U−CAS(ユーカス)は株式会社増田屋コーポレーションが発売しているおもちゃで、しゃれたデザインのコマが宙に浮いて回転します。銀色のコマが黒い台(ベース)の数センチ上空に浮遊し、怪しげに揺れながら音もなく回転を続ける様子はなかなか超常現象的ですが、原理は割合単純で、もちろん非科学的なものではありません。Y−CAS(ワイカス)は、このU−CASの自作版です。私の所属する横浜物理サークル(YPC)のYをとりました。
U−CASは永久磁石どうしの反発力を利用しており、電源や回路は一切内蔵していません。
コマはフェライトリング磁石にプラスチックの外装を施したものです。ベースはプラスチックのケース内に四角いフェライト板が内蔵されており、その中央部を除く部分がロの字型に強く磁化されています。コマとベースのN極どうしが反発してコマを浮遊させます。ベースの中央が磁化されていないので、中央部にいわば「磁界のくぼみ」ができ、コマがそこに落ち込む形で安定します。
また、N極どうしの反発という不安定な姿勢を保つためにジャイロの原理を利用していますから、スピンがぜひとも必要です。浮遊体がコマである理由はそこにあります。
U−CASの構造は上記のように驚くほど単純なものです。したがって、適当な材料の組合わせを見つければ自作は可能だろう、というのがY−CAS開発の動機でした。つまり、磁石でコマを作って、大きな磁石の上で回せばよいのです。
★コマの材料★
私は以下のものを横浜の東急ハンズ(素材のデパート)で購入しました。似た物で代用可能です。
(ア)フェライトリング磁石 ハンズ商品番号 MF-21 2個組\280 (外径25.0mm、内径12.8mm、厚さ7.0mm、質量12.2g)
(イ)銅製たいこ鋲 ハンズ商品番号 4-061-00113 23本入り\130 (畳鋲のようなもの、画鋲より大きく頭が丸い、長さ13mm、頭部径10.6mm)
(ウ)粘着剤付フェルト(椅子やテーブルの足に貼って床を保護するパッチ)「インテリアフェルト」 北川工業 IF-28 8個入り\380(直径28mm)
または「ノンスリップ」 ソニーケミカル株式会社 P196 8個入り\360 など(直径24mm)
(エ)木の丸棒 90cm \80 (丸木箸でも可。コマの軸にする。直径6mm程度だとU−CASのバランスウェイトがそのまま使える。)
★ベースの材料★
(オ)強力リング磁石(特大) ウチダ 130-0903 10個組\8200(外径80mm、内径40mm、厚さ12mm)
★その他用意するもの★
(カ)3.5インチフロッピーディスクのプラスチックケース(コマを持ち上げるのに使う。)
(キ)適当なバランスウェイト(U−CASのものを流用するのが早道。プラスチックのワッシャ、子供用の穴開きおはじきなどが利用可。ボール紙やアルミフォイルを切り抜いて作ってもよい。色々な重さの物を用意する。ただし、磁石につくものはダメ。)
(ク)O−リング(これもU−CASのものを流用してもよい。(エ)の丸棒にぴったりはまるもの。バランスウェイトを固定するのに使う。)
製作といっても、ベースは大型フェライトリング磁石(オ)をそのまま水平な机の上に置くだけですから、作るのはコマだけです。以下にコマの工作手順を示します。
さて、コマも完成し、さっそく空中浮遊に挑戦!といきたいところですが、ここで危険防止のための重大な注意があります。以下には必ず目を通して遵守してください。
ベースに使う磁石、は、強力なフェライト磁石です。質量も200g以上ある大きなものです。10個組みでくっつきあった形で納品されますが、磁力が強力で密着していると大人の力でも容易に引き離せません。机の角などにあてがって、リングの面方向にスライドさせてはずすのが安全です。
このように強力なので、不用意に二つの磁石を近づけると指を挟まれて大変危険です。重いので血豆を作る程度ではすまない恐れがあります。私も指の皮を噛みちぎられたことがあります。特に小学生程度の力では引力に抗しきれないので、なすすべもなく負傷にいたる危険があります。
何も注意せずに複数の磁石を生徒に与えれば必ず二つをくっつけてみようとしますから、上記のような事故は当然予想できます。高校生レベルでも危険防止について十分に解説する必要があります。
コマの回し方・浮かせ方は製品版U−CASも自作版Y−CASも基本的には同じですが、製品版の方がやはり良くできていて、コツをつかみやすいので、できれば製品版で練習して習熟してから、Y−CASの方に挑戦されるのが早道かと思います。製品版をクリヤーできないでいる人にはY−CASはやや厳しいかもしれません。
まず、ベースの大型磁石(オ)をN極を上にして、水平面上(始めはスチール机はさける)に置き、フロッピーディスクのプラスチックケース(カ)を重ねて置いて、その上でコマを回してみますが、なかなか思うようにならないでしょう。ベースの中心付近(ドーナツの穴の部分)ではコマは下向きに引かれ、磁石の上の部分(ドーナツの実の部分)では反発力に転じますから、中心付近の安定して回れるスポットは非常に狭く、ちょっとでも横向きの運動があるとコマは激しく暴れ、たちまち倒れてしまいます。製品版U−CASのベースはこの懐がかなり広く作ってあるので比較的回しやすいのです。
少々暴れてぐらぐらしているようでも、なにしろ回す事ができたら、さっそくフロッピーディスクケースを両手で持って、水平を保ちながらゆっくりと1cmぐらい持ち上げてみます。この過程でフロッピーディスクケースを微妙に上下させたり、傾きを調節したりすると、あるところでコマの動きがすっと安定する事があります。暴れていたコマが、ウソのようにすっと静かになるのです。その場所をスイートスポットと呼ぶことにします。体験的にこのスイートスポットを発見する事ができれば、解脱への第一段階は達成されたと言えます。
スイートスポットに入ってコマが安定したら、その状態を崩さないように注意しながら、フロッピーディスクケースをさらに持ちあげていきます。それまで下向きだった磁気力が、あるところから上では上向きの反発力になります。浮遊点はスイートスポットのすぐ上にあります。目に見えない磁界のくびれをくぐらせて、その上のくぼみにコマを押し込むのです。重量が適正なら、ゆっくり持ち上げる過程で、コマは自分から板を離れてふっと浮遊します。
しかし、始めからそううまくはいかないはずです。コマが勢いよく飛び上がってしまうのは軽すぎですからバランスウェイトを増します。安定点を過ぎても浮上せず、みそすりを始めるのは重すぎですからウェイトを減らします。ウェイトを加減してちょうどよい重量を見つけてください。重量は一番重要なパラメータです。最適重量の幅は±0.1g程度という微妙さです。
ベースの水平も大切な要素です。コマがいつも同じ方向に逃げるときには、その方向のベースと机の面の間に紙片を挟むなどして高くし、傾きを調節します。製品版U−CASには、傾き調整用のくさびが付属してきます。浮上時にコマが上下に振動をするような時は、下からそっとフロッピーケースをあてて振動を吸収し、安定させます。こうして安定させると滞空時間が伸びます。