例会速報 2022/07/24 慶応義塾高校
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慶応高校での久々の対面例会
新型コロナの流行が始まったのは2年半前である。それまでYPCは主に学校を会場にお借りして毎月の例会を行ってきた。最初の緊急事態宣言以来、学校会場が借りられなくなって、例会はずっとZoomによる遠隔開催を余儀なくされていた。2021年12月のナリカ、先月の麻生市民館での対面例会で新たな活路を見いだそうとハイブリッドの試みもしている。
今回、慶応高校物理科のご厚意で、コロナの流行が始まって以来初の学校会場での例会が行えることになった。マスク着用、手指消毒、ソーシャルディスタンスといった基本対策の他、例会時間の短縮、茶菓の提供取りやめ、二次会の自粛等、慎重の上に慎重を重ねての開催となった。
その後の第7波の拡大により、再び学校での開催は難しくなったが、ピンチをチャンスに変えるべく、新しい活動形態を引き続き模索していきたい。
授業研究:コリオリの力(地学基礎) 宮本さんの発表
宮本さんは、発展の「地学」を含む授業科目「地学基礎」での実践例を発表した。コリオリの力は、高校での授業としては物理でも地学でも扱いづらいもので、教科書や図説でもあまりページが割かれておらず、授業での実践例も少ないため、今回は珍しい分野の発表になった。コリオリの力や回転角速度を学習することで、「なぜ台風は赤道直下では発生しないのか」「校庭でキャッチボールをしていてなぜコリオリの力を感じないのか」等の疑問に答えられるようになったり、「赤道商売(洗面器の渦マジック)はどこがおかしいのか」を正しく指摘できるようになったら嬉しい。
授業の流れとしては、まずコリオリの力(F=2mvωsinφ)の「2mvω」の部分を、弧度法や物理基礎の知識を使って、やや力技で導出する。その後、フーコー振り子やナリカのバネ振り子実験器を用いて、地球上での回転角速度ωが、緯度φではωsinφに拡張されることを示す。ここまでコリオリの力の形を導いたので、あとはコリオリの力が身近なものにどの程度作用するか、例えばキャッチボール、銃弾、長距離砲弾などでコリオリの力の影響を計算してみる。最終的には円運動における向心力をコリオリの力が担った際、その円運動の回転半径がどのくらいになるのかを計算して、洗面器程度の大きさの水流では影響はないが、関東平野に吹きおろす風くらいの大きなスケールの事象になると、コリオリの力の影響が無視できなくなることを示す。
実験室では回転台の上で水を流す玩具(ドリンクディスペンサーという商品名の小便小僧)を使って、北半球と南半球でのコリオリの力の力の向きを演示しているが、それ以外でのコリオリの力がわかりやすい映像としては以下のものがある。
★Coriolis Effect→MITの実験動画。回転するシーソーの上に乗った2人がお互いにボールを投げ合う。スロー再生でボールの軌道を描き入れるなど、「みかけの力」がどういうものかという説明も非常に分かりやすい。
あとは北半球でフーコー振り子を定点長時間撮影した映像があれば、振り子の振動面が進行方向の右にズレていく(=コリオリの力によって振動面が回転していく)ことも確認できる。
さて、ここまで大半の学生はコリオリの力のあらすじを理解できるが、問題はこのあと、地球上での回転角速度が緯度に依存するという点が難関だ。これを理解してもらうために、演示実験として地球儀の上にマグネットの人形を置いて回転させて、北極と赤道で人形の立っている地面がどのように回るかを考えてもらいます。
北極で一回転する人形は視点がぐるりと360度回る一方で、赤道で一回転する人形は視点が常に前方に固定されている=つまり地面は回転していない、回転角速度が0であると認識できるか否か、この部分の説明がかなり難解である。参加者からも様々な意見が出た。
さらに、緯度φの平面では回転角速度がsinφ倍に拡張されることを体感してもらうために、ナリカの「フーコーの振り子(バネ振り子式)A」を用いている。この実験器具は、自分が中心となって覗きながら回転することで、覗く角度に応じてバネ振り子の振動面が回転するというものだ。例会参加者にも、触ったことのない人がいる一方で、懐かしいなと感慨深げな人もいて、実験室は大盛り上がりだった。「振り子の観測者を回転する椅子の上に座らせて、もう一人がそっと椅子を回転させてあげると綺麗に見えるよ」とのアドバイスもあった。
