ダイナビーの力学・Part2  (PDF版425KB

神奈川県立湘南台高等学校・山本明利

【4】ダイナビーの回転数

 ダイナビーの動作原理については前報で解明しました。この原理をもとにダイナビーのうたい文句「毎分8000回転」の妥当性を検証してみることにしましょう。前述のとおりダイナビーの回転子は、軸を球殻の赤道部の溝にこすりつけるようにしながら回転し、その摩擦により回転を加速します。
 高速回転時は手首は往復のスナップ運動をしていますが、このスナップ1往復の間に回転子の軸は赤道を1周する歳差運動を行なっていると考えてよいでしょう。

 回転子の軸径は2.0mm、球殻の赤道直径は約60mmですから、軸が溝に対して滑りなく転がっているとすると、軸が1周する間に回転子は約30回転していることになります。
 うなりをあげるほどの回転をしている時は、毎秒4回ほどのスナップ運動をしますから、この場合の回転子の回転数は毎秒120回転すなわち7200rpm程度であると見積もれます。「毎分8000回転」はあながち誇大な表現ではなかったのです。

【5】回転数の直接測定

 上記の考察を裏付けるために、ダイナビーの回転子の回転数を直接測定することを試みました。原理は簡単で、電磁誘導を利用します。まず、回転子の赤道部(スターターのひもを巻き付ける溝がある)にドリルで浅い穴をあけ、小型(直径4mmの円柱状)のネオジム磁石を埋め込みます(写真1)。次に、ダイナビーの球殻の底部にピックアップコイルをセロテープで貼り付けます(写真2)。コイルはエナメル線を直径15mmの円形に10回ほど巻いただけの簡単なものです。


写真1 回転子に磁石を埋め込む

写真2 底面のピックアップコイル

 回転子がどう回転しても、この磁石は必ず底部の中心を通過しますので、コイルの電磁誘導出力を検出すれば回転子の回転数が測定できます。この装置でのコイルの出力は高速回転時には10mV以上になりますから、直接オシロスコープで観察できます。
 写真3と4はこのようにして観察したオシロスコープ画面です。周期はそれぞれ、8.5ms、8.0msと読めます。回転数にしておよそ7060rpm、7500rpmとなり上記の考察を支持します。


写真3 時間軸5ms/div、縦軸10mV/div

写真4 時間軸1ms/div、縦軸10mV/div
  


   図2 「野津FFT」によるフーリエスペクトル

 この結果は、都立日比谷高校の吉澤純夫氏が「音の分析に適したFFTソフト」の中で、測定例として紹介している134Hz=8040rpmとも整合します。吉澤氏の測定はダイナビーの出す音をマイクで拾ってFFTにかけたものですが、上記の装置の出力はちょうどマイク出力のレベルなので、これを直接パソコンのマイク端子に入力してサンプリングすることもできます。図2はそのようにしてFFTを施したダイナビーの信号です。吉澤氏が紹介してくださった「野津FFT」を使用しています。137Hzにスペクトルのピークが見られ、その倍成分が観察されます。137Hz=8220rpmですので、これまでの考察をさらに裏付ける結果となっています。
 各数値が微妙に異なるのは、測定のたびごとに力の入れ具合が異なるためで主要な問題ではありません。いずれの結果もオーダーが一致しているので、「毎分8000回転」は検証されたと言ってよいでしょう。

【YPCニュースNo.146(2000/05/13)掲載】 (PDF版425KB

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