例会速報 2021/01/17 Zoomによるオンラインミーティング


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YPC例会のもようを写真構成で速報します。写真で紹介できない発表内容もありますので、詳しくは月末発行のYPCニュースで。例会ごとに更新します。過去の例会のアルバムここ

授業研究:2年物理基礎後期中間テスト 小沢さんの発表
 小沢さんは高校2年生の物理基礎の定期試験問題を元に授業研究をしてくれた。テストは生徒が実際に行った実験を中心に出題されており、実験のワークシートを自分でやって提出した生徒は難なく答えられる。逆に、理解不足のままだったり、友達のものを写して提出したりした生徒はこのテストで得点できない。例会では、力学的エネルギーの分野を中心に、出題した問題の背後にどんな意図があるのか、どんな授業を行ってきたのか説明してくれた。

問題の例1
 図、表、グラフは、授業でおこなったスパゲティーの変形を調べる実験についてのものである。
クリップは1個2.5gである。重力加速度の大きさは10 m/s2とする。
実験結果より、「スパゲティー定数」が何N/mか求めなさい。途中計算も書くこと。


 小沢さんは、フックの法則を力学の初期の段階ではなくて、弾性力による位置エネルギーの単元の直前に扱っている。実験用のばねはフックの法則に従うように作られているのだから、ばねを用いてフックの法則を調べてもおもしろくない。
「まさかこんなもので」という素材で行う方が生徒は興味を示す。そこで、スパゲティーのたわみを測定することで、ばね定数ならぬスパ定数(造語)を求める実験を行った。計算するときに実データではなくグラフの直線から求めることや、単位をどのようにしたらよいか、ここで学ばせている。(写真は実際に生徒実験で使った器具)

問題の例2
 ばね定数25 N/mのばねの上端を固定し、下端に0.20 kgのおもりを取り付ける。
ばねが自然長になる位置でおもりを手で支え、パッと手を離す。おもりが最も下にくる(最下点にくる)ときのばねの伸びx〔m〕を求めよう。
ただし、重力加速度の大きさを10 m/s2とする。
※このあと小問(1)(2)があるがここでは省略。


 例会では、この実験を指導するときのコツを中心に発表してくれた。ばねは、島津のばね振り子SS-2用のものを使用。まず、ばね定数を調べる必要があるが、その作業はこの実験の主眼ではないのでスムーズに進めたい。このとき、前のスパゲティーの実験をしてあることが効いてくる。それをしておかないと、ばね定数の測定だけで時間を食ってしまうそうだ。

 この実験の中心はバンジージャンプのようにおもりを落とすことだが、実験しているとき、友達が操作している様子を見ている生徒は、今何を測定しているのか、測定結果はどうなっているのかがわかりにくい。教師から見てもそれぞれの班の状況がつかみにくい。
そこで、小沢さんは写真のように「自然長の位置」「つり合いの位置」「最下点の位置」というラベルを示させている。こうすることで進捗状況を把握しやすくなり、うまくいっていない班を見つけてアドバイスしやすくなったという。

問題の例3
 伸びが0.10 mのときに弾性力が4.0 Nのばねがある。
このばねの伸びが0.10 mの状態から、伸びが0.40 mになるまで伸ばすのに要する仕事W〔J〕を次のように求めた。
W = 4.0 N × (0.40 m - 0.10 m ) = 1.2 J
しかし、これは誤りである。どこが誤りか指摘し、正しい方法で仕事Wの値を求めなさい。

 これは実験ではなく、理論の問題である。例会の参加者からは、「説明させる問題を出すのはよいことだ」という意見があった。小沢さんは、弾性力による位置エネルギーを学ぶ大きな目的の一つは「力が一定ではないときに、仕事をどう求めるか」の考え方を理解することだという。
小沢さんの授業では、左のプリントの図を使って、ばねを伸ばしていくとだんだん必要な力が大きくなっていくことを説明しながら、長いゴムチューブの一端を持って立ち、他端を前に座っている生徒に渡し、その端を、ゴムチューブを伸ばしながら次々と後ろの生徒に渡す活動をさせている。そのとき「力×移動距離」と念仏のように唱えながら渡すことを促している。

