例会速報 2013/10/20 駒場東邦中学校・高等学校


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授業研究:気柱共鳴に至るまでの授業展開 西村さんの発表
 学芸大附属高校の西村さんは、専任の市原さんや教育実習生と共に議論しながら、気柱共鳴実験を中心とした計4時間の授業展開を実践し、その詳細について報告してくれた。
 生徒実験、演示実験の内容は、前任の金城先生、川角先生が実践したものと同じだが、今回の実践では「目で見えない定常波の存在を確信させる」、「音波(縦波)の二つの見方について理解させる」という二つの目標を立て、その目標の達成に向けて授業の構築を行った。授業者は主に教育実習生である。
 

 具体的な授業展開は、
1.音波の導入としての「音の三要素」の実験
2.音波は縦波、縦波の横波表示、音波の反射
3.縦波の定常波、気柱の共鳴実験
4.気柱の共鳴実験の分析、縦波の二つの見方について
という流れで、ピアインストラクションの手法も活用しながら、生徒実験で生徒が十分に試行錯誤するために必要な知識を直前の授業で扱い、実験で得られたデータの分析を通して、物理法則を獲得していく、という探求型の授業とした。
 

 例会では
・音波(縦波)の反射をどのように教えるべきか
・開口端補正の扱いについて
・縦波の横波的な表現は必要か
・気柱共鳴で空気の圧力変化を扱う必要はあるのか
といった議論が行われた。特に、気体分子の変位で考えるときと圧力変化で考えるときとで、管端での反射時の位相変化が逆になることをどう扱うかについて議論が集中した。
 フリーソフト「振駆郎」を用いた管の開口端、閉口端での音波の反射の演示実験や、聴診器を用いて共鳴状態の管内の音を聞く実験はユニークではあるが、生徒の実態に合っているか、逆に混乱させることになるのではないか、といった意見もあり、今後の課題として取り組むことになった。
 

 前任者時代からの長年の積み上げがあるとはいえ、しっかりと目標を持って、生徒実験を中心として緻密に組み立てられた授業計画には賛辞が寄せられていた。この授業計画をこなせる生徒たちもすごいが、実践する教員・実習生の側の努力も並大抵ではないと感じた。
 

屈折する車 石川さんの発表
 岐阜物理サークルの石川幸一さんが遠路はるばる例会に参加してくれた。最初の発表ネタは波の屈折の原理を説明するための「屈折する車」。左右一対のモーター駆動の車輪と、LEDとCdSからなる明暗センサーからなる。センサーは床の反射率を検知し、モーターの回転数を制御する。床が白い色だと速く、黒い色だと遅くなる。同じ反射率の時は両輪とも同じ速さで進む。
 

 白い紙と黒い紙を並べておき、その境界に斜めに車を進入させる。先に黒い領域に進入した車輪は回転が遅くなり、白い領域にいる方の車輪が回り込むように速く進む。その結果車体が向きを変え、屈折が起こる。屈折の原理が直観的にわかる優れた演示だ。動画(movファイル3.6MB)はここ
 

電磁蛍 石川さんの発表
 石川さんの次なる実験は電磁誘導の演示。第一の装置ではネオジム磁石と赤青のLEDがセットになったスライダーが木のレール上を滑る。レールの途中にはコイルが仕掛けてあり、スライダーが通過するとコイルに電磁誘導が起きる。この誘導起電力をオペアンプで増幅してスライダーのLEDに送る。磁石がどの位置に来たときに誘導起電力が大きくなるか、符号はどうなるかが、直接視覚的に確認できる。スライダーが動画(movファイル2.4MB)はここ。ハイスピードカメラによる動画(movファイル2.6MB)はここ
 

 第二の装置は大型フェライト磁石が取り付けてある回転子に赤青のLEDがついている。コイルの中で回転子を回し、コイルに生じた誘導起電力を増幅してLEDに戻す。磁石の磁力線がどの位置を通過するときに起電力が大きくなるのかが一目瞭然でわかる。動画(movファイル5.5MB)はここ
 

