例会速報 2021/12/12 株式会社ナリカ・Zoom併用ハイブリッド
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初のハイブリッド例会
新型コロナウィルス感染症の関東での流行が一時的にせよかなり下火になったので、12月例会は久しぶりに対面での開催に踏み切った。とはいえ、慎重に感染症対策をし、手指消毒、マスク常時着用、会場内飲食禁止を徹底した。恒例のガレージセールも忘年会もなし。ソーシャルディスタンスを保つため、対面参加は30名定員の事前予約制とした。実際には対面参加は24名で会場が三密になることはなかった。対面参加ができない人のために、初めての試みとして、会場からZoomで遠隔中継を行った。オンラインでの参加は19名。会場を快く提供してくださり、充実した器材でZoomの中継まで担当してくださった株式会社ナリカ様に、心から感謝申し上げます。
上の写真は会場の実験室に設けられた発表コーナー兼スタジオ。発表者から見えるモニターもあり、机上のiPadで資料や手元での実験を見せることができる。左下の写真は、リモコン付きのWebカメラ。パンやズームが遠隔操作でできる。右下の写真はスピーカー&マイクシステム。ハウリングが起きない仕掛けになっている。これで会場の音を拾いZoomに送る一方、Zoom
からの音声はスピーカーにより会場にいる人も聞くことができる。これらの機器の操作はナリカの渡辺さんが担当してくれた。各機器の詳細については、下の渡辺さんのレポートを参照されたい。
授業研究:レーザーとは何なのかをふわっと
理解することを目的とした授業計画 櫻井さんの発表
櫻井さんは、波動分野の授業についてと、開発中の授業プランについて発表した。前半は、今年度の物理基礎で実際に実施した波動分野の導入についての発表である。以下、櫻井さん自身のレポート。
2021年3月の授業研究でも、波動分野の導入の際にまず振動についてふれることについて授業研究発表を行った。その際に発表したのは2020年度バージョンであったが、そこで頂いた指摘を踏まえて改善した2021年度バージョンの発表と情報共有をメインに行った。最も異なる点は、ばね振り子による力学台車の単振動を演示し、その様子をリアルタイムでx−tグラフに描画するところを見せ、グラフから振幅・周期・振動数を求める活動を行うことである。空間を伝播する波動の学習に移る前に振幅・周期・振動数を求める活動をもつことで、振動と波動の分化をきちんと行い、これらの3変数が振動のパラメータであること、さらに波の速さと波長を加えた5つが波のパラメータであることを明確に理解させたいと考えている。
シミュレーションを示したり、PhETのコンテンツを紹介するタイミングも改善した。まず割り箸ウェーブマシン、プラスチックばね、スリンキーを入れたバスケットを渡し、それらを使って遊ぶ時間を作ってから、シミュレーションの提示を行うようにした。その後、波のSnapshotグラフ、媒質の振動を表すHistoryグラフ、波の基本式の学習までバスケットを預けたままにしておき、分からなくなったらそれを使って確かめていいよと伝えるようにした。
実物とシミュレーションや動画、そしてSnapshotグラフ、Historyグラフを見比べながら学習を進められることで、生徒は自分なりに理解するための活動を進めやすかったのではないかと思っている。
後半は、レーザーの発振原理について学習する授業プランについての発表である。以下、櫻井さん自身のレポートで。
この授業プランはまだ現場で実施できる授業案の段階まで作られておらず、現在のところ実施される予定もないが、できたら面白そうだなあと趣味的に考えているものである。
もはやレーザーは私たちの生活に根付いた身近な道具であるが、レーザーの構造や発振の仕組みについて、高等学校物理の学習を生かして説明する授業は無い。しかし、誘導放出を利用して一定の波長かつ位相の揃った光波を生み出す構造は、高校物理における学習の最終到達点とも言える「光の二重性」や「ボーアの原子理論」を工学的に利用した身近な例であり、よい教材になるのではないかと考える。