 だんだんゴムがピンと張って文字通り教室が緊張してくる。このピンと張ったゴムの「なんかやってくれそうな感じ」が弾性力による位置エネルギーである。それは、それぞれの生徒が行った「力×移動距離」(つまり仕事)の累積にあたる。生徒の座っている間隔は等しくても、後ろの生徒ほど大きな「力」を加えなくては次の人に渡せない。そういうことを体感した後にプリントを見れば、区分求積法の考え方を実感を伴って理解できる。この展開は例会参加者にも好評だった。

ARISS 黒柳さんの発表
 ARISSは、Amateur Radio on the ISS(International Space Station)の略称で、国際宇宙ステーション上のアマチュア無線という意味である。今回、国際宇宙ステーションと逗子市の中学生徒達が、アマチュア無線を使って交信(スクールコンタクト)することになった。逗子・葉山アマチュア無線クラブの全面協力で、1/20(水)の日本上空通過に合わせて交信を行う。その模様はyoutubeで生中継され、ライブ記録はこちらに残されている。
 ラストには野口さんもサプライズ登場し、生徒たちは良い体験ができたに違いない。「生徒たちも、この経験を経てひとまわり成長した気がします。やっぱり本物はいいです!」は黒柳さんの弁。

インピーダンスこま 夏目さんの発表
 高校の4単位物理を履修しても、交流回路は手薄になりがちである。そこで、夏目さんは写真左のようなコマを作って、交流の振動について理解を整理する提案をしてくれた。抵抗R・コイルL・コンデンサーCの各素子は、交流に対してリアクタンス(抵抗)を示すが、それぞれ応答の仕方が違う。抵抗Rでは電圧Vと電流Iが位相のずれなく応答し、R=V/Iでありωに依らない。しかし、コイルLは交流電圧をかけるとωLというωに比例するリアクタンスを生み、自己誘導現象によって電流の成長が1/4周期(π/2 = 90°)遅れる。他方、コンデンサーCでは交流電圧をかけると1/(ωC)というリアクタンスを生み、電流Iを流して電気を溜め込もうとしても電圧Vとして蓄えられるのは1/4周期(π/2 =90°)遅れる。
 これを元に、3個の素子R,L,Cを直列につないだ回路を考える。直列では電流がすべての点で共通なので、電流の位相を基準にすると考えやすい。そして各素子R,L,Cの両端の電圧の位相関係をコマの面に描くことにする。それは各リアクタンス×I0である。写真の緑のコマがこれである。
 抵抗R部を+x軸方向とすれば、C部はそこから90°遅れるので-y方向である。L部は電圧が90°先に進んでいるので、+y方向である。あとは(x,y)平面上の3個の電圧ベクトルを合成すればよい。その合成電圧を共通電流I0で割ったものが直列RLCの全インピーダンスZである。
 

 一方、R,L,Cを並列に並べた回路では、すべての素子の両端で電圧V0が共通なので、電圧の位相を基準にした方が都合がいい。各素子R,L,Cを流れる電流の位相関係を描いたものが赤いコマである。共通電圧V0÷(各リアクタンス)で求められる。抵抗R部を+x軸方向とすればL部はそこから90°遅れるので方向は-y方向、C部は90°先に進んでいるので+y方向である。あとはこの3個の電流ベクトルを合成すればよい。共通電圧V0をこの合成電流で割ったものが並列RLCの全インピーダンスである。
 コマがどう回転しても位相関係は変わらない。ただし、全インピーダンスの大きさは振動数によって変わる。ある角振動数ωで、右の図のようにL部とC部が打ち消し合ってR部のみになる。これが共振状態(共鳴点)である。全インピーダンスの極値であるが、直列RLC回路では極小(電流最大)、並列RLC回路では極大(電圧最大)になっている。前者は、電気エネルギーを電流の形で蓄えている「低インピーダンス状態」であり、後者は電気エネルギーを電圧の形で蓄えている「高インピーダンス状態」である。
 

モビールカモメ 寺田さんの発表
 寺田さんは月に一度開催している子どもサイエンス教室でモビールカモメの工作を行った。きっかけはかもめのモビール(市販品)を見かけたことらしい。乳製品メーカーのHPでも牛乳パックで作る工作が紹介されているが、寺田さんがトライした牛乳パックでのモビールカモメで自発的に羽ばたくのは難しく、輪ゴムを使ったり人間が上下に揺すってやることで羽ばたいていた。そこで、もう少し工夫して、可動性のあるモビールカモメの制作を目指した。
 

