例会速報 2022/01/16 Zoomによるオンラインミーティング


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授業研究:進まない波の授業 小沢さんの発表
 「進まない波の授業」というタイトルの「進まない」は「波」ではなく「授業」にかかっている。つまり、定常波(定在波)の授業という意味ではなく「進まない授業」だ。波の単元の最初の部分に十分な時間をかけることがとくに重要である、というのが小沢さんの主張だ。
 小沢さんは波動の単元で大切なことは、①ものの移動ではなくて振動が伝わる現象、②独立性、③重ね合わせの原理、の3つと考える。①と②にそれぞれ1時間(45分授業)かけた授業の報告である。
  1時間目は、昭和レトロなOHPとアクリルの浅い容器を組み合わせた水波投影機を用いる。水にコルク片を浮かべ、そのそばに水滴を1滴落とすと、コルク片はどう動くかを問う。波紋は外側に広がっていくから、コルク片も外側に移動するか、それとも内側に移動するか、移動しないか、考えさせる。単純な問題だが、意見は分かれる。海に浮き輪で浮かんだとき、別に動かなかったという意見が出たり、いや、砂浜の方に流されたとか、沖に流されたとか、体験談が出るほど、面白い議論になる。
 

 実際にやってみせて、ほぼ動かないことを確認した後に、ウェーブマシンを見せて、水面で起きていることは、水の「流れ」ではなく「振動の伝わり」であることに気付かせる。生徒の考えをよく聞き、それをもとに授業を展開すれば、これだけの題材で充実した1時間になる。


 2時間目は、長いつる巻ばねの両側から波の山を送ると、真ん中でどうなるか問う。反射する、すり抜ける、消滅するの選択肢から選ばせる。ばねを持った手のところで波が反射したのが見えたから、波どうしも反射するとか、前の時間に使った水波投影機で2か所から波紋を作ったらすり抜けると思うなどの意見が出る。実験してみると、すり抜けることがわかる。さらに、「水波投影機の波紋もそうなるっていう意見があったから、それも試してみよう」と言って、生徒の目に触れないように予め準備しておいた水波投影機を引っ張り出して、実際に見せる。さらに、「複数の会話の声が打ち消したり反射したりすることはない」とノートに書いていた生徒にそれを紹介してもらう。ばねでも、水でも、音でも、すり抜けていくことは共通の性質「波の独立性」で、逆に「独立性」が見られたら、それは波である可能性が高いという説明をする。「それならば、光は?」と問う。ライトの光を交差させてもすり抜けていくから、波である可能性が高い。「では、光の媒質は何?」「媒質がわからないのに、本当に波って言い切れるの?」と新たな疑問を投げかける。後に学ぶヤングの実験への布石である。
 

ニュートンビーズのある見方~進まない「波」は過去の経歴 夏目さんの発表
 ニュートンビーズは「鎖の噴水」とも呼ばれ、注目されている。YPCでも、2013年10月同12月2015年4月の例会でとり上げられてきた。夏目さんはこの現象を新たな視点で説明してくれた。以下、夏目さんの解説で。
 容器に乱雑にセットされた鎖の先端を容器の底よりずっと下の床まで落とした際、鎖がどんどんたぐり出されるが、たぐり出される点から鎖が立ち上がる。床まで3.5mあると50cm程度の立ち上がりが観測される。一見、ニュートン力学に反するように見えるので「ニュートンビーズ」と言われているが、もちろん力学に従って運動している系である。
 ここには、テーマがいくつか潜んでいる。①どうして立ち上がるか?②立ち上がった形状がかなり安定なのはなぜか?③微妙な形状を決めているものは何か?④立ち上がりの高さの限界はどの程度か?
 今までの報告を見ると①にからめて④を議論するものが多かったように思える。ここでは②と③に焦点を絞って議論する。1枚目の写真を見てほしい。右側の落下中の鎖で赤い矢印のようなL字形の曲がりが見られる。これは最初の鎖を落とした際に、青い矢印の所で台のフチに当たって曲がったあとである。加速されて鎖が上昇して(これは②のテーマ)台に当たらなくなっても、そのパターンが残っている。さらに、左側の上昇部も高速動画をくわしく調べると、2枚目の写真のように、緑の矢印のあたりに、たぐり出しの際の軽い絡みの跡が残っているように見える。これらは③のテーマである。
 

 
  そこで、次に②のテーマを説明する。3枚目の図を見てほしい。きついカーブと緩やかなカーブはお互いの領域を増すようなことをしないのだろうか?ここで、鎖の線密度をρとし、接線方向に速さをvとする。各カーブでの法線方向に働く力Fを求めてみる。曲率半径rと見なせる部分(円弧)が⊿θの範囲に広がっているとする。円弧の長さは⊿s=r⊿θであるから、その部分の質量はρr⊿θである。曲がった部分の向心加速度は曲率半径rに反比例していて、v2/rである。ここへ運動方程式である「質量×加速度=力」を適用するとρr⊿θ×v2/r=F⊿θ が求まる。これから、F=ρv2 を得る。つまりrに依存していない。そのため、お互いに自分の領域を増そうという働きはない。どのようなパターンもできてしまえば持続することになる。このニュートンビーズが注目されたのは、高く登ることに加えてこのパターンの安定性も寄与していると考えている。

ビックリ価格で購入したペンタブレット対応アプリ 古谷さんの発表
 古谷さんは昨年、マウスよりも繊細な動きができるワコムのペンタブレットを購入した。しかし、その後は特に利用することもなく、下手をすると、Windows11上では動作しない恐れもあり、以前に購入したペンタブレット(2台)と一緒にお蔵入りの運命をたどる懸念があった。
 そうなる理由のひとつはペンタブレットに対応するフォトペイントツールの価格がペンタブレット本体を上回っていることだった。迷っている内に年末を迎えてしまっていたからであった。


