例会速報 2003/05/17 慶應義塾高校

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ビデオによる授業研究の続き 鈴木健夫さんの発表
  今月の授業研究は、3月例会でビデオを見て検討した鈴木さんの授業について、再度検討した。4月末に行われた科教協関ブロ(東京)大会の物理分科会で鈴木さんはビデオを見せながらレポートしたが、そのときの議論を逐語録にして例会に持ってきた。以下、鈴木さんの談話。

 科教協関ブロで、仕事の導入をどうするのかという点について指摘があった。私(鈴木)は、仕事の導入は単に式を与えて、「力と距離に比例する何かの量が必要。それが仕事だ」という感じで上から押しつけ的に与えてしまう。東京の吉埜さんはそうではなく、仕事の導入段階から、仕事の原理を教えて、仕事という量を導入する必然性を説明するという。YPCでこの話題に関して議論したところ、やはりほとんど導入は定義だけで終わらせているという人が多い。後になって「ああ、そうだったのか」と思えばいいのではないか、と私(鈴木)は思う。

ビルの窓ふき 喜多さんのリバイバル実演
 この話題の発展として、仕事の原理を見せるのに、「ペンキ屋のゴンドラ」がいい、と喜多さんが助言。それを知らない方がほとんどだったので、さっそく実演。慶応にある喜多さん自作の「ペンキ屋のゴンドラ」の登場だ。天井のフックにゴンドラをつるして自分で自分を持ち上げるという演示実験。

 喜多さんが乗っているのは、生徒用の机の天板の四隅に穴を開けてロープをつなげて、ゴンドラにしたもの。天井に吊るされている定滑車が二輪のものなので、簡単に片手で引き上げることができるが60cm引いても、その四分の一の15cmしか上がらない。

 なお、実験上の注意として、ロープは必ず乗っている人自身が引くこと。この場合上のフックには一人の体重分の力しかかからないが、他人に引かせるとそれ以上の力が加わることになり、フックがはずれるおそれがあるという。意外だが、落ち着いて力のつり合いを考えてみると納得できる。ねじ込み式のフックは頼りないので、鈴木さんは教室入り口の「梁(はり)」を利用しているという。

 この授業研究をめぐって、例会では更に、YPCの中で授業公開ができないかという話になった。校内の同僚で授業を見せ合うというのはなかなかハードルが高い。共通の話題になりにくいし、未だに授業を見せるということへの抵抗感はかなりあるのが教育現場の実態だ。しかし、YPCの仲間同士なら見せあいやすい。ただその場合、部外者が見に来るということのハードルをどう越えるかが問題になる。行く側は、主催団体をどこか公的なものにしない限り、年休で行かざるを得ないだろう。しかし、年に1回か2回なら、年休を取ってでも見に行きたい。長期的な目標として、ぜひ実現しよう、ということになった。

空中浮遊物体 加藤俊さんの発表
  加藤さんがうやうやしく取り出したのは、派手なデコレーションのついた時計付きの円輪。円の中心付近にアルミホイルを丸めたものを持っていくと空中に浮遊する。もちろん糸でつっているわけでも、空気で吹き上げているわけでもない。まわりのリングが妖しく点滅する。マイクロ波か超音波かと憶測が飛び交う。

 本来は、下右の写真のように地球儀が浮遊する。手で触ることも、回転させることもできる。手ごたえから見るとどうやら磁石が仕込まれているようだ。

 この装置の秘密はリングから内側に突きだした二本の角にある。これが一対のフォトインタラプタになっているらしい。つまり、浮遊物体が上の電磁石に引かれて上昇し光をさえぎると電流が切れ、落ちそうになると再び通電して引き上げる。このフィードバックを小刻みにやっているらしい。

 加藤さんが最初に見せてくれたアルミホイルの中には小さなネオジム磁石が隠されていた。


 

多面体組み木 加藤俊さんの発表
  加藤さんが手にしているのは、組み木の切頂八面体。すばらしい細工で、このままでも立派なオブジェだ。

 ところで、この立体はある方向からじっと(特に片目で)見つめていると、どこが出っぱっていて、どこがへっこんでいるのかわからないような錯視におそわれる。エッシャーの絵にあるような不可能図形に見えてくるから不思議だ。写真でその雰囲気が伝わるだろうか。

 

