例会速報 2021/06/20 Zoomによるオンラインミーティング


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授業研究:等速円運動 小沢さんの発表
 小沢さんは高3「物理」の等速円運動について実践報告をしてくれた。向心加速度や向心力の「式」を教える授業がなかなかうまくいかないことの改善を模索していく中で、「式」を教える前に、「位置がわかる→速度がわかる→加速度がわかる」という運動論の思考を定着させる必要を感じた。そのために、速度ベクトルの図を描かせる実習をていねいに行った。
 放物線を描く運動について、どんな力が働いているかを考えさせる。あえて放物運動とは言わず(地表付近でものを投げ上げた運動に限定しない)、「図のような観測をしたならば、物体はどのような力を受けているはずか」を問う。

 次に等速円運動で、速度ベクトルが運動の接線方向であることを、図のように透明半球とビー玉で確認させる。(透明半球をどけるとビー玉は接線方向に転がっていく) 例会では、プラコップを使うともっと簡単にできるとアドバイスがあった。

 等速円運動の加速度が中心向きになることを、「今」と「ちょっとあと」の速度ベクトルから、作図することで考えさせる。

 昔、後楽園ゆうえんちにあったローターという乗り物で、中の人が受ける力を、加速度の考察から考えさせる。外側を向く力がはたらくという誤答や、運動の接線方向に力がはたらくという誤答が必ず出るが、円運動の加速度は中心向きだから、運動方程式より、受ける力(合力)も中心向きであると考えざるを得ないことに気づかせる。
参考リンク:https://www.sosouso.info/entry/2019/11/24/044512
 

 ローターの回転速度を2倍にすると、加速度がどうなるかを考えさせる。一瞬「2倍」と答えたくなる。塾などで「式」を先に習っている生徒は「4倍」と答えられるが、単に公式代入で答えているだけである。しかし、この授業で習ったこと(速度ベクトルをもとにした作図)を使えば、「式」を用いなくても「4倍」と答えられる。(少なくとも「2倍よりは大きい」と答えられる。)このように「式」が未習でも、生徒に考えさせる授業は可能である。そういうステップを踏んでから「式」を導く方が、生徒が興味深く取り組むというのが、小沢さんの主張である。

 小沢さんの教材プリント(PDFファイル2.4MB)はここ

レコードを用いた光の干渉 萬處さんの発表
 奈良県から参加の萬處さんは、半透明レコード盤を回折格子にする実験を紹介してくれた。全国から気軽に参加可能になったのも、Zoom例会の副次的効果の一つだろう。
 赤色の半透明レコードにレーザー光を当て、透過型回折格子のように使うと、干渉縞の間隔からレコードの溝の間隔が測定できる。これが正しいのかを確認するために、測定した間隔にレコードの回転速度(一分に33と1/3回転)を加味して推測した演奏時間と、実際の演奏時間を照らし合わせてみたところ干渉縞から出した演奏時間が110秒,演奏時間を測ってみると108秒だったそうだ。
 

 複数の測定値が一致することは検証を裏付ける証拠になるので、回折格子の実験でやられるような光学顕微鏡による計測、以外の方法が取れるのは面白い。またレーザーでピックアップするレコード再生装置もあるので、普通の黒いレコード盤で反射光を利用して測定できたりしたら面白そうである。
 萬處さんの、2020奈良県理科学会会報レポート「レコードの溝を回折格子とした干渉実験」は(PDFファイル166KB)はここ
 

提案:魅惑の低音が実現した・・・これって「錯聴」? 古谷さんの発表
 コロナ禍で、大きな負を抱えこんだ反面、作業に集中できる時間も得られた。古谷さんはこの機会を生かして「3D方式」(今流に言うと「2.1方式」)のオーディオシステムを完成した。簡単にいうと、オーディオのスピーカー(以下SP)装置の低音域を補強するために低音用のSPを付加する仕組みだ。また、本来必要な2本のSPを1本で賄えるという、経済的、空間占有の面でも優れた方式である。
 さて、製作上の最大の問題はアンプと低音用SPの間に入るローパスフィルターの存在。50年程前、古谷さんが学生の身分だった頃と比較すると格段な相違がある(大きさは勿論のこと、安定性、価格の面で)。 ネット上でこのフィルターを内蔵した3つのアンプが組み込まれた基板(写真左)を発見。低音用SP装置は手作りして室内のデッドスペースに収納(写真右)。メインSP2本とケーブル、その他は収納部屋で眠っていた(20~30年)ものを取り出して組み立てた。現在の部屋を手狭にしないための工夫を施し、古谷さんはその出来映えに充分満足している。
 