 まず片羽根を1本の木と考えて釣り合う支点を糸で結び、次に2つの木をつないでバランスをとって揺らしてみたところ、胴(2つの木のつなぎ目)を引き下げて離すと、力を加えず10回くらいの羽ばたきを確認できた。ダンボールでも同じようなものを作ってみた。さらに「はばたき」っぽく見える工夫を求めたところ、2枚の羽根の重心を中央に移動させることでより羽ばたきらしくなるのではないか、とのアドバイスも聞こえた。こどもたちが試行錯誤しながら工夫できるのは良い教材である。

背面スクリーンを利用した「多重映像?映り込み?」 古谷さんの発表
 古谷さんは「HDMI切り替え機」を2出力のものに変更するために機器のテストをしていた時、映像が映り込むことで連続して見える現象に出くわした。PCのディスプレイ上に自分の顔を表示すると同時に背面のスクリーン(3m後方)にプロジェクターで映像を出力し、そのプロジェクタが映り込むようにしている。以前に鏡で似たような現象を紹介しているのを見かけたが、生成の方法が違っているので報告をしてくれたようである。7月例会の二次会で紹介のあったドロステ効果で、騙し絵で有名なエッシャーの作品にも隠されているという動画もある。

分割すすぎ問題(高橋信夫さん)の発展 鈴木健夫さんの発表
  12月例会で高橋信夫さんが発表した「分割すすぎ問題」の延長である。高橋さんの例に沿って、牛乳パックに1 mLの牛乳が残っていて、100 mLの水を足してすすぐ場合、何回で牛乳の成分の分子がなくなるかを考えた。牛乳の成分物質のうち、分子数が一番多い乳糖(ラクトース)がなくなるすすぎの回数を考えることにする。
Webによると、牛乳1mL中のラクトースの物質量は1.5×10-4molである。その分子数は1.5×10-4mol × 6×1023個/mol = 9×1019個 ≒ 1020個になる。 1回のすすぎで分子数は約100分の1になるので、10回で1020分の1である。つまり、10回のすすぎで、1020個の分子はほぼなくなる計算である。
 
 ところで、ホメオパシーをご存知だろうか。(鈴木さんの本題はこちらのようである。)ホメオパシーとは、病気を引き起こす原因物質を希釈して薬として摂取すると治療に効果がある、とされてはいるが、ニセ科学の一種である。希釈されたその薬(丸薬)はレメディといい、100倍希釈を30回行ったものが標準のレメディらしいのだが、つまるところ、1/1060倍の希釈に相当する。どう考えてもその原因物質の分子は残っていない。2010年の日本学術会議会長談話でも、ホメオパシーについて「治療としての有効性がないことは科学的に証明されている」と明言されている。科学的な定量評価をする癖をつけたい。

ゲルマラジオの製作 森谷さんの発表
 森谷さんは、ゲルマラジオを製作をした生徒実験を紹介してくれた。ゲルマラジオは電源のいらないラジオで、電波を身近に体験できる教材である。20メートルの被覆銅線をアンテナにし、銅棒を地中に埋設したアースを使用することでAMラジオが受信できる。半田付けをしたことのない生徒も取り組んで、自作のラジオが聞こえた時の感動は大きかったようである。
 しかし、セラミック(圧電)イヤホンから聞こえる音圧レベルが初めは極めて小さく、蚊の鳴くような程度であるという問題があった。写真左は、2枚のボードパネルにすきまを持たせて貼り合わせたものに被覆銅線を20回巻いた簡易なアンテナで、これを用いて学校から18km離れているAM送信アンテナのそばに行きゲルマラジオの受信に問題ないことがわかった。また、送信アンテナから離れるに従って受信音声レベルが低下したことから、音が小さい理由は、慶應義塾NY学院の立地がAM送信アンテナから離れているためと推測できた。

 そこで、2種類のループアンテナを作製した。左の図は改良したループアンテナで、木枠に裸の銅線を1辺71cmで15巻したものとゲルマラジオを組み合わせた模式図である。写真右のように校舎の外でアンテナを持ち上げると、放送内容を理解できるレベルまで感度が向上した。
 毎年実習にすることはできなかったようであるが、実物で体験することができるのは理解の一助としては大きいだろう。森谷さんのHPでも紹介されているので参考にして欲しい。