小学生や中学生が物理を学習するにあたって、力学より電気・波を不得意とする生徒が比較的多くなることはよく知られている。もし「電気や波のふるまいが、生徒の日常に根ざした古典力学的なもののふるまいと大きく異なること」が理解を遠ざける理由であるとするなら、二重性や原子理論などは、その傾向がさらに顕著な例ではなかろうか。
もちろん、波動方程式を持ち出したり、光子計数統計を利用してレーザー光の性質を定量的に評価するところまでいくと「やりすぎ」である。おそらくレーザーの構造や発振原理についてふわっと理解し、それを支える基礎理論を含めた定性的な説明ができる程度が、丁度良い到達目標となるだろう。
レーザー発振について学習するなら、既習事項としてボーアの原子模型とエネルギー準位を理解した上で、さらに発振原理に関わることとして誘導放出と反転分布について学習する必要がある。ボーアの原子模型とエネルギー準位の理解に向け、原子分野で生徒実験授業をしている例は極めて少ないが、筑波大学附属駒場高等学校で実施されている一連の実験(筑波大学附属駒場高等学校「先駆的な科学者・技術者を育成するための理科実験」に実験書や解説の記述がある)や、学芸大附属で実施されている「夏の実験」(YPC2016年7月授業研究を参照)などの実践例がある。これらと同様に、レーザー発振に関する生徒実験を通した学習により、原子分野の統合的な理解と面白さを伝えられる授業が開発できたら、きっと面白い。
また、これらの学習は、量子光学の導入部分を取り出したものとも言える。より深く物理学を究めようとする生徒達の眼前に現れる量子力学の敷居を、少しでも下げる役に立つのなら、有意義な物理授業開発の試みと言えるのではないだろうか。
レーザー光のコヒーレンスについても、取り扱うことになるだろう。誘導放出について学習しておきながら、コヒーレンスについて触れないのでは画竜点睛を欠く。レーザー光をダブルスリットに照射したり、CDや定規の縞模様に反射させて干渉縞を見る実験は一般に実施されているが、レーザー光がコヒーレントであることが、ヤングの実験におけるシングルスリットを省略してよい理由と言ってよいかについては、2017年8月に開催されたAPEJの夏期研究大会にて勝田さんから重要な問題提起が為されている。(詳細は同報告である「物理教育通信」No.170にある。)
実際に、レーザー光源でなくとも線フィラメントを用いて干渉縞を観察することができると伺った。線フィラメントであれば発光部が十分に小さいことから、空間的コヒーレンスが得られているからとも考えられるだろう。
レーザー光の空間的コヒーレンスが十分であることが、シングルスリットを除したヤングの干渉実験により干渉縞が観察される理由であるかどうかは、生徒実験・学生実験の計画や指導内容に大きく影響する。干渉縞の光強度の問題から、高校物理におけるヤングの干渉実験をHe-Neレーザーや半導体レーザーで実施するところは多いだろうし、レーザー光のコヒーレンスを示すために、ヤングの実験(空間的コヒーレンス)とマイケルソン干渉計(時間的コヒーレンス)を基礎実験として採用している理学部・工学部の機械工学科・電子工学科は多いのではなかろうか。
やはりここは実際に実験して、光源の空間的コヒーレンスやスリット幅、スリット間隔を変化させたとき、観察される干渉縞の明瞭さや強度がどの程度になるのか、関係を明らかにできたら、はっきりした事が言えるようになるのかなあと思っている。
当日に発表された資料は、2023年1月6日まで、以下のアドレスからダウンロードできる。
https://www.dropbox.com/t/mzxPLlmBqAjpWqJG
ラジオメータの逆回転喜多さんの発表
学会誌「物理教育」の69巻1号(2021年3月11日発行)を読んでいたら、「ラジオメータの逆回転」と気になる記事が飛び込んできた。筋肉痛の鎮静スプレーをラジオメータのガラス球にかけると羽根車が逆回転するというのである。喜多さんは、先ずは試してみようと、薬局でスプレーを購入、かけてみた。確かに逆回転する。
例会の場ではうまくいかなかったが、喜多さんが学校でビデオ撮りした、2分24秒の動画(movファイル:24.8MB)はここ。
