例会速報 2023/06/11 株式会社ナリカ・Zoomハイブリッド


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授業研究:中2・電流とその利用佐久間さんの発表 
 佐久間さんはオンラインで授業の報告をしてくれた。今年は中学校2年生を担当していて、電気分野の授業の組み立てで思案している。高校との接続を考えて、中学校の指導実践について例会参加者のコメントを求めた。
 佐久間さんがはじめにやった実験課題は、「豆電球を通る前後で電流の大きさはどうなるか」である。電気は電球で消費されるから、豆電球を通った後で電流は減ると考える生徒は少なからずいる。これを「消費説」と名付け、変わらないとする「保存説」との間で討論しながら授業を進めた。生徒の発表活動にはロイロノートを活用している。
 生徒は学習前にすでに素朴概念を抱いている。電流の保全性については、絵に描いて表現させると、電気の粒を描く生徒が多い。豆電球のところで電気の粒が減少すると表現する生徒や、経路の導線全体を通じて徐々に電気の粒が減っていくという表現もある。導線の途中で電気が周囲に散逸していくと考えている生徒もいることが分かった。
 

 
 班ごとに実験をすると、もちろん電流はどこでも等しく減少はしないことが分かるのだが、消費説の生徒の中には「社会科で習った電気の消費の話はどうなのか」「ではなぜ電池はやがてつかえなくなるのか」「導線をもっと長くしたら減るのではないか」など、こだわって考え続ける者もいる。可能なものについては発展的な実験にも取り組ませた。続いて豆電球2個直列の実験も行う。
 保存説を支持する生徒でも、知識として知ってはいるがなぜなのかを説明できない者もいる。他の意見の生徒と討論する中で、さらに理解を深めていくことになる。電流の値は変わらないが「使える電流」と「使えない電流」がある、と考える者も出てくる。電池がポンプの役割をして電流を押しているという説明に至る者もいる。生徒たちの考え方が討論の中で変容していくのが興味深い。
 この授業では電流だけを測定対象としていて、電圧は測っていない。電気回路の単元は電流だけを切り取って議論することはできない難しさがある。高校での学びにつなげるために、中学校ではどのようなことが理解できていればよいのかぜひ議論してほしいという呼びかけがあり、会場で意見交換が行われた。

紙製バランスバード 加藤さんの発表 
  加藤さんが勤務する少年写真新聞社の『理科教育ニュース』2023年2月28日号「くちばしでコップに載る鳥」で紹介された、厚紙でできたバランスバード。羽の裏に10円玉が貼ってあり、紙のたわみで自然にくちばしに重心が来るように作ってあるので、くちばしを指に載せるとバランスがとれる。
 

 2か所から糸で鳥をつるすと、鉛直線の交点がくちばしのあたりになるので、くちばしの位置が重心だと確認することができる。
 余談だが、鳥の目の部分は、丸シールの白(直径8mm)と黒(直径5mm)で作ってある。線で目を描くより簡単にできるので、イベントなどで小さい子に工作をさせる際におすすめの手法だという。
 

命中式速度計(飯田式) 鈴木さんの発表 
 鈴木さんは、愛知物理サークルの飯田洋治さんが提案している「命中式速度計」を持ち運び可能サイズに小型軽量化したものを紹介してくれた。力学的エネルギー保存の授業で演示実験として効果的に利用できる。
 大元は、35年前発行の古典的(?)名著「いきいき物理わくわく実験」(新生出版1988*日本評論社から改訂版が復刻されている)(p148)に大型のものが飯田さんによって紹介されている。鈴木さんは、この本を買った直後つまり35年近く前に、木工で1メートル以上のものを作り、毎年の授業で使ってきた。学校はその後4つ異動しているが、持参する大事な自作教材の代表だった。しかし、今年は某大学の高校物理復習講座を兼任で教えることになり、この大型の装置を持っていくわけにはいかないと思っていた。飯田さんは、そういうことにもちゃんと回答を用意している。飯田さんの近著「なぜ力学を学ぶのか」(日本評論社2022(p55)に黒板貼り付け磁石を使ったミニ版が紹介されていた。今回はそれを元に、手近な材料で制作時間1時間ほどで作った。
 

