2017年6月3日(土)明和高校での例会の記録です。

   

 バーチャルリアリティを使った学習の可能性 (植田さん)  

 このグラスはコンピューター。ICTに明るいフリープログラマーの植田さんが、マイクロソフトがプロ向けに販売したMicrosoft HoloLensを持ってきてくれました。

 始めに紹介されたのが、体の学習用に開発された学習ソフトです。しきりに「その心臓、植田さんの?」と聞く飯田さん。

 人の体の内部が可視化できる訳はありません。これはあらかじめ準備されたCGです。
 40万円はするという、サングラス型のパソコンです。  植田さんの体に合わせて表示しようとしましたが、これくらいが限界。
 次に現実の世界に、穴を開けるゲーム。穴が開くと飛行機の窓から見たような空が見えます。
 そこらじゅうに穴を開けたいという衝動に駆られます。

 良く似たものでは地面に穴を開けると、動物らしきものが出現するものもあります。穴から上を見上げるとキリンの顔まで見えます。

 植田さんは、黒板や紙上に表すのが困難で、イメージするのが難しい3次元の場の説明に有効ではと考えたそうで、一例として植田さんが開発途中の磁力線を紹介してくれました。

 何に使うかを考える必要がありますが、バーチャルリアリティが、個人だけではなく教室全体で共有できるこのようなテクノロジーは理科教育に新たな可能性を開くことになるかもしれません。
 壁に穴を開けるゲームです。キリンが様々な方向から観察できます。  これは、植田さん製作のソフトです。何に使うのが効果的でしょうか?


 v−tグラフの映像教材(植田さん)  

 以前紹介したアプリを、使って教科書によく出てくる等速の時間帯がある台形型のv−tグラフを理解させる映像教材を作りました。
 実際に電車に乗って、長すぎない適切な時間で、そのような速度変化になる電車を探し、三重県の近鉄阿倉川駅と川原町駅の間のデータを採用しました。

 20秒ごとに速さが表示され、それを用いて、v−tグラフを書き、2駅間の距離を求めるという流れのプリントデータも付属しており、各教員が編集可能なデータとなっております。
 一定時間に進んだ軌跡をマップ上に経過時間ごとに交互に色分けして表示するなど、細部まで作り込まれています。
 20秒ごとの道のりが線の長さで表示されます。


 力学的自然観(飯田さん)  

 高校生・大学生の力学的自然観の調査をライフワークとして行ってきた飯田さん。
 生徒の特質の異なる様々な高校・大学で調査を継続してきましたが、その度に、人の持つ誤概念は、正しい自然観を学べば、誤った自然観が変わるというような単純なものではないことを実感してきたそうです。
 Mizurのピアインストラクションなどのアメリカでの物理の正しい概念形成を目指したアクティヴラーニングの取り組みでは、誤概念を変えることに成功したという論文も出されています。
 一方で、ほとんど効果がなかったという実践結果も出ているのが現状です。

 飯田さんによると、討論と魅力的な演示実験等を活用した自身の実践でも、高い成果が揚がったと評価できるとのことです。
 球を静かに離し、図の点で糸を切ると、ボールの軌跡は?
 例会では、飯田さんの調査用問題の中で生徒が間違えやすい課題の1つを紹介してくれました。

 力学的エネルギー保存の法則の演習問題でもよく見かける、ある高さからコースターを辿った後の、斜め上方への球の発射の実験です。

 計算結果と実験結果を定量的にも扱いやすくなるように重力加速度を10m/s2とし、長さや飛び出す角度が設定されています。
 この他、水平投射等でも演出効果と命中率アップの両立を狙い、球が当たって鐘がなるという仕掛けを採用しています。

 さすが経験と改善のなせる技だと思わせる完成度の高い演示実験でした。
 高さの差は20cmで45°で発射。初速度約2m/sで、最高点まで20cm。


 単振動(!?)シリーズ (前田さん  

 過去に物理サークルで紹介された単振動らしきものを自作の実験器具で再現し、運動を解析しました。

 まずは、川田さんが仮想変位の原理を使って説明した運動です(力のモーメントでも簡単に説明できます)。
 ばねが単振動をしているという前田さんでしたが、棒がもっと長くて、上下のばねの振動が小さい場合でないと、単振動と見なすには苦しいのではないかという意見が大勢でした。
 川田さんが考えた問題ですが、単振動かどうかは...
 2つ目は、中部大の岡島さんが紹介された磁石の運動。コイルの電流をオシロスコープで観察すると、下向きのときの方が電流が大きくなります。
 岡島さんはこれを のためと説明していました。しかしこれには、一同、納得できず...
 上部のドーナツ型磁石が、下の磁石から離れれば離れるほど、コイルを貫かない磁束が増えるためではという声が出ました。
 先日の三重物理サークルでも同様の意見が出たらしく、前田さんはその影響をなくすため、測定方法を変え、磁石に黄色の印をつけ、運動アナライザーで磁石そのものの変位の時間変化を解析してみました。

