例会速報 2005/12/10 中村理科工業・交流広場


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授業研究:物理Iの電気分野 参加者全員による報告会
 今回の授業研究のテーマは「物理Iの電気をどう教えたか」だ。レポーターを特に指定せず、アンケート形式で進め、随時各校の事情を紹介してもらった。

 結果、指導要領通りの配列(電気→波動→力学)で実施した高校は12校中わずかに1校。教科書通り(電気→力学→波動)で実施した2校を合わせても圧倒的な小数だった。残りのほとんどの現場では、従来通りの配列(力学→波動→電気)で実施しており、時間切れで電気分野を次年度送りとしたところも少なくない。

 このように指導要領が全く形骸化している原因は、一つには配当時間があまりにも少なくて、骨格となる力学・波動の単元が中途半端になる恐れがあること、中学から送られてきた部分である電気分野が内容的に希薄であることが挙げられるが、予備校が実施する模擬試験の試験範囲が従来の配列での進度を想定しているため、進学を意識する学校ではこれを無視できないという、本末転倒ではあるが現実的な事情も垣間見えた。

 大学入試改革なくして教育改革なし、というところか。

誰でもベルヌーイ 平野さんの発表
 科学イベントでは,空気の流れを利用した演示や工作などが多く見られる。平野さんも多くの事例を見てきた。しかし,そのとき起こる現象の正しい説明にはほとんど出合ったことがないという。これは,多くの場合,「ベルヌーイの定理」の誤用が原因である。その内容がよく理解されないまま、定理の名前だけが呪文のように一人歩きしているのである。
 たとえば写真の「吹き出し」という素朴なおもちゃ。ストローの側面にあけた小さな穴から細い糸を入れ,ストローの一端から出して輪を作る。ストローの他端から息を吹き込むと,糸がくるくると回る。この原理を,「ストロー内の流速は大きいので,ベルヌーイの定理からストロー内の空気の圧力が下がり,糸が吸われて回転する」と説明したら誤りである。それは,ストローの側面の小さな穴から勢いよく空気が出ていることからも明らかである。「空気の粘性摩擦により,糸がストロー内の空気の流れに引きずられて回転する」が正しい。
 翼が受ける揚力の説明などでも「ベルヌーイの定理」の誤用はよく見られるので注意が必要だ。
 

演示実験でEXCELを使う 水上さんの発表
 水上さんの一貫した授業コンセプト「教科書の図が動き出す」に基づく、直流の単元の授業実践紹介。学習項目はオームの法則(V=RI),電池の内部抵抗(V=E−rI),非直線抵抗(電球のI−Vグラフ)だ。
 まず、黒板上で演示実験。裏に板磁石をつけた計器や素子を黒板上に設置し,計器の数値はビデオカメラ+29インチテレビで拡大表示して行う。次に測定しながら、測定値を事前に用意したEXCELのシートに入力していく。グラフのプロットエリアをあらかじめ用意しておけば、記入と同時に教科書と同じグラフが出来上がっていく。
 会場では測定点を折れ線で結ぶのではなく、回帰直線を表示するテクニックについてもアドバイスがあって、さらにチューンナップされた。
 

物理量と単位の表記 小河原さんの発表
 日本の理科教科書のみを使っているときにはそれほど気にしていなかったものの、一度米国の教科書を使用し、再度日本の教科書に戻ってみると、物理量や単位についての日本独特の表記方法はとても気になるという。たとえば、数値の後の単位記号に( )をつけるかどうか、文字式に単位記号をつけるかどうかといった点だ。
 この問題については、理科教育メーリングリストでの議論をもとに、上越教育大学の森川氏がすでに紀要(http://www.juen.ac.jp/scien/morikawa_base/expression.html)にまとめている。今回小河原さんは、現時点での状況を整理するため、いくつかの項目を設定し、日米の理科教科書を比較することによって、物理量と単位の表記方法についての相違を報告してくれた。詳細は、次号のYPCニュースに掲載の予定。

あおぞら実験室紹介 河野さんの発表
 河野さんたちのグループCAPPAが、東京・吉祥寺の井の頭公園を舞台に「あおぞら実験室」を始めてから7年になる。不特定多数の道行く人たちを対象にした実験教室は珍しい。それも、毎月、公園の一角の野天で行ってきたのである。
 「科学に興味関心を持たず、科学の祭典などには決してこない人たちにこそ科学の楽しさを伝えたい。」これが河野さんたちのコンセプトである。公園で遊ぶ子供達はもちろん、買い物帰りの主婦や、ガングロ・厚底のギャルまでが、ふと立ち止まって参加してしまう、それが「あおぞら実験室」なのだ。
 このほど、CAPPAの活動をまとめた立派な冊子ができあがった。文字通り「草の根」というべき貴重な実践の記録だ。CAPPAの活動についての詳細はここを参照のこと