 ダイソーのA4版マグネットシートの底辺にL字金具を用いて直角になるようにプラスチック板を貼り付ける(写真上左)。その上に配線モール(横幅1.2mm)を、端がプラスチック板の右端に来るように両面テープで貼り付ける。左側は上に傾けるので、接着部分は15cmほどでよい。そして、マグネットシートの左の辺を4等分する目印をマジックでつけておく。
 的は、缶飲料の蓋などを、L字金具で定規の目盛り0cmのところから下に紐で吊るす(写真上右)。吊るす長さはあとで調整する。定規も黒板に貼り付けるように、裏に強めの磁石を二つほどガムテープなどで貼り付けておく。これで準備はほぼ完了。左のようにセッティングする。
 水平も、ゴム磁石の上辺を黒板の上部に重ねればOK。水準器もいらない。飛び出した後の水平距離を15cmに設定。まず予備実験で、マジックで引いた一番下のラインの高さからビー玉を転がして、横15cmで当たるように、的を吊るす紐の長さを調整。これ以降の実験でも当たるように多少の微調整をするのがコツ。

 演示実験は、まず1番下のラインからのスタートで当たることを見せる。水平投射を学習していなくても、当たることで飛び出す時の速度が同じだとわかるということは納得させておく。
 

 次に同じ高さで傾斜を小さくして移動距離を長くしたら当たるかどうか予想させる。移動距離に関係なく命中することで、高さが重要だと気づかせる。
 

 それでは同じ高さからのスタートで一度下がってから登ってきた場合は?・・・・これも当たる!
 

 そして、定規を30cmにのばし、水平距離が2倍なので飛び出す速さが2倍になると当たる、と説明し、速さを2倍にするには、スタートの高さはどうすればよいか、と問う。エネルギーを学習しても、高さ2倍という予想が多数派になることが多い。もちろん、正解は4倍である。縦の辺を4等分する目印はこの実験のためだ。
 これらの実験がスムーズにいくように、多少の練習(予備実験)は必要だが、ビー玉の種類と的を吊るす長さなどで調整しておけば、一度うまくいくと、教室ごとに設定し直してもほぼ命中する。
 「準備にそれほど多くの時間がかからないので、ぜひ作ってみてほしい。35年前は、木材を切ってカンナをかけたり釘を打ったり、かなり大仕事だった。これができたので、大型装置は廃棄処分かな。」と鈴木さんは語った。
 

電車の一区間で加速度を測定してみた 喜多さんの発表 
 喜多さんは、2022年度の【第15回 高校物理の授業に役立つ基本実験講習会】や昨年の7月例会で紹介されたスマホアプリ【phyphox】を用いて、電車の一区間の加速度と時間の変化について測定してみた。選んだ一区間は東急東横線の武蔵小杉と新丸子間の一区間である。距離が約600mでデータを取得するのに手頃だと考えた。
 アプリを立上げ、【+】をクリックして【新しい実験の追加】で、【センサーレート】を 50 にし、有効なセンサーとして【加速度センサー】を選んだものと、【線形加速】を選んだものの二つを作った。【線形加速】では、左図の結果が得られた。一方、【加速度センサー】では、右図の結果が得られた。黄色の矢印はドアが閉まって動き始めたときを、赤の矢印は止まってドアが開き始めたときを示している。電車の走行記録として期待されるのは右図の様なグラフである。
 喜多さんは【線形加速】でのa-tグラフ(左図)に納得できず、ひょっとして自身のスマホのセンサの問題かと思い、他のスマホで確認してもらったところ、同様の結果が出て、自身のスマホの問題ではないことが確認できた。
 ネット上で【線形加速度センサ 構造】で検索してみたが、納得のいく結果にたどりつくことができていない。何故このような結果になるのか、その構造について、何か手がかりになる情報があれば教えていただきたい、と喜多さんは呼びかけた。
 例会では櫻井さんから、「gを含まない加速度」では一定の成分を除くためにハイパス(ローカット)フィルターが施してあるのではないか、という情報提供があった。情報元はここ
 

電車の一区間で加速度を測定してみた・その2 長倉さんのコメント 
 喜多さんの発表に関連して、会場にいた長倉さんから、phyphoxの「GPS」という項目を使っても電車の運動を分析できるとコメントがあった。
 サンプリングレート等はスマホの機種に依存するため、どこまで厳密に測定できているか定かではないが、実際のグラフを見てみるとおおむね運動の様子を表せているのではないかと長倉さんは考えている。左図は、長倉さんが実際に授業で扱った、phyphoxで得られたデータを使って描いたv-tグラフだ。

ナリカのウェブアプリと新製品紹介 中島さんの発表 
 株式会社ナリカではブラウザ上でインストールせずに使用できる理科実験用の無料WEBアプリをリリースした。(左図)
WEBアプリポータルサイト:https://www.rika.com/web-app
 そのうち、例会で中島さんが紹介してくれたのは、「低周波発振アプリ CR-WEB」(右図)の応用例だ。昨今では様々な音源アプリがリリースされているが、OSによっては使用ができないものがある。そこで理科実験に使用しやすい機能を備えたアプリをリリースしたという。ステレオ出力で左右異なる周波数の出力やメモリ機能、位相変換機能などを備えている。
 

