重い液体                 (PDF版267KB

県立湘南台高等学校 山本 明利

 昨年、トリチェリーの実験に凝っていたころ、何とか水銀と水の中間ぐらいの密度をもつ手頃な液体はないものかと「重い液体」探しをしたことがあります。水銀は密度が大きくて揮発性が低く、トリチェリーの実験には最適ですが、高価な上に有毒で色々神経を使います。水は安全ですが、密度が小さいので液柱の高さが10mにも及び、教室で手軽に実験を見せることができません。そこで、両者の中間ぐらいの密度の液体探しをしたのでした。
 昨年ご報告したのは硫酸バリウムのコロイド溶液(胃のX線検診の時に飲まされるあれ)でした。コロイド溶液でもOKというのは一つの発見で、濃度を変えると密度を変えられるというのも好都合でしたが、濃度を増すにつれ粘性も大きくなってくるので、密度にして2.5ぐらいが実用の限界でした。トリチェリーの実験の液柱にして約4mということになります。やはり教室の天井を突き抜けてしまうので、1階で仕掛けて2階で観察というようなことになります。
 そこで、NIFTY-Serveの教育実践フォーラム【理科の部屋】でこの話を持ち出して情報を求めたところ、テトラブロモエタンという物質が浮上してきました。【理科の部屋】議長の楠田さんやFSCIの地球科学会議室の議長、びんた切れの水晶さんのご紹介です。理化学辞典などで調べたところ、この物質は臭素中にアセチレンを通ずる時にできる無色の液体で下記のような性質を持っています。

物質名:1,1,2,2-テトラブロモエタン(tetrabromoethane)
(sym-テトラブロモエタン、四臭化アセチレンとも呼ぶ)
化学式:Br2HCCHBr2
分子量:345.65
融 点:0.1℃
沸 点:114℃(2Torr)
比 重:2.967
入手先:純正化学株式会社 東京都中央区日本橋本町4-4-16
価 格:\2,000/500g

 比重が3なのでトリチェリーの実験の液柱は3.3mとなり、やはり天井以下にはおさまらないので、当初の目的は達せられなかったのですが、これはこれでけっこうおもしろそうな物質なので、何かに使えるかもしれないと2瓶(500g×2)ほど購入してYPCの例会でご紹介しました。
 びんた切れの水晶さんに教わったところでは、この物質は、鉱山で金属を含む有用鉱物を他のクズ鉱とよりわけるのに使うのだそうです。通常の造岩鉱物の比重は2.5〜3.0ぐらいなのでテトラブロモエタンには浮くことが多く、沈んだものは金属を含む有用鉱物の可能性が高いというわけです。実際、液体はずっしりと重く、500gでも普通の試薬瓶の半分ぐらいの体積しかありません。ビーカーに取り分けて、校庭で拾った普通の石ころや標本の水晶などを入れて見ると液面にぷかぷか浮きます(写真左)。次に黄鉄鉱を入れてみたら見事に沈みました(写真右)。これだけでも教材に使えそうです。
図1 浮いた水晶図2 沈む黄鉄鉱

 芳香族で独特のにおいがあり、長時間かいでいると不快です。きっと健康にも良くないのでしょう。部屋は換気した方がよさそうです。水に比べると粘度も高く、オイルのようにねっとりした感じです。
 ビーカーの透過光が虹色に分散しているのをだれかが目ざとく見つけました。屈折率も高そうです。レーザーを持ち出して、早速屈折の実験が始まりました。しかし、透明度がかなり高いので、そのままでは観察しにくいようです。
 テトラブロモエタンは水との親和性がないようで、手につくと水洗いぐらいでは落ちません。石鹸で洗ってもなかなかにおいがとれなくて閉口します。上に水を注ぐと、ほとんど混じり合わず、はっきり2層に分かれます。このビーカーを例会後2週間にわたって放置してみました。すると数日後、下のテトラブロモエタンの部分が白濁しました。原因は不明。水と反応したのかもしれません。しかし2週間後、上の水が蒸発してなくなるといつの間にか白濁も解消していました。何が起こっているのでしょう。
 テトラブロモエタンは一応揮発性ですが、水より乾きは悪いようです。濡れた岩石が乾くのに丸一日かかります。アクリルとビニールホースを浸しっぱなしにして2週間ほど観察してみたところ、アクリルには何の変化もありませんでしたが、ビニールホースは若干ふやけて膨らみました。しかし、液から取り出して十分乾燥させたところ復元しました。
 以上、例会での観察のまとめです。比重が2以上の液体というのは非常に珍しいので、これはきっと何かの役に立つでしょう。ところで、トリチェリーの実験を教室内で行うために、できれば比重が4以上の液体がほしいのですがどなたかご存じないでしょうか。

【YPCニュース No.92 95/11/09 掲載】(PDF版267KB


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