例会速報 2020/12/13 Zoomによるオンラインミーティング


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授業研究:運動とエネルギー長倉さんの発表
 長倉さんは、2019年10月例会でも運動とエネルギーの実践報告をした。そのときは、「重力がする仕事」や「系の捉え方」についての議論が交わされた。 この関連では、2019年12月に勝田さんが実際に系に注目した展開の発表をしている。長倉さんは勝田さんの実践も参考にして、系に注目して、「位置エネルギー」を捉えさせるように意識した。
 単元のはじめは、運動エネルギーと仕事の関係を、グラフを使いながら丁寧に説明をした。「系」という単語を多用することは避けたが、内部と外部という言葉を強調した。


 武捨さんが以前紹介した実験をおこない、分析をする中で、「外部のばねが物体にする仕事」と考えるか、「ばねと物体をセット」で考えるかをアニメーションを用いて説明した。その後、重力についても同様に「重力場もセット」で考えようと、展開した。
台車のみに注目した場合のアニメーション
台車とばねをセットで「系」と考える場合のアニメーション
(※アニメーションの変位の表示が間違っているのは、ご容赦ください。)


 授業を終えて、グラフを使うことで、問題演習という意味では、生徒の理解は昨年に比べ格段に向上した。しかし、定期試験で出題した、下の図のような斜面から飛び出す物体のエネルギーに注目する問題は、なかなか正しい理解できない生徒が多い。「斜面から飛び出すと重力が仕事をするから...」、「斜面がなくなると力学的エネルギーは保存しなくなるから」という意見がなくならない。
 例会では、参加者から「仕事」の指導についてアドバイスがあった。「運動の向きと垂直な力は仕事をしないことを初めに教えたほうが良いのではないか」「負の仕事について、生徒はどのように理解をしているのだろうか」など。重力による位置エネルギーについても少し話題に上がったが、時間切れとなってしまった。


 以下は例会後の長倉さん自身からのコメント:
 YPCで1年前にもらったアドバイスを生かして、昨年よりもいい実践ができたと思う。同じ単元で2年連続で発表をして、新しい発見もあった。目新しい実践ではないかもしれないが、今後も授業研究をして、授業をブラッシュアップしていきたい。

水の中に水の円環(ドーナツ)を作る 夏目さんの発表
 夏目さんは前回(11月例会)、水をはった容器の上面にサラダ油の層を作り、そこへ赤く着色した水を垂らす実験を紹介した。左の写真が実験の様子である。着色は食用色素が良い。スポイトは化粧品詰め替え用注射器型スポイトとして百円ショップで売っているものが便利である。油の層(密度が水の0.9)が厚い(1cm)場合、表面張力によって水が球状になって油層に留まる現象が起きた。  
 そこで今回、夏目さんは、サラダ油の層を薄くして静的限界点を探る実験をしたところ、種々の特異的な挙動が観察された。右の写真のようにサラダ油の層が3mm程度であっても境界における表面張力の作用で数分間は留まっていることがわかった。


 この球は、結局は密度の大きな水の層に落ちていくが、下左の写真のように、ドーナツ状(トーラス)の円環になることを見つけた。水の中にある水の円環である。赤色色素による密度の増加は0.001以下であるのでほぼ同密度であるが円環はくっきりとしており明らかに「落下」していることに驚く。右図は円環が形成される過程を推測したモデルである。油層を通過した影響に関しては今後の課題である。さらに、この円環は壊れる際に数個の塊に分解することも、鮮やかで美しい現象だと、夏目さんは指摘する。これらは身近で簡単な実験例であるが、物理と化学が融合したテーマでもあり、自然界の奥の深さを感じさせる。

ビースピ測定のための力学台車用パーツ 武捨さんの発表
 力学台車の速度をビースピで測定する方法について、YPCメーリングリストで話題になっていた。武捨さんは、メーリングリストで紹介のあった実践例を参考に、力学台車に取り付けるパーツを試作した。発表資料(PDFファイル13.2MB)はここ



 これまでは鉛筆や割り箸を輪ゴムで取り付けていたが、付け外しに手間がかかる点や、ビースピの高さを調整しなければならない点で、不満があった。今回作ったものは、ネオジム磁石を工作用紙で包んだもの、スチール製のクリップに紙片を挟んだもの、ストローにネオジム磁石を接着剤でつけたもの、木の棒材に穴を開けてネオジム磁石を接着剤でつけたもの、3Dプリンタで出力したパーツにネオジム磁石を接着剤でつけたものである。