超伝導体作りのコツ 山本の発表
 1986年、IBMチューリッヒのミューラー、ベドノルツがランタン・バリウム・銅系酸化物で高温超伝導への突破口を開いた。87年2月に米国のチューらが発見したイットリウム・バリウム・銅系酸化物(YBCO)で90K以上の臨界温度が達成され、液体窒素での実験が可能になったことが、次のブレイクスルーだった。すなわち、初等・中等教育の現場でも手軽に超伝導が観察できるようになったのである。
 山本は87年12月にYBCO超伝導体の製作と確認実験を生徒実験として教材化し(神奈川県理科部会報88年5月)、その後数年にわたって現場実践していたが、転勤に伴いしばらく実験できなかった。昨年着任した現任校には立派な電気炉があったので、12年ぶりに再び生徒に実験をさせてみた。
 




←写真をクリックすると動画(AVI)が見られる。小型円盤磁石が浮いている動画はここ。それぞれ、3〜5MBあり、ダウンロードには時間がかかるのでご注意を。

 YBCOは酸化イットリウム、炭酸バリウム、酸化銅を原料物質とし、それぞれを物質量比1:4:6で混合粉砕した後、仮焼・焼成という二段階の高温固体反応を行い、セラミック化して実験試料とする。混合粉砕は普通の乳鉢で30分程度行えば十分である。電気炉も七宝焼用の小型のものでOKだが、最大のポイントは炉の温度管理である。仮焼850〜900℃、焼成900〜950℃とされるが、実は電気炉の熱電対温度計は50K程度の誤差を含むのが普通で、炉内の温度分布もあるため、温度条件は使用する炉により異なるので、経験的に定めなければならない。特に温度を上げすぎて分解・メルトしてしまう失敗例が多い。予備実験が必要だ。
 焼成用の容器は専用のアルミナ燃焼ボート(下左写真手前)もあるが、高価なので、代用品としては七宝焼き用の「皿チョコ」(東急ハンズで\78)が手頃である。要するに上薬のない素焼の皿を使えばよい。
 さらに、焼成時の成型には高価なプレス機は必要ない。写真のようにアルミや塩ビの管にぴったりはまる、真鍮やアルミの円柱を見つくろって、2本ずつはめこんで成型器とし、その間にパウダーを入れて、金槌で叩けばよい。このときエタノールを若干加えてバインダーとすると成型しやすい。上下の写真の試料は、そのようにして生徒が作った作品である。
 なお、原料物質を混合・仮焼後、微粒に粉砕した中間素材「UFOパウダー」(島津157-951写真下右\15000)も販売されている。調合の楽しみがないが、成型後一回焼成するだけでよいのでお手軽ではある。

 

「水からの伝言」批判 鈴木健夫さんの発表
 AERA 2005年12月5日号に「学校の授業でも 『水からの伝言』の仰天」という記事が掲載された。YPCでは数年前に巻頭言(YPCニュース集Vol.16ニュース185のmiyaさんによる巻頭言)などで取り上げたりしたが、やっと大手マスコミに取り上げてもらえた。
 ご存じない方のために簡単にご紹介すると、水の結晶を作る際に「ありがとう」という言葉を書いた紙をそばに置いたりバロック音楽を聴かせたりすると、きれいな結晶ができて、「ばかやろう」と書いた紙を置いたりヘビメタの音楽を聴かせたりすると、結晶が崩れるという内容の本だ。それを小学校の授業で取り上げて、言葉の大事さを教えているという話がAERAの記事になっている。
 この記事全体は、当然のことながら、この本の著者やこういう教育実践に批判的な論調で書かれている。非科学的・非合理主義的なことに対して健全な批判がわき起こるのは大歓迎だ。こういう動きにアンテナを張っておくことは大事だと思う。
 ただ、一点、少し気になったのは、この論調には教育批判の一環という雰囲気も漂っていることだ。「こんなことを授業でやっているひどい先生もいる」という教師批判の方に重心があるようにも思えてしまうのは、教員であるわれわれのひがみなのだろうか。
 

コガネムシ色の枯れ葉 高杉さんの発表
 CEAT(束京化学教育研究会)に参加している たかすぎさんの報告。
 11月の例会は東工大の渡辺順次先生の講演で、テーマは構造色。構造色とは光の回折・屈折・干渉・散乱に基づく色で、微細なナノメートルオーダーの構造がもたらす発色だ。自然界では、色素による光の吸収ではなく、虹やシャボン玉の色や、生物の表面の層状構造などで現れる色ということになる。
(→http://www.sekisui.co.jp/eco/monozukuri_0407.html などを参照のこと)
 その日の実習で作った、「コガネムシ色の枯れ葉」と「鳥の羽」がこれ。非常に細かくかつ粒径のそろった粒を溶媒中に分散させておき、枯れ葉などを浸して引き上げる。溶媒が蒸発するにしたがって、粒がどうしがある程度の間隔を保ちながら規則正しく並ぶと、このように鮮やかな色が現れるのだという。

渦電流の演示 山田さんの発表
 ネオジム磁石を用いて、渦電流によるブレーキ効果を見せる実験は、普通、銅やアルミのパイプの中にネオジム磁石を落としてのぞき込むようにして観察するが、一度に一人しか見られないのが難点だった。山田さんが紹介してくれたのは、透明アクリルパイプ内にネオジム磁石を固定し、パイプの外側に沿うようにしてアルミのリングを落下させるというものだ。リングが磁石の所にさしかかると引っかかるように減速してゆっくりと降下する。リングに切れ目を入れておくと、電流が流れないのでブレーキがかからない。この方法だと大勢で同時に観察ができる。
 