なお、このナリカの「フーコーの振り子(バネ振り子式)A」は現在は販売されていないが、とても良く出来ているので残念に思っていた。例会に参加していた関係者のお話では「値段は少し前より上がると思いますが、再生産を前向きに検討します」とのことだった。もし発売されたら早速ゲットすると良い。
最後には2008年の民放番組の中での赤道商売に関する典型的な誤解(3分の映像内に矛盾点が数カ所もある)、スタローン映画での洗面器の渦の誤解が紹介された。
参加者からは、「コリオリは極座標表示で導出するとスマートだが、高校生には難しすぎるか」、「コリオリが教科書に載ってた時代っていつだっけ?」(=すかさず喜多さんが昔の教科書を探し出し、某社の教科書には載っていることが判明)、「フーコーの振り子の実験のように、学生が自宅で回転角速度の緯度依存性を実感できる簡単な実験はないものか」といった声があった。これ以外にも色々と議論でき、非常に有意義な時間だった。
いどの会の浮力実験 山本の発表
仮説実験授業研究会・広島仮説サークル・いどの会は、立ち上げから50年になる老舗のサークルである。青森の野呂さんの紹介で、いどの会の会員の小池透さんと知り合った。浮力、特に「着底問題」についての詳しい実験が行われていることを教えていただき、さらにその実験器具まで分けていただくことができた。詳しい資料はいどの会のホームページの「資料紹介」のコーナーにある。例会ではこの実験器具を用いて、資料に紹介されている実験の追試と、考察を行った。
パラフィン(ロウ)は水より密度が小さいので、普通は水に浮く。底面を平滑にしたパラフィンの円柱を乾いたアクリルボックスの底に置き、軽く押さえて上から水を注ぐと、パラフィンは水底に静止して浮かんでこない(写真左)。パラフィンは水をはじくので、表面張力の効果で円柱の底面とアクリルの間に水が入り込めず、減圧された薄い空気層があるためだ。棒でつつくと円柱を横に滑らせることができるがそれでも浮いてこない。
次に、パラフィンの円柱を乾いたアクリル板の上に乗せ、板の水平を保ちつつ静かに水に沈めていく。このときも円柱は浮いてこない(写真右)。板を若干傾けると、円柱が板に沿って滑る様子が観察できる。側面からの圧力が不均衡を生じ、円柱を動かしている。円柱は斜めになった板に沿って滑るが、その底面が板からはみ出すと円柱は浮いてくる。この実験はいどの会のオリジナルで大変興味深い。
水を先に入れた場合はどうなるのだろうか。それも、いどの会の実験にある。水に浮かべた状態からパラフィンの円柱を沈めていき、アクリルボックスの底に押しつける。今度は間に水が入っているから・・・と思いきや、やはり円柱は水底にとどまったままだ。この状態をどう説明するかが目下の課題である。小池さんの解釈は、水分子を介した分子間引力を考え、円柱の底の隙間の水分子は動きにくい状態にある、というものだ。薄い水の層が円柱底面に引力を及ぼすという考えである。水をはじくパラフィンが水と引き合うだろうか、という疑問が残る。
一方、水に沈めたパラフィンの表面は本当に水に触れているだろうか、という疑問もある。パラフィンの表面は平面加工したとはいえ、微視的にはかなり凹凸がある。水にひたしてもパラフィンは薄い空気層の衣をまとっているのではないかという説も聞かれた。
目に見えないほどの空気層でも、真空引きして外の大気圧を取り去れば、膨張・拡大して見えるようになるのではないか。実験装置全体を真空容器の中に入れて観察を試みた(例会では動画で紹介。movファイル25MBはここ)。
さらに円柱を水に沈め、アクリルボックスの底に押しつけながら、水を捨てる。この状態で全体を天地逆さまにすると、円柱はボックスの底に貼りついて逆さ吊りになる。これも真空引きして、接着面の状態を観察してみる(例会では動画で紹介。movファイル21MBはここ)。どちらも、真空度が上がるにつれて接着面に気泡が現れることが観察できるが、これが空気なのか沸騰によって生じた水蒸気なのかは、まだ決着していない。引き続き検討することになった。間の薄い水の層が減圧されていないという保証はないという意見もあった。流れのある流体の場合、圧力は周囲の静水圧に等しいとは限らない。
