例会速報 2022/06/19 川崎市麻生市民館・Zoomハイブリッド
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川崎市麻生市民館第3会議室 初の自力ハイブリッド例会
コロナ禍で学校会場が確保できなくなって久しい。一つの打開策として、今回は公共施設の会議室を借りて対面例会を試みることになった。新百合ヶ丘駅前にある麻生市民館の会議室が取れたので、有志が集まり久々の対面例会、合わせてZoomで会場外の参加者と結んでハイブリッドとした。昨年12月の例会で、株式会社ナリカさんのご協力により初のハイブリッド例会が実現しているが、今回は自力で初のハイブリッド開催である。会場の様子はPCに接続したホームビデオカメラでZoomに流し、音声はハウリング防止のため会議用スピーカフォンで会場と外部を結んだ。この会場は有線LANのみの環境だったが、今回の試行でインターネットに接続できればなんとかハイブリッドが実現できるというめどが立った。
授業研究:進まない波の授業の続き 小澤さんの発表
2022年1月例会の授業研究「進まない波の授業」の続きの報告である。
久しぶりの対面例会なので、授業で使っている実物を見せて、みんなで授業研究を楽しみたいという思いから、小澤さんはいろいろな教材を会場に持ち込んだ。
うなりを教える前に、「おんさにおもりを付けると、音は高くなるか、低くなるか、変わらないか」という発問をする。振動する部分が短くなって高くなるとか、重いから低くなるとか、振動しづらくなって音は小さくなるけれど高さは変わらないなどの意見が出る。一つずつ鳴らして確認するが、「音の高さが変わったかどうか、よくわからない」という声が必ずあがる。そこで「(音の高低の区別はできなくても)高さが微妙にずれていることを簡単に識別できる方法を知っている人いない?」と聞くと、楽器をやっている生徒が「同時に鳴らすとわかる」と答えてくれる。そこまで見越した授業計画によって、生徒に引っ張られて「うなり」の学習に入っていく展開をとる。
v=fλの式のありがたみの一つとして、「目に見えない音の波長がわかってしまう」ことをあげる。例として、ドレミファソラシドの波長を求める活動をする。デジタルテスターを周波数カウンタ代わりに用いて、キーボードで各音階を鳴らしたときの表示(周波数)をメモさせる。音速を340m/sとして、電卓で波長を求めさせる。
次に、音の波長を求めることに何の意味があるのか考えさせるために、雨樋用の塩ビ管(丸樋、竪樋)を波長の長さに切ったものを提示する。スリッパで塩ビ管の端をたたくと、ドレミファソラシドの音が再現される。余興としてキラキラ星やカエルの歌を演奏する。塩ビ管は、ホームセンターで、波長を書いたメモを渡して、「この長さに切ってください」と言って購入した。変な客だと思われただろう(笑)
「楽器のしくみと波長には何か関係がある」「波長を考えるためにはv=fλの式が必要みたいだ」と生徒に気付かせて、興味をもって学習させることを意識した授業である。
なお、塩ビ管を用意するのが大変なときには、波長の1/10の長さの筒を紙で作って、机の上に落とすだけでも、(正確な音階ではないが)音階らしきものが聞こえる。(参考:「紙パイプで演奏会」小河原康夫(2006年7月例会)
学校以外の会場だと、実験器具が無いので全て持ち込みとなるのだが、今後こういうことが増えることに備えて、小沢さんはドン・キホーテでキャリーカートを購入し、たくさんの荷物を運びこんだ。電車でこの荷物を持ってきた熱意に、参加者は口々に称讃していた。
極微細孔樹脂フィルターにレーザー光を通して光る円環を作る 夏目さんの発表
重粒子線ビームは物体に対して、極めて精密に位置を定めて衝撃を与えることができる。この性質を使ってガンの治療が行われているが、その夜間のマシンタイムを使って、樹脂板にオーダーメイドの細い孔を開けたフィルターが作られている。
