例会速報 2006/01/21慶応義塾高校


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授業研究:仮説実験授業的展開例と摩擦の導入 喜多さん、鈴木さんの発表
 喜多さんは2005年9月の電通大例会で、仮説実験授業(的)展開を、皆で共有しようと提案していた。今回は慶應高校における実践一部が披露された。以下、喜多さんの授業を受けているつもりで、先ずは、自身の答えを出してみてほしい。答えは最後の方に載せてある。
 
問題1:左図手前はウオークマンでヘッドホン端子に直接コイルAがつないである。ラジカセはアンプ代りでマイク端子に直接コイルBがつないである。コイルAとコイルBを近づけるとウォークマンの音がラジカセから聞こえる。さて、コイルの中心の距離は同じにしておいて、コイルBを回転させると、音の大きさは?

仮説: (1) 変わらない  (2) 変わる

(補注)この実験は元東京理科大の故石川孝夫先生に見せて頂いたものである。「コイルはホルマル線よりも、被膜のあるビニール線の方がよい」これは、石川研最後の学生である小河原さんのコメントである。


問題2:アルミのパイプ(質量m1)をはかりの上に置き、その中にネオジム磁石(質量m2)を落とす。パイプ中を磁石が浮遊しながら等速で落下しているとき、はかりの示す値は?

仮説: (1) m1である   (2) m1とm1+m2の間   (3) m1+m2

 


問題3:紙の上に木片を乗せ、静かに力を加える。どのくらいの力で動き出すか?

仮説: (1) 木片の重さより小さい 半分以下
     (2) 重さより小さい 半分から1倍まで
     (3) 重さよりも大きい 1.5倍くらいまで
     (4) 重さよりも大きい 1.5倍以上





答え:1. (2)   2. (3)   3. (1)   いかがでしたか?

 ひきつづき、鈴木健夫さんから、摩擦の導入の演示実験について報告があった。

問い:人を段ボール箱に座らせて、それを横から引いたとき、どれくらいの力で動き始めるだろうか。
予想:(1)乗る人の体重以下  (2)体重程度  (3)それ以上   (予想分布はたいてい(3)が多数になる。)

 そして実験。 力を測るのは、背筋力計を用いる。200kgwまで測れるのと、最大値を記録するという機能が、この実験にぴったりである。教壇を使ったり、生徒の机の間を空けさせて真ん中でやったり、やる場所はそのときその教室に応じていろいろ工夫すればよいだろう。ダイナミックにやることは、生徒に与えるインパクトを大きくする上で意義があると思う。

 次いで、鈴木さんの摩擦の生徒実験での工夫2点
(1)木の表面の木目の影響をなくすために、こすれあう両面の上質紙を貼る。面積に関係なく摩擦係数が同じだということを確認するために、木片の2つの面に同じ紙を貼って実験すると良い。ただ、紙の弱点は、湿気や汗に弱いという点だ。
(2)動摩擦の実験の時は、木片につないだバネばかりを固定し、木片の下に置く板の方を動かとバネばかりの目盛りが見やすくなる。

三浦市の財産 黒柳さんの発表
 三浦市では小中学校の理科教材費はついに0円になった。そのかわり、教育委員会管理の実験教材があってそれを各学校に貸し出すのだという。黒柳さんが当日披露してくれたのは、この貸し出し用教材パックの一部だが、見たこともない面白いものがあった。
 まず、写真の「永久磁石式着磁器」。大きな強力フェライト磁石が内蔵されているが、ハンマーなどがすいつくと大人の男性が両手で持ち上げようとしても離れない。
 

 さらに、この着磁器に銅板などを近づけると、渦電流による電磁制動を「体感」することができる。静止しておけば感じないが、動かすと明らかな手応えがあるのである。
 また、フェライトを粉々に粉砕したものを下の写真のようにペットボトルにつめて、着磁器の上に置くと磁石になる。これは離れたところでよく振って微小磁石の方位を乱すと磁力が失われる。

 

 ボール型の方位磁針もあった。水に浮いたような形になっているので、水平方向だけでなく鉛直方向にも回転するので、立体的な磁場の方向を示すことができる。左のように寄せ集めると、磁針どうしの相互作用で向きがそろい、「磁区」が形成される。鉄などの強磁性体のモデルというわけだ。