 第三の装置は上の装置の小型版のようだ。同じくコイルの中でネオジム磁石を両端につけた木製の回転子が回転すると、誘導起電力に応じて二色のLEDが交互に光る。この装置にはテニスラケットのような外部コイルプローブがあって、向きをいろいろに変えて磁束線をとらえることができる。回転子の運動を観察しながら、起電力も同時に観察できる。優れたディスプレイ法だ。
 

ニュートンビーズ 海後さんの発表
 海後さんは9月下旬に「ニュートンビーズ」という不思議な現象を知った。ボールチェーンをビーカーから落とすと重力に逆らうように上昇してから落ちる。http://japontimes.livedoor.biz/archives/28925705.html
 興味を持った海後さんは、、さっそく以前に「シーウェル」というメーカーから安く購入した20メートルのボールチェーンで実験してみた。写真左は太いボールチェーンで、動画(movファイル3.0MB)はここ。写真右は細いボールチェーンで、動画(movファイル3.1MB)はここ。細いボールチェーンは1m80円ぐらい。細いチェーンのほうがなぜか高く上がる。
 

 長さ5メートル程度でも現象を見る事はできるが、落下時間はチェーンの長さに比例するので、じっくり観察するには20m以上は欲しい。また、床からの高さが高いほどチェーンの上昇高さも増すので、なるべく高いところから落とすと見ごたえがある。http://www.youtube.com/watch?v=PpZp5m6b9lU

 海後さんによると、フラスコのように口が細い容器だとチェーンのブレ(振動?)が規制されて上昇しにくい。細いチェーンの場合は、コップが適しているそうだ。しなやかな組紐でも実験できるが、軽いので高低差を大きくする必要があるとのこと。やはりボールチェーンが安価で一番良いようだ。
 テーブルにピンを刺して、チェーンをかけて水平に引いても同様の現象が起きることを確認したが(写真右)、例会後にピンを使わなくてもできる水平面上での実験動画を見つけた。http://www.youtube.com/watch?v=dYBNKSMvXr0
 

 チェーンが上昇して下向きにターンする部分の独特の形に見覚えがあって調べたところ「吹き上げ」の紐の上昇部分と同じ形だった。なぜこのような形になるのか興味深い。

モルフォチョウにエタノールをかけると 加藤さんの発表
 少年写真新聞社の加藤さんは「理解教育ニュース」でとりあげた話題を実演してくれた。モルフォチョウの翅の青く輝く独特の色は、鱗粉に電子顕微鏡サイズの規則正しい格子構造があって、光の干渉によって演出される「構造色」である。
 

 モルフォチョウの翅にエタノールを垂らすと、サッと色が変わって緑色の金属光沢に変化し、エタノールが蒸発するにつれて次第に元に戻る。エタノールが格子構造の間に満たされることで、光の波長が変化して、干渉によって強調される色が変わったのだ。翅は水をはじくので、水では観察できない。なお、この実験は標本を傷めるので、あまり推奨できない。実験する場合は、ダメになっても構わない標本を使うこと。
 

シミュレーションによる粒子モデル 小林さんの発表
  新学習指導要領において小学校から中学校、高等学校へと系統的に学ぶ中心概念の一つとして「粒子」があり、小学校でも図やモデルを使って観察した事実を説明することが求められている。しかしながら、子どもが想像する粒子のモデルは科学的なモデルにならないことが多いばかりか、誤概念を強化するようなものになることがある。
 教師側からある程度、学年や文脈に応じた適切なモデルを示す必要があるが、原子や分子については中学2年で学習するようになっており、教科書に例示されている小学生や中学1年生に示す単純円の動的なモデルはほとんどない。そこで、物理演算が使える安価なアニメーションソフト「アニメクリエーター・プロ」(写真)を使って、動的なモデルを自作することにした。
 

 このソフトは本来、アニメキャラクターを動かすことを主目的に利用するものだがキャラクターや物体を物理的に自然に動かすことに利用する物理演算を上手く使えば、様々な物理実験をシミュレーションできる。制御できる変数は、重力、摩擦係数、反発係数、質量、初速度、発射方向などである。これを使えば、例えば温められた空気が膨張する様子などの動的なシミュレーションが簡単に作成できる。
 