最近では、光の波長程度およびそれ以下の内径の円筒の孔が多数貫通している極超微細フィルターが商品化され、教材として使えるようになった。(トラックエッチドメンブレン、エア・ブラウン株式会社 ライフサイエンス部 ホームページ http://arb-ls.com/ サイト内で「トラックエッチ」で検索)
例えば、内径0.2μm、膜(平板)の厚み25μmである。孔は平面上ではランダムに配置している。材質はポリカーボネイトである。左図に孔の分布を示す。これを使って光の伝達現象と減衰現象の境界領域の実験が容易くできるようになった。
このフィルターに、レーザー光(緑色;波長0.532μm)をフィルター面に垂直な方向から20度程度ずらしてあてると透過光はその角度を中心角として円環状に広がる。そのまま直進した位置が強く光るのは当然であるが、実際は透過する光が左下の図のように円環模様を描く。この場合、孔の中は空気なので、右の模式図のように、光はポリカーボネイト内から孔円筒の表面で全反射していると思われる。黄色は孔による空気の円柱。屈折率から考えて、樹脂側からは全反射条件となっている。しかしながら、孔の内径が波長より小さいため、エバネッセント光としてしみ出した光が減衰しきらないうちに、孔を透過していると予測される。つまり光のトンネル効果が重要な寄与をしているはずである。今後、取り組むべき課題は多いと、夏目さんは語った。
arduinoのデータをPCへ 天野さんの発表
人気のマイコンシステムArduinoについては2015年6月例会、2018年5月例会でも紹介されている。天野さんは今回、そのデータをPCのExcelに取り込む方法を披露した。天野さんは、20年前から RS232C のシリアル通信に興味があり、いろいろ実験したもののうまくいかなかったのだが、今回以下の(1)と(2)の方法で成功した。
(1)「ArduinoIDEのシリアルモニター」が手軽で使いやすい「ターミナルエミュレータ」(送信・受信をPCにあらわすソフト)になることを発見。使用Comポートを簡単に選択でき、送信・受信が分かりやすいことが利点。
(2)「Excelを用いた測定制御入門」堀 桂太郎 / 櫻木 嘉典著 (電気書院)を、改めて読み直す時間の余裕ができ、
Exの開発→VisualBasic→ファイル→ファイルのインポートに「EasyCom」T.Kinoshita 2000-2004が使えることを再認識した。
(1)をつかって、 USBからRS232C変換×2_クロスケーブルでPC(FLOWER270_WinXP ←→ Let's note S10_Win7)同士のシリアル通信に成功、さらに,ArduinoUNO_R3に1秒置きに数値を発生させるプログラム(スケッチ)を入れ、(2)でUSBケーブからPC(Win10)のExcelにデータを送ることができた。
今回、R3に超音波距離計をつけ、ばね振り子の単振動を計測し(写真左)、距離変化のデータをPCのExcelに送ることにも成功した(写真右)。PC側のVBAの分解能が0.2秒程度なので、Arduino側にもっと短い間隔のデータを溜めた後でPCのExcelに送り出すようにするのがこれからの課題である。
メタバースの活用に異議あり 鈴木さんの発表
2022年5月19日の朝日新聞夕刊に、以下のような内容の記事が掲載された。「寺子屋朝日」という、教職員を対象にした会員サービスのオンライン勉強会での様子を記事にした「メタバース教育への活用を考える」という記事だ。4月のオンライン勉強会のテーマは「メタバース」で、その専門家である中央大教授の岡嶋裕史氏を講師に迎え、教育への活用の可能性などを議論したという内容である。
記事では、メタバースの活用として、たとえばスカイスポーツやモータースポーツなど、実際の体験が難しいものを疑似体験したり、分身(アバター)を介して自分と意見が近い人とのコミュニティー形成をしたりなどの可能性が説明されたりした後、参加者からの教育現場での活用についての質問の回答として、岡嶋教授が以下のように話している。(下は岡嶋教授の発言原文)
