例会速報 2019/12/15 株式会社ナリカ


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授業研究:保存則の授業展開 勝田さんの発表
 勝田さんは、保存則を学ぶ上で、「系」の考え方に正面から向き合う授業展開に挑戦した。夏休み明けの物理基礎の授業で、質量保存則に1時間、運動量保存則に4時間、エネルギー保存則に12時間という展開だ。
 2019年10月例会で長倉さんが仕事とエネルギーの発表をした際に、会場で「位置エネルギー」と「系」について議論になった。主な内容は、「重力による位置エネルギーは、物体が持つのか、物体+地球の系が持つのか」ということである。勝田さんは、後者の立場で一貫した授業展開を行なった。
 生徒/学生が(教員も?)、「系」の考え方を理解しないままエネルギーを扱っているせいで、多くの誤解が生じていることは、物理教育研究の世界でも繰り返し指摘されている。80年代から何本も論文が出ているし、国内でもここ数年、擬仕事に関連した報告が見られるようになった。が、なかなか現場の授業は変わらない。教師や教科書の慣性はたいへんに大きく、自分の力だけではなかなか変化しないということを、勝田さんは痛感している。
 

 1時間目の質量保存則では、ホットケーキの各材料の和が、混ぜ合わせた後の生地の質量に一致すること、焼いた後のホットケーキの質量は元の生地よりも減ることを実際に調理&測定して示す。そこで生徒に、「減少した分の質量は、この宇宙から消えて無くなったのか?」と発問し、保存量と系の概念を導入する。保存量とは、何かしらの変化の前後でも一定に保たれる量のことで、宇宙全体で考えるか、外部とその量のやりとりがない場合に保存する。その枠組みのことを「系」と呼ぶ。
 例会では、右近さんから、「何かが増えたとか減ったというのは、範囲なり枠組みを決めない限り言えないことでしょ?」という極めて本質をついたコメントがあった。この考え方は、初学者である生徒にとっても、受け入れやすいものだろう。というより、この考え方をなしにして、保存則を学ぶことができるだろうか?
 

 次に、運動量を4時間。初めの2時間では生徒実験+スマートカートによる演示実験で運動量保存則を見出す。動画(movファイル907KB)はここ。保存則の考え方を獲得するのが目的なので、Newtonの運動法則から運動量保存則を導き出すのは、種明かし的に最後の時間に行う。特に「系」というものを意識させるための授業は3時間目。まずは台車の上に設置したレールに鉄球を転がした後、鉄球と逆方向に台車が運動することを確認する。
 

 次に、台車に取り付けたカゴで鉄球をキャッチすると、台車はどちら向きに運動するか?あるいは静止するか?という課題に取り組む。この課題は、生徒の予想が真っ二つに割れる。運動量保存則で考えれば静止するということは理解できても、それでは納得できず、どうしても「力」で考えたい生徒も多数いた。動画ファイル(movファイル1.8MB)はここ
 最後に、台車を壁際において、壁の方向には動けなくする。その状況で鉄球がカゴにキャッチされるとどちら向きに運動するか、静止するか?という課題に取り組む。これは壁から外力を受けるので運動量は保存しないのだが、やはり生徒の予想は真っ二つに割れる。「系」という考え方の重要性を認識したというコメントが生徒からも多かった。また、この課題への生徒からの質問で、「どうして障害物も系の中には入れられないのか?」というものがあった。系は任意に、そして目的に合わせて適切に選べるということが、意外に伝わっていないということを勝田さんは実感した。
 

 そして、エネルギーである。勝田さんの授業では、エネルギーという保存量があり、仕事と熱を通して系外とやり取り(transfer)すること、エネルギーは他の種類のエネルギーに変換(transform)できることをはじめから知識として与えてしまう。授業展開として、エネルギーの transfer と transformを区別することには、相当な注意を払った。この区別がしっかりつかないと、例えば「運動エネルギーは系外からの仕事としてのみ獲得できる」といった、誤解をもたせてしまう。この誤解は、教員でも結構多い。系を設定し、エネルギーの流れを定性的に説明できなければ、エネルギーの考え方が獲得できるはずはない。
 勝田さんは、「物理基礎でも、力学的エネルギーを学ぶ意味は、力学現象の理解よりむしろ、エネルギーの世界観を獲得することであると考えている。それこそが現代に生きる市民に必要な教養ではないだろうか。」と強く主張する。
 その次に、滑車でおもりを持ち上げる、いわゆる「仕事の原理」の実験を通して、仕事が力×距離であると定義する。そのまた次の授業では、運動エネルギーがmv^2/2であることをNewtonの運動法則から導き出す。この際、教科書に載っている台車が物差しを押し込む実験ではなく、単純にある速さで走っている台車を力をかけて押し、より速くなったという状況を採用した。「エネルギーは仕事をする能力」という、様々な誤解を生みそうな定義を避けたいからである。
 

