2023年7月12日(日)向陽高校での例会の記録です。
ルート開平の仕方の意味(奥村さん) |
奥村さんはご自身のブログ「マンガとイラスト“ミオくんとなんでも科学探検隊”」の紹介とともに、授業で教えている手計算でのルート(平方根)の開平の求め方の意味を紹介しました。 開平の仕方がよく教科書などに書いてありますが、それを見ていても何の意味かがさっぱりわかりません。ポイントは四角形で考えること。図に描いていると意味が見えてくるのです。 写真は試しに243.5の開平計算をしているところです。数字を2桁づつに区切るところからはじまり、2乗しても区切りの数字を超えないように数字を選びながら進めます。やり方は教科書等を参考にしてください。要は、これらの計算は234.5の面積を持つ正方形の一辺がルートの答えなので、各桁ごとにこの面積を超えないような正方形となるように辺を決めているのです。写真の例では最初の区切りで10×10の正方形ができます。次に5が立って、さらに5×10が2つと5×5の部分が加わります。式で書くと、(x+∆x)^2=x^2+2x×∆x+〖∆x〗^2となります。以下同様に長方形2個と正方形が加わりながら面積234.5の正方形に近づいていきます。 これは賢いですね。この考え方は図のように、すでに17世紀の和算で扱っているとか。和算恐るべしですね。 |
音波とエネルギーの流れについて (石川さん) |
ずいぶん前のこととなりますが、2007年のセンター試験はソレノイドの磁場や波の屈折の扱いについて多くの議論を呼びました。上はその問題です。発表された解答は④。しかし、風が吹くとき一般には地面との摩擦によって地上風は上空風より弱くなるので、音の波面は風上側では上方へ、風下側では下方へと屈折して伝わり、風上側では音の聞こえにくいシャドーゾーンができることが知られています。選択肢④は「誤」とは言い切れません。 一方、「風上に叫んでも無益だ、という言い伝えは科学的に間違いである」という論文が発表されたらしいという情報が青森の野呂さんから石川さんに伝わりました。フィンランドの音響学者Ville Pulkkiさんらの研究によると、風上側上方への波面の屈折は100m以内では無視でき、距離1mほどの人の身体のスケールではむしろ「対流増幅効果」(convective amplification)によって風上では大きく、風下では小さく聞こえるというのです。音速340m/sに対して24m/sで風が吹くとき(または、自分が自由大気に対して動くとき)理論上のは風上・風下の音圧の差は低い音ほど顕著で2.5dBほどとなり、ヘルシンキ空港で行った実験でも良好な結果が得られたという報告でした。 これはドップラー効果にも適応されるというのが石川さんの理論。音の高さも大きさも音源が近くを通り過ぎるときに明らかに変化します。石川さんは、「音を横波表示で描いた波形の勾配が大きいほど粗密の変化、媒質の速度が大きくなる」と理論を展開しました。 |
中高生の常識に挑戦 ― 簡単手作り力学実験 (飯田さん) |
教室に手作り実験器具を持ち込み、黒板や教卓上で生徒も巻き込んで行う「半定量的な演示実験」は飯田さんの十八番です。長年の教育経験から生徒・学生の陥りやすい誤解(誤概念)を見極め、正しい概念に導いていく簡単実験の紹介です。 手拍子など一定時間間隔で斜面を進む小球。座標(移動距離)は1:4:9:16と時間の2乗に比例して増えていきます。ガリレイの実験です。ビー玉で作った振り子や輪軸でおなじみのものもありましたが、特に印象に残ったのは「動き出しで力を見つける」というテーマでした。 私たちは物体に作用する力を何気なく教科書風にベクトルで書き込んでしまいます。しかし力(ベクトル)は見えるものではありません。作用点、向き大きさなど初学者には高いハードルです。「支えているものを取り除いたとき、動き出す方向に力が作用していた」というアプローチでモーメントを含む力のつりあいを考えさせる方法はとても分かりやすいと思いました。 | |
自作バンデグラフと古いバンデグラフの復元 林さん) |
林さんは自作のバンデグラフと復元したバンデグラフを紹介してくれました。 一つ目は右の写真の自作バンデグラフ。高電圧発生装置(コッククロ・ウォルトン回路)を利用しています。下のローラーの場所で電荷を積んで上のアルミの箱に運び上げます。なんとも魅力的な装置ですが、残念ながら性能は今ひとつ。 二つ目はバンデグラフの復活です。どこの学校にも古い道具はあるものです。使用頻度が低かったり、経年変化によって傷んだりして埃をかぶったまま放置されている道具は悲しそう。そういう備品の代表格は静電気実験に欠かせないバンデグラフ起電機です。電源を入れてもベルトが回らなかったり、電荷がたまらなくて火花が飛ばなかったり、そもそもベルトが劣化し、切れてしまった状態で放置されている器具をみたこともあります。 