例会速報 2021/10/17 Zoomによるオンラインミーティング
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授業研究:惑星の運動 小沢さんの発表
小沢さんは、6月例会の授業研究「等速円運動」の続きとして「惑星の運動」の報告をしてくれた。教科書の順序だと「等速円運動→単振動→惑星の運動」だが、小沢さんは「惑星の運動」は「等速円運動」の具体的な教材であるという考えから、単振動よりも前に扱っている。
最初の発問は「春分から秋分までと、秋分から春分までとでは、日数に違いがあるか」というもの。意外なことに、数えてみると1週間程度の違いがある。このことから、地球は太陽を中心とする等速円運動をしているわけではないことを認識させ、「じゃあ、どうなっているんだろう」と疑問をもたせてから、ケプラーの法則の学習に入る。 講談社ブルーバックス『太陽系シミュレーター』付属のPCソフトで、地球から見た惑星が複雑な運動をするのを見せる。これを望遠鏡もない時代に詳細に観測したティコ・ブラーエの偉業を紹介し、ケプラーとの奇跡的なリレーでケプラーの法則が見いだされたことを説明する。合わせて、小沢さんがチェコのプラハを旅行したときに、偶然出くわしたティコとケプラーが並んだ銅像の写真(右)も見せる。
ケプラーの法則がなぜ成り立つのかについては、この時点では誰もわからないこと、つまり、これは観測事実から帰納的に見いだした経験法則であることを強調する。あとからニュートンによって明らかにされた万有引力の法則についての授業では、月が地球のまわりを等速円運動している(公転半径は地球の半径の約60倍)としたときの向心加速度を、すでに知られているデータから計算させ、それが地球上での重力加速度の1/60^2になっていることを確かめさせた。これは、コロナ社『プロジェクト物理(2)天体の運動』p136 ~、岩波書店『PSSC物理第2版(下)』p337~を参考にしたという。
最後に、静止衛星の高度を計算する演習である。まず、気象衛星「ひまわり」の観測画像を見せる。テレビの天気予報と同様な、日本付近の画像である(左図)。それを見せた後、地球儀を示し、「ひまわり」はどのへんにあると思う?と問う。
<課題>気象衛星ひまわりは、どのあたりに位置するだろうか。地球の図を描いてから、位置を推測して・で示しなさい。
日本の上空と考える生徒が一定数いる。「高度については計算しないとわからないけれど、日本上空なのか赤道上空なのかは判断できるはずだよ」と生徒に考えさせる。向心力の役目をする万有引力は、地球の中心向きだから、日本上空の静止衛星は絶対に存在できないことに気付かせる。これは視覚情報によって簡単に判断を誤ってしまうことの一例でもある。最初に「ひまわり」の画像を見たために、日本上空と思ってしまっても、科学的に論理的に「自分を疑って欲しい」という思いも込めた授業である。
気象庁のWebサイトに掲載されている想像図(右図)も、衛星が日本の上空に位置し、高度も実際より低く見える。(実際は赤道上空、公転軌道の半径は地球の半径の約6.6倍)
物理を学んだからこそ「変だな」と気付けることを、生徒に実感して欲しいと小沢さんは思っている。
定常波と v=fλ 西尾さんの発表
教科書では、弦の振動や気柱の振動で固有振動数を導出するのに、何の説明もなく v=fλ の公式を使う。しかし、この公式は進行波について考察して導いたものであるし、そもそも定常波においては波の速さvなど存在しない。進まない波が定常波なのだから。まず干渉によって定常波をつくる逆向きの進行波の振動数が定常波と同じであることを示し、それから進行波の公式
v=fλ を使って振動数 f を求めるという段階を追った論理が、教科書では省略されている。
