水と油の間に (PDF版764KB)

神奈川県立湘南台高校・山本明利

 ベストセラーとなった後藤道夫先生の「子どもにウケる科学手品77」(講談社)を読んでいて、「あれ?」と気になった写真がありました。「42 水と油の間に浮く氷」の項にあるp.109の写真です。容器に水とサラダ油を入れ、更に氷を落とすと、水とサラダ油の境目のところに氷が浮くという現象で、

 サラダ油の密度<氷の密度<水の密度

となっているために起こるという説明があります。特に珍しくもない現象に思えるかもしれません が、その写真にある氷の浮き方に目が止まりました。写真の氷は右の図のようにほとんど油の中にいて、まるで水の上に乗っているように見えます。 ご承知のように、水に氷を普通に浮かべると、氷の体積のおよそ9割は水中に没し、水面に出る部分はごくわずかです。ところがその上に油を注ぐと氷が水の中から浮かび上がってくるということ になります。


 実際に、水に浮かせた氷(写真上左)の上にサラダ油を注ぐと、氷はしだいに浮き上がってほとんどサラダ油の中に入り、ほぼ境界面に乗るようにして静止しました(写真上右)。本にあった写真のとおりです。このとき、氷の水中にとどまる部分とサラダ油中に入る部分の比はどのよう決まるのか計算してみました。水、氷、油の密度をそれぞれρρρとし、直方体の氷の厚さを、そのうち水中に没している部分の厚さをとします。さらに、水と油の境界面の深さ、つまり油の層の厚さをとします。直方体の底面での力のつりあいの条件から

が成り立ちますから、これを整理して、

を得ます。

 つまり氷の厚さと水中に没する部分の体積比は、氷と水それぞれと油の密度差の比になるという結果です。あらためて観察してみると、はきわめて0に近いですから氷とサラダ油の密度は非常に接近しているということになります。もし両者が等しいなら、氷は油層中の任意の場所に静止できるわけです。そもそも、空気中で氷を水に浮かせると、その体積の9割が水中に没するというのは、上のρを空気の密度と読み替えて考えれば、氷の密度が空気より水にかなり近いからだったということになります。

 今度は理科年表をひもといてみます。0℃での水と氷の密度はそれぞれ1.00g/cm3と0.917g/cm3、菜種油は20℃で0.91〜0.92g/cm3とあります。氷と菜種油は逆転もありうるほどの微妙な密度差です。菜種油の密度を0.91として計算した場合、x/tの値は約0.08となります。氷の体積の1割ぐらいが水中にあるということですが、観察したところではこの割合はもっと小さいようです。つまり氷と油の密度はもっと接近しているということです。

 それほど微妙なら氷を浮かせることも可能だろうと思い、製氷皿の中からなるべく気泡の多そうな氷を選んで入れてみました。はたせるかな、その氷は油の表面すれすれに浮いたのです。油面に浮いた氷からは、とけた水がゆっくりと滴ってきます(写真下)。なかなかおもしろい光景でした。

 そういうわけで、この実験はサラダ油を使って行なうと、時には氷が油に浮かんでしまって失敗することもあるはずです。氷の選別が必要なのです。うまく水と油の境にとどめるためには、氷はなるべく気泡の少ないものを選ばなければいけません。


【おまけ】油に浮いてとけていく氷の最後のひとしずくは、氷に含まれていた小さな気泡と表面張力のために、油の表面にぶら下がるようにして「浮き」ます。油の表面が窪んでいるようすが右の写真でわかります。「油に浮く水」・・・おもしろいと思いませんか?


【2000/02/05 YPCニュースNo.143掲載】 PDF版764KB)

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