 運動エネルギーと仕事の活用課題として、定番のマッチ棒とストローの吹き矢で、定量的な実験に挑戦した。「ストローの長さを2倍にすると、飛距離は何倍になるか?」「同じストローの長さでマッチの質量を2倍にすると、飛距離は何倍になるか?」という課題である。結果は演示実験で示した。動画ファイル(movファイル4.3MB)はここ
 次に、重力による位置エネルギーを導入した。自由落下するボールを2つの見方で考える。系を「ボールだけ」としたときは、外力である重力から仕事の形態でエネルギーが移動(transfer)し、運動エネルギーを獲得する。つまり、系のエネルギーは落下とともに増加する。一方で、系を「ボール+地球」とすると、系に外力ははたらかないので、エネルギーは保存する。しかしながら、落下とともにボールの運動エネルギーは増加していく。この矛盾を解消するには、系内で何かしらのエネルギーが、運動エネルギーへと変換(transform)されたと考えるしかない。それこそが、重力による位置エネルギーである。
 まとめとして、勝田さん自身は次のように語る。「例会参加者からのコメントでは「初学者には難しい」というものが多かったが、勝田の実感としては、そんなことはないと思う。それに、仮に初学者に向けて真実を隠しておくのなら、少なくとも最終的に真実を伝える場は用意する責任があるだろう。しかしながら、少なくとも現行の教科書には、そのような場面は設定されていない。また、「教科書や教材として、長年確立されてきたものを、急に変えることは難しい」というコメントも確かにその通りなのだが、そこに挑戦するのが、自発的な研究会に参加している教員の集まりであると、私は信じたい。来年度のエネルギーの授業で系と向き合う展開に挑戦しようという人が1人でもいれば、惜しみない協力を約束する。ぜひ、一緒にやりましょう!」
 今回はエネルギーの「前編」だったが、2月の筑波大附属高校での例会で、勝田さんの後編が報告される予定だ。ぜひご参加を!
 

ロウソク・メリーゴーランド 成見さんの発表
 成見さんは今夏、東京、神奈川、関西の4カ所で『ロウソクのかがく』をテーマに実験教室を開催した。工作物は、数ヶ月かけてオリジナルの『ロウソク・メリーゴーランド』を用意した。4カ所で120人分のセットの用意がとても大変だったが、全員が現場でうまく回す事が出来て楽しい夏になったという報告があった。
 

 例会では成見さんの準備過程を収録したメイキングビデオが上映された。動画ファイル(movファイル60MB)はここ。アルミ缶を切り開いて風車の材料を作る手作業が気が遠くなるほど大変そうだった。仕上がりは素晴らしいデザインセンス。成見さんの愛と情熱の結晶だ。
 

放射線源紹介 舩田さんの発表
 前回の例会で車田さんが紹介してくれた情報に従い、舩田さんは早速「自然堂」に足を運んで「バドガシュタイン鉱石」(写真左)を試しに購入してみた。お値段は3000円ぐらいだったという。右の写真のようなラベルがついているが、書いてある内容はかなり怪しい。放射線量2~3μSvと書いてあるが、空間線量率なら単位はμSv/hだろう。「身に付けて頂くことをお勧めします」とあるが、線源を身に付けておくというのもいかがなものか。2μSv/hだとして年間被曝量を計算してみるとよい。国民生活センターの情報も参考にしてほしい。
 

