例会速報 2022/04/17 Zoomによるオンラインミーティング


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授業研究:授業開き みんなの発表
  4月例会では毎年恒例で、最初の授業の様子を紹介しあっている。生徒を惹きつけて興味を喚起しようとそれぞれ工夫している。
 鈴木さんは今年度は中2の授業を久しぶりに持つ。最近は初めて持つ学年の授業では「聞く」「聴く」「訊く」の話をするが、中2だと漢字が無理だと思い、そのまま授業を始めるのが良いと判断した。考えさせる授業や作業や実験を伴う授業を最初からするのが授業のガイダンスとしてもよい、と思った。
 電流回路の学習から入る。豆電球をソケットなしでつけるように課題を指示(写真左)。セットをクラス全員分用意(26人)。電極に接続するのは手が足りないので、マスキングテープで貼り付ける。その指示のみする。最初の生徒ができるまで5分くらい。その後ちらほらでき始めて、最後は教えあって全員つけるように指示。ショートして熱くなることの注意が不十分だった。生徒の反応はとてもよく、最初の授業としては、よい取り掛かりだった。
 例会では「なぜマスキングテープ?」「なぜアルカリ単1電池?」などの質問が出た。両方ともたまたま準備室に人数分あったからだという。安全面からはアルカリでない方がよいのだが、直前の準備で人数分揃えるのが難しかったという事情だそうだ。長年授業をしていても、いまだに直前の準備になってしまうという現実を、鈴木さんは反省している。

 小沢さんは2021年6月例会で紹介したように、3年生の等速円運動で加速度の公式を扱う前に、十分に時間をとって、ストロボ写真に、速度ベクトルやその差を作図させて、「位置がわかる→速度がわかる→加速度がわかる」という思考プロセスを教えている。今年度の授業開きでは、職場で見つけた『ストロボスコープ<物理編>』という古い本(講談社:1966年)をプロジェクタで映して導入とした。アナログ写真独特の味わいや、撮影や現像の苦労が、デジタル時代の生徒にどこまで伝わったかわからないが、「いつどこにある」を記録することが、運動の観察の第一歩であることを印象づけることはできた。
 

 菅野さんの授業は生徒が食いつきやすい「宇宙ネタ」で始まる。コペルニクスの地動説、ティコブラーエによる惑星観測(望遠鏡なしで観測!すごい!)、ケプラーの3法則、オランダの眼鏡職人リップルヘイによる望遠鏡の発明、そしてガリレオが望遠鏡を天に向ける・・・当時は違法行為に近い。そのガリレオによる月面、太陽黒点、金星の満ち欠けの観測、木星の4衛星の発見。そして、実験結果を数学的に扱う態度。こうして近代科学が始まった。ガリレオは宗教裁判にかけられてしまうが、この流れの中でニュートンが運動と力の概念を確立し、運動法則にまとめる。ニュートンの業績はガリレイやケプラーによって築かれた土台の上になりたっている。
 ガリレオの時代、日本では江戸時代。その後鎖国。徳川綱吉の時代、和算を使って天体の運行を観察し日本独自の正しい暦を作り出そうという動きもあった(天地明察)が、日本人のやってきたことは、なかなか科学に発展しない。ガリレオは大砲の弾道学を研究していた。ペリー来航時、大砲作製技術や弾道計算で後れをとり、不平等条約締結に至る。
 物体同士が引き合うなんて、興味ないね!という人も多いかも知れない。しかし、ずっとそれを応用しようと考え続けて、時には大きな差になってしまうことがある。まずガリレオやニュートンの跡をたどろう。更に物理の勉強を大学で続けていくと黒体輻射理論➡量子力学➡原子力、レーザーなどへ発展していく。
 天動説の時代、流れ星に祈ると、なぜ願いがかなうと考えたのだろうか?「神が天国のドームを開けて地上の世界を見守る際、流れ星が流れる。星が光っているうちに、天国のドームが閉まる前に願い事をすれば、神が願い事を聞いて叶えてくれるから」(ここでは、それが科学的か否かは問わない)

 市江さんは、今年度担当する中学2年生4クラスに、「血液型で本当に性格がわかるのか?」をテーマに授業開きを行った。血液型で分類された性格特性の中から自分にあてはまるものをカウントし、一番数の多いものを性格の血液型と称し、本当の血液型との一致率をクラスごとにアンケート形式で調査した。結果は3クラスが45%程度、1クラスは73%もの一致をみた(左図:ノリのいい明るいクラス)。自然な確率25%にくらべ、2~3倍になるのは何らか意味があると結論付けた後に、分類された性格特性はあらかじめ血液型と性格を入れかえていたことを明かす。それにもかかわらず、性格と血液型が一致してしまうのはなぜだろうか?この授業を通して、生徒たちには、先入観を排除することの難しさや、科学的な考察には懐疑心をもつことが必要であることを実感してもらいたい、と市江さんは考えている。
 

