例会速報 2003/07/13 慶應義塾高校


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授業研究 鈴木健夫さんの発表
 新城高校に転勤になった鈴木さんは、「授業ノート」の実践を再開した。以下、鈴木さん自身によるコメント。

 前任校時代にできなかった「授業ノート」を再開しました。やり方は、下記のとおりです。最初の授業時に、公式記録ノートとして1冊のノートを輪番で回すということを宣言します。書くのは、「誰よりも正確にきれいに」書き、板書事項以外の説明事項もきちんと書き写すことを指示します。輪番の第1号は、最初の授業時にジャンケンで決めます。そして、ノートは授業時には直接書かずに家で書き、翌日の朝、教科担当まで提出することを指示します。また、授業の記録以外に、授業時の感想と、「質問リレー」として授業に関することか、前の人の質問の発展質問を書くことを義務付けます。教師がやることは、それだけ。もちろん、そのノートを受けてのコメントを書いたり、質問リレーへのアドバイスを書いたりしますが、それもそれほど書いているわけではありません。
 皆さんに紹介はしましたが、このやり方は、元々は愛知物理サークルの方などが当たり前のように実践してきていて、私自身も前々任校ではずっと続けていました。おそらくYPCの中でもかなりの方がやられているのではないかと思うのですが、最近YPCに来始めた方もいるのであえて紹介しました。まだ、数ヶ月ですが、女子に回るときれいなノートを書いてきて、それが次の生徒へのプレッシャーになりだんだんと(きれいさや量や内容が)エスカレートしていくという道をたどります。もちろんクラスによる差も出ますが、最終的には放っておいても素晴らしいノートができあがる、というのがこの方式の醍醐味です。もちろん、こちらのコメントもそれなりの効果を持ちますが。授業ノート自体のコピーは、次号のニュースで紹介します。

 例会では、物理必修でない中での「理科総合A」で何をやるのか、というあたりも議論になった。これはいずれ、きちんと時間をとって話し合うべきだろう。

放電球のしくみ ガンダルフさんからの情報紹介
 前回の例会報告をご覧いただいたガンダルフさんから、放電球について貴重な情報をいただいた。それによると、放電球は1970年代にアメリカで流行したテクノロジ−ア−トの作品の一つでビル・パ−カ−によるものが有名で、日本には1980年代始めにわたってきたとのこと。原理はMHzオーダーの高周波低気圧希ガス放電で、内部にはグロ−放電領域の圧力でHe、Ne、Arが封入されている。内部中心電極は、ガラスに金属を蒸着した物が多く、球部内面にも、金属皮膜を蒸着して電極にし、高抵抗を介して接地されているらしい。手を触れると、指先−ガラス−内面電極で形成されるコンデンサ−によって回路が形成され、指に放電が集中してくるという。
 ところで、港北高校にあったものと同型で、分解されたもう一台が慶應高校に届いていた。さっそくみんなで観察してみる。中心電極につながる線は確認できたが、戻りのアースがどこからとられているのかはよくわからなかった。首の所に巻いてある黒い輪っかは、ただの「座布団」のように見える。右の写真は中心電極部の拡大だ。小さなガラス球の内側に金属箔が見える。高周波交流回路というのは本当に不可解だ。電流が導線を流れるという感覚では理解不能だと思う。下は実物を前に首をひねるYPCの面々。




火星の本 山本の発表
 「6万年ぶりの好条件」とコマーシャリズムがあおりたてる火星大接近は8月末だ。大接近といっても実際には月のように大きくはっきり見えるわけではなく、いつのも火星よりはだいぶ大きいという程度。気の毒だが期待して高価な望遠鏡を買い込んだ人々を十分に満足させるのは無理だろう。

 しかし、ものは考えようだ。出版社はいつもの接近時とは力の入れようが違う。よい本が店頭に並んでいる。6万年に一度のチャンスかもしれない(^^)。

 中でもイチオシはこれ。アスキームック「火星大接近2003夏」アストロアーツ編。本誌の構成もすばらしいが、付録CDのコンテンツでは業界右に出るものがないアストロアーツならではの醍醐味が味わえる。ことにうれしいのは、フリーの3D地図ソフト「カシミール3D」用の火星全球の地図標高データが収録されていること。火星上空からオリンポスの大火山を見下ろしたり、マリネリス峡谷を3Dナビして歩いたり、お好みの視点で火星をつぶさに眺められる。カシミール3Dの機能を駆使すれば、低い土地に水をたたえて、大気による霞や夕焼けを演出し、テラフォーミングだってできちゃう。

 たぶん今しか買えないこの本、すぐにゲットしよう。

イライザの感音炎 右近さんの発表
 先日、上野の東京芸大大学美術館で開催されている「ヴィクトリアン・ヌード展」(8月31日まで)に足を運んだところ、一枚の絵が目についた。テニエルという画家の手になる「ピグマリオンと彫像」(1878年)という作品(写真左)である。ピグマリオンは伝説上のキプロスの王で、優れた彫刻家でもあったとされている。彼は女性の彫像を象牙で作りガラテアと名づけるが、自らその美しさの虜となり、このように美しい女性を妻にしたいと願う。愛の女神ヴィーナスはこれを聞き届けてガラテアに息を吹き込む。「ピグマリオンと彫像」は、ガラテアがピグマリオンの腕の中で目覚め始める瞬間を描いている。
 ちなみに「ピグマリオン」は、バーナード・ショーにより、同時代を舞台にした戯曲の題名に象徴的に使われた(1913年初演)。言語学者ヒギンズが、下町娘イライザを教育して淑女に仕立て上げるというその物語は、その後「マイ・フェア・レディ」として映画化された(写真右)。うーん、ここで「マイ・フェア・レディ」に出会うとは。そこでさっそく大昔に観た映画を再びみたくなった。(ここまでが右近さんによる長い前ぶりである。さていよいよ本題の感音炎。)
 