パラフィンは撥水性だが、濡れやすいもので実験するとどうだろう。これはこちらで追加した実験である。木のブロック(写真左)を同じように着底させてから水を注ぐ実験をしてみた。木も容器も水に濡れていない状態では、着底後おさえつけて水を注ぐとやはりしばらくは浮いてこない(写真右)。下から観察すると木とアクリル容器の間に空気層があってまわりから水がじわじわとしみこんでいく。水がだんだんと空気層を追い詰めていく感じだ。気圧も上がっていくだろう。下からの水圧や気圧が増せばブロックはやがて浮かび上がる。木のブロックの場合、一度濡れてしまうと、着底静止はできないことも確かめられた。
新たな疑問もいろいろ湧いてきて、宿題となった。引き続き楽しめそうだ。興味深い実験を紹介してくれたいどの会、実験器具を分けてくださった小池透さんに心から感謝する。
基本実験講習会スマホ班報告1(重力加速度) 鈴木さんの発表
7月17・18日の両日麻布中学・高校で開催された、APEJの基本実験講習会(本年は対面開催)では、YPCメンバーが講師として各分野で活躍した。そのうち、統合型物理計測スマホアプリphyphoxを使った簡単個別実験を提案した「スマホ実験班」の各担当者からの報告があった。phyphoxはアーヘン工科大が開発し無償提供している。Android用、iPhone用があるが画面や操作感が統一されており、生徒に説明しやすい。広告を伴わないのも教育用には好都合だ。
メニューの先頭にある「gを含まない加速度」で重力加速度を直接測定してみよう。測定メニューの左から2番目の「絶対値」モードを用いる。►の測定開始ボタンを押したら、スマホ自身を落下させる。もちろんスマホを守る衝撃吸収材を用意すること。鈴木さんはダイソーの500円クッション(写真左)を薦めている。45Lポリ袋を緩く膨らませたもの(写真右)でも代用できる。家庭での課題実験として出題するときはベッドの上でやるように指示するとよい。
クッションの20~30cm上にスマホを縦にして上端を二本指でつまむようにして保持し、そっと放す。スマホはクッションに向かって自由落下する。すぐに停止ボタンを押して測定を止める。一瞬の出来事だが現象はミリ秒単位でちゃんと記録されている。グラフをタップして拡大し、左図赤丸の部分をさらにピンチアウトで拡大すると、右の図のように平らな部分がある。これが自由落下中の加速度の測定値だ。画面下の「データ選択」ボタンをタップしてからグラフ上の点をポイントすると、その点の測定値が数字で表示される。9.7m/s2前後のかなり良い値が安定して得られる。
今度は、スマホを水平に保持してから同様に自由落下させてみる。似たようなグラフが得られるが、数値をチェックしてみると、だいぶ値が小さい。どうやらスマホの姿勢による空気抵抗の違いが検出されているらしい。グラフ上の点をポイントした指を離さずに別の点までスワイプするとグラフの傾きや差分も表示できる。空気抵抗を大きく受けると加速度の変化も目立つようになる。
このほか水平投射など初速度をつけて放っても、加速度の大きさはいつもgであることが短時間の実験で簡単に確かめられる。
基本実験講習会の参加者アンケートでは「スマホを落下させることに若干不安を感じる」というコメントが散見された。不用意に落下させてスマホを破損しないように注意したい。なお、この実験は中古のSIMなしスマホでもできるので、中古スマホを手に入れて班ごとに貸し出すなどの方策も考えられる。
基本実験講習会スマホ班報告2(音速) 伊藤さんの発表
伊藤さんは、講習会で担当したphyphoxの「音響ストップウォッチ」を用いた音速の測定について報告した。この実験は2020年1月例会で西村さんが紹介してくれたものをそのまま採用した。用意するものは2台のスマホとメジャーだけ。
音響ストップウォッチの「シンプル」モードを使う。2台のスマホを距離L(講習会では7mとした)離して置く。1台目のスマホのそばで「パン」と手を叩くと、そのスマホは音が発生した直後に音を感知する。一方2台目のスマホは、、音速vは有限であるため時間Δt=L/vだけ遅れて音を感知する。最初の音を聞いたら、2台目のスマホのそばで同様に手を叩く。2発目の拍手の音で2台ともストップウォッチは停止するが、今度は1台目のストップウオッチの方がΔt=L/vだけ遅れて停止する。図のように、2台のスマホで測定された時間の差は2Δtとなる。これより音速はv=L/Δtとして求められる。
講習会ではそれぞれの班で音速の測定を行った。右図の表は講習2日目の実測データ。音速は326~359 m/sの間に収まっている。当日の室温は推定25℃ぐらいなので、かなり良い数値と言える。