【活用例1】気柱共鳴装置(https://www.rika.com/product/detailed/C15-8256
 水を入れた円筒状の水槽内にパイプを入れ、そのパイプを上下させることで水面からスピーカーまでの距離を変えて気柱共鳴の実験を行うことのできるコンパクトタイプの実験装置である。
 

【活用例2】弦定常波実験器 SW(https://www.rika.com/product/detailed/C15-4390-01
 アンプが付属しているので、タブレットやスマートフォンを発振器として使用できる弦定常波実験器である。
 

【応用例3】実験用アンプ スピーカー付き(https://www.rika.com/product/detailed/A05-7640
 発振アプリからの出力を増幅することができるアンプ(5W+5W)。音の干渉や、スピーカーの左右の周波数をずらしてうなりの実験などに使える。
 余談だが、イヤホンで同じようにうなりを実験をしてみたところ、うなりが聞こえたという。これは骨伝導の影響だろうか。ちなみに「骨伝導イヤホン」でもうなりは聞こえたそうだ。なお、オンラインで配信した場合は、左右をそれぞれ分けて出力してもZoom上で音が合成されてしまうようだとのこと。
 

 中島さんがおまけで披露してくれたのが「大型1Hzおんさ」。ドイツで発見したとのこと。1Hzなので音は聞こえないが、振動の様子が目で見て分かる。動画(movファイル3.5MB)はここ
 おんさの模型として発売されているそうだが、使える場面を募集中。

風とゴムの働き 水野さんの発表 
 小学3年生理科に「風やゴムの働き」という単元がある。学習指導要領には、「ア 風の力は,物を動かすことができること。 イ ゴムの力は,物を動かすことができること。」とあり、学習指導要領解説には以下のように指導するようにとある。
「ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
 (ア) 風の力は,物を動かすことができること。また,風の力の大きさを変えると,物が動く様子も 変わること。
 (イ) ゴムの力は,物を動かすことができること。また,ゴムの力の大きさを変えると,物が動く様 子も変わること。
 イ 風とゴムの力で物が動く様子について追究する中で,差異点や共通点を基に,風とゴムの力の 働きについての問題を見いだし,表現すること。」
 水野さんが例会で問題にしたのは、この単元を扱うことによって、中高で学習する「慣性の法則」を理解する妨げになるのではないか、という点である。「止まっている物体は力を受ければ、力の向きに動き出す」という内容なら問題はないが、弱い力を受けた物体と強い力を受けた物体とを比較させ、動く距離に違いがあるということを実際の授業では扱っており、これでは科学の基礎を学ぶべき理科の授業で、「動いている物体は力を受けなくなると止まってしまう」という素朴誤概念をかえって強化してしまうのではないか、というのである。
 例会の討論では「力を受ければ物体は動き出すということは『力の原理』でも言っていることで、その範囲ならいいのではないか」という意見や「問題を感じるなら『理科教室』に投稿したら」などの意見があった。
 

v=fλの使い方 西尾さんの発表 
 西尾さんは、波の初回の授業で、「波の速さを決める要素」というテーマでさまざまな媒質中の音速と光速のデータを紹介し、媒質の種類とその状態で速さが異なることを説明した。このとき、音速の表の中のヘリウムのデータについて「ヘリウムが空気よりも音速が大きいのは、ヘリウム入りの声変わりガスで甲高い声になる原因」ということをつい補足してしまった。
 西尾さんの授業では、この後に課題2「波源の振動数を大きくすると、波の速さはどうなるか?」と課題3「波源の振動数を大きくすると、波の波長はどうなるか?」に取り組ませたのだが、授業後にある学生が「課題2について、v=fλ の公式を使って、『λ が一定のとき、f が大きいほど v は大きくなる』と考えてはいけないのか?」と質問してきた。そして、その理由は「私の話を聞いて、『v=fλ で λ を固定して考えると、v が大きいほど f が大きくなる』と理解したので、同じことが言えると思った」というのである。
 

 西尾さんは、これは本当によけいな蛇足をしてしまったものだと反省した。そもそも進行波では、媒質で v が、波源で f が定まり、それらの値から v=fλ で λ が決定される。一方、定常波(弦や気柱の振動)では、媒質で v が、媒質の長さや振動のさせ方で λ が定まる。それらの値から v=fλ で  f が決定される。このような考え方の根本的な違いがあるのにもかかわらず、進行波の学習で定常波の定量的な話題を出してしまったのは、混乱を生むだけであった。
 進行波と定常波におけるこの v=fλ の使い方の違い、思考の枠組みの違いは、以前は西尾さん自身も自覚的に教えてはいなかった。教科書などで丁寧に解説されているわけではないので、教師が意識的に授業で明示すべきである、と西尾さんは主張する。
 