 単振動になると、思われたこの運動ですが、初めは振動の中心より上側に大きく振動し、徐々に振動の中心が下がっていくようなグラフになりました。  
 コイルに生じる誘導電流は磁石が落ちてくるときに大きくなりますが。  上下非対称のグラフになりました。
 次に、ブロワーで一定の風量を送りピン球を浮かせた場合の運動です。

 川田さんはこれを単振動に近似できると紙と鉛筆での計算上では、考察していますが、近似条件である、ブロワーから振動の中心までの距離>>単振動の振幅 をとても満たしているようには思えません。
 いきわくにも掲載されている有名な実験ですが。  グラフは単振動に近いですが...
 最後にメリーランド大学の映像で見た金属枠に固定したばねの束縛を解いた後の運動です。

 これまた面白い運動ですが、単純な単振動でなく、いくつかの合成振動のような波形になりました。  
 いくつか振動が足し合わされているようです。  目視ではなかなか運動が捉えられません。

 先進科学塾「錯覚と物理」 (奥村さん  
 杉本さんと奥村さんで担当した先進科学塾の講座では、「錯覚と物理」というタイトルで1日の講座を展開しました。

 丸1日の講座でじっくり時間が取れるので、様々な錯視の紹介や、体験にに加え、お土産用に工作を多く取り入れました。
 前半では、板倉さん有名な3段に置かれた空マッチ箱2個と中身の入っているマッチ箱を持ったときの重さが中身のつまったマッチ箱の場所によって違うようにて感じるという話をティッシュペーパーの箱で体感してもらったり、ラミネーターで作った様々な錯視の紹介もしました。

 
  有名な錯視のラミネートも作りました。
 工作用には、杉本さんはエイムズの部屋を、奥村さんは、見返りドラゴンをアレンジした『みつめるニャン』の製作キットや見返りドラゴンをアレンジした『くねくねワン』を準備し、参加者にも好評だったそうです。

  自作の『みつめるニャン』です。

 スギナについて (伊藤政さん  
 物理サークルの中で貴重な生物専門の伊藤さん。今回は日本生物教育学会で西郷 孝氏とともに発表したというスギナについてのプレゼンをしてくれました。

 まずは、問題です。スギナはどの植物の仲間でしょうか?右の画像を頼りに考えてみてください。
 サークル参加者は生物についてそれほど知識がない人が多数を占めるため、かなり意見が割れました。

 答えは、シダです。スギナはシダ植物なので胞子で増えます。

 ツクシの胞子には弾糸というゼンマイやワラビには見られない糸状の構造があります。この弾糸に息を吹きかけると、広がっていた弾糸が胞子に絡みつきます。

 次の問題です。弾糸は何本あるでしょうか?
  ツクシは何の仲間でしょうか?   息を吹きかけると弾糸が瞬時に動きだします。
 答えは、右の電子顕微鏡の写真の通り。4本あるように見えますが、根元で二本がつながっており、2本であることが分かります。

 このとき、何が原因で弾糸の形が変化するのでしょうか。

 答えは、湿気(水分)です。

 弾糸は内側はセルロース、外側はペクチンと2つの層でできており、ペクチンの吸水性が高いため、外側が水を吸うと膨らみ、縮まるのです。

 乾燥時には弾糸が広がることによって、風により胞子が遠くまで飛ばされることになります。スギナを含むトクサの仲間が最初に陸上に上がった植物のグループであることから、そのころは今よりより乾燥し、弾糸を持つことが生存に有利であったのかもしれません。  
  電子顕微鏡で観察すると弾糸が2本なのが確認できます。   以前に伊藤昇さんが紹介していたセロハンで原理を説明します。

 力学的的エネルギーは3種類 (山本さん  
 写真のおもちゃですが、高くから落とすと、ゆっくり降下し、机に着地すると、あら不思議、机の上をころころ転がります。

 これは、ガシャポンのケース等、ごみになりそうなものをリユースしてを作ったおもちゃです。
 
 散歩するペットのよう!?

 仕組みは、写真を御覧下さい。本体が落下する際はゆっくり落下します。このとき、重力による位置エネルギーによって、速さが加算され、運動エネルギーに変換されるとともに、ひもが輪ゴムのねじれを生み出すことで、ゴムの弾性エネルギーを蓄え、落ちたのち、運動エネルギーとなり転がり始めるというもの。

 一度に3つおいしい(!?)実験です!  
 安価な材料のみで作ることができます。

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