例会速報 2022/08/20 大学セミナーハウス(八王子)・Zoomハイブリッド
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3年ぶりの合宿例会 大学セミナーハウス・さくら館研修室Bにて
コロナ禍以前は毎年8月に恒例として行っていた「合宿例会」は、ここ2年続けて中止となっていた。ウィズコロナの活動形態は学校でも模索され、修学旅行などの実践経験も蓄えられてきている。そうした教育現場での経験をふまえて、今年は合宿例会を再開させようということになった。
会場の大学セミナーハウスはコロナの期間中も営業を続けており、それなりの対応ができている。あとは参加者が十分な対策をとれば、実行可能と判断した。
写真の「さくら館」一階のセミナー室Bが会場である。中庭をはさんで宿泊室と向かい合っていて、食事のとき以外は他の団体と動線が絡まないようになっている。
幸い、有線/無線のLAN環境が整っているので、今回はこの会場でZoomも併用し、ハイブリッドで開催することになった。合宿の生中継は初めてである。
夏休みの報告会:夏休み中の活動や学会で得た成果を報告し合う
合宿例会では、いつもの授業研究に代えて、夏休み中に体験したことや各地で取材した情報を交換することになっている。
清水さんは株式会社リバネスと日鉄エンジニアリング株式会社が主催する「次世代育成プログラム」に生徒と共に参加したことを報告した。内容は洋上風力発電所をどのように設計するか、物理の知識をもとに考えるというものだ。授業だけにとどまらず、広く世の中を見渡しながら日々の学習に取り組んでほしいという思いで勤務校の高校2年生に呼びかけたところ、10名を超える生徒たちが参加を表明してくれた。プログラムは通年で開催されるが、第1回のイベントが品川区大崎にある日鉄エンジニアリング本社で行われた。詳しくは日鉄エンジニアリングのWebページを参照してほしい。
重心や力のモーメントなどの知識はまだ授業で扱っていない範囲だったが、知識がほぼないまっさらな状態から考えるのも学びになると考えている。企業のエンジニアの方とやりとりができる機会も非常に有意義なので、生徒たちには貴重な機会から学びを得てほしいと清水さんは考えている。
さらに清水さんは、勤務校で今年から顧問をしている科学部の合宿で、モデルロケットの打ち上げを行ったことも報告した。この合宿は、勤務校の早稲田実業学校が、糸川英夫博士により日本で初めてペンシルロケットの水平発射実験が行われた場所であることにちなむ(左図)。
事前に生徒たちが作製したモデルロケット(市販のもの)を持っていき、打ち上げ係や観測係に分かれ、連携を取りながら打ち上げを行った。観測係はレーザー測距計とクリノメーターを用いて高さを測定した。夜には高さ測定の原理(三角比など)を中1〜高3までが一緒に勉強をするなどした。モデルロケットを打ち上げるのは初めての生徒がほとんどだったが、OBの先輩が手作りのロケットを打ち上げているのを見て、刺激を受けたようだった。気圧センサーなどを搭載して打ち上げている生徒もいて、素晴らしいと思った。
使用するエンジン(火薬)の種類によって力積の値が決まっているので、理論的なアプローチもできそうである。清水さん自身はまだ素人と謙遜していたが、例会の参加者にはかつてモデルロケットの実践を積んだ人もいて、アドバイスがあった。清水さんは「刺激を受けた。モデルロケットを物理の教材として用いたいと改めて感じた。」と語った。
山本は8月に長崎大で行われた物理教育学会のポスターセッション展示ブースで、兵庫県の秋山和義さんが製作・実演していた新型起電機を紹介した。秋山さんの起電機は塩ビ板をはさんで置かれた2枚の金属板と、電荷を蓄える一対のライデン瓶付き電極からなる。塩ビ板上面を紙でこすって負に帯電させ、導通した2枚の金属板ではさむと、静電誘導で上の金属板に正、下の金属板に負の電荷が誘導される(写真左)。上の金属板には絶縁された取っ手がついていて、手で引き上げると力学的仕事により正電荷のエネルギーが増す(写真右)。上の正電極に振れると金属板の正電荷はライデン瓶に蓄えられる。同時に下の金属板の負電荷は負極側のライデン瓶に移る。この際、塩ビ板の電荷は変化しない。電気盆と同じ原理だ。上の金属板の上下を繰り返すことで電極間の電位差は最大6万Vにも達し、放電球ギャップにスパークを生じる。このギャップ間隔から電圧を知ることができるのだそうだ。