 なお、ヘリウム入りの声変わりガスによる変声は、よく単純に「声が高くなる」と説明されるが、音源である声帯の振動数は変わっていないことに注意しなければならない。共鳴する気道の固有振動数が高い方にずれて、両者が混合した声の周波数スペクトルが変わるのだから、「高さ」というよりも「音色」の変化と説明した方がふさわしいのではないか、というのが西尾さんのまとめだった。

10回の繰り返しで有効桁が1桁増えるって本当か? 櫻井さんの発表 
 繰り返し測定された測定値から、結果を科学的に説明するためには記述統計量に関する知識が不可欠である。ある実験を繰り返し行う場合、母集団のばらつきは変わらないから測定値のばらつきは繰り返し回数により変化しないが、測定値から導かれる平均値(=最確値)のばらつきは変化していく。ただ、繰り返しの回数をNとして、標準誤差は標準偏差の√N倍であるから、平均値のばらつきを1/10に抑えるためには、測定を100回繰り返さねばならない。だから、10回繰り返した時に平均値を求め、有効桁が1桁増えるのって変じゃないか?
 そのような説明をしたいと考えて、櫻井さんはExcelを使ってRand関数で0から1までの範囲で10個の一様分布の乱数を求め、そこから標準誤差を求めた場合と、同様に100個の乱数を求め、そこから標準誤差を求めた場合を比較した。
 

 その結果、確かにばらつきが√10倍になっていて、考えたことがおよそ間違っていなさそうであることが分かった。一方で、思いがけないことだったが、10個の乱数から求めた標準誤差は0.1であり、95%の確率で相対誤差20%範囲内に収まっていると考えると、有効数字を一桁減らすのは比較的妥当と言えるかもしれないことも分かった。
 

 
 繰り返し実験の平均値の有効桁数については、本当はきちんと統計的に考えないと科学的に妥当な説明はできないと思う。分布や繰り返し回数も変えながら、もう少し考察する必要がありそうだ。

v-tグラフアプリ 植田さんの発表 
 上の喜多さんの発表の時、出席していた長倉さんからのコメントで、フィール・フィジックスの植田さんが6年前に開発したスマホアプリが紹介されたので、ご本人に解説していただいた。
 このアプリは、スマホのGPS機能を使ってv-tグラフをリアルタイムに描画する。phyphoxの加速度計を用いたv-tグラフとは異なり、GPSのログ(緯度経度の連続データ)を測定値として、速度を計算しv-tグラフを描画している。
 植田さんは当時三重県にいたが、当時アプリに対する反応がほとんどなかったため、しばらくたったあと更新を中止してしまった。植田さんは喜多さんの発表を聞いて、内心「それ、6年前にやったのですが」と言いたい気持ちだったが、思いがけず長倉さんに紹介してもらって大変嬉しかった」と感想を述べた。
 ちなみにそのアプリをアプリストアに戻すには、少しお金がかかる。例会の最後に、植田さんは「このアプリを使うために1000円出せますか?」と参加者に問いかけたが、残念ながら反応は微妙だった。
 植田さんが開発したアプリに関するYouTube動画はこちら:VT-Graph iOS App - Feel Physics, ICT for science education
 

二次会 Zoomによるオンライン二次会 
 例会本体は、対面21名、遠隔8名、計29名の参加だった。帰宅後20:00から行われたリモートの二次会には9名が参加した。
 コロナ明けのムードの中で、対面の飲み会も増える中、YPCの二次会のあり方も模索が続いている。Zoomによるオンライン飲み会も、全国ネットで遠隔地の会員と交流できるという大きなメリットがある。一方で、対面で居酒屋の雰囲気を楽しみつつ、直接交流したいという希望もある。今回は居酒屋に派遣した4人の特派員に、スマホ等でオンライン参加してもらうという試みに挑戦した。
 結果として、賑わっている居酒屋では、他のお客さんの姿や声が入り込んでしまうとか、スピーカーからの音声を聞き取りにくいなどの課題があることが分かった。カラオケルームなどの個室環境が必須のようだ。この件はさらに模索を続けていきたい。
 

 オンライン組は、昼間の例会でナリカから紹介があったWebアプリの復習や、Zoomの新機能「ホワイトボード」の練習会などを行った。新ホワイトボード機能では、図やPDFを貼り付けてみんなで寄せ書き風にコメントを書き込むことができ、グループワークに便利だ。
 他に、NHKの番組「映像の世紀 バタフライエフェクト ビートルズの革命」がいいね、という話題でも盛り上がった。おじさん世代の話ではあるが、初めて見るような貴重な蔵出し映像もあって、必見である。
 


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