逆回転する理由として、記事では「吸熱しやすい物質(羽の黒い面)は放熱しやすいということ」が記されている。また、wikipediaの「ラジオメーター効果」の「原理」の項に以下の記述がある。「光の吸収の大きい黒く塗った面がより暖められ、羽の両面に温度差が生じ、それぞれ表面に触れ温められ膨張した気体が対流を起こし、その反作用により回転力が発生する。また冷蔵庫に入れた直後や、氷をガラス面に押し当てると羽根車が逆に回転する。」
藤沢市科学少年団のミニブレッドボード電子工作セット山本の発表
2021年2月の緊急事態宣言中に藤沢市科学少年団のオンライン活動で実施し、同月のYPC例会で発表した実験を、対面の機会に実物と共に改めて紹介した。以前YPCでも好評だった「ネオピア電子ブロック」が入手できなかったため、写真左のようなパーツセットを寄せ集めで作り、団員に郵送して「ブレッドボードで挑戦!電気工作ビンゴ」と題して自宅で実験に取り組んでもらった。
テキストは9種類の回路の組み立てからなり、3×3マスのビンゴ形式にして、モチベーションアップをはかった。回路1から順に回路9までしだいに難易度が上がる回路の組み立てに取り組むうちに、電気回路の原理や電子パーツの働きが自然にわかる教程になっている。
テキストのところどころには、団員が自分で工夫してアレンジを加えられる課題も配置した。最後の回路9は左下の写真のようにかなり複雑なものだが、事後のアンケート結果(右下のグラフ)を見ると、ほとんどの団員(小4~中3)がパーフェクトビンゴを達成していて、予想以上の成果だった。「親子で楽しみました」という感想も寄せられて、おしなべて好評だったようだ。
翌月の3月活動では、追加でコンデンサーを配付し、「コンデンサーを使った回路に挑戦!」のテーマで、家庭で追加実験に取り組んでもらった。
【関係のテキスト】
2021年2月活動テキスト・ブレッドボードで挑戦 電気工作ビンゴ (PDFファイル:918KB)はここ。
2021年2月活動電気工作・番外編・高感度導通チェッカーを作ろう(PDFファイル: 185KB)はここ。
2021年3月活動付録・コンデンサーを使った回路に挑戦!(PDFファイル: 443KB)はここ。
ヨーヨー式無重力実験装置Ez-SpaceⅡ秋葉さんの発表
秋葉さんはオンラインで参加し、自ら考案した「ヨーヨー式無重力実験装置Ez-SpaceⅡ」の解説をしてくれた。左の写真は装置全体図(六都科学館で展示した装置)である。原理は落下塔やパラボリックフライトする航空機での実験と同様、地球の重力加速度と同じ加速度での運動をカプセルに行わせ、その内部に無重力状態を作り出す。
実験ではまず手動でハンドルを回し、実験カプセルをつり上げる。右の写真はこの装置の駆動部の組み合わせ滑車の構造である。カプセルの位置エネルギーは最初の落下中にフライホイールの回転のエネルギーに変換され、カプセルが最下部に達するとつり上げの動力として使われる。まさにヨーヨーの原理である。この際、上昇から二度目の落下にかけて、カプセルの加速度が重力加速度に近くなるように滑車の形状が工夫されている。いまは、この滑車を3Dプリンターで作れるようになったので、量産により普及が期待できる。
実際には0.1G程度の低重力環境が実現する。同規模の自由落下型実験に比べ往復で2倍の観察時間が稼げる。また、カプセルはその後何度も上下運動を繰り返すので現象を繰り返し観察できる。
詳しい原理や考察は、日本ロケット協会の機関誌Journal of Space Technology and Science(JSTS)の以下の論文(英文)として公開されている。
A New Low Gravity Device Applying the Yo-Yo Principle, Ez-Space II
Educational Experiments with a Low Gravity Device, Ez-Space II
以下の画像は、秋葉さんのスライドからの抜粋。左がカプセル静止時の1Gのもとでの現象。右が低重力下での現象である。
ライターの炎は少し膨らむ。
毛細管を低重力下に置くと、地上よりずっと高く上がる。低重力下では表面張力の影響が顕著に現れる。
小便小僧のオシッコは1Gのもとでは放物線を描いているが、低重力になったとたん出てこなくなった。
超音波の利用例 神泡サーバー2 越さんの発表