目の構造実験器 小河原さんの発表
 慶応義塾ニューヨーク校赴任中、毎年生物科の教員に借りていた実験装置を、このたび購入したということで、紹介してくれた。まず、目の水晶体にみたてた水レンズの厚みを調整すると、網膜にクリアな像が結ぶ。その上で物体を前後に移動させると、像はぼやけるが、眼鏡のように凸レンズや凹レンズで矯正できる。ここまでは付属の道具を使って実験できるが、さらに目を細めると見えやすくなる実験として、レンズのかわりに小さな穴をあけた厚紙を使い、光量は減るものの文字の像が読めるようになることを示してくれた。
 このスウェーデン製の装置は少々高いが、ニューヨーク校で使っていたのはもっと小型のものだそうなので、そちらが安く販売されるようになることを期待しよう。
 

 関連で紹介があった「視力矯正めがね」ピンホールを通して見ると、レンズの焦点距離などとは無関係に像ができるようになるため、「よく見える」ようになる。乱視にも効果がある。近視や乱視でぼやけて見にくいとき目を細めると見やすくなるのも同じ原理だ。もちろん光量が減るので、明るい対象物にしか通用しないが。

真空中のホカロン 山本の発表
 使い捨てカイロは、鉄粉の酸化反応の際の反応熱を利用する。当然、酸素がなければ発熱しない。それでは使い捨てカイロを真空中に置いたらどうなるだろうか。室温程度にとどまるだろうというのが常識的な答えだが、事実は小説より奇なり。真空中においたホカロンの粉は、みるみる温度が下がって、数十分後には零下にまで達するのである。酸化促進のために活性炭やバーミキュライトに食塩水を含ませたものが混合してあるため、その蒸発で熱が奪われるのである。「ホカロンは真空中ではヒヤロンになる」トリビアネタに使えそうだ(無断で使わないでね→テレビ局様)。SSHの課題研究に取り組んでいた1年生が真空の実験中に偶然見つけた現象である。
 

気柱共鳴実験の音源 山本の発表
 気柱共鳴の実験では音源としておんさを使うのが一般的だが、おんさの振動数を確認するのが困難だし、音速を既知とするのも面白くない。振動数を正確に決められる音源があって、波長の測定から音速を求めて、音速の式を検証したいところだ。山本はフリーソフトの「多機能 高精度 テスト信号発生ソフトWaveGene for Windows」で正弦波トーン信号を発生させて音源にしている。このソフトは正確な振動数の正弦波waveファイルを短時間(3分間分を15秒程度)で作れるので、オーディオCDやMDに落として実験に使う。生徒にMDプレーヤーを持参させ、音源MDを班ごとに配布して実験する。リピートモードにしておけば長時間一定のトーンが得られる。このごろはMP3プレーヤーの普及が著しいので、来年あたりはMP3用のリンクケーブルとノートパソコンを用意する必要がありそうだ。
efu's Page http://www.ne.jp/asahi/fa/efu/
「多機能 高精度 テスト信号発生ソフトWaveGene for Windows」ダウンロードページhttp://www.ne.jp/asahi/fa/efu/soft/wg/wg.html
 

鶴岡八幡宮の魔鏡お守り 平松さんの発表
 鎌倉の鶴岡八幡宮の交通安全守には丸い鏡がついている。この鏡に日光を当てて反射させると、八の字を象ったハトの像(八幡宮のシンボル)が浮かび上がる。つまり「魔鏡」になっているのである。5〜10cm先に像を結ぶようになっているようだ。授与料は¥600。
 例会の席ではOHPの光で再現を試みたが、残念ながらうまく観察できなかった。太陽光線のような明るい平行光線でないとだめなのかもしれない。

高吸水性ポリマー 山本の発表
 SSHの課題研究で高吸水性ポリマー(ハイドロゲル)の研究に取り組んでいる生徒がいるので、試料として中村理科の高吸水性ポリマーN100(P70-3790-02)を購入した。わずか0.5gの粉末でコップ半分ほどの水がゲル化する。紙おむつや生理用品などの他、土壌改良材(保水剤)にもつかわれているそうだ。
 

 色々試してみると、エタノールなどは全然吸わない(左図)。また濃度の高い食塩水なども、ゲル化しない。ゲル化したものに食塩を振りかけると、液状になって保水状態が崩れてしまう。たかすぎさんらの解説によると、イオンが水和により水分子をポリマーの網の目から吸い出してしまうからだという。

