例会速報 2020/01/19 慶応義塾高校


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授業研究:物理基礎・熱の授業 平本さんの発表
 
 平本さんは、熱・温度に関する概念調査問題の内容を受けて、気体の圧力と沸点の関係や、熱伝導率まで扱って授業プランを立て、実践した内容を発表した。授業の組み立ては左の画像の通り。
 

 参加者からは
「概念問題をできるようにさせようとして、前後のストーリーが分断されてしまっている。」
「題材から入ってしまっている。単元の到達目標を立てて、それに向けてストーリーを組み立てられるといいのではないか。」
「ミクロな部分の扱い方は考えた方がよい」
などの意見も出たが、盛り沢山の実験を配置した意欲的な授業プランだった。
 

 氷から加熱して沸騰するまでの温度変化を実際に追った実験とグラフ。横軸が時間軸だと温度変化が直線的ではないことがよくわかる。
 

 下は、湯煎で試験管の水を沸騰させられるかを問う概念問題。等しい温度では新たな熱の流入がないので沸騰は起こらない。これも実際に実験して確かめる。
 発表者の平本さんからは、「発表を通して、教える内容が多く、授業の前後のつながりが弱いと感じた。何を教えたいのか再考して改善していきたい。」とのコメントがあった。時間の都合で後半はまた次の機会に発表してもらうことになった。


空気清浄機 武捨さんの発表
 武捨さんは、黒柳さんが2003年1月例会で紹介していた、底の抜けた三角フラスコを使った空気清浄機をマネしてみた。以前、静電気の実験を考えていたときにホームページで見つけて、ずっとやってみたいと思っていたものだ。容器や電極、煙などいろいろ試してみて、今年の授業では次のようにした。
・5Lのビーカーにフォグマシンで霧を溜める。
・発泡スチロール板でフタをして、電極として針金を2本さし込む。
・電極にバンデグラフの頭とアースをつないで、電圧をかける。
 

 ビーカー内の霧がみるみるうちに晴れて透き通っていく。煙(霧)が電極に吸着したことが分かる。武捨さんが「今後は、燻製用のスモークチップの煙でも実験してみたい」と抱負を述べると、参加者からは、線香を多めに燃やすと短時間で煙を集めることができることや、お灸に使う「もぐさ」のを用いる方法などのアドバイスがあった。
 

phyphoxの音響センサー 西村さんの発表
 西村さんはドイツのアーヘン工科大学が公開しているオープンソース・ソフトウェア「phyphox」(フィーフォックス)を紹介した。ジャイロからスペクトルまで,多種多様な物理データが取得可能、かつ、AndroidとiPhoneで使用可能で、Youtubeにチャンネルがあるなど、SNSでの交流も活発なソフトウェアだそうだ。
 

 西村さんは授業の探究活動で音速を測定していたときに、生徒からこのソフトウェアの存在を教えてもらったそうだ。例会では、音によってスタート・ストップする「音響ストップウォッチ」を使った音速の測定実験に挑戦した。二人の人が実験室の両端に立ち,すぐそばの机などにスマホまたはタブレットを置き、時間差で拍手をする。拍手をしてから音をキャッチし、スタート・ストップするまでの時間差と距離から音速を求めることができる。
 

 例会で実際に実験してみたところ,約370 m/sとまあまあ良い値が出た。「音響センサー」以外のセンサーを使用しての実験報告も今後楽しみである。実験の様子の動画(movファイル1.5MB)はここ
 

ダイソーの二重滑車 車田さんの発表
 ダイソーの「腹筋ローラー¥300」を一目見たとき、車田さんには二重滑車に見えた。腹筋ローラーは体重をかけるものだから、当然人をつるせる強度があるだろうというインスピレーションが湧いた。
 ローラーの外側に付いているタイヤ部分が非常に硬くはまっていて、無理やり切断すると、肝心の輪を傷つけてしまいそうだったので、過去のYPCで積み上げた工作のノウハウから、熱いお風呂につけて、ゴムを柔らかくし、ドライバーを用いて外した。プーリーは2つ接触しているので、両側についているプラスチック製のグリップの内側を5mmほどハサミで切り、できた輪っかを2つのプーリーの間に入れた。これで、こすれずに独立に回転するようになる。
 

