CDが作る虹   (PDF版526KB

                           湘南台高校・山本明利

 先日、【理科の部屋】でCDに日光を当てたときに反射光が作る虹(干渉模様)のことが話題になりました。やってみるとわかりますが太陽光などを反射させるとCDは0次の反射光を中心に二重の虹のリングを作ります。円形の回折格子ですから干渉縞も円形になるのです。二重の虹は共に外側が赤、内側が紫でほぼ同じ明るさです。一見、二つの虹は1次と2次の干渉縞かと思うのですが実は違います。以下に述べるように、これらは共に1次のスペクトルなのです。ここでは内側にできる虹を内虹(Inner Bow)、外側にできる虹を外虹(Outer Bow)と呼ぶことにします。

CDが作る虹の理論

図1 円錐面の形成 直線をそれと斜めに交わる軸を中心に回転させると図1のように円錐面を作りますね。CD面に垂直に平行光線を当てる場合を考えると、CD面上の小部分で反射した光は光軸に対称に2方向に強め合う1次の干渉光線を作ります。これを、CDの回転軸のまわりに回転させると、干渉光は全体として図2のように二重の円錐面を形成することがわかります。これを虹円錐(Bow Cones)と呼ぶことにしましょう。空中の虹円錐は見えませんが、それはCDの前の空間に立体図形として確かに存在し、適当なスクリーンを置いて投影すれば、スクリーンの平面による虹円錐の切断面としてこれを観察することができます。内側の虹円錐とスクリーンの交線が内虹に、外側の虹円錐とスクリーンの交線が外虹になるわけです。このようすは実験的に確認できます。

図2 CDが作る虹円錐

 He-Neレーザー(波長632.8nm)で測定するとCDによる1次の回折角は28.1゜になりますから格子定数(ピット列の間隔)はdsinθ=λより1.34μmと推定でき、これから約400〜700nmの光に対する回折角は約17〜31゜と計算できます。これが虹円錐の頂角θとなります。入射光が平行光線であれば内虹、外虹の虹円錐は等しい頂角を持ちます。
 さて、スクリーンの位置を変えると、そこに投影される虹はどのように変化するでしょうか。白色光源を用いれば反射光は波長に応じて分散し、虹円錐は厚みを持つことになります。図3の影をつけた部分がそれです。スクリーンをCDからある程度はなしてAの位置に置いたとしましょう。この面と虹円錐の影をつけた側面との交わる部分が観察される虹の帯です。この場合、一番右側の図のように内虹も外虹も赤が外、紫が内の同心円になります。普通に観測されるのはこの配置の虹です。それではCDに近いBの位置にスクリーンを置いたらどうでしょう。実はこの位置では内側の虹円錐が裏返っていて、色の配置が逆になっています。投影される虹は真ん中の図のように、外虹は赤が外、紫が内で先程と同じですが、内虹は紫が外、赤が内になるのです。

図3 スクリーンの位置を変えたときの虹の配置の変化

 さらに面白いのは、内側の虹円錐がCDの前方10cm内外(波長により異なる)のところに頂点を持つことで、いわば色収差のある焦点もどき(Pseudo-focus)ができることになります。この焦点もどきよりCDに近い側では虹の配列が逆順(赤が内側、紫が外側)になります。これも実験的に確かめることができます。中心においた小さなスクリーンを前後させると赤から紫の光が順次焦点を結び、それと共に色の配列が連続的に逆転していくのが観察できるのです。

虹円錐理論の実験的検証

 CDが作る虹をはっきりと観察するためにはいくつかの工夫が必要です。まず、光源と同じ方向にスクリーンを設ける必要があるため、厚紙の中央にCDと同じ大きさの穴を開けるなどして光線を導き、CDによる反射光をその裏面に投影して観察します。斜めに反射させて薄暗い室内に光線を導いてもよいのですが、虹の中央にできる0次の反射光がまぶしくて虹の観察を妨げるので、むしろこれを上記の穴から外部に戻してしまい、1次の干渉光だけを観察するのが有利です。そこで図4のような「CD虹見箱」を考案しました。