基本実験講習会スマホ班報告3(ばね振り子) 山本の発表
最後は輪ゴムによるばね振り子の実験である。トップメニューの下の方にある「ばね」を選ぶ。5本の輪ゴム(サイズをそろえること。例えばNo16)を直列につないで、一端をスマホに十文字かけたひもに通し、ひもをしっかり結ぶ。スマホ自身をおもりにして上下に振るばね振り子とする。念のため下には衝撃吸収材を用意しておこう。
ツールバーの►をタップすると測定が始まる。スマホを釣り合いの位置より5cmぐらい下に引いて静かに手を放す。4~5往復したらスマホを止め、ただちに停止ボタンをタップして計測を終了する。画面に周期が秒単位で表示される。測定には加速度センサーが使われており、その波形をフーリエ解析して最も卓越した周期を割出しているようである。4~5回の振動でも良い結果が得られる。
測定は一番長い5本直列から開始して、順次輪ゴムの固定位置を下げていき、4~1本の場合を測定するとやりやすい。結果は左のグラフのようになる。振動周期の2乗が輪ゴムの本数に比例する様子が確認できる。ばね定数kのばねをn本直列にすると合成ばね定数はk/nとなるからだ。
ただし、この結果に気をよくして、n本並列の場合や、質量mを変えた条件で測定を行うと、定量的な結果は単純な予想からは外れてくるので注意が必要だ。例えばおもりを追加して質量mを変えた場合、n本直列のグラフは同じように直線(右図赤線)に乗るが、単純計算から予想される結果(右図緑線)とは一致しない。
その主な原因は輪ゴムが理想的なばねではなく、ばね定数kに相当する値が伸びに依存しているからである。この実験に使用した輪ゴムの伸びを横軸に、弾性力を縦軸にとったグラフは左のようになり、直線でないばかりかヒステリシスを示す。これはゴムの物性なので、輪ゴムを使う以上は避けられない。
それでも直列の場合がうまくいくのは、直列では本数が異なっても各輪ゴムに同じ力が加わるからで、共通のkで説明ができるのである。
輪ゴムによる実験は家庭でもできる手軽な課題だが、生徒に実験課題を示すときにはこうした背景事情を知った上で、配慮するとよい。
観察実験で事前に何を伝えますか? 市原さんの発表
市原さんは中学生の化学分野の実験で、酸とアルカリの性質の実験を紹介した。
5%濃度のHClaqと、5%濃度のNaOHaq、比較のために純粋な水を用意し、ハムとプロセスチーズを入れて60℃くらいで温める。例会会場で実際に実験を行った。
約20分後、結果は、アルカリ性はタンパク質を溶かすので、NaOHaqではハムやチーズは溶ける。一方、酸に入れたチーズは溶けることなく、取り出してみると酸変性をして水で温めたものに比べて硬くなっていた。
ところで、この実験を中学生が観察するとどう表現するのだろうか。酸でチーズが硬くなっていることを記述できた生徒は半数以下で、大半は「変化なし」という記述である。まれに「溶けた」と答える生徒もいる。NaOHaqの場合、ハムは完全に溶けて消えてしまうのだが、これに関しても少数派ではあるが「透明になった」と書いたり「ハムとチーズが反応した」と記述したりする。
観察実験では「何に注目させるか」はとても大事である。見せたいものを逃さないようにしたいが、一方で、ネタバレしないようにしておかないといけない。「色に注目してね」と伝えると、「あー、色が変わるのね」となり、感動が薄れてしまうことも考えられる。ましてや「ハムが消えるからよく見てね」なんて言いたくはないが、「透明になった」と記録する生徒を事前に予想しておくことはなかなか難しい。
事前に注目ポイントとして「色」「形」「大きさ」などを提示しておくのはいいが、そうすると、授業者が予想していなかった「溶液の反応」を記録させることができない。どれが正解、というものはないが、生徒集団に合わせて、試行錯誤するのみである。
血液型性格診断資料提供 宮崎さんの発表
本年4月例会で市江さんが報告した「血液型性格診断」の授業開きネタは、その昔宮崎さんがYPCに紹介したもので、メンバー間で繰り返し愛用されてきた。その原点とも言えるネタ元を、紹介者の宮﨑さん自身が突き止め、発表してくれた。それは科学雑誌「ニュートン」1992年4月号の特集記事「血液型で性格は決まらない」だった。例会の最中に当該雑誌が、廃棄されようとして会場外の廊下に積み上げられていた古雑誌の中から奇跡的に発見され、記念品として宮崎さんに譲渡された。これには宮崎さんもびっくり!