おそらく、この論理は自明であるとされているのだろう。しかし、同じく干渉で得られる合成波のうなりの振動数は、元の波の振動数の差で、それは差音として「高 さ」の感覚も生む。授業では、定常波の振動数が元の進行波の振動数と等しいことは安易に自明とせず、定常波の作図やシミュレーションで確認したい。掲載されている作図を参照して一言書けばよいので、教科書にもきちんと記述すべきではないだろうか。
例会参加者のうち、高校物理を担当している14名のアンケート結果。定常波の振動数がv=fλで求められることについて、その論理を説明している人は半数に満たなかった。
久しぶりにドライアイスの液化実験をしました 喜多さんの発表
喜多さんは、ナリカの「物質の三態実験セット」で、久々に二酸化炭素の液化実験をした。
ホースの外径20mm、肉厚2mmなので、内径は16mmである(写真左)。一方のクランプはしっかりと締めておく、もう一方はじょうごが入る程度に開けておく。約10gのドライアイスを測り、木槌で粉々にし、じょうごから中に入れる(写真右)。その後、クランプのねじを交互に締めていく。一方を締めてから他方を締めるとクランプの金属板が平行にならず、密閉することが難しくなる。蝶ねじになっているので、腕力がある人は十分締めることができるが、ない人はペンチでの締めが必要である。
ドライアイスの昇華に伴い、内圧が次第に高まってホースはパンパンになる。ホースを絶えず左右交互に傾けて、一部分だけ冷やさないようにドライアイスの粉を動かし続ける。内部の圧力が5気圧を超えると、ドライアイスは液体になり流動するようすが観察できる(写真左)。液化を観察したら、直ちにネジを緩めて圧を抜く。内部の液体が一瞬でドライアイスの粉に戻るのが観察できる。実験の動画(movファイル35MB)はここ。
このセットの場合、ドライアイスの量はおおよそ10gくらいが妥当だという。喜多さんは、試行の段階で入れすぎてホースを破断させてしまったそうだ(写真右)。
物品紹介・スマホ用偏光レンズ 車田さんの紹介
車田さんが紹介してくれたのは、スマホに付ける偏光板。キャンドゥやセリアで販売されている。スマホに洗濯ばさみのように挟んでとりつけるタイプだ。偏光板の部分は指で回転することができる。PCの液晶ディスプレイにも偏光板が使われているので、ディスプレイを背景に偏光レンズを回転させると真っ黒になる角度がある。このときディスプレイとスマホの間に、たとえば玉子用パックや透明板にセロハンテープを貼り付けたものなどを差し入れると黄・青など色が見える。光弾性の実験にも使えそうだ。
博物館などでガラス越しの撮影や水中の魚などを撮影する際にも有効かもしれない。というより、それが本来の用途かな。
毛の構造と機能 永田さんの発表
永田さんは自宅にSEM(走査型電子顕微鏡)を所有している。今回はいろいろな毛の構造とその性質をSEMで調べた。人の毛、水彩画などに使う狸の毛、化粧で輪郭を描くコリンスキー(イタチ)の毛、パウダーブラシの毛(灰リス)の表面と断面を調べた。
いずれの毛の表面にも、キューティクル組織が見えた。キューティクルのステップは、コリンスキーの毛が最も細密であった。これは水分を含みやすいことを示す。また断面構造は、狸、コリンスキー、灰リスの内部に穴が開いていた。その肉厚は狸、コリンスキー、灰リスの順に薄くなっていた。肉厚が薄いほど、毛がしなりやすいと考える。コリンスキーの筆はしなりやすいが腰も強く、また水分を含みやすく輪郭をシャープに描くのに適し、水彩画や眉毛や口紅を描くのに適している。灰リスはよりしなりやすく、頬紅などをまぶすのに適していることが分かった。
硬貨の測定実験+データの統計処理 櫻井さんの発表
櫻井さんは、2年物理基礎の授業内で実施した、ノギスとマイクロメーターを使った10円玉の測定実験について発表した。10円玉を用意して、ノギスで直径を、マイクロメーターで厚さを測定する実験は、高校や大学の測定基礎としてよく実施される生徒実験であるが、今年度はGoogleスプレッドシートを利用して、全員に1つのファイルに入力させて、測定データを収集してみた。
