「のぞみ」火星へ  (PDF版381KB)

湘南台高校 山本明利


 7月4日(土)午前3時12分、文部省宇宙科学研究所(ISAS)は鹿児島宇宙空間観測所から、わが国としては初めて火星をめざす探査機、PLANET-Bを打ち上げ、所期の軌道に乗せることに成功しました。PLANET-Bは「のぞみ」と命名されました。日本が惑星間探査機を送るのは、1986年にハレー彗星をとらえた「さきがけ」、「すいせい」についで3機目です。
 「のぞみ」の当初軌道は、近地点高度約400km、遠地点高度約42万kmで地球を回る長楕円軌道でした。月の軌道半径が約38万kmですから火星どころか、月まで届くのがやっとという軌道です。「のぞみ」はこの軌道を6周しながら、慎重に軌道微修正を重ね、月との遭遇を待ちました。通りがかりの月からエネルギーをかすめ取って経済的に増速する、惑星間探査機ではもはやおなじみとなったスイングバイを実施するのです。月によるスイングバイは技術試験衛星「ひてん」や、磁気圏探査衛星「ジオテイル」で練習済みでしたが、今回は火星という遠くの的をねらいます。
 チャンスは9月24日16時23分に訪れました。もちろん予定どおりです。「のぞみ」はこのとき、月の進路を内側から外へ横切るように、月から約5800kmの至近距離を絶妙のタイミングで通過し、月に引きずられるようにして増速しました。
 このスイングバイにより、軌道の遠地点は170万kmとなりましたが、この距離は地球の重力圏ぎりぎりの距離で、ちょっと間違えば惑星間空間にさまよい出てしまいかねない微妙なところです。しかも、その位置は地球軌道の内側、すなわち目標の火星とは反対側です。
 11月4日にこの遠地点に達した「のぞみ」は再び地球をめがけて落ちてきます。その途中で12月18日に再び月と出会うことになるのです。月はこの間に地球を3周しています。これまた絶妙のタイミングです。その月の背後約4400kmを、今度は外側から内側へ横切るように通過し、再び月に引きずられてエネルギーを得ます。これで地球脱出に必要な速度は上回ります。
 しかし、このとき月は地球軌道の内側にあり、その対地速度ベクトルは惑星の進行方向と逆向きであることに注意してください。この加速は火星に行くには有効な加速になっていません。最後のはなむけは地球自身によって行われます。
 月と二度目の出会いをした2日後の12月20日、「のぞみ」は地球のすぐ後ろに回り込み、ふるさとに決別をします。地球からエネルギーをもらいつつ、自らもスラスタを噴射してパワードスイングバイを行います。残念ながらこのときは「のぞみ」は日本から見える位置にいません。すべては完全自動制御で行われます。管制スタッフは祈るような気持ちで「のぞみ」の旅立ちを見送ることになるでしょう。
 綱渡りというか、飛び石遊びのような高度な軌道制御ですが、この最後の難関をクリヤーすれば火星へは一本道です。'99年10月11日の到着までほっと一息というところです。
 「のぞみ」はその後、火星の周回軌道に入り、長期間にわたり火星大気や磁気圏の探査を行なうことになっています。観測終了後も、28万人余りの他の応募者と共に、私と5人の家族の名前が刻まれたマイクロプレートをたずさえ、「のぞみ」は火星の人工衛星となるのです。

【関連情報】ハイパーリンクにはなっていませんのでURL文字列をコピーしてアクセスしてください。

のぞみホームページ http://www.planet-b.isas.ac.jp/
ペーパークラフト http://www.planet-b.isas.ac.jp/paper.html
最新の画像アルバム http://www.planet-b.isas.ac.jp/MIC/MIC_j.html
軌道図 http://www.planet-b.isas.ac.jp/whereis.html

YPCニュース No.127 ('98/10/13)に掲載 (PDF版381KB)

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