40℃は20℃の2倍? 宮本さんの発表
インターネットで話題になっていた小ネタ紹介。もうすでに元動画は消えてしまったようだが、2022年7月21日のテレビ朝日のニュース映像の一コマである。曰く
「イギリスで気温40.3℃を記録し、観測史上初めて40℃を超えました。イングランド地方の7月の平均最高気温は21.2℃で、2倍近い暑さです。」
これは温度概念の基本を理解できていない典型例で、参加者からは「華氏だったら何倍になるんだろうね」と笑いが起きる一方、インターネット上では「この表現でも暑いことは伝わるから問題ない」とする声が大きかったことも付記しておきたい。もちろん言うまでもなく「40度は20度の2倍の温度である」と書いたら明らかな誤りだが、今回は「2倍近い暑さ」と記しており、“暑さ”がどういった物理量であるか明確でないゆえにこれ以上議論することは難しいと思われるが、ニュースで用いる表現としては極めてアウトに近いものであると感じる。一般市民の感性が少し心配になった一件である。
身近な科学 車田里奈さんの発表
里奈さんが「ちょっとぜいたくしちゃいました~」といって見せてくれたのは、ダイソンのホットカーラーAirwrap Volume+Shape。同社の扇風機にも応用されているお得意の「コアンダ効果」でシート状の噴流が周囲の空気を巻き込み、ついでに髪も巻き込んでカーラーに自動で巻き取り、エアリーカールをつくる。時計回りと反時計回りのカーラーで、内巻き・外巻きのカールをそれぞれつくることができる(写真右)。
例会会場では、演示用のポリテープの吹き流しや、ご自分の髪の毛を使って、実際に巻きつく様子を演示してくれた。セットにはプレスタイリングドライヤーのノズルもついていて、こちらはダイソンの扇風機のミニチュアみたい(写真左上)。ダイソンではこの技術を「エアマルチプライアー」と呼んでいるそうだ。おしゃれにも物理が活用されている。
こちらもしゃれたデザインの浄水ボトル。容器が二重構造になっている。蓋をはずして内側の容器に水を注ぐと、底の浄水フィルターを通って外側の容器に浄水がしみ出す仕組み。ボトルを傾けると、外側の容器の浄水だけが注ぎ口から出てくる。
右の写真のように外側の容器の水に浸った部分は内側の容器が見えなくなる。フィルターも拡大されて見える。光の屈折のいたずらだが、このへんはちょっと物理っぽい。
ビスマスによる反磁性磁気浮上 車田浩道さんの発表
7月2日に国立科学博物館の物理教室が3年ぶりに再開され、車田浩道さんはビスマスを利用した反磁性磁気浮上実験をした。2003年1月例会(県立青少年センター)で、右近さんが紹介された反磁性磁気浮上をビスマスブロックで再現したもの。水平仕様と垂直仕様がある。右近さん紹介の炭素ブロックの実験も追試している。(2005年5月例会・県立新城高校)
反磁性体のビスマスの結晶が科学館のショップやメルカリなどで販売されていて、YouTubeで作り方がアップされている。単体のビスマスブロックが1kg単位で販売されている(Amazon | ビスマスチップ(純度:99.99%)1kg )。ブロックはほぼ一様の厚み(30×30×6㎜位)で加工せずに利用できる。1㎏で22枚入っていたそうだ。
国立科学博物館の物理教室では、フェライト磁石は安価のものを利用したので水平仕様では2枚重ねで使い、垂直仕様ではラボジャッキ代わりに工作用紙でつるしたフェライト磁石が上下に動くように、ペットボトルの間隔を微調整するように工夫した。参加者が自宅で追試できることを目標にしている。浮揚させるネオジム磁石は、100均のピン止め磁石(ダイソー・強力マグネット(クリアタイプ、ピン型、6個) をばらして使った。直径5㎜厚み3㎜のネオジム磁石である。100均なので磁力にばらつきがある。直径10㎜だと地磁気の影響で傾きが大きくビスマスに接触してしまう。
例会では小さい球形ネオジム磁石がよいのではというアイデアが出た。実物を見て意見交換ができるのが対面のいいところだと実感!