秋山さんの実演による動画(movファイル:6.1MB)はここ。
このほか、例会では同じ学会発表から、西尾信一さんの「仕事をどう教えるか」、海老崎功さんの「両面異素材下敷きの開発」について資料で紹介した。
運動方程式からの接続を意識した仕事とエネルギーの授業 清水さんの発表
清水さんは、8月上旬の物理教育研究会(APEJ)の夏期大会で発表した内容をもとに、新学期の授業の検討も兼ねて発表をした。
背景としては、加速度、等加速度直線運動、運動方程式といった学習の流れを断ち切ることなく、なるべくスムーズに仕事エネルギーの分野に接続したいとの思いがある。今まで清水さんがやってきた授業では、仕事やエネルギーを運動方程式とのつながりを意識しながら教えることがあまりうまくできておらず、生徒たちは個別撃破的に理解せざるを得なかった部分があると自省している。今年度はその点をなるべく上手く扱いたいと考えた。
また、物理の内容を日常生活と関連させて扱いたいと日々考えており、日常話題にのぼる「エネルギー」をより掘り下げて扱いたいと考えた。エネルギーは日常語になってはいるが、「エネルギーとは何なのか」と言われて明確に答えられる人は少ないだろう。
清水さんは、高校の物理は数式を用いて実世界の現象を表現したり予測できたりできることが醍醐味だと思っているので、エネルギーに関しても、きちんと数式的に扱えるものなのだと伝えたいと考えている。極端に言えば、エネルギーは式変形の末に出てくるものにすぎず、本質的には速さを持った物体なのだというのが今回たどり着いた清水さんのスタンスである。
例会ではさまざまな観点から意見が交わされた。特に、保存量としてのエネルギー概念の凄さを伝えたい、という意見があった。清水さんは「この点については、私があまりできていなかった部分で、その魅力を伝えられるような授業構成も考え直したい。やりたいことは多々あるが、生徒たちにとって何が本当に必要なことか、学ぶ価値のあるものは何かということを常に考え、このような例会で貴重な意見をいただきける機会を大事にしつつ、授業作りをしていきたい。」と抱負を語った。
4歳児にわかるモーターの動作原理 市江さんの発表
市江さんは今年も科学の祭典全国大会に昨年と同じ「プラコップでつくる超簡単モーター」でクラブの生徒とともに出展した。昨年の科学の祭典全国大会は開催直前に中止となったが、祭典事務局のご厚意でつくり方や動作原理の動画を公開することができた。
下の2つの写真はそのつくり方動画の抜粋。材料はすべて100均のセリアかダイソーで手に入るものばかり。動画の中ではセリアの110mlプラコップに22cmの細長いアルミホイルを取り付けている。60mlのコップを使うときは、細長いアルミホイルの長さは20cmがちょうどよい。
次の2つの図は動作原理の動画の抜粋。こちらは中高生向けにつくった「フレミングの左手の法則」を用いた動作原理の説明動画になっている。生徒達は非常にスキルが高く、こうした図もいとも簡単に作る。昨年つくった動画にさらに磁石や電池を逆さにしたときの説明を加えたバージョンになっている。よくあるクリップモーターよりも、「フレミングの左手の法則」がうまく適用できるので、格好の教材となる。
今年の科学の祭典の対象者は4歳以上とされていたため、「フレミングの左手の法則」を使わずに4歳児が納得してくれる説明はできないものか生徒とともに検討した結果、杉原和男先生のパスカル電線(S-cable)を用いたエルステッドの実験を行うことにした。「S-cable」の詳しい説明は、電磁気学習新教具「S-cable」研究室のサイトを参照のこと。
「S-cable」は身近(ご本人、勤務校、勤務教育関係機関など)にない場合、研究用見本として1台を贈呈していただける。申し込み先は以下。
http://www.eonet.ne.jp/~sugicon/gogo/10s-cable/outline/present.html
左写真の黄色の装置が電池のかわりになって、灰色の太い電線に電流を流すと、近くにあった方位磁針が力を受けて動くようすを観察してもらう。磁石ではない電流でも、磁石との間に力が生じていることを4歳児にも実体験してもらい、モーターをつくるには磁石と電池の両方が必要であることを納得してもらうようにした。