情報とは何か 西野宮さんの発表
 西野宮さんは、蛋白質の合成におけるDNAの情報の作用を調べ、情報とは何かを考察した。蛋白質は、多数のアミノ酸がDNAに「書かれた」情報にしたがって、m-RNAやt-RNAのはたらきにより計画的にペプチド結合することによって合成される。反応の間には情報過程が介在する。
 こうした情報過程は電子回路で表現することもできる。電子回路のデコーダーがコドン表を実現していれば、DNA上の塩基配列を入力として、アミノ酸配列を出力する回路が作れる。生体内には情報技術で用いられる制御と類似した仕組みがある。
 西野宮さんはさらに、情報は客観的に存在するものか、人間の頭脳の中の所産なのかを考察する。細胞内には記号とその解読者が明らかに存在する。コドン表は人類の発生以前から存在するのだ。生体という物質状態は、新たな物質の存在形態と言えるのではないか。
 情報とは何らかの意味を記号で表現したものである。情報は塩基配列や高分子の立体構造として存在するとき自然科学的に認めることができる。つまり情報は自然界に存在すると言える。西野宮さんの論文の結語は「情報は機能を持った物質である」だ。情報は抽象的存在ではなく物質的側面を持っていると西野宮さんは主張する。

ICの30倍発泡スチロール模型 喜多さんの発表
 喜多さんはICの中味を見せるディスプレイの研究に熱心に取り組んでいる。今回披露されたのはタイマーIC(555)の構造を説明するために作成した30倍スケールの大型模型である。写真左は、模型の全体像。上に、実物のICを発泡スチロールの上に載せて大きさを比較している。写真右は、上部の樹脂の被覆をはずした模型。白い部分がリードの金属部分、中央の長方形がICチップである。金線のワイヤーボンドを銅線で表現している。
 

 下は、上から見た図。8本のリードフレームの中央部分にICチップが位置している。回路パターンは実物を顕微鏡観察して撮影した写真を元に描いている。写真右は実物を上下に割って、上半分を裏返しにしたものと、リードフレームの曲がりを伸ばした下半分である。
 

 タイマーIC(555)がどのような機能があるかを示すために作成したブレッドボードに組んだ回路。写真は発振器の例。右側はオーディオアンプとスピーカーのユニットで、発振音を聞くためのオプション。

撥水 水野さんの発表
 9月に開催した神奈川学園の文化祭で、同校理化部は「撥水・吸水」をテーマに研究発表をした。水野さんはこのうち「撥水」に関する話題を披露してくれた。
 蓮の葉や里芋の葉が撥水することは有名な話だが、さてどんな仕組みになっているのか、というのが出発点の問題意識であった。つてを頼って芝浦工業大学に部員と出かけ、蓮の葉の表面を電子顕微鏡で観察させて頂いた。
 

 すると、葉の表も裏も突起状の構造が繰り返し現れ、まさにフラクタル構造になっていた。この表面構造と表面の素材によって撥水することが分かった。人工的には化学繊維がいいようだ。逆に木綿などは不向きである。そこで水野さんと理化部は様々な撥水商品を購入して実験した。
 

 水野さんが一番感激したのは朝倉染布(株)で購入した撥水風呂敷「ながれ」であった。風呂敷なのに水を10kgまでなら包んで持ち運べる。それでいて風呂敷を押すと中の水がシャワーのように勢いよく噴き出してくる。布は濡れないが、圧力が加われば水は通すのである。
 

 同じ朝倉染布(株)で購入したレインコートを成見さんに試着してもらい、流しで水をかけてみた。コートは水をはじいてまったく濡れない。しかしビニルコートなどと違い、通気性はあるのである。

 他の写真は(株)富士コスモサイエンスの教材「超はっ水コロコロ水玉実験キット」。撥水処理した網、皿、スプーンなどがセットになっている。
 

 そのほかに文化祭で展示したものは、バンダイから売り出し中のゲーム「超撥水アクアドロップ」、(株)丸和からサンプルを分けていただいた超撥水壁紙「玉紙」、アメリカから輸入したNever Wetという超撥水スプレー(ネットで購入)で撥水加工した水野さん自身の靴など。
 文化祭では色々手にとって確かめられるので、来場者には結構好評だったようだ。しかし、水野さん自身は文化祭の役割分担上、当日はほとんど理化部の部屋には行けないと嘆く。
 