 天野さんは、今年は地学4クラスを非常勤で担当している。授業開きは、自身の子どもの頃の体験談として指のけがと破傷風菌の話をした。また、今年が「国際ガラス年」(左図)にあたることから、レンズにからめて天体観測の話や、オルバースのパラドックスの話題を投げかけてみた。天文分野に関しては生徒の反応はよいという。

 越さんは物理基礎の授業開きにアンケート用紙を配り、次のようなことを書かせてみた。
・身のまわりの現象や理科的なことで、小さい頃から不思議に思っていて、今も良くわからないことは?
・身の周りの道具や工具、家電製品、機械、その他の物で、便利だと思うもの。また、その仕組みを知りたいもの。
・今までに分解や修理をしたことがあるものは何か?また、その時の様子を説明。
・理科の授業で学びたい事、知りたい事。その他質問、要望など
・子どもの頃、ハマったのは 虫・動物系、それとも おもちゃ系?ハマったのは具体的に何?
・時間があったら、①ニワトリ、②自転車の絵を描いてみよう。
最後のニワトリの絵は2012年4月の例会で平野さんが紹介した授業開きがきっかけ。自転車の絵も、身近な物の構造に興味を持って欲しいと考え描かせてみたが、特徴を良く捉えた絵は少なかった。身近な物や現象を科学的な目で見て欲しいものだ。

 黒柳さんは、中3の天文分野の授業開きにあたり、授業で扱う内容を予告するような形で認識度を質問形式で調べている。太陽はどちらから昇るか(34回答中正答は25、西から7、南から2)、昼と夜はなぜ訪れるのか、知っている星座、なぜ天体は光るのか、なぜ月は満ち欠けするのか、夏暑く冬寒いのはなぜか、などの質問である。星座は小学校でも扱うが、「オリオン座」などを知っている生徒は意外と少ない。

有理化の盲点 西尾さんの発表 
 西尾さんは大学の授業で、答えの有効数字部分が 4.9/√2 になるような計算問題を、計算が簡単にできるように √2=1.4 として出題した。想定した正答は 3.5 であった。しかし、学生からの質問で、有理化してから √2=1.4 を代入すると 3.43 になり、有効数字2桁で答えを求めると 3.4 になることがわかった。改めて見直すと、有理化の過程で √2×√2=2 と計算しているということは、この √2 は 1.4 に丸めることができないことに気づいた。 

 もちろん、√2=1.41 と1桁多くとった計算をすれば、有理化の有無によらず有効数字2桁の答えは変わらない。通常、問題で与える円周率や平方根などの数学定数は他の有効数字よりも1桁多くとるが、途中計算で1桁多く残すのと同様に、それは計算結果の誤差を大きくしないためだとこれまでは思っていた。「平方根を粗く丸めると、有理化の有無で異なる答えが出る」ということは、自分にとっては盲点だった、と西尾さんは振り返る。入試問題などでも有効数字2桁の問題で平方根が2桁で与えられる問題がたまに あるが、やはり一般的なルールどおりの出題をすることは大切のようだ。
 なお、例会では「1桁多くとる」のような有効数字の計算ルールですべて解決するわけではないとの指摘があったが、桁数に注目する有効数字の計算ルールはあくまで便法であることは確認しておきたい。

電流の予想課題・現在進行形(中2) 鈴木健夫さんの発表 
 上記「授業びらき」で鈴木さんが発表した中2の授業の次の展開の報告である。左図の課題を提示して予想・討論という展開をとった。中学の電流の学習でよく扱われる課題である。
 回収したプリントで全員分の予想が把握できたので、プリントして次の授業(実験室で実験)の冒頭に配り、その後考えたことを書かせた後、実験に取り組ませた。
 例会発表時は、まだ実験をする前だったので、この予想を書いたプリントを紹介するところまでだった。予想の分布は以下の通り。
             挙手による分布  プリント回収による分布
違う(aの方が大きい)    14人          15人
違う(bの方が大きい)     0人           0人
     同じ            8人           9人