 ロープは登山用のザイルを使った。今回の例会会場では、天井のフックは体重を支えられないということで、平面展開で二重滑車を組んで引き合いのデモンストレーションをした。動画(movファイル1.8MB)はここ。次回以降、大人がぶら下がれるフックがある例会会場のときに、自分をつり上げる実験を実演してくれるそうだ。
 

LEDで見る気柱共鳴 長倉さんの発表
 長倉さんはNHK高校講座「物理基礎」第29回:気柱の共鳴の動画内で使われていた装置を再現したくなり、最近お気に入りのマイコン、ESP32を使い、音量によって明るさの変わるLEDを作成した。
 

 気柱の中に入れて腹節の位置を確認したり、音波の干渉の実験の確認に使ったり、かなり重宝している。1つ、1800円程度で作成できるので、おすすめ。「ソースコードは、無料で提供するのでご連絡ください。」とのこと。
 

音響浮揚装置 長倉さんの発表
 長倉さんの勤務校には、クントの実験の装置はないが、気柱の共鳴の単元で、授業が盛り上がるちょっとした演示実験を行いたいと思い、いろいろ探していたところ、音響浮揚という技術を見つけた。例会ではうまく浮かばなかったが、小型のビンの固有振動数で音を鳴らせば、ビニール袋の切れ端くらいなら中央付近に浮かせることができる。動画(movファイル2.3MB)はここ
 

 実際に浮かせるためにはかなり大きな音で鳴らす必要があり、授業では生徒に耳をふさがせながら行っている。授業ではなかなか盛り上がった。その後、「超音波でやれば人間の耳に聞こえないから不愉快じゃなくて便利だよね」といい、次の動画を見せている。
 

弦の定常波のアニメーションと考察 長倉さんの発表
 長倉さんは、教科書や問題集で、弦の端をおんさなどで振動させる状況と、弦をはじいた状況が同様に扱われていることに違和感を感じていて、自分の説明のときもどこか首尾一貫していないような感じがしていた。自分の頭の中を整理するために、「固有振動」「定常波」「共振」などの言葉について調べていたところ、この論文にたどり着き、Excelでシミュレーションを作成してみた。今後、これらのシミュレーションを使った授業展開を考えていきたい、とのこと。
 

 長倉さん提供のシミュレーション動画を下にリンクする。
3倍振動の動画(MP4ファイル9.1MB)はここ。5倍振動の動画(MP4ファイル11.4MB)はここ
ギターの弦の振動のシミュレーション動画(MP4ファイル4.1MB)はここ
※注意 上に掲載の動画は、x=0の点にプロットする設定を忘れてしまったため、周波数分解した結果に少し変な成分が乗っている。
 

ビー玉スターリングエンジン 喜多さんの発表
 喜多さんが持ってきたのはなつかしい「ビー玉スターリングエンジン」(写真左)。今回これを復刻した(写真右)。1997年の物理教育研究会(APEJ)の夏期大会の工作教室で作成したものとほぼ同じものだそうだ。注射器は5mLのガラスシリンジである。試験管を支える位置を適切に調整すれば、何も手を加えることなく50回以上のピストン運動を実現できる。動画(movファイル7.0MB)はここ
 22年前は、廃材となったコンピュータのキーボードを置く板を使用したが、復刻版では板はハンズで調達した。試験管を支える針金を簡単に取り付け取り外しできるので、収納はA4版の収納ケースに入る。(ただしアルコールランプは別。)
 

レールアンビルとガラス玉 喜多さんの発表
 レールアンビル(鉄道レールを切断した金床)にガラス玉またはプラスチック球を落とすと反発係数は0.94くらいになる。 The Video Encyclopedia of Physics Demonstrations 中の反発係数を示す映像に、鉄の塊の上にガラス玉を落とすと最も高い反発係数を示すというシーンがあったので、とにかく試してみようと、喜多さんは慶応高校物理科にある鉄の金床二つで試みたが、いまひとつだった。
 ハンズで購入した鉄道のレールに落としてみた。30cmの高さから落としたとき、最初の跳ね返りの高さは26.5cm、反発係数はほぼ0.94である。止まるまでの時間を表す式 T = t0×(1+e)/(1-e) から計算すると約8秒、ビデオで撮ったものを分析すると約10秒となった。動画(movファイル5.9MB)はここ
 同じ鉄とはいってもいろいろあるということを認識させられた。レールアンビルで検索すれば簡単にヒットする。長さ10cmの物が三千円くらいで入手できる。