磁力線の向き 天野さんの発表
 ねじりっこビニタイなどの、鉄線入りビニールひもを小さく切ったものを用いると容易に、磁界観察ができる。専用にカットしたものも売られている。天野さんはモールでもやっていたらしいが、ビニタイのほうが見やすかったらしい。砂鉄に代わるものとしてマグチップも便利だとのこと。ビニタイは立体的に広がる様子がわかりやすい。量産するにはワイヤーカッターで切っている人もいるらしい。
ところで、「磁力線が見える」というのは、よく考えると不思議なはずである。磁場は空間的に連続なはずであるが、一本一本独立して見えるということは、そこに存在する強磁性体が周囲の磁場を磁束として集めてしまうからだろう。人間が観測するという行為によって、線状に分離しているのであろう。

簡単電池ボックス 天野さんの発表
 タピオカストローの直径は、ちょうど単4電池がすっぽり入る大きさであった。端を斜めにカットして折り曲げれば、袋状にすることができて簡易な電池ボックスになる。長さを変えれば、2本直列や4本直列の電池ボックスに早変わりである。接点は輪ゴムで押さえている。クリップモーターが量産できるので、一人一つで体験させることができる。他にもいろいろ活用できそうなアイディアである。

ワイヤレス温度センサを用いた熱の授業の実践報告 手塚さんの発表
 島津のワイヤレス温度センサを手に入れた手塚さんは、リアルタイムで温度変化を見せる演示実験を行った授業を紹介してくれた。80℃に温めた100gの鉄球を25℃で100gの水に入れると何度になるか、を計測したのが左のグラフである。動画もyoutubeで公開している。ライブでグラフが描けるのはわかりやすい。右のグラフは、同質量の水と油をヒーターで100秒間温め続けた時の温度変化である。生徒意見では、油が加速度的に変化すると答えた生徒が一定数いたようである。どんな意見があったのか、どんなやりとりをしたのか、いつか時間をとって授業研究として紹介してもらえたらありがたい。
 

ISS観測会 みんなで空を見上げよう
 例会の途中でISSの通過が見られる時刻となり、皆でモニタの前を離れて、観測会となった。東京、横浜、千葉、川崎と、各地から観測報告が続々と届く。残念ながら曇天だった地域が多かったが、オリオン座の前を通過する様子が撮影できた人もいた。いつか全国各地をつないでISS通過実況、などをやってもおもしろいかもしれない。

一眼レフカメラをWEBカメラとして使ってみた 今井さんの発表
 今井さんはzoomなどを使った遠隔授業を見越して、カメラを複数利用することを考え、少し前の一眼レフカメラ(Canon EOS Kiss X6i)をWebカメラとして使用してみた。ドライバをインストールするだけで、PCでWEBカメラとして認識できる。Zoomで授業や実験を演示するときなど、2つのカメラを切り替えて使用できるようになる。カメラのピント合わせやズームなども、カメラ慣れしている人には直感的に操作できるのでよいだろう。また、ファインダーがついているので狙いをつけやすいという点でも便利だろう。カメラからPCはUSB-USB-miniケーブルで接続している。カメラの電源がバッテリーなので、長時間連続で使用できないのが難点かもしれないが、そんなに大きな問題ではないだろう。 Canonのページも参照して欲しい。

二次会Zoomによるオンライン二次会
 例会本体には34名、20時からの二次会には14名が参加した。時間切れで本体に入りきらなかった越さんの発表「静電遮蔽」と「サウンドチューブ」も二次会で行われた。千葉市科学館で入手したサウンドチューブは、鉛直に立てると「びゅーわっ!」というような音が出る科学おもちゃだ。筒の内径よりわずかに小さな直径の円筒形リード笛(写真右)が入っている。円筒中心部の穴には金属箔リードが取り付けられており、片方を閉じた筒の中を円筒形リード笛が落下し、中心部の穴を空気が通過することでリードが振動、主に開口端側の筒の長さによって音程や音色が変化するようだ。円筒形リード笛をより長い塩ビパイプに入れると、音程・音色の変わり方が微妙に異なり興味深い。尚、写真左はかつてEテレで放送されていた「できるかな」のゴンタで、中に同様のリード笛が仕込まれていてユーモラスだ。


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