例会速報 2021/11/21 Zoomによるオンラインミーティング


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授業研究:指数関数的減衰に関する生徒実験と授業 櫻井さんの発表
 櫻井さんは、白湯の冷却実験と、それを利用した指数関数的変化に関する授業について発表した。以下、櫻井さん自身のレポートで解説する。

 高校物理の教科書では、比例や1次関数、2次関数、三角関数的な物理量の関係については、複雑な数学的操作を巧みに避けながら、理論的または現象論的に明らかにしようとしている。一方で、指数関数的な成長・減衰をする現象や物理量も、日常や自然現象の中ではポピュラーであるにも関わらず、教科書では途端に歯切れが悪くなり、大した説明もつけずにグラフを掲載する程度のことしかしていない。IB DiplomaやSixth formのA2ではきちんと学習するにも関わらず、である。
 現在の高校物理において辛うじてそれに触れるのは、放射性元素の半減期について学ぶときである。しかしこの単元では、放射性崩壊の半減期という狭い場合についてしか説明されず、示される指数関数的減衰のグラフが放射性崩壊における特別なふるまいであるという誤概念を残すであろうこと、時間連続的に起きているはずの放射性崩壊について、一定間隔の離散的なタイミングにおける親核種の残量についてしか議論していないことが課題である。高校物理に登場するものの中で指数関数的な時間変化が見られる現象は、終端速度に至る速度変化、熱平衡に至る温度変化、電圧源によるコンデンサの充電、放射性元素の親核種残量などが挙げられる。櫻井は、その中でも日常生活で馴染みがあり、物理基礎でも最初に触れる機会があるであろう温度変化について、30秒ごとの温度測定により白湯の冷却曲線を書く生徒実験を実施し、考察・解説を通じて指数関数的変化について指導する授業を実践した。
 学習の目標を「指数関数的変化をもたらす関数が思いのほか単純であり、そのような構造が自然の中ではありふれていることを理解すること、今後の学習や日常生活から、指数関数的変化するものを見抜いて考察できるようになること」としたが、実験後に閲覧するオンラインの授業資料や動画を作っているうちに、その目標を数時間の授業で満足するためには、もっともっと授業の工夫や改善、そして指導する私自身の学びが必要そうであることを痛感した。
 

 生徒の数学に関する学習の進度・到達度に合わせてどのように指導内容を組み立てるか、どこまで考察させ、どこまで教えるかを考えなければならないことも、悩ましいところである。高温物体の温度低下の勢いが温度差に比例する関係から、温度差が指数関数的に減衰することを数学的に全く明らかにするためには、指数関数、微分法、積分法、置換積分法、自然対数の底、微分方程式に関する学習を経ていなくてはならないが、それは数Ⅲや大学の基礎数学を含むものであるため、なかなか難しい。
 それでもなんとか、そのように現象を捉えられることの重要性や面白さを伝えたいと思っている……と報告したところ、指数関数的変化に関する指導のやり方について、大変議論が盛り上がった。
 新聞紙を折ることのできる回数が思っているより少ないことや、感覚に関する単位の多くがログスケールである(等星、デシベル、マグニチュード)ことが興味深い例として役立つであろうこと、指数関数的変化を体感させるための実験として熱を取り上げるのは、見えないことからくるイメージしにくさや、蒸発熱などの誤差要因が顕著に現れるため適切ではないということ、片対数グラフという、指数関数的変化を示すための専用のグラフ用紙があることを伝えるとよいことなどのご意見を頂いた。
 

 指数関数的変化をする事例についても、水が流出する柱状容器の水面高さや、媒質の吸光度による光の透過割合(ランベルト・ベールの法則)、放射線量に対する距離と遮蔽の影響など、新しいアイディアがたくさん提案され、とても盛り上がった。これまでも授業研究の場で、今の教科書やカリキュラムを基準として、ドラスティックな変更を含む授業案や実践について議論させて頂くことが度々あったが、その度に踏み込んだディスカッションやアドバイスをして頂けるYPCの研究授業は、本当にありがたい。
 今回の授業研究を経て、櫻井は教材や実験書の改善に取りかかっている。また、「できることなら数学と連携した授業展開をやってみたい。数学で学び、すぐに物理で生徒実験をして学んだことを利用する形であれば、効率的に定着させられるのではないか。教科を越えた連携というのは難しいものだが、数学・物理の両方の学習面においてもメリットがあるならば、道はあるのではないか」とも言っている。
 

