例会速報 2003/04/19 慶應義塾高校


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授業研究:地学IBの年間計画 山本の発表
 高校地学の教科書は地球科学分野から始まるものが多い。主として著者陣の専門分野を反映しているのだろう。しかし、地球科学は非常に広範な分野をベースに構築されており、初学者にいきなり学ばせるのでは敷居が高い。アンケート調査をしてみると地学選択者の大半は天文分野に興味を持っていて、宇宙について学びたいという希望をもって地学を選択している。これはテレビや本を通じてそのような知識に接する機会が多いからでもあるだろう。教える立場から考えても、宇宙の物理は単純で原理が見えやすいから最初に教える単元として適している。本物の天体を学校で観察する機会はなかなか得られないが、視聴覚教材は充実しているので生徒の興味も喚起しやすい。
 以上のことから、発表者は天文、地球科学、気象の順に教材を配列し直して、宇宙の大構造から、銀河系、太陽系、地球、そして地球の表面や内部、さらには岩石内部のミクロな世界へという順に、パワーズ・オブ・テンをイメージした自称「ズームイン方式」で地学の授業計画を組み立てている。そこでのメインテーマは「自分」の位置づけである。「自分」は宇宙の中で、地球の上で、どこにいてどんな関わりを持っているのか。それを理解させることを地学の授業目標と考えている。
 写真は例会でたまたま質問が出た天文教具「バカボンのパパ」。98年6月のYPC例会で発表したもの。当時を知らない参加者も多かったので、リバイバルで紹介した。
 

授業研究:測定と有効数字 鈴木亮太郎さんの発表
 すずりょうさんが毎年授業で行っている「測定と有効数字」の授業実践報告である。YPCメーリングリストでもたまたま有効数字のことが話題になっていた。
 素材としては海外旅行をしたときに収集してきたコインを使う。コインを使う理由は、直径と厚さでオーダーが一桁違うので、同じ測定器具を使っても「精度」が異なることを体感するためだ。海外のコインを使うことで生徒も興味を示すという。
 コインの直径と厚さを4種類の測定器具で測り、その結果を掛け合わせて体積を出させる。体積の有効数字の桁数から、逆に、どの測定器具を使うべきだったか(実験計画)を考えさせるのが、従来の展開と異なる点だ。詳しくはすずりょうさんのWebページに公開されている実験プリントおよび解説プリント(いずれもPDFファイル)をご覧いただきたい。
 

医療用おんさ 徳永さんの発表
 耳鼻科医が医療用に使うおんさがある。老人に多い病気で、頭骨が響かない症状などの確認のため、このおんさを耳の下にあてて鳴らすのだという。徳永さんは医師に斡旋してもらって入手してきた。
 おんさのそれぞれの枝にスライドできるおもりがついていて、1オクターブ分音程を変えることができる。かなり低い音で鳴る。おもりの位置を左右で変えてみたら、振動の減衰が激しく音は長続きしなかった。左右が対称に振れないと定常波にならないからなのだろう。
 

16個の凹レンズ−1人が16人に見える 大谷さんの発表
 ¥100ショップ「キャン・ドゥ」で、売っていたパズルのフタ。パズルの16個の数字のプラスチック片に合わせて、フタが16枚の凹レンズになっている。これで人を見ると、1つ1つの凹レンズに1人ずつ、計16人見える。中学生では、できれば、「手軽に、全員体験」にしたいので、¥100が魅力だ。大谷さんは光の導入部で、光による不思議な現象として、取り入れたいと思っているそうだ。「1人しかいないのに、どうして、16人も見えるのか?」、「あたりまえに思っていたことも、よーく考えると、不思議なこと」の1つではないだろうか?
 

よく飛ぶ簡単水ロケット 越さんの発表
 地元柏市のの「柏っ子祭り」という学童保育のイベントで、子供たち自身に水ロケットを作ってもらい、それを飛ばし、飛距離を競ってもらった。一番簡単なのは、何も加工しないペットボトルにゴム栓をつけて飛ばすものだが、これだと水を出し切った後、失速してしまい、10数メートルしか飛ばない。そこで、簡単にできてしかもよく飛ぶようにいくつか工夫をした。
 まず、ペットボトルの上部3分の1を切りとり、先端に紙粘土を少し詰め重くし、これを本体の底部(というか先端)に取り付けた。さらに、紙コップを切って尾翼とし、これをビニールテープで貼り付けた。これだけで30〜60メートルは飛ぶようになった。なお、ゴム栓(化学実験用6号サイズ)の中心に穴をあけ、ボール用の空気入れの金具(60〜120円でホームセンターなどで売っているもの)を差し込んで、空気入れにつないだ。空気中入部はこれが一番簡単な方法だ。
 子供たちに作ってもらって感心したのは、尾翼を斜めに取り付け、飛行中 回転がかかるようにし、ジャイロ効果により、飛行姿勢が安定するように自分で工夫していたことだった。当日、子供たちは自分で作った水ロケットを何回も飛ばし、たくさんの笑顔を見せてくれたという。 

再利用可能な簡単モデルロケット 越さんの発表
  後藤道夫先生から教えていただいた簡単自作モデルロケットにちょっとした工夫を加え、再利用可能にした。使用する固形燃料の周りに厚さ5ミリ程度のスポンジゴムをまき、本体の紙筒(カレンダーの紙を使用)に押し込むようにしました(スポンジゴムは熱に弱いので、固形燃料の先端は、スポンジゴムより少し出しておく。これだと、打ち上げ回収後、固形燃料だけ交換すれば何度も使用できる。
 「遠い空の向こうに(ロケットボーイズ)」という映画を見てから、毎年授業で打ち上げているという。選択の授業では生徒にも作らせているという。打ち上げたロケットを見上げるのは、気持ちいいものだ。

