例会速報 2016/07/10東京学芸大学附属高等学校


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授業研究1:学大附属の「夏の実験」 市原さんの発表
 今回の会場校の学芸大学附属高校では、毎年1学期の期末テスト終了後に「夏の実験」というものをやっている。学校に実験器具はあるが、平常授業ではできないような、50分では到底終わらない時間のかかる実験を、実際に生徒実験で行っている。
 生徒は二日にわたり、やりたいものに取り組む。生徒によっては、丸一日を光速度の測定 (フーコーの回転鏡法の実験)に費やすものも現れる。・また、現職教員研修として公開しており、申し込めば教員も実際に体験することができる。内容は電磁気分野や原子分野が多くなるが、生徒はまだ未習段階なので、理論を学ぶところからスタートする。理論も含めてレポートにまとめる。
 写真左は実験室内の様子。二部屋用意されている。右はマイケルソンの干渉計。


 左はフランクヘルツの実験。右は偏向極板入りクルックス管の実験。
 

 左は超音波による音速の測定。右は2014年の物理チャレンジの実験器具。
 

 左はマイクロ波の実験。右は万有引力の測定(キャベンディッシュの実験)。普通の学校にはないような、しかも物理学史的に重要な実験器具も多数ある。これを体験できる生徒は大変恵まれていると思う。
 

授業研究2:「力と運動」 武捨さんの発表
 武捨さんは力と運動の4時間を発表してくれた。
 1時間目、台車が一定の力を受け続けるとき、どのような運動をするか考えさせた。速度が変化(加速)するかしないかで議論になった(物理では速度を変化させるはたらきを力とよぶことは前時までに確認済)。全員に、記録テープをつけた台車を輪ゴムで引く実験をさせて、結果を確かめさせた。あわせて、距離センサを使ってx-t、v-t、a-tグラフを演示し、等加速度直線運動であることを確かめさせた。
 2時間目、台車が運動方向に受ける力の合力が0のとき、どのような運動をするか考えさせた(両端に質量の等しいおもりを吊るした糸から力を受ける台車をばねで引くとき、引くのをやめたとき、それぞれどうなるか)。前時で、力を受けると速度が変化することを確かめているが、合力0で速度が変化(減速)するかしないかで議論になった。距離センサで結果を確かめさせ、慣性の説明をした。
 

 3時間目、台車が一端を固定したばねから力を受けるとき、どのような運動をするか考えさせた(ばねの伸びが一定ではなく、縮んでいくとどうなるか)。ばねが縮む間に、加速度が一定か一定ではないかで議論になった(フックの法則は既習)。距離センサで結果を確かめさせ、その後、伸びを一定に保ったばね1本のときと2本のときを比べ、加速度の大きさが力の大きさに比例することを確かめさせた。
 

 4時間目、台車の質量を2倍にすると、運動に違いがあるか考えさせた。受ける力の合力が同じなら加速度も同じという意見と質量が大きい方が加速度が小さいという意見で議論になった。距離センサで結果を確かめさせ、その後、質量2倍、力3倍で、加速度が1.5倍になることを演示し、運動の法則の説明をした。
 例会では、次のようなコメント、議論があった。
・運動の法則を未習の段階では、2時間目の実験は、張力がおもりの重力に等しいという誤解を定着させる恐れがないか。
・定力装置やおもりを糸で吊る以外に定力で引く方法はないか。
・3時間目の力が変化する実験は、物理基礎の範囲外だが、その意図は。
・4時間目の台車の質量を2倍にするのは、おもりを載せるのではなく、台車を2つ重ねたほうがいいのでは。
・4時間目の討論の中で、重力はつり合っていて運動と関係ないことを強調した方がいいのでは。
・考えを書かせるときに、理由を書く習慣をつけさせたほうがいいのでは。
・生徒の実情に合わせるために、正確性を欠くことは、どの程度までよいか。
 

アクティブラーニングかな? 高橋和光さんの発表
 高橋さんは授業での指導方法について大きく改良、工夫をしている。千葉県松戸市で長年ご指導されていた、JSTの高城英子先生の実践を参考に授業を組み立てている。まだ、始めて半年ほどだが、実験をふまえた授業展開で、生徒が頑張るようすから、とても手応えを感じているそうだ。
 また、生徒の活動の変化が教師側の見方に、たいへん重要なアイデアを与えてくれる。少しずつ改良しながらカリキュラムを進めていきたいとのこと。

スマホ用サーモグラフィー 高橋信夫さんの発表
 米国FLIR社製の、スマホに挿して使うサーモグラフィー「FLIR ONE」。iPhone用、Android用それぞれ約3万5000円と安くないが、数年前に専用サーモグラフィーカメラを50%引き40万円程で買う寸前までいった高橋さんには、タダのように感じられて即購入したとのこと。
 