エルステッドの実験は、4歳児向けというよりむしろ、歴史的にも電磁気現象の大元の実験であるので、学校の理科の授業でしっかり扱うべきであると市江さんは考えている。
市江さんの発表に関連して、遠隔参加の夏目さんからは、自身の実験講座でフィルムケースモーターの指導をするときの、動作原理の説明のしかたの紹介があった。イラストではなく、実物にモールや付箋を貼り付けて立体的に表現している。
3Dプリンター製スターリングエンジンカー復活計画 櫻井さんの発表
3Dプリンター製のビー玉スターリングエンジンカーは、東京理科大学の川村研究室にて製作され、実験教室などの教材として使用された実績がある。最近3Dプリンターを購入した櫻井さんは、それをいちから自作してみたくて、挑戦した。
3Dプリントのためのデータ(Gcode)を作るためには、まず作りたいものの3DデータをCADソフトで作成し、そのデータをスライサーと呼ばれるソフトによって、3Dプリンターへの命令ファイルに変換する必要がある。櫻井さんは、CADソフトはAutodeskのFusion360(教職員や学生・生徒なら製品版無料。入手はこちらから)を、スライサーソフトは、家庭用3Dプリンターにおける事実上の標準となっている無料アプリUltimaker Curaを使用している。
3Dプリンターで複数のパーツを作り、それらとシリンジや試験管、ビー玉などのエンジン本体をジョイントしていく形で組み立てていく。最大プリントサイズが限られている3Dプリンターで、任意の大きさのものを製作するためには、ジョイントを含めてモデルを作ることが必須である。
櫻井さんは会場で参加者全員が実験できるよう準備をしてきたが、研修室は火気厳禁であったため、一台だけ組み立てて屋外で点火した。それも残念ながら、風で固形燃料の炎が揺れたためか、うまく動作しなかった。
例会出席者からは、試験管部分と火の高さを自由に変えられる構造にするとうまくいくよとアドバイスがあった。櫻井さんは現在、それに従って改良している最中である。
動いているスターリングエンジンカーの動画(movファイル:47MB)はここ。動輪の歯車を引っかけて回す脱進機構に注目!
テレビの偏光 吉岡さんの発表
吉岡さんは、偏光サングラスをして家電量販店に行ってテレビ画面を見たところ、偏光の方向に違いがあることに気付いた。いくつか確認してみたところ、液晶では縦に偏光しているものが多く、有機ELでは横に偏光しているものが多いが、メーカーでも統一されていないことがわかった(テレビの前で90°顔を傾けたりしていて、「何かご不明な点でも…」と店員さんに怪しまれた!笑)。
ちなみに、有機ELでは原理的には偏光板は必要ないが、反射光を防ぐために偏光板を用いている。また、偏光サングラスをかけて暗く見えるモニターも、間にカメラを起動したiPadを通して見ると、iPadのカメラ素子は偏光を反映しないので暗くはならない。最近の有機ELでは偏光板を用いないものがあったり、偏光板と1/4波長板を組み合わせ直線偏光を円偏光にするフィルムを使ったりと、いろいろな技術があっておもしろいので、もう少し調べてみたいと、吉岡さんは意欲を燃やしている。
第2部開始 引き続き20時より大学セミナーハウス・さくら館研修室Bにて
第1部は対面14名、遠隔12名、計26名、第2部は対面12名、遠隔6名、計18名の参加があった。 合宿例会では例会発表は夕食を挟んで夜も続くので、「二次会」と呼ばずに第2部と呼んでいる。とはいえ、コロナ禍に突入して以降初めての対面飲み会である。コロナ禍は収まるどころか感染は昨年より拡大している。そんな中での飲食付き例会は冒険的と言われるかも知れないが、発声時マスク着用、黙飲・黙食、手指消毒の徹底をルールとしながら、新たな活動形態を模索していく実験的な試みである。
ともかくも、工夫を重ねながら、サークルの活動が継続していることを祝って、遠隔参加の皆さんと共に「カンパーイ!」
R4学力調査の問題の問題 市原さんの発表
市原さんの発表は、令和4年度全国学力・学習状況調査の、中学校理科の大問5(2)の問題&答えが不適切なのではないか、という指摘。