電力の説明 西尾さんの発表
 ネットや教科書にある電力の説明は、仕事を使ったものと使わないものがある。前者は理化学辞典の「電流による単位時間当たりの仕事」に代表されるもので、数研出版の教科書に採用され、主流のようである。しかし、「電流による仕事」が具体的にどのようなものかは説明されず、力学における仕事の定義との関連は不明確である。
 

 一方、仕事を使わない説明はエネルギーを用いるが、ある事典では「毎秒当たりの電気エネルギー」という意味が不明瞭なものであった。教科書では啓林館に採用されているが、それは電源が供給するエネルギーと負荷が変換するエネルギーを「電力」と「消費電力」という用語を区別して扱っており、やはり疑問が残る。
 

 西尾さんの授業では、電力を「電源や導体(抵抗)や電気器具などで単位時間あたりに変換される電気エネルギーの量」と説明している。電力は仕事率ではなく、「単位時間あたりのエネルギー変換量」として扱い、電源でも負荷でも使える概念にした方がよいと思う。
 

 オンライン例会の最中に、MicrosoftのFormsでとったアンケートでは、参加者の教え方も二つに割れた。使用教科書にならうせいかもしれない。およそ半数の人が、「説明しにくく感じたり、疑問を持つ」と解答している。

キャンドゥの吹き矢 鈴木さんの発表
 力学の運動量の分野の導入に、吹き矢の実験を行っている人は多いと思う。またはエネルギーで扱う人もいるだろう。吹き矢に力を加える時間や距離により、吹き矢の飛び出す速度が変わるが、吹き矢の長さを変えて予想させてから実験する、というものである。
 鈴木さんは、かなり以前からキャンドゥの吹き矢セットを購入して利用していた。ただ、吹き矢の長さは、25cm程度だった。それを2つか3つ連結して長いものを作っていた。それが、最近50cmのものが店頭に並んでいる(写真左、中)。これと、これを半分に切ったものとで比較すると飛び出す速さが目に見えて変わるので、演示効果が大きい。なお、吹き矢の先端に吸盤がついていて、壁に向かって発射すると、かなりの速度で飛び出しピタッと壁に張り付いて気持ちがよい。
 例会では、天野さんからダイソーの類似品(写真右:継ぎ足し式:現在も販売されているかどうかは不明)が紹介されたが、吹き矢の飛ぶ物体の形状はキャンドゥのものの方がよいようだ。こういうものはすぐに店頭から消えることが多いので、見かけたらゲットしておいたほうがよい。
 

空き缶ロケット 小沢さんの発表
 小沢さんは運動量の授業の冒頭に見せる「空き缶ロケット」を紹介してくれた。
 キャップ式のジュースのアルミ缶の、キャップの中心に直径5mmの穴を開けておく。L字アングル2本で作った長さ1mの水平レールの上に、缶を置く。缶は事前にお湯につけて温めておくとよい。キャップをはずしてスプレーでエタノール(小型のアトマイザで20回ぐらい)を吹き込み、再びキャップをして、あなに火の付いたマッチを入れる。すると、中のエタノールが燃焼し、缶は勢いよく水平に飛んでいく。
 この実験、2003年9月例会で紹介したころはペットボトルを用いていた。しかし、それでは危険であるという指摘を受け、材料や大きさを変えた。それでも、飛ぶ方向には十分注意する必要がある。また、マッチを持った手に向かって燃焼ガスがミニ火炎放射器となって噴射するので、軍手の着用が必須で、真後ろからのぞきこまないように注意する必要がある。
 

 授業では、ロケットが飛ぶしくみについて考えさせる。「まわりの空気を押してその反動で飛ぶ」と考える生徒もいる。「だとすると、空気のない宇宙でロケットは加速できない?」と問い、運動量保存の考え方に導く。
 小沢さんの発表に関連して、喜多さんからは火を使わない空気圧式ミニペットボトルロケットでの同様の実験の紹介もあった(右図)。
 