 ところで古谷さんの今回の発表の動機は以下のような気づきがあったからだ。
(1)リスナーの後方から再生される低音が前面(上方)のメインSPからの「音」と感じられる。また、全音域に渡り音の繋がりに違和感がない。
(2)左右の低音域の分離がハッキリしている曲を再生した場合、低音域が左右のそれぞれのメインSPから聞こえてくる。
 

 低音用のSPは後方中央に1本あるだけなのに、左右前方のメインSP(下図)からの音として聞こえるというのだ。これはいわゆる「錯聴」なのだろうか。「錯聴」とは「錯視」の音版で、実際には鳴っていない音が鳴っているように聞こえることである。人間の感覚というのは不思議なものだ。
 

山の中の、これなーんだ 市原さんの発表
 愛知県の豊橋市にある、吉祥山という山の登山道に、こんなものがある。これはなんだろう。
 これは「無給電中継装置」と呼ばれる、電波の反射板だそうだ。他にも長崎などで設置されている記事もある。実は山登りをしていると、稜線付近でわりとよく見かける。
 主に3GHzから30GHz帯の周波数で利用されていて、山あいに防災無線を届けたり、テレビやラジオの電波を反射させるのにも利用されるようである。
 遠距離に話を広げると、月面反射通信という、月を反射板としてアマチュア無線通信をすることもあるようだ。( http://hp.jpn.org/JR1YPU/eme/report.html )「電波」の学習の、小ネタ素材としてどうだろうか。

音の気柱共鳴で音を消す夏目 さんの発表
 気柱共鳴実験では、左の写真のように、音叉(おんさ)の音を共鳴させて音が大きくなった点を観測することになっている。しかし、その共鳴点での音の変化に対して「音が消える」と言う学生が毎年必ず現れる[1]。
 そこで、音叉の共鳴箱を使って、右の写真のように、気柱共鳴の実験をすると、音が消えるように感じることを確認した。使った音叉の固有振動数は440Hzであり、これは波長76cm(4分の1波長は19cm)である。開口補正効果も確認した。
 

 これは、左図のように、音が半波長の筒の中に閉じ込められたためであり、「共鳴状態」の概念にかかわる問題である。実際、既にこの点を指摘した本もあった[2]。
 それでは、音叉単体で、「共鳴状態で音が大きくなる」のはどうしてだろうか? 「共鳴した音が気柱の開口部に大きくなって出てくるため」という教科書の表現は多くの場合にあてはまり間違ってはいないが、もっと複雑な状況もあり得るのが音の難しいところだと思う。
 ともかく、周囲の条件をきちんと考えないといけない。音叉は方向によって互いに逆位相の音が出ている。それらが完全に打ち消し合うと音は消えるが、伝わる方向のズレはもちろん、机、周囲の壁などの反射による回折によってその打ち消し合いを免れている状況も考えられる。この場合は、音はかなり小さくなっているので、その片方の波が消されると、逆の位相を持った波が大きくなることも考えられる。
 ともかく、音の波の実験は、無反響室のような条件の良い環境で行わないと統一的な解釈は極めて難しい[3]。学習時にそれをどこまで注意すべきか考えておくべきであって、時によって生まれる「共鳴点で音が消える」という学生の意見は尊重すべきである。
【参考文献】
[1]千葉工大1年次物理学実験。
[2]岐阜物理サークル編著「のらねこ先生の科学でいこう」(日本評論社)p.133。
[3]夏目雄平「やさしく物理~力・熱・電気・光・波」(朝倉書店 )9章。