「ばねが縮む長さは、加える力の大きさに比例するか。」という課題に対して、右の図1の装置をつくり、ばねに加える力の大きさを変化させたときのばねの長さを3回測定して平均をとり、ばねが縮む長さを計算してグラフに表した上で、ノートの「考察」に最もふさわしいグラフを選ばせるという問題である。
選択肢として左図A~Dの4つのグラフが示されている。正答はAのみとなっていて、他の選択肢には得点はない。これに対し、「Dも誤りとは言えず得点があって良い。少なくとも、選択肢にAとDを並列してはいけない。」というのが市原さんの指摘である。
課題の趣旨から言って、比例関係を言える線を引けば話は済んでいる。比例関係を仮説として立てていいるので、これを検証できるデータのみを扱った、つまり排除すべきデータの排除理由は観察から明確である、という視点を持てば、Dを不正解とする根拠はない。そもそも、「【考察】に最も適したグラフ」という問いかけにも、疑問をもつが。
グラフが折れ曲がる点も、一般的な測定データとしては不自然である。普通の計測なら右図のような分布になることが多い。この場合、青で示したような直線を2本引き、それぞれの意味を考えるのが「考察」のスタンスだろう。実験して、データを取って、分析して傾向(トレンド)を見出す、という行為を丁寧にやっている生徒ほど、困惑する問題といえる。不適切な出題で、科学的センスのよい生徒の芽を摘んでしまいかねない。
それとも、それらを全て承知で、出題者に忖度できる子を育てたいのだろうか。
いどの会小池さんのパスカルの原理体感セット 山本の紹介
先月の例会でも紹介した、広島仮説サークル・いどの会の小池さんから分けていただいた「パスカル体感セット」の紹介。パスカルの原理を手ごたえで体感する実験である。径の違うシリンジ3本と三方活栓がセットになっている。シリンジ同士をビニル管などで結ぶやりかたでよく行われている実験だが、参加者が反応したのはシリンジと三方活栓の結合部にネジが切ってあることだ。ルアーロック式と言うらしい。圧力がかかっても脱落しないための仕組みで、医療現場では普通に使われているようだ。例会参加者は初めて見る人が多かった。
結合部のオス/メスを合わせると左のように組み立てることになる。小さいシリンジで空気を押し込むと、大きいシリンジのピストンからは大きな手ごたえが返ってくる。パスカルの原理によりどちらも圧力は等しいが、力の比は断面積の比になるからだ。
いどの会小池さんのレーザーポインタ用アダプタ- 山本の紹介
これも、広島仮説サークル・いどの会の小池さんから分けていただいたものの紹介。レーザーポインターの先がぴったりはまるシリコンチューブに、アクリル管や水を入れたミクロ試験管を光路に直角に取り付けたもの。
レーザービームを扇形に広げて、直線光源に変える。光の経路をホワイトボードやスクリーン上で示すことができる。レンズブロックやプリズムとの併用で屈折・反射の経路を示すのに効果がある。山本はレーザーポインターのキャップ内に2mm径のアクリル棒を仕込んで使っていたが、ビームが広がりすぎて光が弱くなってしまうきらいがあった。このミクロ試験管のタイプはビーム幅が適切で、散乱光も少なくきれいな明るいビームが得られる。
チャーム入り陽子の発見 市原さんの情報提供
第2部開始の直前に、「陽子に新たな素粒子が含まれている可能性が浮上」というニュース記事が飛び込んできて、市原さんから速報紹介があった。
陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個の組み合わせでできているが、それ以外に、チャームクォークとアンチチャームクォークのペアが内包されている可能性がある、というものだ。とはいっても、チャームクォークは陽子よりも重い。本当にありうるのだろうか。当日は、「ひとまず、こんな話題があるらしいですよ、詳しいことは記事をしっかり読んでから」という紹介で終わった。
後日確認してみると、まず記事の内容としては、陽子の「構成粒子」として新しいもの(チャームとアンチチャーム)が見つかったわけではなく、陽子全体の運動量に影響を与えうる仮想クォークのペアである「固有クォーク」の候補として、陽子よりも重いチャームクォークが候補となりうることが確認された、というものだった。