トルネードアダプター 天野さんの発表
 教材として販売されているPETボトルのトルネードアダプター(「透明ペッドボトルジョイント」)は、普通購入で400円するが、ダイソーのペットボトルに液体を注ぐための漏斗(じょうご)「キャップ式ロート(110円)」(写真左)の部品を使うと簡単に自作できる。
 通過する量を、コントロールするために、ボトルキャップを削ってつくった円板に穴を開ける(写真右)。これを間に挟むと、トルネードアダプターになる。少し手間はかかるが、110円で作れる。<注意 PETボトルのキャップ下のリングを除くこと!>
 

 穴の径大きさ、形、個数を変えるとどうなるか、条件を変えて実験できる、トルネードアダ
プターである。課題研究用にどうぞ。
 天野さんは、キャップを加工したリングをセットにして販売してくれた。いつものように、飛ぶように売れた。

輪っ紙飛行機 市原さんの発表
 輪っか状の飛行物体の動画がTwitterでバズっていた(120万回以上再生)。市原さんは早速追試して作り方を紹介してくれた。
 輪っかで飛行することはXジャイロのようなものではあるが、進行方向軸に対して回転するわけではない。ほとんど準備もいらず、1〜2分で出来上がるし、かなり楽しめる。例会でも全員で工作した。
 

 飛ばし方のコツは、翼(?)部分を上にして、とんがったおしりの所を軽くつまみ、そっと押し出すように手を放す。翼の反りで飛び方を微調整する。学校の階段や、体育館の二階から落とすなど、距離が取れるところでやると面白そうだ。
 

ジャンピングトーイ 宮﨑さんの発表
 その昔、演示用小物としてよく使われた「ジャンピングトーイ」。ばねを押し縮めて吸盤を台座に吸着させると、しばらくして飛び上がる。鉛直投射や、放物運動の合成、エネルギー保存の演示に使ったものだ。動画(movファイル1.6MB)はここ
 おもちゃとしては、子供が上からのぞき込んでいると、飛び上がったときに目に当たるなど危険性があり、その後手に入らなくなってしまった。宮﨑さんの手持ち在庫がその場で参加者に振る舞われた。

モデルロケットエンジンあげます 宮﨑さんの在庫処分
 日本モデルロケット協会公認の、手作りモデルロケット用の固体燃料ロケットエンジンの在庫放出があった。エンジン3本とリカバリーワディングのセット。使用法などは、入門書、「飛ばせ!手作りロケット」(誠文堂新光社)などを参照のこと。

地学と化学のテキスト 宮﨑さんの在庫処分
 かつて組合教研が熱心に活動していた頃、「自主編成テキスト」が盛んに作られていた。宮﨑さんが、「若い人たちの参考になれば」と言って放出したのは、神奈川県高等学校教職員組合・教研理科小委員会編の、「化学」と「地学」の自主編成テキストである。年配の参加者からは「懐かしい」との声も。
 他に、物理教育研究会(APEJ)の初期の会報なども放出された。

運動方程式の実験書 宮田さんの発表
 昨年7月の東洋英和例会において、喜多さんから問いかけがあった運動の法則の実験、に対する宮田さんからの解答としての実践紹介である。宮田さんの実験では、ヤガミ製の定力装置(写真右)を用いて、生徒に、質量(加速されにくさ)を実感してもらうことを目指す。
 物体の加速度が力に比例するのはなんとなく理解できる。しかし、加速度が物体の質量に反比例(一定の力のとき)することはなかなか理解しにくい。
 

 そこで定力装置を用いて一定の力を加え、台車の質量を2倍にすることで台車の加速度が1/2になることを定量的に実験で確かめてもらって質量の理解を深めてもらいたいという実験内容だ。詳しい実験の組み立ては、宮田さん提供のプリント教材(PDFファイル0.6MB)を参照してほしい。
 

二次会日吉駅前浜銀通り「小青蓮」にて
 19人が参加してカンパーイ。例会参加者の7割以上がここにいる。今夜も楽しく科学談義。アルコールが入ると議論もついつい熱くなる。教員経験者は声が大きいから、他のお客さんに迷惑になっていないか気にしながらも、それでもしゃべらずにはいられない人たちだ。


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