が二・三枚入るくらいをさす。
 

 そこで、①板を両端のみで支えたとき ⇒凹に、②途中2か所に支えをいれて支えたとき ⇒ 平らに、③ ②のときの支えを少し大きくして支えたとき ⇒ 凸に、の3通りで記録を取った。その結果が下図左の3枚である。一方、【gを含む加速度】モードで同様に、凹、平ら、凸で測った記録が下図右の3枚である。今回の報告は測定結果の提示までで、現時点でどう分析したらよいか思案中とのことだ。
 喜多さんは、6月例会での報告「電車の一区間で加速度を測定してみた」での疑問を staacks@physik.rwth-aachen.de に問い合わせをしたところ、以下の返信を受けた。肝要な部分のみ転記する。
"If such an acceleration is not real, a possible explanation could root in the fact that the “acceleration without g” is a so-called virtual or fusion sensor: the smartphone takes data from the accelerometer (with g), the gyroscope and the magnetometer. The magnetometer, for instance, might have misinterpreted some external magnetic field so that the algorithm got confused. "
 例会での実験の動画(movファイル4.0MB)はここ
 

3Dプリンター買いました(3台目) 櫻井さんの発表 
 櫻井さんは、この度3台目となる3Dプリンター「CrealityK1」を購入した。K1は、Creality社による最新のFDM方式3Dプリンターであり、従来の製品と比較して造形が極めて速いことが最大の特徴である。FDM方式3Dプリンターの造形速度は、一般的にフィラメント押し出し速度の最高速で表現される。ここ1年くらいの間であれば、120mm/sもあればなかなかに高速と思われていたものが、ここにきて一気に600mm/sまでスピードアップした。これまでの5分の1の時間で造形が可能となると、単純計算で1時間のものが12分、6時間のものが1時間、24時間のものが4時間で造形できることになる。
 

 3Dプリンターの最大の弱点は、造形にかかる時間がとにかく長いことである。櫻井さんは5,6年前から3Dプリンターを使用しているが、当時の製品は本当に造形が遅く、小さなものでも数時間~十数時間かかっていた。そのため「帰り際に印刷を開始し、第一層の出力が無事にできたことを確認して帰宅。その翌日の朝にできたものを取り出す」というサイクルが鉄板だった。また、授業や実験教室のために造形物を量産するためには、3Dプリンターを複数購入する必要があった。
 印刷速度が数倍に跳ね上がるということは、これらを全てひっくり返してしまう、3Dプリンターとの付き合い方そのものが変わる大事件なのである。プロトタイピングも短いサイクルでできるようになり、授業で使うものをたくさん揃えるのも容易になった。半年前くらいに一般発売を開始したAnker社のAnker Make M5も、500mm/sの超高速かつ安定した造形が可能な3Dプリンターの1つである。これらが10万円を切る価格で購入できるようになったのは、興味深いことである。
 

画像認識と力学 植田さんの発表 
 植田さんは、力学の授業に使えるかもしれないと、スマホアプリや3Dプリンタの活用事例を紹介してくれた。
 まず、スマホアプリ「ウゴトル」の紹介。APEJの例会でも物理実験に使えるとして紹介されたそうだ。今日の冒頭の授業研究で小澤さんが演示した吹き矢の実験を録画し再生(スロー再生、コマ送り再生も)することができた。Android用と、iPhone用がそれぞれ供給されている。
 

 次は、iPhone用スマホアプリ「魔改造残像動画カメラ」の紹介。植田さんは例会中に見つけて試し、則発表したという。PSSCのストロボ写真のような画像を作成したいと考えた。ストロボ写真は作成できた(下図)が、上手に作るには練習が要りそうだ。ウゴトルアプリと組み合わせると使いやすいかもしれない。入手はAppleストアから。
 

 最後に植田さん自身による3Dプリンタ活用事例の紹介。櫻井先生の3Dプリンタについての発表を受けての事例紹介だ。愛知物理の飯田さんが考案した、力学台車に搭載できるビー玉打ち上げ器を、3Dプリンタで再現したもの。詳しくは植田さんのブログ記事「個人製作の実験装置を3Dプリンターで複製する」、およびYouTube動画をご覧いただきたい。
 

放射性崩壊サイコロ実験とモナズ石 市原さんの発表 
 市原さんは、サイコロをふって放射性崩壊をモデル化した生徒実験を行った。班ごとにサイコロを200個ずつわたし、1の目が出たサイコロは「崩壊した」ことにして取り除く。写真左は、1の目の数を報告してもらったエクセル表である。崩壊せずに残ったサイコロの数をグラフにすると、右の写真のような指数関数のグラフが現れる。実験を始める前に矢印で半減期の場所を予想しておく。(5/6)^n=1/2 になるようなnは3.8くらいなので、3回目と4回目の間で、サイコロの数が半分になる班が大半になる。
 

 ところで、モデルではなく実際の放射線を出している物質はどうなっているだろう。モナズ石はトリウムとその子孫核種による低線量放射線源として教育用に利用されることがある。そのモナズ石の放射線量を実際に測定してみた。Mr.Gammaというγ線測定器は、60秒の積算値(移動平均)を10秒毎に表示している。その10秒ごとに表示される値を12分ほど記録し、エクセルでグラフに起こしたものが写真右である。このデータとサイコロの実験が結び付けられればさらに話が深まると思うが、現時点ではとりあえずデータを取ってみた、という段階である。
 

等電位線の実験の説明PPT 鈴木さんの発表 
 鈴木さんは、今年度は某大学の高校物理復習講座を受け持っているが、そこでの等電位線の実験のための工夫である。学生実験として実際に全員にやらせるべき実験だが、実験道具がないなどの条件の中でやむなく動画を用意した。ただ、このために作ったパワーポイントは、生徒実験の場面でも説明や解説として使えそうである。
 

 実験自体は、2015年4月例会(山本さん)などでも過去に紹介されている。鈴木さんは、B5の大きさ程度のベニヤの板に二つ穴を開け、そこにビスを指して電極にするという装置を使っている。まず、装置の説明と実験のやり方をビデオで説明する。(写真上、および下)
 

 その後、この実験結果の黒画用紙(導体紙)上の処理の仕方をパワーポイントで説明する。まず、等電位線を描く(写真下左)。次に電気力線を描く(写真下右)。等電位線と電気力線が直交することがポイントだ。
 

 そして、電位の断面図を作成する(写真下)。それぞれの写真は、スライドショーでのアニメーションの途中の一コマだが、実際には順次完成していく様子がアニメーションで示される。なお、YPCでは周知の情報だが、この実験に使う黒画用紙は、ダイソーのものがよい。他の100円ショップの黒画用紙は導体でない場合が多い。ダイソーのものも、裏と表で抵抗が違うので、テスターで測って抵抗の小さい面を使うと良い。
 

二次会 Zoomによるオンライン二次会 
 例会本体は、対面18名、遠隔8名、計26名の参加だった。帰宅後20:00から行われたリモートの二次会には10名が参加した。
 リモート二次会は今回も居酒屋組と自宅組のハイブリッドで行われたが、居酒屋組は会場付近で例会後すぐに飲み始めるのに対して、自宅組は帰宅に時間がかかるというタイムラグが課題である。コロナ後の二次会のあり方については試行と模索が続いている。


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