デッサン人形でバンジージャンプ 喜多さんの発表
 喜多さんは教卓上でバンジージャンプの演示する台を作成し、力学的エネルギーの保存について学習した最後の方で見せた。
 左図は教卓の上に設置された台。長さ2mの3cm×4cm角の木を固定した。教卓と天井との間の距離がちょうど2mなので、厚さ2~5mm程度の薄い板を使うと簡単に固定できる。右図はジャンプ台に乗っているデッサン人形(体重135g、身長30cm、重心の位置が足の裏から16cm)である。
 使用したばねは島津の4本組のばねセットの中にあるもので、ばね定数は5.0N/mである。このばね定数で計算すると頭の部分が激突することになるのだが、実際はこつん程度。なぜ合わないのか、よくよく映像をみて、その理由が分かった。
 240fpsで撮った映像(movファイル:15MB)をみて各自考えよう。
 

「る・く・る」のミュージアムショップ THE STUDY ROOM 市原さん・神谷さんの紹介
 静岡の科学館「る・く・る」から市原さんがスマホでZoom例会に参加していると、静岡県出身の神谷さんが「THE STUDY ROOM の品物もよろしくね」とチャットでメッセージをくれた。「THE STUDY ROOM」は実験観察キットや化石・鉱物標本などのサイエンスグッズを扱うミュージアムショップで、かつては上野や下北沢にも店舗があったが、いまは仙台・静岡が大きな店舗のようである。
 「る・く・る」のページはこちら( https://www.rukuru.jp/using/shop.html
 市原さんは閉館間際の科学館から少しだけ中継をしてくれたが(写真)、やはり実物を手に取れるとわくわくする。はやくコロナが落ち着いて、自由にあちこち行けるようになる日が待ち遠しい
 

気象カレンダー2022 山本の紹介
 YPCでは毎年「世界気象カレンダー」(情報印刷株式会社)を共同購入してきた。月ごとに興味深い図や写真を掲げ、気象学者や気象予報士が解説をしている。とても勉強になるカレンダーで毎年好評である。昨年はコロナで例会が中止になたため手渡しできず、共同購入を見送ったが、今年は12月例会が対面で復活できそうなので共同購入を再開した。
 

二次会Zoomによるオンライン二次会
 例会本体には25名、二次会には12名の参加があった。二次会ではドリンク持参で気軽な話題が飛び交うが、今回も主役は上橋さんだった。兵庫県小野市主催の小学生対象「体験型教育講演会」の講師をつとめた上橋さんの話は、「二次会の話にしちゃあ、もったいない」「こういうのは例会の方ででやらなきゃ」と皆に言われるほど充実した内容。番外編ではあるが、上橋さん自身からコメントをいただいたので、以下に写真と共に掲載する。
 

 酔っぱらった勢いで、あまりにも嬉しそうに報告!私にとって、今まで生きてきた中で、最大のイベントを経験してきました。
 兵庫県小野市では毎年、市内の小学5年生全員が「うるおい交流館エクラ」に集合し、体験しながら楽しく科学を学ぶ「体験型教育講演会」が行われています。メインブースは川島隆太東北大学教授、そして中村克樹京都大学教授なのですが、なんとまぁ、私もこのお2人と肩を並べて(添付の垂れ幕だけ)、夢のような舞台に立たせて頂きました。(左上の写真はあまりの嬉しさに親族・友人・他 数十名にみせびらかしました(笑))
 私のブースは1回あたり約120名×4回。各回50分で、まず単極モーターに挑戦した後、グループに分かれて約70種類150点の工作品を見て頂きました。
展示品一覧はこちらをご覧ください→https://www.eneene.com/x/20211102.pdf
会場の様子・展示作品の動きはこちらをご覧ください→https://www.youtube.com/watch?v=gVPBbrJdvTk

 こんなにたくさんの方々に工作品を見て頂くのは初めてのことで、工作品が最後まで耐えられるかどうか?心配でしたが、ほとんどが最後まで頑張ってくれてホッとしました。生徒さん達には、工作品で遊びながら、科学に興味を持って頂けたら嬉しいですね。
 ただ、見学時にはかなり「密」の状態になってしまい、反省をしています。
 


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