 サーモフラフィーは赤外線を検出してイメージ化する。スマホのカメラで撮影した同じ対象物の普通の写真と比較するとわかりやすい。身近なものを撮影すると新たな発見がいろいろある。山は空より暖く稜線より中腹の方が暖い。
 

 人を撮影すると肌が露出した部分が高温だ。メガネや衣服は赤外線を遮る。電気製品を撮ると、電子レンジにも待機電力があることがわかる、等々・・・。別アプリで色分布を変えたりスポット温度を表示させたりすることもできる。
 

風船鍋 天野さんの発表
 天野さんは気体の熱膨張を、目と耳で体験できる大胆な実験を考案した。
 用意するもの…水風船・カセットコンロ・ガラス蓋付フライパン(約直径26cm)・お湯(200~300ccステンレス魔法瓶に用意すると良い。)
(1)水風船に空気を入れ直径5~6cmを4~5個つくる。膨張後破裂するよう、空気入れ口より先に空気を集め、ゴム膜が薄くなる様に口をくくる。
(2)カセットコンロに蓋付フライパンを置き、お湯を深さ2cmほど入れ蓋をして、コンロに点火、沸騰させる。
(3)コンロの火を止め。フライパンの蓋を取り、4つの風船を入れる。(蓋・ゆげなどで火傷しないようにに注意!)
(蓋が閉まるくらいが最良なのでフライパンの深さ・風船の径を調整するとよい!)
(4)火をつけて、膨らむ様子をや蓋が持ち上がる様子を観察する。
(5)熱を加え続けると、風船は膨張にたえられず破裂し音がする。ガラス蓋があるので破裂音は小さく、破裂の際の熱湯・ゴムの散乱がないので比較的安全。
 空気を入れた風船の1つは、くくり場所を工夫し破裂しないように余裕をもたせておく。大きく膨張した状態の風船を取りだせば、室温で縮む様子も見せられる。火傷の危険があるので、演示実験が良い。
 もともと麻布科学実験教室では小学生に、アルミ大鍋に大きい風船を入れて実験している。今回の発表はこれを中学・高校生用に、鍋をガラス蓋付フライパンして、リニューアルしたもの。
 

熱伝導の実験 天野さんの発表
 40年以上昔から行われている、熱の広がり方を、目で観察する実験の紹介。
用意するもの…アルミ皿。直径20cm円形が最良だが、今回は見つからずパーティ皿を使用。ロウソク・ロウソク立て・マッチまたはチャッカマン
(1)アルミ皿の上面にロウソクをこすりつける。
(2)ロウソク台(厚さ約1~2cm×約5cm×約5cmの木に板中央に釘などを打ったもの)にロウソクを立て、火をつける。
(3)ロウソクを塗ったアルミ皿の両端を両手で軽く持ち、皿の裏の中央に炎が当たるように、皿をかざす。
 炎を当てたと裏面である底を観察すると、塗ったロウソクが透明になって広がる様子で、放射状に熱が広がるようすが分かる。冷えるとロウが元に戻り、何度でも実験できる。
 今回は天野さんが火の付いたロウソク・ロウソクを塗ったアルミ皿をもって見せまわったが、火に注意をはらえば個人実験も可能だろう。実験道具はすぐ手に入るものなので、1度やってみてほしい。
 

ダイソーのズームライトのしくみ 山本の発表
 先月の例会で天野さんが紹介してくれたダイソーの「SUPER LEDズームライト」を分解してみた。スライド式の凸レンズ部分はネジで簡単にはずれる。発光部はドーム状の白色LED1個。よく見るとLEDチップに電流を供給するボンディングワイヤーが2本見える。つまりLEDチップは2個内蔵されているようだ。黄色い部分は蛍光体(粉体を固めたもの)で、LEDチップはその下に埋もれている。
 

 ドームをはずしたところ。中央の黄色い正方形が発光部の蛍光体だ。ドームのレンズ効果でずいぶん大きく見えていたが、実際は1mm四角である。ドームの内部は意外なことに透明なゼリー状の物質(ゲル)が充填されていた。ポリカなどの樹脂でモールドされていると思い込んでいたので驚いた。
 分解前のライトを壁に向け、ピントを合わせると発光体の像がくっきり投影される。面発光により像面で照らす新しいタイプの照明器具だ。埋もれた2個のLEDチップが透けて見える。ボンディングワイヤーの影もはっきりわかる。光路の途中にグレーティングレプリカをかざすと、連続スペクトルが投影される。照明用の白色LEDは青色LEDで励起された蛍光体が放つ蛍光を用いているので、蛍光灯に似た連続スペクトルである。青色LEDによる青い光の強度が非常に強いことがわかる。これが俗に言う「ブルーライト」で、目へ負担が懸念されている。
 