 取り扱い、作製の手間、耐久性など考えると、プラスチックストローがおすすめ。ただし、色がついていても赤外線が透過すると測定ができない。ビースピは、二つのフォトセンサに入る赤外線を物体がさえぎるのを検知しているからだ。そのときは、コピー用紙のような薄い紙を丸めて中に入れればよい。ネオジム磁石は100円ショップで各種安価に入手できるが、ピンタイプの中に埋め込まれているものが小さい(およそ直径6mm)ので、ペンチなどで取り外すと、細めのストローの内側にちょうど収まる。



分割すすぎ問題 高橋信夫さんの発表
 飲み終わった牛乳パックを洗うとき、水1000 mlを一度に使うのと500 mlずつ2回に分けて洗うのとどちらがきれいになるか? 100mlずつだとどうか? 「元の分子が一つもなくなるくらいになるまでにはどのくらいかかるか?」という質問があった。理論上は100 mlで10回すすぐと元の濃度の10^-20くらいに薄まるはずである。多くの人が家事で実践していることを、高橋さんは実際に実験で確認した。
 結果はこちらのスライド(pptxファイル342MB)で。

太陽の石 寺田さんの発表
 寺田さんは、偏光に関する一連の教材研究で開発してきた、太陽の位置を探る教具2種類を紹介してくれた。
 以前発表した「ミツバチ偏光板」をこどもサイエンス教室で作る計画であったが、直前になって、より工作の簡単な「太陽の石もどき」をネットで知りこちらを工作した。板倉聖宣さんの本「偏光板であそぼう」(写真左)では、右の写真のように偏光板4枚で「ミツバチ偏光板」を作る。



 一方、ネット上でみつけたNIMSの提案による方法では、写真のように偏光板2枚で「太陽の石もどき」が自作できた。部品が半分ですむので、こどもたちの工作時間を短縮できた。



 空に向けて二枚の偏光板の明るさが同じになる角度を見つけると、合わせ目の対角線上に太陽がある。

■太陽の石もどきの作り方 https://www.nims.go.jp/publicity/digital/movie/mov2003300.html

■太陽の石もどき https://youtu.be/_mOdDj0Knyg

■2種類の比較 https://youtu.be/gFyDH011JD0

HAYABUSA2 REBORN 越さんの発表
 2020年「はやぶさ2」の地球帰還を前に、劇場版「HAYABUSA2~REBORN」が公開された。プラネタリウム用に製作された「HAYABUSA2~REBORN」と「HAYABUSA - BACK TO THE EARTH -」とを組み合わせ再編集したもので、「はやぶさ」「はやぶさ2」のミッションが篠田三郎氏の抒情的なナレーションで紹介されている。「はやぶさ」のミッションはトラブル続きでドラマチックであったが、「はやぶさ2」も新たな挑戦があり、臨場感のある映像は見応えがある。12月末までユナイテッド・シネマ アクアシティお台場で上映中。

 詳しくはこちら→http://www.live-net.co.jp/hayabusa2reborn_g/index.htm

ヘルツの実験/テスラコイル 森谷さんの発表
 森谷さんは、マクスウェルにより予言された電磁波の存在を実験的に示した1888年のヘルツの実験を、誘導コイル、圧電発火器、テスラコイル、ネオン管を用いて検討した。ネオン管はヘルツの実験当時にはなかったが、ネオン管に銅線をアンテナにして繋げば比較的容易に誘導コイルのスパークによる電磁波を受信して点灯できることを確認した(左図)。誘導コイルに代えて、圧電発火器を銅線のアンテナにつないだものを発信源にしてもネオン管を点灯できる(右図)。



 また、実験用の小型テスラコイルを発信源として用いたときには、ネオン管に銅線のアンテナを繋がなくてもごく近距離では点灯し、1〜3メートルの距離ではネオン管のガラス球部分に手で触れるだけで点灯する(左図)。人体がテスラコイルが発信する高周波電磁波を受信するアンテナになっていると考えられる。
 さらに森谷さんは、近年比較的安価に入手できる「シンギングテスラコイル」を紹介してくれた。これはテスラコイルとプラズマスピーカーを組み合わせた機器でiPhoneの音楽を再生するのに合わせてスパークの火花が変化する(写真左)。



オンライン授業用アイテム紹介・2 山本の発表
 本年10月例会で発表した、オンライン授業に便利なアイテムの紹介の続編である。山本の授業では、対面/遠隔を併用し、教室からZoomで生中継を行い、学生はどちらの方法で受講してもよいことになっている。各自の都合や、体調により、毎回自由に選択できる。教室から学生の模擬授業をZoomで中継するために、左図のようなシステムを構築した。右は、模擬授業用の黒板と教卓。その前に2台のカメラ(黒板全景用/手元演示用)と、教卓上に小型書画カメラが置いてある。これらを切り替えながら授業を中継する。