SSH全国生徒発表会より 車田さんの紹介
 平成25年度スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会が8月7・8日にパシフィコ横浜で開催された。様々な分野における研究発表の中で車田さんが一番に興味を持った発表は、新潟県立長岡高等学校の紙製円筒のひねりに関する研究だった。円筒形の紙筒をひねる測定器を作成し、紙の強度や長さを変えたり、ひねる力を変えたりという研究で、ひねられる部分の織り目の数に注目した内容は、これからの人工衛星など体積、面積をコンパクトにおさめる技術に通じる研究に発展する可能性を秘めている。
 他にも、「消しゴム曲線の秘密」「すごい分数」「こすれてできる毛玉の研究」など、興味を引く研究があったという。JSTのSSHのWebページから検索してみてほしい。
 

韓国の科学の祭典より 車田さんの報告
 車田さんは今年も韓国の科学の祭典、「2013 Korea Science Creativity Festival7/28-8/4」にOnsen(オンライン自然科学教育ネットワーク)のメンバーとして出展してきた。会場はソウル郊外のKINTEXという幕張メッセの数倍の規模の会場だ。とにかく大規模である。中高校のブースは科学部などの生徒が中心で、参加型実験工作・サイエンスショー・研究発表が行われる。今年の企業ブースは、昨年日本で開催されたMaker Fairがそのまま移ったように、3Dプリンターが注目を集めていた。また、秋山仁(数学者)先生の数学ワンダーランドに展示してあるサイクロイド自転車がルーツと思われる、子供たちも乗れるサイクロイド4輪車が大人気だった。
 

 車田さんたちOnsenチームは外国人ブースのブロックでの出展だった。今年はアメリカ(スミソニアン科学館)、イギリス(ケンブリッジ大学)、ルーマニア、中国、インド、タイと日本が出展していた。
 日本の「科学の祭典」との大きな違いは、火器・薬品が使い放題ということだ。爆発、煙、臭いすべてOK。写真は、ルーマニアのチームが大勢の観客の前でテーブルの上でテルミット反応を披露しているところ。日本の安全基準では考えられない光景だ。

ミクロの不思議 加藤さんの書籍紹介
 少年写真新聞社から出版されている子ども向け電子顕微鏡写真集の紹介。身近な昆虫や植物も電子顕微鏡で拡大すると、生きるための驚くような工夫を見ることができる。「ミツバチの羽のフック」「ヤモリの足の指に生えた毛」「マウスの体外受精の瞬間」など、貴重な電子顕微鏡写真を多用して、身近な生き物の意外な生態を解説している。詳しい内容紹介は下記を参照のこと。

少年写真新聞社のWebページ:http://www.schoolpress.co.jp/book/micro/micro.htm
日本電子株式会社のWebページ:http://www.jeol.co.jp/news/detail/20130130.323.html

本の紹介 宮崎さんの書籍紹介
 北海道高等学校理科研究会がまとめた「物理基礎の授業案」。新課程がスタートして間もないので、まとまった授業案は貴重な資料だ。YPCでまとめて共同購入することになった。

 (写真左)世界中でもっとも愛され続けている天才物理学者の伝記のマンガ化。講談社ブルーバックス1832「マンガ はじめましてファインマン先生」原作: ジム・オッタヴィアニ、漫画: リーランド・マイリック、訳: 大貫昌子ISBN:978-4-06-257832-5、定価(税込):1,029円
 (写真右)『ファインマン物理学』等の名訳で知られる著者が、エネルギー概念の成立過程を軸に、現代物理学の基礎を対話形式で解説した名著の復刊。砂川重信著「エネルギーの物理学~力学、熱力学から統計力学まで」川出書房新社、ISBN:978-4-309-25271-1、定価(税込):1,785円
 

二次会 松見坂上バス停前「そば処福島屋」にて
 会場校の近くにある蕎麦屋で、20人が参加してカンパーイ!駒場東邦は初めての会場だった。こうしていろいろな学校を訪ねることができるのも例会の楽しみの一つだ。各校の準備室や実験室はそれぞれの学校の特徴や教員の個性を反映していてユニークである。施設を見学するだけでも実験室経営の刺激になることが多い。新しい会場校の立候補に期待する。


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