豆電球点灯モデル 車田さんの紹介
 「神奈川の理科教育を考える集い」や「科学教育協議会」でお馴染みの野田啓司先生(神奈川理科サークル)が伊勢原子ども科学館で海老名市立今泉中学校と海老名市立海老名中学校の科学部合同で出展していた作品。授業の中で、豆電球の仕組みを生徒に理解させるために考え出された教材だ。電極のクリップを豆電球のどの部分に接触させれば点灯するか、生徒に試行錯誤させる。
 

ICR-100 喜多さんの発表
 この3月に定年退職した喜多さんは、トランクルームに預けてある荷物を整理しているなかで、ソニーのICR-100を見つけた。新しいもの好きのお父さんが買ったものとのこと。何年かして聞こえなくなって一度分解したらしい。今回調べてみたら、世界初のICを使用したラジオと分かり、例会での紹介に至った。
 発売は1967年(昭和42年)、当時の発売価格は9800円。左上は豪華なケース入り、左側の大きいものが充電器、右側が本体である。本体の大きさは、縦31mm×横58mm×厚さ18mmで、ほぼマッチ箱の大きさと同じである。
 

 左下は分解した本体の裏側である。スピーカの磁石の周りに回路がびっしり配置されている。右下はラジオ用のICである。1.5mm×2.25mmのチップに27個(トランジスタ9個,ダイオード4個,抵抗器14個)の部品が集積されている。(注:国立科学博物館・産業技術史資料情報センターより引用)
 

カラフル授業の導入の報告(力学編) 成見さんの発表
 成見さんは力のつりあいの授業の導入にこんな演出をしてみた。
 本物そっくりなリアルなリンゴとレモンのモチーフをひもで吊るし、まずは「どちらが重いだろうか」と問いかける。その後、ばねに変えて吊るしてみると、レモンの方が長くのびる。しかし、ばねを変えてみると今度はリンゴが長くのびる。改めて「どちらが重いのだろうか」と問いかけていく。
 

 3力ののつりあいの演示にも利用した。フックの法則の確認にには、フルーツのおもりではなく100gのおもりを用いたが、力を目で確認するのはばねが便利であること、ばねにはばね定数の違いがあることなどを、インパクトをもって教えることができ、力の合成・分解の理解にも一役買ったように成見さんは感じている。
 

ネオン・メッセンジャー 田代さんの発表
 赤外線コントロールのおもちゃのヘリコプター(ミニ・ドローン)は機体が反転しないようにローターが2つのものが多い。しかしローターが1つで、機体の反転をあえて利用しているのがこのおもちゃだ。機体の回転でも揚力が生じるように翼状のひねりが付いている。
 

 側面にはLEDが5個縦に並んでいて、コントローラーで前もって入力した文字が回転中に読み取れるように点滅する。ちなみにTASHIROとYPC を入力しておいた。ネットでネオンメッセンジャーと検索するとヒットする。ネット価格は数千円。飛行の様子の動画(movファイル10.3MB)はここ
 

新しい消しゴムハンコのご紹介とおすそ分け 成見さんの発表
 成見さんは以前にも、「消しゴムハンコ・学者シリーズ」を手作りして、生徒レポートやノート確認用に用いている報告をしてくれたが、このたび新製品「フレミングの左手のハンコ」を量産した。例会で希望者には「おすそわけ」があった。成見さんはハンコの絵柄のアイデアを募集している。
 

「光の速度から見た電磁気学」の抜き書き 田代さんの発表
 「光の速度からながめた電磁気学」は、田代さんが電磁気の疑問を整理しながらわかりやすくまとめた冊子である。今回改めて要点をまとめたダイジェスト版が提示された。
 MKSA単位系の電流、電荷は並行な電流に作用する力で定義されるので、電磁気は、静電気でなく電流から始めるべきだと田代さんは考えている。アンペールの法則だけでなく、ビオサバールの法則も大切だ。そこで定義されたクーロン単位の電荷間に作用する静電気力の比例定数に光の速度の2乗が関わっている。
 更に2016/05/22 國學院大學久我山例会で扱ったL字電流が作る磁場を踏まえると、マクスウェルの変位電流までの大きな流れが見える。

二次会学芸大学駅前「タパスバンビーニ学芸大店」にて
 16人が参加してカンパーイ!。駅前のイタリア料理店で科学談義を続ける。インテリアとして飾ってあったワインスタンドに反応する人がいたり、目のつけどころが違う。さすがはYPC。このあと「音波研究会」(カラオケ)に流れる研究熱心な人々もいる。


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