数年前よりサントリープレミアムモルツの景品として「神泡サーバー」が付くようになった。初期の物(写真左)は手動かき混ぜ式で、使用後分解して洗う必要があり、あまり実用的ではなかった。2019年式(写真右)は振動数40000Hzの超音波神泡サーバーで缶の側面に超音波振動子を押しあてるタイプになり、洗浄の必要がなく実用的であった。しかし、リング状の缶ホルダー部が嵩張り収納しにくい形状であった。
2020年式(写真下左)はリング状の缶ホルダー部が無くなり、サーバーを缶に押し付けて持つタイプで、缶と振動子の接触の状態も良くなった。収納も専用の磁石付きホルダーにかけておくことができ、冷蔵庫などの側面に張り付けておくことができるようになった。振動数も41000Hzと高くなり、きめ細かい「神泡」を実現できた。更に2021年式は振動数41500Hzとなり、よりきめ細かい「神泡」を実現できたようだ。このサーバーは他社の市販品に比べても安く、使い勝手も良いので評判も良く、オンラインでの販売も始まっている。
さて、同じ振動数のサーバーの振動子を近づけて2個同時に作動させても可聴域の音は聞こえない。それに対して2019年式と2020年式のように、異なる振動数のサーバーを同時に作動させると、可聴域の音が聞こえてくる。これは「うなり」のようにも考えられるが、はっきりとしたことはその振動数を測定してみる必要がある。また、振動子に水滴を載せると、超音波加湿器と同様にミストが生じる。尚、ネットのレビューでは、神泡サーバー使用中に(人とは可聴域が異なる)犬や猫が嫌がるとのコメントもあった。
越さんは、その他にも超音波を利用したものとして、以下のものを紹介した。
・スピードガン(超音波式と電波(マイクロ波)式がある)
・超音波リニアモーター(教材用)、これは圧電素子を超音波の振動数で振動させ、平面上で移動する。移動する原理はプルプルおもちゃ(HEXBUG など)と似ている。
・超音波加湿器(写真右、ピンク色の円筒状のもの)
・距離計(以前は超音波式のものが多かったが、最近ではレーザー距離計が主流)
・パラメトリックスピーカー
省エネ家電調べ越さんの発表
越さんは冷蔵庫などの省エネ家電調べを冬休みの課題などに出し、冷蔵庫のドアの内側の壁に表示してあるデータ(写真)から、1年間の電気代などを求めさせている。「電動機の定格消費電力」はコンプレッサーの消費電力、「電熱装置の定格消費電力」は霜取ヒーターの消費電力。その他に課題では、冷媒、断熱発泡ガス(断熱材に含まれる気体)、容積、年間の平均「消費電力量」などを確認させている。
2000年代に入り、冷蔵庫などの省エネ化が進んだ。断熱発泡ガスもフロン→代替フロン→ R600a(イソブタン)と変化し断熱効率も上がっている。現在では真空断熱材も用いられるようになってきている。冷媒もアンモニア→フロン→代替フロン→シクロペンタンと変化してきている。また、コンプレッサーも小型化軽量化され、これまで一般的には本体の最下部奥に配置されていたが、最上部奥に配置されたモデルもある(パナソニック製など)。このことより、庫内最上部奥の手が届きにくいデッドスペースを利用し、最下部の野菜庫のスペースを広げることができた。また、冷凍庫を最下部ではなく下から2段目に配置し、上部の冷蔵庫と最下部の野菜庫で挟み、外気温との差の影響を減らすタイプのレイアウトが主流となってきている。大型のものは6ドアのものが多く、上部を観音開きにして片側だけ開き、冷気が逃げるのを抑えている。
その他の家電でも様々な工夫により、省エネ化が進んでいる。このような課題を通して、電力、電力量などに気を付けながら身近な家電製品について学ぶことも、意義があるのではないだろうか。
越さんの課題プリント(PDFファイル:198KB)はこちら。
オンライン工作・実験体験講座の実施報告舩田さんの発表
舩田さんは、今年10/9~10に千葉の「きぼーる」で行われた、「千葉市科学フェスタ2021」に出展し、「リング落とし」や「ラブラブハート」作りなどの工作を担当した。
これとは別に、依頼を受けて12/10にオンラインの工作・実験体験講座の講師をつとめ、コーナーキューブ(写真左)による反射の実験や、回折格子による分光観察などを工作をまじえながら行った。予定していた立方体万華鏡(写真右)の工作は時間の関係で割愛した。
左は立方体万華鏡の内部。右は「リング落とし」の様子。回転して「リングキャッチャー」になったら失敗!