「物理の実験で斜面やボールを用意するのは大変だが、仮想空間に現実と同じ状況を作れば、お金をかけずに準備できるようになるかもしれない」
鈴木さんは「これは見過ごせない」、と怒りを覚え、すぐにYPCMLや科教協や『理科教室』の関係のMLにこのことを流した。その後、何か行動しなければと考えて、朝日新聞の記事に対するコメントを受け付ける「お問い合わせフォーム」に抗議のコメントを記し、さらに、ほぼ同趣旨の文章を読者の投稿コーナーである「声」欄に投稿した。しかし、その後何も反応がない。その経緯を、せめてどこかに発信したいと考えて、『理科教室』の「視点」に投稿した。『理科教室』8月号に掲載される予定とのこと。こういうことに違和感を感じるのは物理教師だけなのかもしれない。しかし、鈴木さんは「本当に許せないことです。こういう動向を常に見逃さずに声を上げていくべきだと思います。」と語った。
リアル科学の祭典報告 舩田さんの発表
舩田さんは今年も科学の祭典千葉大会に出展した。今年は人数を制限しながらの対面での実施だったという。祭典では、YPCでもおなじみの得意ネタ、「リング落とし」(写真左)、「立方体万華鏡」(写真右および下段)、「ラブラブハート」、「立体パズル・うらかえせる」などを指導した。
例会の席で分けていただいた立方体万華鏡の工作は、下ごしらえがしっかりしてあって、道具を一切使わずに、子どもでも簡単に組み立てられるように工夫されている。これもコロナへの配慮だ。完成したら三角の穴からのぞくと、輝く立体的な線群が浮かび上がる。
望遠鏡のない天文台 車田里奈さんの発表
車田さんは、インド・ジャイプルにある、18世紀ムガール帝国時代の天文台遺跡、ジャンタル・マンタルを訪れ、非常にクオリティが高い訪問記をYouTubeに公開している。今回車田さんはこの動画を撮影した機材を紹介してくれた。まずは車田さんの作品をご覧いただきたい。:
https://youtu.be/seG5r5Rllms
この撮影に使用した器材は「DJI Pocket2」。スタビライザー一体型の小型カメラだ。以前はスマホ用のスタビライザーを使用していたが重いので手持ちでの撮影は大変で、スタビライザーとスマホの充電を気にしながらの撮影もストレスだった。「DJI Pocket2」は本体がとても軽くてスタビライザーも働くので手ブレを抑えることができ、映像も綺麗で音声も綺麗に拾ってくれるとのこと。
こちらの動画(https://bit.ly/3uoFcak)は全て同機で撮影したもの。飛行機の離陸の時以外はカメラを固定しながら綺麗に撮影ができている。バッテリーは2時間程度だが(撮影時の画質などで変わる)、モバイルバッテリーを繋げながら撮影ができるのでストレスフリーだったそうだ。唯一の欠点は余りにも光が強すぎる場合のみ白飛びしてしまうこと。しかしこれは撮影の仕方や編集でカバーできるという。記憶媒体はmicroSDだが、付属品を使えば本体から直接iPhoneやAndroid端末などにデータを移すこともできる(lightningとUSB-Cに対応)。ワイヤレスマイクを使えば更に綺麗に声を拾いながら録画ができるのも便利。
オンライン授業で配信する実験動画を撮影するのに使えそうなカメラである。車田さんはオプションがセットになったものを購入した。単品で全部買い揃えるよりもセット買いがお得だそうだ。三脚、広角レンズ、ワイヤレスマイクはオンライン授業の録画では必須だろう。とはいうものの少しいいお値段だと感じる向きには、1つ前の世代の中古を買うのをオススメするとのこと。店頭で触って感じた違いは画角の広さくらいだそうだ。
小学3年の理科 水野さんの発表
小学校3年生に「風とゴムの力の働き」という単元がある。その単元の学習目的を学習指導要領は次のように規定している。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 風の力は,物を動かすことができること。また,風の力の大きさを変えると,物が動く様子も変わること。