林さんは教育大学に長年眠っていたシマズ製のバンデグラフ起電機を譲り受け、修理、復元に取り組みました。当初はモーターやベルトは健全でしたが火花が飛ばなかったそうです。ローラー部分を分解、掃除し、マニュキュアに含まれるコロジオン(ニトロセルロース)で新たにコーティングすると装置は完全に復活!ローラーをコーティングし直すことで電荷が劇的にたまるようになったのです。 林さんはその修理過程から起電機の仕組みそのものについても重要な知見を得たのです。静電気の導入の実験で「電気クラゲ」の演示がよく行なわれます。机のポリ紐をティッシュでこするとティッシュは机に張り付きます。ゆっくりと引き離しても広がりません。電荷が不足しているのです。素早く机から引き離すのがポイントです。塩ビパイプは負に帯電するので近づけると反発して電気クラゲは浮いた状態を保ちます。このような「急速剥離による電荷分離」がベルトとローラーの間で連続的に行われているのがバンデグラフ起電機の本質であることがわかったのです。 上部ローラー、ベルト、下部ローラーの静電気的な物性(帯電性のちがい)なども興味深く、林さんは起電原理の本性をさらに追及して完全オリジナルの自家製バンデグラフ起電機を開発中です。この夏の湿度下でも5~6㎝もの火花が飛ぶほどの怪物マシンができたとか。実物を見るのが楽しみです。 |
傘鍋ラジオ (杉本さん) |
「いきいき物理わくわく実験2」掲載の鍋ラジオ新バージョンです。本文中ではアンテナとして10mほどのリード線で電波の電場をキャッチしていましたが、コイルとして、広げた傘の外側にエナメル線を10巻きほど巻いたものを使って電波の磁場をキャッチします。傘を手で持って動かせますから、電波の磁場の方向がよくわかります。それと何よりも磁場で検出した方が感度よく電波をキャッチできます。 コイルのインダクタンスはおよそ0.1mHです。ナベーラップーアルミホイルでコンデンサーとしていますが、電気容量はおよそ0.1μFです。LC共振周波数をもとめると1600Hzとなり、ちょうどラジオの中波(AM)周波数です。傘の向きや鍋とホイルの重なり具合を調整すると、CBC(1053KHz)や東海ラジオ(1332kHz)の放送を聴くことができました。 |
持ち帰り用の簡単霧箱(林さん) |
ドライアイスだけで線源いらず、自然放射線、宇宙線を長時間観察できる林式霧箱は大変な優れものです。9/30、10/1に名古屋市科学館、電気の科学館で行われる「青少年のための科学の祭典名古屋大会」で林さんは林式霧箱をさらに作りやすくし、子どもたちに手作り工作してもらって持ち帰ってもらおうと考えました。ラップ、黒画用紙、プラダン、アルミ皿など身近な材料で構成されています。消耗品はドライアイスとアルコールです。科学好きな子どもたちが殺到しそうです。 |
テンセグリティーの張力(さん) |
昨年11月の例会で向陽の伊藤さんがテンセグリティーの張力をもとめる実験を紹介してくれました。向陽の伊藤式は右図PQを強いばねでつなぎ、糸A,BCの上におもりを置いてたるむ様子を観察するものでした。私はばねばかりで直接引いていく方法を考え、良好な結果を得ました。 |
実験で確認する受験物理 ― 波の伝播と位相の変化について(井階さん) |
平面波の反射、干渉、屈折、回折は、京都府立大学や北海道大学などの過去問が問題集で取り上げられ、生徒からの質問も多い分野です。私は昔から「いきいき物理わくわく実験1」の石川式エアパルス発生装置を使って「同位相の状態が媒質中をどのように伝わっていくか」に注目した授業、説明を行っています。例会では旧来のOHP(水波投影装置)を用い、右図のような波の伝搬を確認する実験を紹介しました。 |
簡単電磁誘導装置(石川さん) |
木材に磁石とLEDが埋め込まれています。その直上をコイルが通過すると動く向きによって2色のLEDのどちらかが点滅します。よくある実験装置ですが、石川さんの装置の特徴は電流の向きを示すLEDが近くにあって大変にわかりやすいことです。装置の完成度といい魅力的な装置です。 |
YouTubeでいきわく実験紹介(川上さん) |
現在大阪に住んでいる川上さんから「いきいき物理わくわく実験1,2,3」掲載のネタをYouTubeで発信しているとの連絡が来ました。その一例として送ってくれた「どっちが早い?」いきいき物理わくわく実験2p.75をみんなで見ました。しっかりした内容でよくわかります。期待ですね。 URLは、https://youtu.be/2qNB4_Bdndo です。 ほかに、「シャボン玉の固有振動」や「ニューコメンの大気圧機関」、「教室いっぱいモンキーハンティング」などの動画もUPしているそうです。動画チャンネルは「kawajyuku」、URLは、https://www.youtube.com/@kawajyuku7753 です。 授業に使ってもらうなど、物理を学ぶ学生の目に触れる機会を作ってもらえたら幸いですとのことです。みなさんフォローしましょう! |