陽子中で仮想的なチャーム・アンチチャームの存在確率を計算したり、それを実験で検証する話は40年以上前からあり目新しいものではない。 (例えば https://doi.org/10.1016/0370-2693(80)90364-0 )
面白いのは、この研究は機械学習を用いていることだ。約50万回にわたるの粒子加速器の衝突実験データを、機械学習によって分析・ノイズ除去を行い、チャームクォークが陽子の内部に発生する場合とそうでない場合の2つの計算結果を比べ、そこにズレがあるかどうかを調べるという研究だったようだ。ただし、この結果が正しい確率は「確定した科学的事実」となるにはまだ足りず、続く分析・報告が待たれる。
また、陽子の構成粒子が変わったわけでも、素粒子物理の理論に新しいことが追加されたわけでもないので、「教科書が変わる」ことはまずないだろう。そういう意味では、タイトル詐欺ではある。むしろ、これまでの素粒子理論や、その理論的拡張が正しかったことを裏付けるような結果と言えそうである。今後、このようなディープラーニングのような研究も増えていくのだろうか。
仕事と熱実験器の比較 越さんの発表
2016年8月の合宿例会で平野さんによる工作会で好評だった実験器具(左図の右)と、阿部さんが最近自作したもの(左図の左)とを比較した。大きな違いは銅パイプのサイズ、つまり中に入る水の量だ。同時に実験を開始すると、平野タイプは40秒程度で沸騰しだし、阿部タイプは90秒程で沸騰しだす。生徒が実験することを考えると、平野タイプは手軽に実験できてよい。一方、阿部タイプは水量が多く、迫力があり、達成感もある。熱の仕事当量はかなり大きいのだという実感も味わえる。さらに後者は銅パイプの内径が約8㎜と太いので、中に温度計を差し込んでおくことができる。また木製で作りもしっかりしているなどの利点がある。それぞれ利点を生かし使い分けるのが良いだろう。
比較実験の動画(movファイル:8.3MB)はここ。
サウンドチューブ 越さんの発表
左は「できるかな」のゴン太のぬいぐるみだが、これを逆さにすると、鳴き声のような奇妙な音が出る。左図中央は、千葉市科学館で入手した「サウンドチューブ」で管を鉛直に立てて逆さまにすると、ゴン太と同じ音が出る。管の片方は栓がしてあり、反対側は口が開いているが、中の笛が落ちない様にストッパーが付いている。分解してみると、管の中には右の写真のような円筒状の笛が入っていた。円筒の中心に穴が空いていてその中に金属箔の2枚のリードが固定されている。筒を鉛直に立てると笛が落下し、リードの部分を勢いよく空気が通過し、リードが細かく振動するので音が出る。この時、落下しながら音が変化する。
さらに、中の笛を取り出し、内径が元の管と同じでより長い塩ビパイプ(左図)を用いて同様に笛を落下させると、音の変化の様子が変わった。この音には様々な振動が含まれているが、上下の気柱の長さの変化により、異なる振動数の音が共鳴により強調され、音が変化するのではないかと越さんは考えた。
例会では、空気の流量や流速の変化により、リードの振動自体が変化し、音が変化するのではないかとの意見も出て、その場でスマホによる周波数分析も行われた。波形は一見して雑音に近く、多数の倍音が含まれていて複雑であることまでは分かった。音の変化の様子を注意深く観察すると、どうやら後者の意見の方が有力そうだった。単純なおもちゃも例会で紹介すると、様々な意見が出て探求されていき、大変興味深いものであることが分かった。
シンギングボウルとタンバリン 越さんの発表
シンギングボウル(左図の右)はチベットの瞑想用具だそうでチベタンボウルなどとも呼ばれる。2015年4月例会でも越さんが紹介してくれた。シンギングボウルでうなりが聞こえるのは、お寺の鐘と同様に複数の振動のモードがあり、いくつかの振動数が近い音が出ているためである。動画(movファイル:6.4MB)はここ。
また、物を擦ることによって細かく振動させることができる事が解り易い例として、タンバリンの「ロール」という演奏法がある(Youtubeの動画はここ)。これはタンバリンの皮の部分(ヘッド)を、親指などを立てて擦る事によりタンバリンを細かく振動させ、周りの小さなシンバルを鳴らす奏法だ。グラスハープと同様に親指を少し湿らせ、鼓面に指を押し付け摩擦が大きい状態で擦ると、自然と細かくつっつっつっつと、飛び飛びに鼓面をたたくことができる。2004年7月例会で紹介された「魚洗」なども擦ることによって振動させるのは、同じ原理だ。例会ではバイオリンを弾くのも似た現象であるのと指摘があった。