(イ) ゴムの力は,物を動かすことができること。また,ゴムの力の大きさを変えると,物が動く様子も変わること。
イ 風とゴムの力で物が動く様子について追究する中で,差異点や共通点を基に,風とゴムの力の働きについての問題を見いだし,表現すること。
続けて、「本内容は,『エネルギー』についての基本的な概念等を柱とした内容のうちの『エネルギーの捉え方』に関わるものであり,第5学年『A (2)
振り子の運動』の学習につながるものである」としている。 「力の働き」を教えるとしつつ、「エネルギー」の基本概念に関わるもの、ともしている。
実際の授業では風が強いときと弱いときとで物(ヨットなど)の動く距離に違いがあることに気づかせる。ゴムを短く伸ばしたときと長く伸ばしたときとで、ゴムに結び付けた車などの動く距離に違いがあることに気づかせる。またゴム1本のときと2本のときとで、車が動く距離に違いがあることに気づかせる。
このようなことを実験を体験させて、いったいどんな自然科学の基礎を身につけさせようとするのか。むしろインペタス誤概念を植えつけ、中高で「慣性の法則」を学ぶとき、その障害にならないだろうかと、水野さんは危惧を覚えた。
(参考)教材の例:無料学習プリント「ちびむすドリル」より、風やゴムのはたらき (1)、風やゴムのはたらき (2)
中学校理科授業の体験 門倉さんの発表
門倉さんは大学の「理科指導法Ⅰ」の講義で、毎回の講義を学生が確認できるように、記録動画をYouTubeに限定公開している。今回紹介されたのは、「理科指導法Ⅰ」全15回講義の9回目の講義で、第11回から模擬授業を実施するため、その前に門倉さん自身の中学校の授業を学生に体験してもらったときの動画記録である。授業単元は、中学校1学年の1分野(1)身近な物理現象(ア)音と光 ウ音の性質 の導入を実施しました。理科の指導法として、中学校の探究課程を含んだ、主体的・対話的で深い学びを想定した授業ということを目標に、学生を中学生に見立てて実施した。学生に聞くと、高校時代はほとんど実験をしたことが無い、中学校ではワークシートに沿って実験を行い、結果を教員がまとめているという授業を受けてきた学生が半分以上だったという。課題を考える、実験方法を考える、まとめを生徒で行うという経験は、皆無に等しい。講義で説明しても、どのような授業なのかイメージがつかめない学生が多いため、一つの例を示すことでイメージを作ってもらいたいということで実施した。
動画には授業の意図、課題などをテロップで入れ、講義のポイントが再確認できるようにした。また授業だけを確認できるようにチャプターも入れた。なお、毎回の講義の動画を撮ってあるので、限定公開だが、視聴のご希望があれば連絡いただきたいとのこと。
門倉さんが公開している当日の講義の学習指導案(PDFファイル214KB)はここ。ダンシングスネークのYouTube動画はここ。
二次会 Zoomによるオンライン二次会
例会参加者は対面13名+遠隔18名=計31名だった。慎重を期して二次会は帰宅後の20時からZoomのオンラインで行われ、11名の参加があった。二次会では例会本体で紹介しきれなかった話題が取り上げられたが、中でも上橋さんが毎日放送の「三度の飯よりアレが好き」というテレビ番組の取材を受けた話が注目を集めた。上橋さんは3Dプリンタも駆使した電動おもちゃの作品作りで有名だが、その作品や製作の模様が5人のスタッフにより8時間の密着取材を受けたという。写真は上橋さんがお使いの9台の3Dプリンタ(左)と、自宅の廊下にずらりと展示された作品群(右)。
放送は残念ながら関西エリアだけですでに終了しているが、7/16ごろまでTVerとGYAOで見ることができる。その後YouTubeに掲載される。上橋さんのコーナーは上橋さんは21分40秒あたりから。上橋さんの作品が見られるブログはここ。
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