舩田さん自身によるレポート(PDFファイル:269KB)はこちら。
レーザー光線の謎現象海後さんの発表
海後さんはレーザーポインターを夜空に向けて照射すると、途中でプツリと途切れたように見えるのはなぜなのか疑問を持った。レーザー光線は細く収束した強い光で、大気成分に反射散乱したミー散乱の光がチンダル現象として見えている。だから、夜空に向けて照射しても、数十kmはチンダル現象による光線が伸びて見えるはずだが、感覚的に見て長くても3km程度にしか見えないのことを不思議に思っていた。
一般的には、光線が途切れて見える先端が遠近法(透視図法)における無限遠の消失点であると説明されるが、それならば水平に地平線に向けて照射すれば消失点まで光線が伸びているかどうか確認できると考えて実験してみた。
正確に水平出しをして、標高230mの丘の上から太平洋に向けて水平照射した画像では、水平線より手前で光線が途切れているように見える。事実として数kmで光線が途切れているのならば、考えられる原因はミー散乱の図のようにレーザー光源方向に戻る散乱光が少ないために数km先で急激にチンダル現象が消滅しているのではないかと海後さんは推測した。
しかし、例会参加者(櫻井さん)からレーザーポインターの光軸はズレているのが普通なので、本体ではなく光軸の水平を出して実験するべきとの鋭い指摘があり、例会の後日に精度を上げて再実験した結果、水平線上の消失点まで光線が伸びていることと、二本のレーザーポインターを平行に照射した場合に消失点で収束することも確認できた。
その上で、あらためて光線が数kmでプツリと途切れて見える理由を考えてみると、ひとつは光線の明るさが消失点まで変わらないこと、そしてわずかな光線の拡散により消失点まで光線の太さが同じに見えていて遠近感が感じられないことで、それが長い指し棒のように見えてしまう原因だと考えられるとのこと。
残る疑問は、消失点として収束して見える距離はどのくらいか?だが、海後さんはこれも測定方法を考えて実験してみようと考えている。
古~い島津の蛍光管・燐光管長倉さんの発表
長倉さんが勤務する高校は、今は共学だが、その昔は知る人ぞ知る女子名門校だった。その古い歴史を物語るような発表である。
長倉さんが赴任したとき物理室は物置状態だったと言うが、その棚の奥から「お宝」が次々と発掘された。右の写真は活版印刷の版木だろう。これをどうやって教材としていたのかは今となってはわからない。そんな「お宝」のなかで、2021年1月に長倉さんが発見した正体不明の古~い放電管らしきものが、YPCメーリングリストで話題になった。それが昭和11年(1936年)版島津理化学機器目録に載っているのが見つかるあたりがYPCの情報網のすごさである。当該ページ(PDFファイル:212KB)はここ。
MLでのリクエストに応えて、長倉さんが学校から借りてきてくれたのが下の二品だ。上記のカタログによるとそれぞれ現代語訳で
(左)1-1812蛍光管:ガイスラー管の外部に蛍光液体を封入したもの
(右)1-1813燐光管:ガイスラー管の外部に粉状燐光体を封入したもの
と書いてある。
両極に高電圧を加えて中心の細いガイスラー管を放電させると、そこから発する紫外線で周りの蛍光液や燐光体が光るものとみられる。いずれも、当時の価格で5円だったこともわかった。いずれも博物館的価値のある実験教材である。
今回会場を提供していただいたナリカさんから誘導コイルをお借りして、おそるおそる高電圧を加えてみる。蛍光管は内部のらせん型ガラス管部分に電子が走り、その周囲の蛍光液が光るのが確認された。放電をやめると発光は直ちにやむ。蛍光の色や強さはさほどでもなかったが。85年前はもっと鮮やかだったのかもしれない。
燐光管の方は、放電中は普通のガイスラー管のように内部の細い管が光り、放電を止めると、外側の管との間に封入されている粉末が薄青く光る。蛍光に比べて緩和時間が明らかに長いことがわかる。燐光の明るさは85年前はもっと明るかったのかもしれない。