 そんなある日、古谷さんはメールの中に、Paint Shop Proの最上位版が驚きの価格で提供されていることに気づいた。しかもそのアプリにバンドルされいたのが、購入をためらっていたペンタブレット対応アプリの「Painter8」(ソースネクストの販売価格:8580円)だった。正に、2度ビックリ! 結局のところトータルで本来の価格よりも2万円近くお安い、4000円程で性能の高いアプリを手に入れることができた。
 「この幸運に乗っかり、ペンタブレット操作の腕を磨くことを今年の目標のひとつとしたい。」と古谷さんははりきっている。なお、このキャンペーンは現在は終了している。
 

CAS冷凍 西尾さんの発表
 正月にNHKテレビの「所さん!大変ですよ」という番組をたまたま見たら、魚などを急速冷凍して、通常の冷凍で起こる細胞内の氷が大きくなって細胞を傷つける現象を軽減して鮮度を保つ技術が紹介されていた。最初は-21.3℃の高濃度食塩水、続いて-121℃の高濃度アルコール水溶液(おそらくエタノール)が紹介され、後者では液体窒素実験でおなじみの「凍らせたバナナで釘を打つ」デモンストレーションがあった。
 

 問題は、その次からのメインテーマのCAS冷凍(Cells Alive System冷凍)である。1997年にアビーという企業によって開発された磁場を利用したもので、それなりの利用実績があり、京大iPS細胞研究所も研究に利用する装置を共同開発中であるそうだ。磁場を利用した冷却技術というと、液体ヘリウム温度以下の超低温を実現する断熱消磁が思い浮かぶが、どうやらそれとは無関係で、特殊な(?)交流磁場を使うもののようだ。番組では、装置内の透明な小瓶の中で小さな球形磁石が高速回転する様子を見せていた。しかし、ネット検索しても学術研究はヒットせず、いくつかのサイトにある似たような説明図に書かれた原理は、次のように曖昧で微妙に異なる。
・微小な振動を与えることで、結晶は成長せず水のまま冷えていく。
・微弱なエネルギーで水分子の方向軸を整列させる。
・微弱なエネルギーで水分子を振動させ、過冷却状態を保ち氷の成長を抑える。
 

 農水省のWebマガジンでは、赤外線による天体観測装置までこのCAS冷凍を使っていると書かれているが、細胞と無関係だから、何かの間違いではないだろうか。そして、東京都教育庁の「日本の伝統・文化に関する教育推進資料」(右図)に「子どもたちに伝えたい日本の良さ」として、大きく取りあげられていることも気になる。なぜ、都教委が・・・
 

読解力と物理概念調査 西村さんの発表 
 西村さんは読解力調査(RST)と物理概念調査の関係についての調査報告をした。
 物理概念の獲得状況と、推論、イメージ同定、具体例同定の能力の間に、弱い正の相関がみられたとのことである。物理がうまく理解できない生徒の中には、上記のような読解力に関する部分でつまずいている生徒がいるかもしれない。
 西村さんは、今後より詳細に研究していきたい、と言っていた。続報を楽しみにしたい。

100円ショップグッズの紹介 天野さんの発表
 天野さんから、100円ショップで見つけた実験に使えそうな小物三点の紹介があった。

 最初は、CAN★DOでみつけたという「スマートフォン拡大鏡」。スマホがタブレットほどの大きさに拡大できるというフレネルレンズだ。ダイソーやセリアでも手に入る。
 面積が大きく集光力があるから、太陽光で火起こしなどが簡単にできる。もちろん、目への障害や収斂火災には十分注意する必要がある。
 遠くの景色をスクリーンに映すのも明るい像が得られるので暗室でなくても実験できる。この際、スクリーンをどけて「直接実像を見る」という実験も、レンズが大きいのでやりやすい。両眼視できると立体感が得られるからだ。

 二番目は同じくCAN★DOでみつけた「マグネット付きLEDスティックライト」。他の百均でも見かける。非常に明るい。車のエンジンルームの点検用の照明などを想定して裏に磁石がついている。黒板に貼り付けたり、ブックエンドなどを使ってちょっと固定するのに便利だ。
 なにしろ明るいので物理実験の光源一般に活用できる。発光部に面積があるので、矢印形にしたり、上に文字を書いたりマークをつけたりして、像の上下左右を判別できるようにも加工できる。ビニルテープなどで細いすきまを残して覆えば直線フィラメントのような光源にすることも可能だ。

 
 最後に セリアの「食品圧縮袋用手動ポンプ」。加工せずにそのまま減圧ポンプに使える。廉価でコンパクトなので、個別実験用に数をそろえるのに好都合かもしれない。

二次会 Zoomによるオンライン二次会
 例会本体には31名が参加、二次会には11名の参加があった。コロナ対応の発展型として、ハイブリッド例会の環境を整えていこうと考える中、それぞれが使っているAV小物を紹介し合い、情報を共有した。古谷さんからは音質の良いタイピンマイク、天野さんからは、以前教室での授業で使っていたというワイヤレスマイクセットの紹介があった。ヘッドセットにもできる。
 

  伊藤さんからは、職場で使っているという、小型で手頃な価格のWeb会議用カメラ内蔵スピーカーフォンの紹介があった。マイクとスピーカーはハウリングを起こさない仕組みになっている。こうした小物をそろえて共有すれば、持ち回りのハイブリッド例会も可能になるのではないか。
 その他、コロナ禍の中、非常に神経を使った修学旅行の話や、小学校の行き過ぎた算数指導への批判、中性子を発生しないクリーンな核融合反応が注目されている話など広範囲な話題が飛び交った。


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