生徒の測定値をチェックする目的もあるが、全員の測定値をまるごと統計処理できるのは、とても面白い。このデータから、基本統計量を見せたり、標準偏差を示してその意味を説明したり、95%信頼区間について簡単に説明をしている。10円玉の厚さをマイクロメーターで測定する実験では、10円玉の中央と縁を測定した生徒でデータが分かれ、二峰性を示した。二峰性を示すデータは、異なる真値を測定したデータが混在している可能性があることについても、授業で触れることができた。
生徒に統計処理をさせる上でExcelは使いづらいところがあるが、Rstudio Cloudを利用することで、ブラウザベースでRの統合開発環境を利用できることに、櫻井さんは最近気がついた。ソフトウェアのインストールが全く出来ない、学校管理のChromebookでRを扱えるのは、新しい授業や実験への突破口になるかもしれないと思っている。
新学習指導要領の数学Bでは統計分野がさらに拡張され、仮説検定も範囲に含まれることになった。実験の測定値も「測定における偶然誤差の確率密度は正規分布に従う」と仮定するなら「ある系統誤差のない測定を無限回測定すると、平均値が真値に際限なく近づく」ことになる。正しいデータの取り扱いに必要な知識を数学で学ぶというのなら、それを物理実験で応用するのは望ましいことのはずだ。
今や、SSHの研究や物理チャレンジのレポートを見ると、よくやっている生徒は当たり前のように統計処理をしている。さらに教材を工夫してより扱いやすくし、誰でもそういった能力が身につくような生徒実験・レポート指導につなげたい。
中1夏期課題 理科Ⅰベストショット 尾形さんの発表
尾形さんは、同僚の先生の発案で、中1の夏休みの宿題として、「私の理科Ⅰベストショット」と題して、理科Ⅰに関連する写真をひとり1枚提出させ、各クラスの廊下に作品を掲示した。
生徒達はそれぞれ工夫して、科学的あるいは芸術的な興味深い写真を撮ってきた。自分より写真のセンスがいいなと感心したという。虹や夕焼け、炎色反応など光に関する作品が多く、1学期に光の学習をした影響が現れていた。提出させたのは写真だけで、特に説明は求めなかった。
学校説明会の実験室紹介 市原さんの発表
例会当日、市原さんは小学生向けの学校説明会のため日曜出勤で職場にいた。説明会終了後の実験室からの参加である。こういうことが可能なのもZoomならではだ。
さて、市原さんは、学校説明会の来校者向けに授業で使う小道具などを物理実験室に展示した。ほとんどはYPCで紹介があったものだ。本当はハンズオン型の展示(エクスプロラトリアム風)にしたかったが、コロナ対策で実際に触らせる体験型は控えめになっている。とはいえ、もの珍しい展示に、参加した小学生は楽しんでくれたようだった。
写真は、YPCではおなじみのワインスタンド(左)や、2016年6月例会で紹介のあった、コーラのビンを水槽に入れたもの(右)など。
二次会Zoomによるオンライン二次会
例会本体には29名、二次会には14名の参加があった。ドリンク持参のフリートークは、教員免許更新講習の話題から始まり、NHKforSchoolの「気体の種類で重さは?」の実験の教材としての妥当性の吟味、YPC例会のハイブリッド(対面+遠隔)の可能性など、いろいろな話題が飛び交った。中でも、上橋さんの新作ハロウィーンネタ、「ガイコツのチューチュートレイン」が大ウケ!詳しい制作過程は、上橋さんの「智恵の楽しい実験」のサイトを参照のこと。越さんの学校にTBSの「ニンゲン観察モニタリング」の抜き打ちロケが来た話も盛り上がった。
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