蛍光はその後蛍光灯として世界中の街を照らし、燐光はやがて夜光塗料や蓄光材料として発展していく物性である。現在の照明用白色LEDも励起源こそ異なるが、蛍光体を光らせて照明としている点では、この技術の延長線上にある。ガス灯から白熱電球、そして蛍光灯へと変わる照明革命の黎明期、こんな教材が当時の生徒の好奇心をかき立てていたのであろうか。ちなみにGEが世界ではじめて蛍光灯の市販を開始したのは1937年、GEの技術を導入して東京芝浦電気が国内初の蛍光灯の試作に成功したのは1939年のことであった。これらはその頃の教材というわけだ。
Zoomによるオンラインでの実験講座 渡辺さんの発表
ナリカが行っているナリカサイエンスアカデミー(NSA)は、実験室参加者とオンライン参加者を合わせたハイブリッド形式で開催してきた。渡辺さんはその様子やノウハウを紹介してくれた。
オンラインでは、参加者のコントロールはホスト担当が行い、講師は、自身のPCの講座資料や映像資料を拡張モード(第2画面)にしてプロジェクターで投影している。その第2画面をオンラインで共有することで、ハイブリッド形式を実現している。
渡辺さんは、講座内でいかに実験を見せるかを試行錯誤してきた際に気が付いたこともまとめて報告してくれた。貴重なノウハウだ。実験の音や光関係は、Zoom内の設定を多少いじる必要があるため、実験によって注意が必要だという。
渡辺さん提供の当日の発表資料(PDFファイル:1.4MB)はここ。
Go Directシリーズの紹介中島さんの発表
中島さんは、ナリカの新製品GoDirectシリーズを紹介してくれた。タブレットやPCと直接Bluetoothで接続ができるセンサシリーズだ(写真左)。一人一台端末の時代で、タブレット、PCを有効活用できるようにセンサシリーズのラインナップを拡大した。各種センサがワイヤレスでコンパクトサイズなので、すっきりと実験ができる。オンライン授業や演示実験でもカメラで撮影がしやすいようにセンサを黒板の取り付けられるホルダーも用意されている(写真右)。
GoDirectシリーズのカタログ(PDFファイル:3.2MB)はこちら。
直線が作る双曲面加藤さんの発表
少年写真新聞社の『理科教育ニュース』2020年11月28日号「直線から作られる曲面の塔」で紹介した実験を、編集の加藤さんが実演してくれた。上下をゴムでつないだ円柱の上の面を回すと、ゴムは直線のままだが、側面はくびれた曲面となる。これは、双曲線を軸の周りに回転させるとできる「回転双曲面」と同じ形だ。神戸ポートタワーも、同じく直線の柱で構成された双曲面となっている。
カラー紙面では、撮影用として、ポートタワーに似せた細長い双曲面を掲載したが、付録冊子の実験プリントでは、手軽な材料で作れるアレンジ版を紹介している。コースター2枚、ミシン糸の芯2個、ストロー、輪ゴム12本を使う。外周に15°間隔で5mmの切り込みを入れ、中央に穴を開けたコースターの中心にミシン糸の芯を貼ったものを2個作り、軸にストローを通して片方のコースターに固定する。切り込みに輪ゴムをかけていけば完成。上のコースターを回転させれば回転双曲面ができる。
詳しい作り方は、1月に発売される縮刷版『理科総合大百科2022』に収録されている。同誌は昨年から縮刷版のタイトルを改めてリニューアルし、B5版ソフトカバーとなった。表紙(PDFファイル:4.8MB)はこちら。
超伝導体の焼成市江さんの発表
市江さんは、以前にも山本の論文(神奈川県理科部会報1988年5月)を参考にクラブの生徒とともにイットリウム系超伝導体の焼成を行い、何とか浮遊させることはできていた。これまでは超伝導体上で、外径1cm弱のリング状ネオジム磁石が数mm浮く程度で満足していたが、今回驚くほどうまく浮遊させることができたので、経過報告をした。