図4 CD虹見箱の構造

 奥行き20cm程度の手ごろな段ボール箱を用意し、内部を艶消し塗料で黒く塗ります。次に一面の中央にCDと同じ大きさの穴を開けます。この面の内側には白い紙を貼り、スクリーンとします。またこれと向かい合う面の中央にCDを貼り付けます。CDの穴に当たる部分に合わせて箱にも同程度の大きさの覗き穴を開けておき、この穴を通して中の虹が覗けるようにします。

写真1 CD虹見箱 写真1 CD虹見箱

 次に、ボール紙を丸めてCDと同じ径の円筒を作り、穴に差し込んでフードとします。円筒の長さは25〜30cm程度が適当で、内面はやはり黒く塗っておきます。さらに円筒のCDに近い端面の中央に直径5cm程の白いボール紙の円板を宙づりにして固定し、内虹を観察するためのセンタースクリーンとします。このセンタースクリーンは、覗き穴から覗いたときに正面の光源をさえぎる遮光板の役割も果たします。以上で装置は完成です。この装置を太陽やスライドプロジェクターなど平行(に近い)光線を出す光源に向けて、箱の内側に投影された虹を観察します(写真1,2)。CDの後ろの覗き穴から覗いてもいいし、箱のふたをあけて上から覗き込んでも観察することができます。フードの円筒を抜き差しすることでセンタースクリーンの位置を変え、焦点もどきや内虹の逆転の経過を観察することができます(写真3)。暗い室内で、スライドプロジェクターを光源にして観察するときには、フードとセンタースクリーンをはずして内虹のみを箱の穴から外に導き、部屋の壁面に投影することもできます。箱の中には外虹が映っています。

写真2 CD虹見箱内の外虹と内虹 写真2 CD虹見箱内の外虹と内虹
 写真3 逆転している内虹の拡大
 写真4 穴から覗いた外虹

 いずれの場合も、虹を鮮明にするコツはCD(直径12cm)の中央を直径10cm程の円形の黒い紙で覆い、回折格子の働きをする部分を幅1cm程に絞ってしまうことです。こうすることで虹はやや暗くはなりますが、隣り合う格子部分からのスペクトルが混じりあわなくなるので、色が鮮やかになります。また焦点もどきの非点収差も改善され、より焦点らしくなります。そもそもこの「CD虹見箱」は内虹と外虹を区別して虹の重なりを防ぐことで、虹の色を鮮明にする効果があるのです。

「虹プロジェクター」のアイデア

 「CD虹見箱」の発展型として、「虹プロジェクター」を作ることもできます。点光源からの光では光軸がずれ、見かけの格子定数も変わるため、平行光線の場合とは反射の方向と分散角が変化しますが原理は同様です。図5のように配置を工夫すると光源からの直接光と0次の強い反射光(白色光)および1次の外虹を遮光して、内虹だけを開口部から外へ導くことが可能です。円形の虹だけを壁面に投影するプロジェクターというわけです。点光源にはケラレを少なくするために小型で明るいクリプトン球などを用いるとよいでしょう。光源またはCDの位置を調節できるようにしておくと円形虹の大きさを調節することもできます。

図5 虹プロジェクター

【関連文献】
CD表面に眼視で直接スペクトルを見る観測法については以下のすぐれた実践があります。

「CDで見るレインボー・リング」倶知安高等学校・佐々木淳さん(BUTURIサークルほっかいどう
「コンパクトディスクを用いた光の観察グッズ」元京都府立工業高校教諭・水巻守代さん

YPCニュースNo.110掲載】  (PDF版526KB

BACK一つ前のページへ

天神のページ・メニューへ戻る

To HOMEホームページに戻る