 生徒実験ではさらに面白い結果が出た。ゲル化したポリマーを日なたに置くと、1〜2日で完全にとけて液状になってしまった。日陰においたものは1週間以上経っても液状にはならず、やがてひからびていく。紫外線の効果だろうと思うが、至近距離で殺菌灯を当てても、あまり反応は進まない。波長に選択性があるのかもしれない。

 このポリマー(アクリル酸ナトリウム重合体)は自然に分解し、環境負荷にならない物質になるのだという。

アメリカ土産のモルフォ蝶 小河原さんの発表
 ニューヨークから送った船便の引越し荷物を、年末にようやく受け取ったため、今例会でYPCメンバーへのお土産が頒布された。近年は、日本では手に入らないような品物も少なく、何にするべきか迷ったが、物理教育通信に掲載された岸沢さんの記事が興味深かったということで、光の干渉の教材として使える中南米原産の「モルフォ蝶」を参加者全員に買ってきてくれた。日本では高いが、米国では安く手に入るそうだ。ダンボール箱160個の荷物整理はまだこれからなので、買ってきた他の品物の紹介は、また後日とのこと。
 

バランス竹とんぼ 加藤さんの発表
 よく見かけるバランストンボだが、加藤さんは沖縄修学旅行で竹細工のものを見掛けたので買ってきた。1個1000円は高いと思うけれども、ナイスバランス。他にも、翅に鮮やかな絵を描いたものなどが販売されていたという。

くるくるレインボー 加藤さんの発表
 夏の科教協全国大会ナイターで、のらねこ学会(岐阜)の方が発表していた。軸を回転させるとレインボーテープがぼんぼりのように開く。形も色も面白い。加藤さんは、一度作ってみようと思っていたところ、山梨県立科学館の工作教室で扱っていたので、一緒に作らせてもらったという。オリジナルは東京の梅本さんという方らしい。
 

電通大少年少女発明クラブ 竹内さんの発表
 電通大のOBが電通大を会場にしてこども工作教室を開いている。「少年少女発明クラブ」として毎月2回活動し、うち1回は工作教室(一般応募枠あり)と合同で実施している。工作教室は1回完結である。詳しい活動の様子はここ。→http://www.dcc.uec.ac.jp/inv80/
 写真はオルガニートのような光検知式電子オルゴール(左)、と手作りラジオ(右)。いずれも子供達の作品である。
 

大山さんの「家庭でたのしむ科学の実験」 山本の書籍紹介
 千葉県の大山光晴さんが新しく本を出版した。

 「家庭でたのしむ科学の実験」大山光晴著(角川選書387)¥1400税別

 身近な材料を使った楽しい実験がたくさん紹介されているが、同類の他書と異なるのは、ただ「面白い」だけにとどまらず、科学的な原理・背景を実験や現象から深く掘り下げて解説していることである。対象読者は社会人であり子供ではない。大人が教養として、実験を通じて科学する楽しみを味わおうと呼びかけている。

「相対性理論とは?」 山本の書籍紹介
 書店でたまたま手にした一冊の本が気に入って衝動買いしたので、紹介した。

「相対性理論とは?」江沢洋著(日本評論社)」\2000税別 ISBN4-535-78452-3

 この本は特殊相対性理論の解説本である。少し進んだ高校生から大学で物理を学ぶ学生、さらに相対論を知ってはいるが、実はよくわかっていない物理教員や社会人を対象に書かれていると思う。

 本書は、1.光の力学、2.電気の力学、3.相対性理論、4.電磁気学の基礎方程式の共変性、の4部構成になっていて、特殊相対性理論の成立の過程を歴史的背景を正確にたどりながら示し、相対論的力学の概念をわかりやすく解説している。他書と異なるのは、式の導出が大変ていねいで、結果だけが示されているのではない点である。途中の計算過程を自分の手で追ってみようという気になる。
 マクスウェル方程式の導出や、そのローレンツ共変性の確認も、手取り足取りていねいに導いてくれる。通俗本でも専門書でも省略されている部分が、かゆいところに手が届くほどちゃんと書いてあるのである。
 物理屋なら座右に置きたい一冊だ。

二次会 日吉駅前浜銀通り「龍行酒家」にて
 15名が参加してアケオメ・カンパーイ!慶応の時はいつもなじみのこの店で。今年初めての例会も盛会だった。YPCも創立20周年を迎えようとしているが、市江さんら若手を中心とした新運営体制が胎動しつつある。今年も若い層の活躍に期待したいと思う。


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