100円老眼鏡 山本の製品紹介
 悔しいが寄る年波には勝てず、近年はんだ付けなど細かい作業がつらくなってきた。遠近調節がきかなくなってくる・・・それが「老眼」である。そろそろバリラックスのお世話にならなければならないかと考えていたところ、100円ショップダイソーの店頭でふと目に止まったのが、「めがねの上からの老眼鏡」だった。
 使い慣れためがねの上にクリップでとりつけるだけで、遠近両用老眼鏡に早変わり。遠くを見るときは右の写真のように跳ね上げればよい。プラスチックレンズなので重さも気にならない。工作好きの諸兄には必須のアイテムだ。例会で紹介したところ、帰りの日吉駅前のダイソーは早速YPCでにぎわっていた。
 

ドルフィンパワー 山本の紹介&即売会
 秋葉原のジャンク屋で見つけた「手動式携帯電話充電器」である。おなじみの手回し発電機「ゼネコン」と同様、モーターを逆回転させて発電機としている。ゼネコンと異なるのは、片手のグリップ動作でよいことと、レギュレーター内蔵で5.5Vの安定化出力が得られること。1分間90回程度のグリップで、50mAまでは5Vの電圧をキープする。
 おまけパーツとして着脱式の白色LEDライト(大容量コンデンサー内蔵)も付属していて教材的価値は高い。自作ワニグチコードもセットにしたらその場で飛ぶように売れた。
 

200円でおつりのくる発電機 山本の発表
 100円ショップダイソーの店頭に並ぶハンディ扇風機。単3電池1本で駆動する。たわいもない商品に見えるが、内蔵のモーターはしっかりしたもの。備長炭電池や太陽電池でもブンブン回転する。
 問題はケースがばらせないので、いかにリード線を引き出すかだ。なるべく加工の手間が少ないのが望ましい。そこで電池と同じ長さの丸棒にリード線をとりつける方法を考えた。電池の正極、負極にあたるところに電極をつけてリード線を引き出せばよい。加工はフタにリード線引き出し用の穴を2箇所あけるだけだ。写真ではこれまたダイソーの「銅箔テープ」を使用しているが、丸棒の両端に画鋲をさしこむだけで十分である。この丸棒を電池の代わりに入れればよいのだ。
 

 この扇風機は単なるモーターとしてだけでなく、発電機としても使える。新課程の物理Iは電気単元から始まり、「モーター転じて発電機」をさっそく教えなければならない。そのための恰好の教材になる。適当な棒に水糸をゆるく張り、扇風機のモーターシャフトに一回巻き付ける。弓錐を回すように糸を張った棒を前後するとモーターが回転して発電する。これまたダイソーの替えニップル球(1.2V、0.22A)につなぐと、実用的な明るさで点灯する。グリップのホールディングがちょうどよく、力を加えやすいのがよい。

 

森の合唱団 鈴木亮太郎さんの発表
 鈴木さんが取り出したのはちょっとかわった「木琴」である。異なる種類の天然木を組み合わせて作られた木琴で、通常木の長さの違いで音階を作って(周波数を変えて)いるのに対し、こちらは木の材質の違いで音階を作っていることがポイントだ。ドレミファソラシドの順に、ちゃんちん、なら、ひのき、ぶな、さくら、とち、ほお、かば、となっている。裏側のえぐり方で音程を調整しているようだが、なかなか面白い。
 ある住宅メーカーのカタログの中に紹介されていたという。製造元「オークビレッジ」のサイトから直接購入することができる。

 

RADIUM 戸田先生提供のビデオ・喜多さんの代理発表
  富山の戸田先生からYPC宛に送られてきた「RADIUM」のビデオを皆で見た。主にラジウムの精錬工程について説明してあるが、最後の方にキュリー夫人が動く映像として映っています。1925年にチェコを訪問したときのもので、1867年生まれの夫人は当時59才である。

 写真で喜多さんが指しているのがキュリー夫人だ。

オールメタルIH開発秘話 喜多さんの発表
 前回の例会で、時間切れのためお話しだけに終わったオールメタルIHの話題の続編である。

 左は従来型のIHクッカーの中味である。中央の巨大なコイルが目を引く。かなり太いエネメル線がよりあわせて使われている。これで交流磁界を発生させ、上にのせた金属の鍋に電磁誘導を起こして鍋自身に発熱させるというのがIHの原理だ。したがって抵抗率がある程度大きい鉄やステンレスの鍋でないと使えないというのが従来型の泣き所だった。それを銅やアルミの鍋でも使えるようにしたのが当節話題の「オールメタルIH」なのである。松下のホームページにアクセスすると、プロジェクトXなみの開発秘話が載っている。17年間の涙の世界が・・・