レーザー式測距記録デバイス 櫻井さんの発表
 櫻井さんは、自作した電子測距デバイスを紹介してくれた。OLED、レーザー測距モジュール、MicroSDカードスロット、タクトスイッチを搭載している(写真左)。電源を入れると、木ブロックの側面に固定した測距センサが反射面までの距離を継続して測定し続け、スイッチを押している間だけ、距離データをMicroSDカードに書き込んでいく仕組みだ(写真右)。測定中の動画(movファイル15MB)はここ
 ちょうど運動の法則に関する実験を実施する予定があり、生徒実験に使用するためグループに1台、全部で10台製作した。一揃いで3500円~4000円程度。最も高額なパーツは測距モジュールの1380円。実際に2m以上の計測ができ、実験机を十分活用できるものがこれしかなかったため採用したが、鏡面のように見えるセンサ部が露出しており、生徒が指で触って汚すのが気に食わないのと、運動中の物体の位置をそれほど精度よく測定してくれないことが気になってはいるが、お手軽にx−tのデータを取ることができ、生徒はそれをChromebookで分析することができるので、記録テープの次のステップとしてはよい道具ではないかと櫻井さんは思っている。
 

 左図は、ヤガミの定力装置を使い、0.49N、0.98N、1.47Nの力で約2kgの力学台車を引く様子を12回ずつ記録し、a-Fグラフを作ったもの。青のデータが測定値、赤のデータは、Fとmの条件をもとにした計算値である。台車が摩擦の影響を受けていることが、負の切片からよくわかる。ただし、定力装置の仕様上、引く力の大きさは3種類しか選べないため、3点しかプロットできない。
 「今和泉先生や長倉先生も、同様の(もっと機能の優れた)装置を授業で利用しているとのことで、情報交換をさせて頂いた。YPCに来ると、こういう刺激があるのが、とても嬉しい。」とは例会後の櫻井さんのコメント。

スマホによるCD虹の半定量測定 山本の発表
 スマートホンはリアカメラのレンズのすぐそばに点光源のLEDがある。多くの機種では10~15mmぐらいの距離しかない。撮影時に影を作らないための工夫だろう。このような点光源とカメラが接近した装置は実は珍しい。思いつくのは内視鏡カメラぐらいだ。そこで、スマホをリアカメラモードにして、LEDライトを常時点灯させた上で、CD(DVDやBDは不適)を真上から撮影すると、CDのトラックピッチによる回折格子の効果で、虹色の真円の干渉縞が簡単に観察できる。カメラモードでは連続点灯できない機種では、ムービーモードにするとよい。周囲を暗くすると連続点灯になる機種もあるようだ。
 真円の虹を観察するためには、レンズとLEDがほぼCDの回転軸上に位置するように調整しなければならない。右図のように本などを積んで10~15cmぐらいの高さにし、その上にスマホを置いて、画面に真円の虹が見える位置を探すとよい。
 

 光源とレンズがほぼ同位置だと考えると、光はCD面まで同じ経路を往復することになる。その際、トラックピッチ1.6μmのパターンにより、回折格子と同様の原理で光の干渉が起こる。格子間隔をd=1.6μmと考えると、隣り合う光線の光路差は往復で2dsinθとなる。これが波長の整数倍mλに一致すれば強め合った光の輪が観察される。
 sinθは虹輪の半径rと高さhから計算できるので、CDと共にスケールを写し込んでスマホで写真を撮れば、各色の波長を知ることができる。右図の写真では内側の虹はm=1、外側の虹はm=2に相当する干渉縞である。虹輪がトラック範囲からはみ出すことによるケラレに注意して、赤と黒、紫と黒の境目を測定すれば、可視光の波長範囲を割り出すことができる。実際には、スマホの撮像素子CCDの感度の範囲を求めていることになるが・・・
 この実験は、物理教育研究会(APEJ)主催の「基本実験講習会(9/26)」の教材として開発中である。興味のある方は是非ご参加を。
 

物理基礎で行った「慣性の法則」の授業ビデオ 車田さんの発表
 車田さんは、慣性の法則の授業で、「大科学実験」のテーブルクロス引きの動画を見せ、説明・デモをした後、生徒に自主的にやらせた。生徒1人1台iPadを導入しているので、動画を撮らせた。この動画(movファイル42MB)は生徒が編集したもの。 動画はクラスで共有し、作成者から公開の許可も得ている。
 

二次会Zoomによるオンライン二次会
 例会本体には35名、二次会には15名の参加があった。古谷さんからは、神奈川県民教主催の恒例「神奈川夏の教育研究大会」の宣伝があった。今年は8月22日(日)10時からZoomによるオンラインでの開催になる。参加費無料。詳しい案内はここ。参加申し込みはこのチラシの下の方のリンクまたはQRコードから。


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