 メインのビデオカメラ(SONYのごく普通のホームビデオカメラ)と書画カメラ(エルモ)はHDMI出力だが、HDMIビデオキャプチャ(写真左)を経由してPCのUSB端子に入力するとWebカメラとして認識される。10月例会で紹介したものより、後から追加購入したこちら(USB 3.0ビデオキャプチャカード 1080P 60f)の方が性能が良かったので、今はこれをメインに使っている。今は価格も下がっている。ホームビデオカメラは当然ながら、液晶モニタがついているし、オートフォーカス、オートアイリスで光学ズームも使えるから、専用のWebカメラよりずっと便利だ。高音質で音声もひろえる。すでにホームビデオカメラを持っていて、これから遠隔会議用のWebカメラの購入を考えている人には、このHDMIビデオキャプチャをお勧めする。

 一方、この講義では使わないが、自宅からの授業や実験教室で、手元の作業を見せたい場合、カメラ用三脚だと、足が邪魔になる。そんなとき便利なのが左の写真の、クランプマウント(フレキシブルアーム)CamKix BQXGS-GCM \1,699である。スポーツカメラGoPro用らしい。フレキシブルはしっかりしていて、ビデオカメラの重量にも十分耐える。ホームセンターでイレクターパイプを購入して、簡単なスタンドを自作し、クランプを上下できるようにした(写真中)。これで手元が広く使える。上で紹介した、ビデオカメラ+HDMIビデオキャプチャを取りつけると、高性能書画カメラ/手元カメラになる。遠隔会議でも活用できるアイテムだ。なお、カメラが逆さでも、画像の反転(180度回転)はZoom側で簡単に設定できる。
 ライティングにこだわるなら、組み立て式ミニ撮影ブース(撮影ボックス)を併用するとよい。周辺のボロ隠しにもなる。ネットフリマの需要でたくさんの種類が供給されている。右の写真の製品は、上海問屋 DN-83047、バックスクリーン4枚付、折りたたみ式 60サイズ、\3,495(送料税込)だった。
 発表資料(PDFファイル1.5MB)はここ


マイコンを使った教材 長倉さんの発表
 長倉さんは、今まではESP32というマイコンを使って、スマホを使ったワイヤレス距離センサーを開発してきた。YPCでも何度か発表してくれたが、使いやすい形にするためにプラスチック容器に穴を開けて、コードを収納することが大変だった。
 今回紹介の、M5StickC(スイッチサイエンス社)というマイコンを使えば、それらの課題を解決することができる。距離センサーをつけてコードを書き込めば、スマホから簡単に利用できる。開発中のソースコードはこちら。動作が安定しない時は再起動をすればよい。

 長倉さんがもう一つ紹介してくれたのは、非営利プロジェクト「radiation-watch.org」が提供しているPocketGeiger という放射線測定モジュール。センサー部に「PINフォトダイオード」を使用し、ガンマ線が当たると、パルス信号を出力する。マイコンにつなげば、さまざまな処理を行うことができる。スマホ、PC用もある。勤務校にあるガイガーカウンターは、音も液晶も小さいので演示には向かないが、これをパソコンにつないで処理をすれば、今までになかったような、演示中心の授業ができるかもしれない。必修の物理基礎では、放射線に割くことができる時間は限られている。長倉さんは新しい授業展開を考えている。

二次会Zoomによるオンライン二次会
 例会本体には36名、20時からの二次会にも17名が参加した。ドリンク持参で気軽に対話できるオンライン二次会は、コロナ禍以前のYPCの二次会の雰囲気を残している。参加者の多くが対話と癒しを求めてここに集まるのである。
 コロナ禍の中での修学旅行の話(生徒はGoTo対象、職員は非対象とか)、学校説明会の工夫とか、現場の情報交換も行われる。そんな中、最後に注目を集めたのは、越さんからの情報提供。サントリー・プレミアムモルツのキャンペーン景品「神泡サーバー2020」がなかなかいい、という話。超音波発振子できめ細かな泡を作るツールだ。前のバージョンは2019年8月例会で越さんが分けてくれた。それがよりコンパクトに、使いやすくなった改良版とのこと。越さんはYPCの仲間達のために複数個確保してくれているが、対面例会ができないので配布する手段がなくて困っている。画像は上記サントリーのキャンペーンサイトから引用。



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