北村さんのデジタルオシロ&発振器 水上さんの紹介
 出向していたJSTから、久しぶりに現場に戻った水上さん、はりきって音波の単元に取り組んでいる。北村俊樹さんが開発したフリーソフト「初音」(デュアル低周波発振器)や「振駆郎」(ストレージオシロ)を使って、波形の観察からうなりや干渉、音速の測定まで、一連の実験をノートパソコンと実験器具を有機的に組み合わせて行う。右の写真は衝突球の衝突音を長い紙筒に送り込んで、「振駆郎」で反射波を検出し、その往復時間から音速を求める実験を行っているところ。測定結果は極めてよい数字だった。
 北村ソフトを搭載したJSTのデジタルコンテンツがまもなく完成のはこびで、6月28日に東京国際交流館で他のコンテンツと共にお披露目の予定だ。
 

 みんなで鑑賞
 水上さんが発表をしている最中の18時13分頃、会場の物理室の窓の正面東の空に、雄大な虹が現れた。もともと虹が大好きなYPCの面々のことだから、発表を中断して虹の鑑賞とあいなった。
 

  日没直前なので赤みが強く、背の高い半円の虹になっていた。写真ではわかりにくいが内側には過剰虹も見えていた。皆の見ている前で日没をむかえ、数分間で消えていった。

ISM教材構造化法とその実践 鈴木亮太郎さんの発表
 ISM(Interpretive Structual Modeling)法というのは、複雑な論理構造を、数学的なマトリックス計算によって整理し、矢印(有向グラフ)と上下の階層化で表現する方法のことだ。もともとは社会工学の分野で1974年John. N.Warfild によって提案された。これをNECの佐藤氏が1978年に教育分野に応用したのが「ISM教材構造化法」と呼ばれるものである。
 実際にISM教材構造化法を使う場面としては
   1.教師が教材を作ったり授業計画を立てるときにつかう
   2.生徒が学習した内容を整理する(まとめ学習)のに使う
   3.2.を教師が見ることで授業にフィードバックする
の3つが考えられる。すずりょうさんは「まとめチャート」と名づけた流れ図的なものを生徒に書かせることで実践している。
 

イスタンブールからフィラデルフィアへ 右近さんの発表
  だいぶ昔になるがが,右近さんはYPCニュースNo.67(1993年10月)で「イスタンブールのお盆」を紹介している。丸いお盆を三本の針金で写真のようにつるし、指に引っかける。お盆の上に水をたっぷりと入れたコップをのせておく。このお盆を乱暴にふっても、コップの水面はまったく穏やかなままで、水はこぼれる素振りすら見せない。
 「イスタンブールの・・・」の名付けは、ショーンコネリー主演のおなじみ007シリーズ映画「ロシアより愛をこめて」(1962年)で、ジェームズ・ボンドがイギリス諜報部イスタンブール支局でこの「お盆」と出会うシーンがあるからだ。例会では、この映画シーンの披露もあった。

 さて、コップに代えて下のような容器に水を入れ(青く着色)、その上にさらに灯油をいれる。灯油は水の上に分離したままだ。これをお盆の上に載せ、同じようにお盆を振り回す。すると上の灯油の表面はまったく静かなままだが、水と灯油の境界はまるで嵐の海のように大波ができて荒れ狂うのだ。どうしてこんなことが起きるのだろう。
 実はこの現象はフィラデルフィアのベンジャミン・フランクリンが1773年の手紙で報告している。(参考「フランクリンの手紙」岩波文庫,1951年,2003年)板倉聖宣さんもその著書「フランクリン」(仮説社,1996年)で紹介している。しかし現象の納得できる説明はなされていないようだ。例会ではコリン・ブルースの「ワトソン君,もっと科学に心を開きたまえ」(布施由紀子訳,角川書店,1999年)に掲載されている,船が進まなくなる話などと関連付けながら,いろいろと議論が行われた。
 

オールメタルIHクッキングヒーター 喜多さんの発表
  日頃、電磁調理器に関心のある喜多さんのアンテナにふれたのは、暮らしの手帖2003年2号・3号。時間がなかったので簡単な紹介がなされた。2号には「IHクッキングヒーターのもうひとつの姿」というタイトルで、3号には「IHクッキングヒーターはどこへ行く オールメタル加熱方式のIHクッキングヒーターを使ってみる」というタイトルで、200V仕様のものについての使用レポートが載っている。3号の方には気になる電磁波についての測定結果も載っている。
 なお、オールメタル加熱方式とは、従来品は抵抗率の高い鉄鍋しか使えなかったのに対し、磁界の交流周波数を上げることで、表皮効果を利用し、アルミや銅の鍋でも加熱できるようにしたものだ。内蔵マイコンがメタルの種類を判別し、周波数を変える。

サイエンス・ナビ 山本の紹介
  浜島書店からこの春発売となった中学理科用デジタル教材「サイエンス・ナビ」。DVD一枚に物化生地の全分野を収録。高画質の画像や動画で構成され、シミュレーションソフトもからめて、実験・観察中心にインタラクティブな教材提示が可能だ。パワーズ・オブ・テンのようなスケールトラベルもなかなか面白い。
 同ソフトについては、浜島書店のWebページで、サンプルを見ることができる。

二次会 日吉駅前浜銀通り「龍行酒家」にて
 
 15人が参加して「カンパーイ」。実は土曜日に例会をやるようになってから、慶應高校でやるのは昨年11月以来二度目。ずいぶん久しぶりなのだ。このお店も5ヶ月ぶりだね。今夜も盛り上がるYPCだ。


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