詳しい超伝導体のつくり方は、YPC2005年12月例会(12/10 中村理科工業) 超伝導体作りのコツ(山本)を参照してほしい。市江さんたちは炉内の温度をプログラム制御できるISUZUのマッフル炉(写真左)を用いて、直径3㎝厚さ5mm程の超伝導体を焼成した(写真右)。炉内の温度は2時間かけて555℃まで上げ、その後4時間温度を維持したあと、4時間かけて865℃まで上げ、その後22時間温度を維持してから2時間かけて450℃まで下げ、その後室温まで放置した。
できた超伝導体を液体窒素で冷やして、外径1cm弱のリング状ネオジム磁石をのせると、優に1cm以上は浮いてしまい、直径3㎝の超伝導体では水平に保つことができないほどだった(写真左)。また、これまであきらめていた超伝導体そのものも5mm程度浮遊させることにも成功した(写真右)。先述のコツにもあるように温度条件は使用する炉により異なり、経験的に定めなければならないため、細かな温度管理がどこまでの効用を持つかは定かではないが、今後、同じ炉で比較検討し、再現性が確認できれば再度報告したいと思う。
解きたくなる数学/未知の星を求めて市原さんの書籍紹介
<解きたくなる数学>
ETVの人気番組「ピタゴラスイッチ」の制作メンバーが作った、ちょっと面白い数学問題集。写真やグラフィックが多用され、「見せる」ことを意識した問題が多い。9月に発売されたが、amazonで在庫切れのためカートが一時落ちたほど。 市原さんはそのおかげでこの本を知った・・・
小学校高学年から大人まで楽しめる本だとのこと。
<未知の星を求めて>
彗星を6個・小惑星223個を発見している、アマチュアコメットハンターの関勉さんが半世紀前に出した本が、復刻した。当時関さんにあこがれて天文に興味をもった人も多かった。アマチュア天文家の草分けである。
高知新聞の記事;https://www.kochinews.co.jp/article/detail/526166
専門書ではないので読みやすく、冒険譚のようで、中高生なら十分楽しめる。今ここから 購入すると、新彗星発見当時の新聞記事が付いてくる。学校図書などで、中高生の目に触れてほしい一冊だと思う。
二次会Zoomによるオンライン二次会
例会本体には対面24名、オンライン19名、計43名が参加、二次会には10名の参加があった。コロナ以前は、ナリカでの12月例会の後は、御徒町駅周辺で盛大に忘年会をやっていた。昨年は緊急事態宣言下で例会自体をオンラインで実施し、忘年会は中止した。今年は久しぶりの対面をまじえて、初のハイブリッド例会としたが、人数制限、飲食なしと決めたので、慎重を期して忘年会は見送った。例会解散後は各自速やかに帰宅し、21時からオンライン二次会を開催した。
上橋さんが二次会の常連になってこのかた、二次会の内容が充実している。今回の上橋さんの作品披露は、NHKEテレ「ピタゴラスイッチ」をヒントに製作した回転双曲面の実験装置。例会本体の加藤さんの発表の関連実験だ。下左の図は、まさに神戸ポートタワーをイメージしたという「ホールセンサーモーター」という作品。金沢駅前に「鼓門」という似た形のシンボルモニュメントがあることも話題になった。
例会での越さんの発表に関連して、神泡サーバーのうなりの周波数を、聴覚をたよりに測定する試みも行われた。鈴木さんの聴覚をたよりに、うなりの回数を推定すると意外にも3600回/秒を超えることが判明。聞こえているのは単なるうなりではなさそうだという結論になった。
超音波発信器の話題に関連して、再び上橋さんから作品の紹介があり、超音波による空中浮遊の実験映像が喝采を浴びた。動画は「超音波ウキウキマシン」を参照してほしい。上橋さんのブログ「智恵の楽しい実験」で他の作品も見ることができる。
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