 効能はともかく、YPCとしての関心は、実験用放射線源として使えるかどうかだ。舩田さんがキットで自作したGMカウンターや、教材店から購入したガイガーカウンター RADEXで測定した値は、ランタンマントルに比べ、半分位の線量率だったという。エアカウンターSではγ線はあまり高い値にならなかったが、β線とγ線が計測できるナリカの「GM式放射線サーベイメーター ME-113」(下の写真)ではバックグラウンドの15倍ぐらいの値が出ていた。γ線が少なくβ線が多いということだろうか。そもそも「バドガシュタイン鉱石」なるものの成分が検索しても出てこない。線源の核種が何なのか、スペクトル分析が必要なようだ。
 

自作距離センサー3つ 長倉さんの発表
 長倉さんは、APEJの物理教育通信で今和泉さんが、Wi-Fi・Bluetooth内蔵のマイクロコントローラ「ESP32」を使った教材を作っていたのを読んで、まねして作ってみた。IoTが流行していることもあり、各種センサーを使ったソースコードは、Github等にいくらでも載っている。詳しいことはわからなくても、それらを組み合わせれば、思いのほか簡単かつ安価に様々なものを作ることができる。右の画像は距離が数字で表示される超音波距離計。
 

 下の画像は、超音波距離センサーHC-SR04(左)やレーザー式距離センサーVL53L0X(右)を接続して作った距離計だ。ESP32とスマートフォンの間の通信はWi-Fiを使って、v-tグラフが見られるようにしているが、こちらの方はhtmlやjavaの知識が必要なため、長倉さんも思い通りには使えていないという。
 

偏光板マジック 西尾さんの発表
 西尾さんが、偏光の授業の導入で使っていた超能力マジック。正方形の厚紙に3つの図形×○□を印刷し、表に偏光板を貼り、裏にゴム磁石を付けてある。教師は市販の偏光サングラスをかけて登場し、テレパシー実験を行うと宣言して、生徒の被験者を一人募り、その生徒を室外に出す。黒板に3枚とも自分から見て暗く見えるように貼ってから、クラスの生徒に1枚ずつ図形を外しながら示して1枚の図形を選ばせ、選ばれた図形だけさりげなく90°回転させて戻す。
 その後に被験者の生徒を入室させ、テレパシーを送る演技をする。この段階では被験者は裸眼なので見分けられない。続いて「私のパワーをあげる」などのセリフとともに教師のかけていた偏光サングラスを被験者(右の写真は生徒役の市江さん)に渡してかけてもらい、当ててもらう。
 

 偏光サングラスを通してみると、90度回した図形だけ明るく見える。左の写真は撮影時のカメラ側のフィルターの関係で明暗が逆になっているが、とにかく偏光板を通してみれば一枚だけ違うのが一目でわかるわけだ。「このマジックのタネは、今日の授業が終わればわかる」と説明して、偏光の授業に入る。90°回転の対称性がある図形を用いるのがポイントなので、△は使えないことに注意。
 右下の写真は、おなじみのマジック・ウォール。黒い壁があるように見えるが、指やペンをつっこむと抵抗なく貫通する。TPシートなどの硬めの透明シートに、偏光軸の向きを90度変えた薄い偏光板を2枚並べて貼って丸め、セロハンテープで止めただけ。箱がないので作るのが簡単。分解して持ち運んだり、保管したりするのにも便利だ。
 

「指パッチン」で飛ぶ紙トンボ 加藤さんの発表
 加藤さんは『理科教育ニュース』2019年9月18日号に掲載した実験を紹介してくれた。牛乳パックで作った羽根につまようじを刺して瞬間接着剤で固定し、つまようじの先を切る。最後に羽根にひねりをつければ完成。中指と親指で持ち、「指パッチン」の要領ではじくと回転して飛んでいく。身近な材料で手軽に作れて、「飛ばす→調整する→再び飛ばす」とその場で工夫ができるのが利点だ。
 

 参考にしたのは、さまざまな紙とんぼの作り方を紹介する書籍『スーパー紙とんぼワンダーランド』(鎌形武久 著/いかだ社 刊)で、著者でスーパー紙とんぼの会代表の鎌形武久さんに紙面を監修して頂いた。
 今回作ったものは、右手で飛ばせるようにしている。左手で飛ばすと、逆方向に回転するため落ちてしまう。左手で飛ばすには、羽根のひねりを逆にする。なお、羽根にひねりをつけないと指ではじいても飛ばない。
 