車田さんが行った予備実験(水平仕様)の動画はここ。
ラテンクロスの展開図 阿部さんの発表
阿部さんは以前、球のペーパークラフト(2017年11月例会で発表)を計算した際 、似たように面で切るような展開図は他にもあるのではという考えから色々と調べたところラテンクロスからできる立体が85通り23種類出来ることを知った。今回、それらの展開図を紹介しているサイト を見つけたので出来る範囲で立体を作ってみた。
夏休みということもあり部活動(グローバルサイエンス部)で制作し、プレゼン用の大型模型も用意して、その成果を学校説明会で発表した。ちょっとした自由研究で、部活動の宣伝にもなった。来校者には展開図のサンプルをお土産としてお持ち帰りいただき、好評だった。
阿部さん提供の詳細なスライド資料(PDFファイル:21MB)はここ。
ラテンクロスからの立体85通り23種類紹介しているサイト:https://erikdemaine.org/aleksandrov/cross/photos.html
超音波ウキウキマシン 越さんの発表
越さんは2022年3月のオンライン例会で紹介した「超音波ウキウキマシン」(愛知の田中さん主催の製作会で入手)の実物を持参し、披露してくれた。発泡スチロールの小球(直径1~2㎜程度)とコルクの粉末で、安定する位置を比較してみたかったのだが、例会では小球は浮いたものの、粉末の方はうまくいかなかった。
プラスチックの海 越さんの紹介
越さんが2020年11月のオンライン例会の2次会で紹介していた「プラスチックの海」の教育機関用DVDが発売された。価格33,000円。100分のオリジナル版(日本語字幕)、22分の短縮版(日本語字幕・日本語吹替)が収録されている。詳しくはここ。
2015年に公開されたこの映画の時点では大きさ5㎜以下のマイクロプラスチックの海洋汚染が問題であったが、現在では大気中を浮遊する0.1μm以下のナノプラスチックも問題となっている。この点については2021年放送のNHKスペシャル「2030未来への分岐点 第3回 プラスチック汚染の脅威」で紹介されていた。
また、環境保護団体のグリーンピースが製作した映画「The Story of Plastics」も異なる観点からこの問題にアプローチしていて大変興味深い。
飯田さんの新刊本 鈴木さんの紹介
愛知物理サークルの飯田洋治さんが日本評論社から新著を出版した。「なぜ力学を学ぶのか・常識的自然観をくつがえす教え方」(2400円+税)だ。
理科教室9月号に書評を載せる予定の鈴木健夫さんから、内容の紹介があった。注目の一冊である。
二次会 Zoomによるオンライン二次会
例会参加者は対面のみの開催としたが、24名が参加。リアル例会の熱気が感じられた。二次会は慎重を期して帰宅後の20時からZoomのオンラインで行われ、10名の参加があった。
二次会では、対面例会に参加できなかった人に例会での話題を概説するなどのフォローが行われた。さらに、例会では取り上げられなかった話題も加えて議論が盛り上がった。
特に、APEJ基本実験講習会・気柱共鳴班の実験に関して、阿部さんから問題提起があり、議論を呼んだ。気柱共鳴管に発砲入浴剤を入れて二酸化炭素を管内に充満させ、空気の場合と音速が違うことを示す実験だが、空気の場合に比べて実験によって求まる開口端補正がかなり小さいというのである。管内と管外の気体の密度が異なることが原因なのだろうか。その場の議論では結論が出ず、宿題となった。
科教協岡山大会の出展計画なども話し合われたが、あいにく例会の直後に対面開催の中止が決まった。お楽しみ広場やナイターを楽しみにしていたが、残念である。
飲みながらもこんな議論ができる、科学好きの集団である。
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