予想の理由(代表的なもの)
◯「違う (aの方が大きい)」の予想理由
 ・aは電流が普通に流れている。しかしbは豆電球に電流を流した後だから電気量は減っていると思う。
 ・電流が豆電球が通ったばかりだからbの方が電流が少ない。
 ・電流は、+端子から流れて-端子へと流れる時、-端子が+端子の電流と同じorそれ以上であったら電池の残量は減らないと考えたため
◯「同じ」の予想理由
 ・電流が回る時の電流の強さは一定だと思うから。
 ・+-で電線(導線)の長さが同じだから
 ・豆電球は1個しかつなげられてないし、枝分かれなどしていないから。
 ・同じ電流がずっと回っているので、豆電球の明るさは変わらなく、もし違ったら豆電球の明るさが変わるから。

 例会では、この課題の扱いについて、予想させて理由を考えさせるのは難しいし無理であり、この段階では実験結果から理解させていくのに徹するべきだ、という強い意見が出された。理由を考えるための知識を持っていない、という理由である。これに対し鈴木さんは、単に実験をするよりも、理由も含めて考えた上で実験事実を見ることで現象の理解を深めるので、理由の説明を教師がするのではなく、この段階で理由も考えさせて実験を行うのがよい、と考えている。授業の方法論としてかなり重要な議論になった。

小さなアンテナ 菅野さんの発表 
 菅野さんはまだ残雪がある中、フクジュソウ(福寿草)が咲いたということで見に行った。そこではフクジュソウがパラボラの原理を取り入れていた。後で知ったが、写真の一部が白とびするのは、パラボラ効果によって光の強い所が生じるためだそうだ。
 フクジュソウの花は直径約3~4cm、高さが約1cmである。花弁の直径を4cm、y=0.25x2の放物面とすると、確かにy=1cmのところに集光する勘定だ。初春の花で寒いときに咲くため、暖かくなる工夫をしている。太陽に方向を合わせ、花弁がパラボラ鏡となり太陽光を集光するため雄しべ・雌しべの温度が7℃くらい上昇するという。フクジュソウ自身を温めるためと虫集めの両方が目的とのこと。虫にとっては暖房付きレストランといったところ。
 

 左は茨城県にある宇宙電波望遠鏡。もともとは衛星放送用でKDDIが所有していた。プロジェクトXに出てくる。集光してからの仕組みは異なるが、形とやっていることがフクジュソウと類似している。
●宇宙からくる電波の方向にパラボラを向ける。同様にフクジュソウは太陽の方向に向きを変える。
●パラボラで宇宙電波を集める。同様にフクジュソウは花弁が雄しべや雌しべに太陽光を集める。
 
 とても興味深い話だった。詳しくはYPCニュース掲載の菅野さんによる解説記事を参照してほしい。

 おまけの話として八木アンテナについて。菅野さんが生徒にテレビのアンテナは日本人が発明したという話を振ってみたところ、生徒達から「知らない」という声が上がった。物理教員の間では「あぁ、あれね」とか「またあの話ね」となる当たり前のことでも、生徒達にとっては初めてという話もあると思ったとのことである。写真は菅野さん提供。
【参考文献】
[1] 福寿草について:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=79
[2] 日本の宇宙電波望遠鏡:Wikipedia
[3]「衝撃のケネディ暗殺 日米衛星中継」―復興の懸け橋 プロジェクトX~挑戦者たち~
[4] 電子立国日本を育てた男:ISBN4-16-346940-0 C0023 p458 
 