エレクトリックバランスボード 越さんの発表
 越さんが会場に持ち込んだのは小型のセグウェイもどき。重心移動により、前進、後退、左右旋回ができ、その場でスピンもできる。初代セグウェイのようなハンドルはないが、意外と安定感があり、すぐに乗れるようになる。動画1(movファイル22MB)はここ
 屋外でもある程度走れるが、トルクが小さいので、路面の凹凸や傾斜がある場所には向かない。転倒時の為にヘルメット要着用、公道不可、最高 時速10km、2時間の充電で2km程度走行可能、タイヤ直径15cm、質量は7.5kgと片手で持ち運べる程度だ(写真左)。ドンキホーテで10800円+税。20000円を超えるようなものであれば、トルク、バッテリー容量が大きいものもあるようだ。
 

 物理の授業への活用としては、等速直線運動をしながら鉛直投射投げ上げを行う演示実験(下の写真)などに使えそうだ。また、バネにボールを取り付けたものを持ち、その場でスピンしながらスマホなどで動画撮影すると、非慣性系で遠心力が働くように見える様子を記録できる。動画2(movファイル5.2MB)はここ
 

浮力再考 右近さんの発表
 右近さんは、混乱の多い浮力の問題について整理・解説してくれた。着底物体が水底から受ける垂直抗力は、着底物体、水底間に水のあるなし、密着力のあるなしで異なる。したがって、青森の高校入試問題は間に水がある場合だけ解答可能で、すでに山本が2019年4月の鎌倉学園例会で指摘した通りである。
 

 「着底時の浮力」の問題については、かつて【理科の部屋】MLなどで「潜水艦浮上せず」などをテーマとして繰り返し議論されてきた。YPC例会でも取り上げたことがある。そこでは「浮力の定義・解釈」が話題の中心だった。
 

 しかし「水底が受ける力」は着底物体、水底間に水のあるなし、密着力のあるなしに関係なく同じ値になる。
 物体の質量をm、体積をV、空気の密度をρ'、水の密度をρとすると、空気中の台はかりが示す値(ここではこれを「物体の重さ」と呼ぶことにする)はmg-ρ'Vg(空気による浮力)であるが、これをそのまま水中に持っていけば水底間に水のあるなし、密着力のあるなしに関係なくmg-ρVg(水による浮力)の値を示す。つまり「物体の重さ」はρVgだけ軽くなる。これはアルキメデスの原理であり、アルキメデスの原理に「ただし水底に着底した場合を除く」といった但し書きはいらない。
 

 しかし水圧の差によって「浮力」を教える現在のカリキュラムを考えると、こうした不整合についてなんらかの工夫が必要である、というのが右近さんの主張だ。混乱はそこから生じているという指摘である。
 

原子の数の多さをイメージさせる問題 平田さんの発表
 平田さんは「原子の数の多さ」を、3つの問題を通じて実感させようとしている。
(1)1cm3の箱の中に入っている気体(標準状態)を1秒間に1億個ずつ外に出したとしたら、出し尽くすのにどれだけ時間がかかるか。
(2)1滴の水(0.04cm3)の構成分子を地球上に均等にばらまいたら、1cm2あたり何個の割合で散らばるか。
(3)人体を仮想するとそのほとんどは水と二酸化炭素になり大気中に拡散する。その水分子を地球上にばらまいたら1cm2あたり何個の割合で散らばるか。
 最後の問題の答は4億個。人が死ぬと大気にかえり、やがて地球全体に分布することがよく分かる。
 

Raspberry Pi 4 天野さんの発表
 天野さんはこのところシングルボードコンピュータ「ラズベリー パイ」にハマっている。最新のバージョンRaspberry Pi 4を手頃なシャーシに組み込んで、ブレッドボードも取りつけ、いろいろな入出力をさせて遊んでいる。
 

 同機にはOSの他、デフォルトでScratchやオフィスもどきソフトも一式組み込まれていて、ディスプレイやキーボードを接続すればすぐに使える。手軽な上安価なので、プログラミング学習用コンピュータとしての普及が見込まれる。
 

二次会御徒町駅前「まつうら」にて
 24人が参加してカンパーイ。「松屋デパート」の「裏」だから「まつうら」という、毎年お世話になっているお店で、忘年会も兼ねて。会場を提供して下さったナリカの会長さんも同席してくれた。今年は元号が改まったことと、災害が多かったことが印象に残るが、来年、オリンピックイヤーは平和なよい年になりますように。


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