リサージュのシミュレーション 山田さんの発表
 山田さんは、YPCでは以前にも紹介されている「Function View」というフリーの数式グラフ化ソフトで、リサージュや単振動のシミュレーションを見せている。オシロスコープを使った実験の前後に、その原理の説明のために使うと効果的だ。数式が直ちにグラフ化されるほか、補助線なども入れるとができ、アニメーションの速度調節も可能だ。何よりも操作がシンプルなのがよい。ダウンロードはこちらから。
 

吹き上げ風車 大谷さんの発表
 口の部分から吹くと、上に向かって空気が出て、プラスチックボールが、その上で浮き上がるオモチャ。いわゆる「ベルヌーイフロー」のミニ版だ。
 科学館などでの大がかりなブロアーを使った装置しか見たことがなかった大谷さんは、個人で遊べるオモチャが珍しかったので、つい買ってしまったという。
 そういえば、このごろはこういう素朴な科学玩具が流行らなくなった。かくいう筆者の子供時代には、こういう遊びはたいていの子供が知っていて、博物館に行くとその大型のものが展示されていて、謎解きをしてくれるものだった。今は博物館でしか見ることができないものになりつつあるのかもしれない。

空き缶つぶし実験のの失敗談 大谷さんの発表
 大谷さんの教えていた中学校での事例報告。
 中学1年の大気圧の実験で、ふた付きのアルミ缶を使って、いわゆる「空き缶つぶしの実験」をさせたところ、缶の底に直径1cmの穴をあけた班があった。 穴の部分は、1cmのアルミの円が、すっぽり外に飛んでいた。おそらく、缶の中の水が蒸発しきってもなお加熱したためアルミが赤熱して脆弱になり、内部の空気の膨張で破裂したのだろう。水が残っていても、ふたをしたあと、更に加熱を続ければ、水は缶内で蒸発し続け、同じ事が起こる。
 幸いけが人はいなかったそうだが、赤熱した破片が当たったらと思うと、ひやりとする話ではある。大谷さんは「これからは、フタ付きの缶は、いっさい使わないことにする。」と語っていたが、よく行われる実験だけに、われわれも注意しなければいけないと思った。貴重な報告だった。
 

アクティブボード 渡辺さんの製品紹介
 中村理科の渡辺さんは、「アクティブボード」という、インタラクティブホワイトボード(電子黒板)を紹介してくれた。当日の発表でさりげなく使用していたものだ。
 パソコンの画面をプロジェクター(何でもよい)でボードに投影する。あとは、ボード上に投影されたパソコンの画面を専用のペンで操作するだけだ。マウスを使うのと同じ感覚で利用できる。手書き文字を書く、書いた文字を動かす、消すなどのさまざまな操作も可能だ。パソコンと一体になった電子黒板である。
 アクティブボードの一番の利点は、前を向いて生徒の反応を見ながら操作できること。慣れるとパソコンを利用しているのを忘れるような感じで利用することができるという。パソコンを使った教育が、こういった電子黒板を利用した授業にかわるかもしれない。
 コンピューターと授業との連携が進んでいるイギリスなどでは、すでに利用が進んでおり、世界的にも学校での利用が増えるのではないかと思われる。

 これはアクティブボードとは関係ないが、当日使用していたビデオプロジェクターである。渡辺さんの足もとに置かれていた。スクリーンのある壁までの距離はわずか1mほど。鏡を使って二往復反射させることで投影距離を稼いでいる。なかなか珍しいタイプで、参加者の好奇心を誘っていた。普通教室で教卓の足もとにおいて使えそう。
 ただし、渡辺さんによると、スクリーンとの間に人が立つとほぼ前面がケラれてしまって意外と使いにくいとのこと。一長一短と言うところか。

会場風景
 今回は東京会場だったため、いつもと違う顔ぶれも多く、参加者は40人を数えて大盛況だった。中には何年かぶりでお会いする人もいて、再会・交流の場となっていた。こうして会場を固定せず持ち回りにして、色々なところで例会を行うことは大変有意義なことだと思う。
 この日はおみやげにカレンダーをいただき、最後にガレージ品の争奪で盛り上がった。

二次会 御徒町駅そば「いはち」にて
 28名が参加してカンパーイ!会場の中村理科工業本社の正面にあるお店を借り切っての忘年会である。例会参加者40人も初めてだが、二次会28人もおそらく過去最多ではなかろうか。二次会のこのムードがYPCの活気を象徴している。

 二次会の席でもネタの紹介は続く。高橋さんがお披露目してくれたのは、東京メトロの売店で本日発売になったという、都営大江戸線をかたどったライントレーサー。付属の大江戸線路線図の上を光センサーで黒線を検知しながらなぞって走る。1万個限定販売で¥1000。これはお買い得と言うことで、さっそくまとめ買いの話が始まった。


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