ニュートンビーズ(鎖の噴水現象)の問題点
~登るしくみの探究と出来たパターンの解析~
 夏目さんの発表 
 夏目さんは、NHK総合4月29日「世界オモシロ学者のスゴ動画祭3」に出演し、ニュートンビーズ(鎖の噴水現象)の実験と解説をした。以下、夏目さん自身によるレポート。
 ニュートンビーズについて、NHKからきれいな動画を紹介してくれないか?と声をかけてもらった。そこで、自宅の2階、大学会館吹き抜けなどいろいろな場所で実験をしてみた。左下の図のようにカメラマンには、ともかく高く上がるシーンを求められた。それは当然としても、そもそも手繰り出し点からどうして重力に逆らうようにして登っていくかについて本質的な物理の問題があることを指摘したいと申し出た。実際の番組放映でもその点(メカニズムの重要性)もある程度説明させてもらえた。この場を借りてNHKの関係者には感謝したい。
 その問題に関しては、右図を①②③④と順次見てほしい。玉は引っ張られてはじめて後の玉と連結し、2つの玉の剛体になる。その慣性モーメント(およびその運動)を考えると、後の(黄色)玉は前の(ピンク色)玉の動く方向は逆の方向に激しく動く。初めは前の(ピンク色)玉が下向きに動くので後の(黄色)玉は上に持ち上げられる。それによって持ち上がるが、そこで、そのさらに後の(紫色)玉と剛体化する。ある程度の段階が進むとそれら(紫色玉、淡青色玉、濃青色玉)は順次下向きにたたきつけられることになる。しかし、そこには硬い床あるいは未だ単体で孤立して静止している玉がある。そこにぶつかって反発して跳ね上がることになる。このような上向きのプロセスを少しずつ重ね合わせていって、全体が登っていくパターンが形成されると考えられる。
 そうやって、いったん上に登って頂点を作るパターンが安定化するとそれは逆懸垂曲線(反転カテナリー曲線)になることを示すことができる。そのパターンに基づいてエネルギーの保存法則を考えると、手繰り出し点から最高点までの距離(高さ)hが、落下距離H(地面から手繰り寄せ点までの高さ)で決まってくることがわかる。非弾性衝突が完全に起こる場合には、h=0.2H程度になることを示せる。H=3m40cmではh=68cm、H=7mではh=1m40cmとなる。実際の実験結果は左図にあるように、これらの70%~50%である。エネルギーの損失は他にもいろいろあるためと推測される。
 

葉脈標本 伊藤さんの発表 
 伊藤さんは葉脈標本つくりを養護学校の授業でとりあげた。葉はヒイラギモクセイを使用した。教員がパイプ洗浄剤を使って葉を煮ておき、生徒が歯ブラシで葉肉(ようにく)を取り除いた。このとき、生徒は熱中して作業していた。
 作業後の葉脈は教員がキッチンハイターを用いて1時間ほど漂白した。その後の授業で着色し、ラミネートをして完成。12月に行ったので、クリスマスの飾りとして持ち帰った。
 実践の過程で、葉を煮るときは直接ではなく湯煎をしたほうがいいこと、葉を煮るときはガスが発生する(臭いがすごい)ので、よく換気しておかなければならないことなどがわかった。
 例会では、同じく養護学校の勤務経験がある参加者から「養護学校での授業は動機づけ、何を目指して行うのかを定めるのが難しい。」とのコメントがあった。また小学校での実戦経験者からは「歯ブラシで叩くようにして葉肉を取り除くとよい。」というアドバイスもあった。


簡易箔検電器 越さんの紹介 
 越さんは、ファラデーラボの森本さんが作られた簡単で実用的な箔検電器を紹介した。箔の代わりに太陽観測用の遮光フィルム(バーダープラネタリウム社のソーラーフィルター)を用いている。細長く切ったフィルムを2つ折りにしダブルクリップで同じ幅に切ったアルミ板に留めてある。クリップが金属円板の代わりにもなる。
 クリップと箔が近いので、クリップに強い帯電体を近づけると、帯電体と箔が直接クーロン力を及ぼし合ってしまうなど、改善すべき点はあると思える。


二宮忠八飛行館 越さんの発表 
 日本航空の父、二宮忠八(2004年1月例会で越さんが紹介) はライト兄弟と同時期に動力飛行機の製作に挑戦していた人物だ。彼の所縁の地の香川県のまんのう町に二宮忠八飛行館がある。館内には彼の業績をまとめた展示があり、実物大の玉虫型飛行機やゴム動力のカラス型飛行機などが展示されている。 

 また、敷地内の二宮飛行神社には、カラス型飛行機(上)や二宮忠八氏の銅像(左)もある。これとは別に京都府八幡には、忠八が自邸内に私財を投じて創建した飛行神社があり、晩年の忠八は、航空安全と航空事業の発展を祈願したという。

二次会 Zoomによるオンライン二次会
 例会本体には22名が参加、二次会には13名の参加があった。学年はじめで教員は忙しいためか、例会参加者は少なめだったが、二次会はいつも通りの賑わいだった。MLでも話題になった銅粉の導通性(ほとんど導通しない)の話に関連して、中学校で一般的に行われている銅粉を熱して酸化させる実験の動画が市原さんから紹介された。
 

 越さんからは、瀬戸大橋をオープンカーでドライブした際に360度カメラで撮影した素晴らしい動画の披露があり喝采を浴びた。また、市原さんが「理科教室」誌に書い関勉さんの本の書評がもとで、新たに人脈がつながった石垣島天文台台長・宮地竹史さんの著書紹介があった。 


前の月の例会例会アルバム目次次の月の例会


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