 さっそくDVDを購入してじっくり見ると・・・なんとイライザ(オードリヘップバーン)が感音炎を前にして発音の練習をするシーンがあるではないか。その横には回転鏡も置いてある。考えてみれば、当時はマイクロフォンもオシロスコープもない時代。実際に音の波形を調べるには回転鏡しかなかった。また、映画にによれば、感音炎は特定の発音に対して過敏に反応するとのこと。
 感音炎については鬼塚史朗氏が物理教育学会誌Vol.35,No.3(1987)に詳細な論文を書いている。よく読むとその前書きに、「マイ・フェア・レディ」の感音炎についても触れている。しかし、映画の感音炎は明らかにおかしい反応をしていることに今回気がついた。反応するとき、炎が大きくなるのだ。しかし鬼塚氏も、そしてJohnTyndallも述べているように、感音炎は反応すると極端に縮むのである。どうも映画では影でスタッフが細工をしているらしい。感音炎の実験は以前YPCでも紹介したが、もう一度発音との関係を調べたくなった、とは右近さんの談話。
 

双曲線コンパス 近藤さんの発表
 二つの固定点からの距離の差が一定の点の集合はその二点を焦点とした双曲線になる。波の干渉で二つの波源からの波が強め合う点、弱め合う点はそれぞれ双曲線群をなす。近藤さんが演じているのは、定規と糸を使って双曲線を連続的に作図する方法だ。外側から中心に向かって糸と定規を合わせるようにしてペン先を動かしていく。楕円の描き方のように簡単ではないが、「距離の差が一定」の条件が視覚的にわかる。例会の席では、さっそく装置の改良案(写真右)なども提案され、ひとしきり盛り上がった。


 山本の発表
 青、緑、橙、赤・・・まるでそういう製品であるかのような美しいカラーライト。実は右のような百円ショップのクリップライトの電球部分を本体の色に合わせたLEDですげかえたもの。ソケットの構造がちょうどLEDをとりつけるのに好都合で、何の工作もせずに4色のカラーライトができあがる。高輝度のLEDを使うとかなり実用的な光源として使える。ちなみに、赤は驚異の12000mcd(12cd)で、デジカメで使い古した中古電池でも二昼夜にわたり実用的な明るさで連続点灯できた。首の部分が上下左右自由な角度に向けられて便利だ。
 百円ショップのラインナップではもう一色グレーもあり、これはどうしようかと考えていたが、参加者からの提案でこのごろ手にはいるようになった紫外線LEDを使ってブラックライトにしたらよかろうということになった。


電力を明るさで 大谷さんの発表
 大谷さんは、中学の授業で、言葉で語るだけでなく、どんな些細なことでも具体的に実物を示すことにしている。60ワットの電球と100ワットの電球の、電力のちがいが明るさのちがいとして現れること、そんな当たり前に思われることでも、生徒にとってはそうではないのだという。やはり実物を示すことに意義があるのだ。
 明るさのちがいをはっきり示すなら、フィラメントを直接比べるのではなく、ついたてで間を仕切ったスクリーンを裏から照らし、境目の部分で比べるとコントラストがついて比較しやすい、など改良案が即座に出された。

液体窒素の実験より 喜多さんの発表
 島津理化の大型超伝導体は直径が50mmある。これだけ大きいと直接液体窒素をかけてしまうと、ひび割れが生じやすいので、時間をかけて冷やさなくてはいけない。それでは授業で使いにくいので、慶應ではジュワービンの中に入れて冷やしたままにしてある。ストッキングに入れて大口ジュワーに宙づりにしてあるのだ。
 浮いているのは二六製作所製の直径25mmのネオジム磁石、マイスナー効果とピン止め効果で、自分が止めたいと思うところに静止させることができる。
 注:ピン止め効果については、「理科ねっとわーく」のデジタルコンテンツ平成14年度作品『熱と温度(超低音・絶対零度の世界)』を見るとよい。非常に分かりやすいアニメーションが入っている。

 下は空き缶に液体窒素を入れて、空気中の酸素を液化して捕集しているところ。ポリ袋に集めた酸素は常磁性でネオジム磁石に吸い寄せられ、袋が傾くのが見られる。空気中から保守した酸素は、氷やドライアイスも含んで白く濁るが、風船に純粋酸素をとって試験管にかぶせて液化すれば、液体酸素のきれいな淡青色を観察できる。


気体シミュレータ 喜多さんの発表
 喜多さんが監修して開発された文科省のデジタルコンテンツ「熱と温度」。そのセールスポイントは「気体シミュレータ」である。体積可変の空間(シリンダー)に配置したアルゴン原子のポテンシャルを持つ粒子について、それらの分子間力の影響による振る舞いを忠実に再現し、可視化したものだ。このシミュレーションではLennard-Jones 型 potentialの反発項のみ用いられている。それは、扱う数が少なすぎて、温度が下がって凝縮して液体になることを示すには不自然だからだ。それ以外に実際に行った実験や、アニメーションなども説明のときに使用すると便利だ。





二次会 日吉駅前の串焼き屋にて
 10名の参加で、カンパーイ。今回は参加人数が少なかったので、いつもの中華料理ではなく、河岸を変えて串焼き屋へ。飲みながら夏の科教協東京大会やAPEJに向けての取り組みが相談された。


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