 アルミニウムや銅を発熱させるためには、高い周波数が必要である。表皮効果で電流を集中させるのだが、高い周波数になると、コイル自身も表皮効果のため電流が流れにくくなる。それを打ち破るためには細線でコイルを作るしかない・・

 下左の写真は左側が直径0.3mm、右側が直径0.05mmのウレタンエナメル銅線である(秋葉原オヤイデ電気で購入:それぞれ300g約900円、2400円)。松下の「オールメタルIH」に使用されている加熱用のコイルの銅線は直径0.05mm、髪の毛と同じくらい。手で引っ張ると切れてしまう。


 右写真がHP上に載っている従来のものと、オールメタル用の銅線の比較図。0.05mmの銅線を何本もまとめて撚っていく・・・途中で切れたらまた始めからやり直し・・・開発に伴う試行錯誤の連続には思わず目に涙せずにはいられない。

オールメタル加熱方式のしくみについては、
http://national.jp/sumai/ihcook/321ms/index7.html
また、開発エピソードは、下記に載っている。
http://www.matsushita.co.jp/ism/main.html#8

 

福沢諭吉の「サイアンス」 平松さんの書籍紹介
  (著:永田守男、慶應義塾大学出版、2003年3月)
 著者の永田氏は慶應義塾大学理工学部管理工学科教授でソフトウエア工学が専門とのこと。本書では、福澤が「訓蒙窮理図解」(以前喜多先生が紹介済み)を著し、あわせて教育の初期段階において自然科学を学ぶことの重要性を説き、慶應義塾の初期のカリキュラムでこれを実践していた、などを紹介している。


昔の実験器具 右近さんの発表
 右近さんは、昨年島津創業記念資料館で見学してきた,慣性実験機,転上体,ライデン瓶セット,電気振り子,円筒鏡,円錐鏡など,昔の実験器具を写真で紹介してくれた。
 左の写真の転上体は重心の移動により2つ合わせた垂体が斜面を転がり登るようにみえるものだが,ルーツは古く,同じものがガリレオの時代から知られている。下の写真の電気振り子はまさにフランクリンが実験していたものとほとんど同じ。彼の肖像画にも登場する。

 

 右近さんが古本屋で手に入れた島津の昭和11年発行の実験器具のカタログ(下左)からもいくつか紹介があった。
 浮沈子を入れた円筒容器を二つ並べ,その間を細い管で連結したものは,現在まったく見かけないが,今でも使えそうだ。一方の円筒のゴムのふたを押すと,両方の浮沈子が沈んでいくものだ。また,回転鏡を使って,音声の波動を壁に描かせる工夫も紹介されている。今でも行われている優れた演示実験である。さらに,科学史の本から見つけた,18世紀フランスのノレによる力の合成を示す実験器具の挿絵なども紹介があった。
 現在われわれが行っているポピュラーな演示実験や実験工作も、そのルーツは非常に古いものが多い。プライオリティを主張する前に、文献検索をきちんと行い、先人に学ぶべきだと思う。

 

 ニュートン後,18世紀前半,デザグリエ,ミッシェンブロック,ノレ,グラベサンデ,など優れた演示実験講師が排出し,ニュートン力学の普及に尽力する。彼らはニュートニアンと呼ばれている。多くの人々はニュートンの書いた「プリンキピア」を読むことによってではなく,ニュートニアンの工夫した効果的な実験器具による演示実験を通じて新しい自然哲学を受け入れていったのだ。その結果,彼らの工夫した実験装置は時を超えるほど息の長いものとなり,良くも悪くも物理教育の伝統のルーツになっている。
 例の浮力の米ーピンポン玉モデルはフックの工夫だが,これが演示実験講師によって取り上げられ,その後延々と初等教育における浮力の説明として命脈を保ってきたのも同じ理由からだそうだ。20世紀に入ってさえも,W.ブラッグ(ブラッグ反射のブラッグです)は堂々とクリスマスレクチャーでこの実験を披露し,浮力を説明しているという。この演示には問題があることが指摘されてもなお、伝統的な演示実験は受け継がれているということである。

二次会 日吉駅前浜銀通り「龍行酒家」にて
 14名の参加で、「お疲れさま、カンパーイ」。二次会でも科学談義は尽きない。


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