動画(movファイル:1.6MB)はここ。
スターリングエンジンカーのリベンジと販売 櫻井さんの発表
第1部では時間の関係で動画での紹介となったが、改めて動くところを見たいというリクエストに応えて、実演してもらった。櫻井さんは満足していなかったが、とりあえず動作は見られた。あとはパーツの位置やすりあわせの調節で時間をかけて追い込んでいく。櫻井さんはパーツをセットにしたキットを実費販売してくれた。飛ぶように売れたことは言うまでもない。こうした配布・販売が対面例会の楽しみでもある。
eVscope 越さん、阿部さんの発表
eVscopeは、自動設定、自動導入の超高感度天体望遠鏡デジタルカメラだ。エンハンスト・ビジョンという技術で、天体からのかすかな光を蓄積することで、星雲などの鮮明な画像が得られる。例会では、越さん所有のeVscopeにより、阿部さんが九十九里浜で撮影した画像が紹介された。
下はこと座のM57リング星雲(左)とこぎつね座のM27あれい星雲(右)。色も見事に表現されている。
下はM42オリオン大星雲(左)とM31アンドロメダ銀河(右)。このような見事な画像を手軽に撮影することができる。
ただし光学倍率は固定で、惑星などの撮影には向かない。おうし座のM45プレアデス星団(すばる)は画角からはみ出してしまう。左の明るい星がアルキオーネ、右がメローペ。
ファインダーが無いタイプのものが多く、スマホやタブレットで操作、観察する。さらに高性能のeVscope2も発売されている。
以下の大阪市立科学館の資料が参考になる。
http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/~yoshiya/eVscopeHB_OL.pdf
ドローン 越さんの発表
越さんは2020年11月のオンライン例会で紹介したことのあるドローンの実物を持ち込んで披露した。DJI Mini 2は200g未満、飛行時間15分程度、軽量の為、強風には弱い。DJI Mavic Air 2は約500g、飛行時間30分程度。何れもジンバル(スタビライザー)付4Kカメラで簡単に安定した動画撮影ができる。ドローンは、都市部や空港付近など飛行区域、高度などに制約があり、事前に飛行の届け出が必要な場合がある。今年6月より、国交省に所有している機体の登録が必要になった。
例会会場でのmini2の飛行の様子、離陸からホバリングまで(movファイル:44MB)はここ。着陸の様子(movファイル:5.8MB)はここ。
「ゲルニカが来た!大迫力の8K映像空間」展 越さんの紹介
ピカソの代表作「ゲルニカ」の実物大8K映像が新宿(初台)NTTインターコミュニケーションセンターで8/28(日)まで、入場無料で公開されていた。全体や部分のクローズアップ、簡単な解説付の20分間ほどの映像をじっくりと鑑賞できた。NHKで関連番組が放送された。世界がきな臭い今こそ、間近で観る意義がある。
https://www.nhk.or.jp/archives/museum/guernica/
「天、共に在り」 中村哲著 越さんの書籍紹介
「天、共に在り」 は中村哲氏のアフガニスタンでの30年間の記録。なぜ医師である筆者が、数十万人を救う25kmにも及ぶ農業用水路を拓くという偉業を成し遂げたのかが、自身の言葉で語られる。人々の命を救うために何が一番大切なのか、必要な事は学ぶ、治水・土木技術、設計、重機の操作。治水・土木など技術的な記述も多い。国、宗教、イデオロギーを超えた氏の人間愛により、人心を捉え組織を動かす。自らの力強い言葉に心打たれる。
2019年12月4日、氏が現地で凶弾に倒れたことが惜しまれる。その遺志はペシャワール会に受け継がれている。
朝食 食堂「やまゆり」にて
例会会場は24時をもって閉鎖したが、科学談義はその後も続き、深夜に及んだ。明けて7時半からの朝食風景。ソーシャルディスタンスをとり、パーティションで個別に区切られたブースで黙食する。ウィズコロナ時代の合宿風景である。この後、三々五々自家用車に分乗して解散した。
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