例会速報 2007/02/17 県立横浜翠嵐高校


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授業研究:中学1年生で扱う「力学」の授業 平松さんの発表
 平松さんが中1の授業で使っている授業プリントと、授業の様子(録画したもの)を見ながら、いろいろな意見を交換した。
 ビデオでは「作用反作用」の授業の前半部分およそ20分から、さらにその授業の前に戻って力を矢印でどう図示するかの導入方法などが議論された。台車に人が乗って別の台車を押す参加型演示実験は好評で効果的だ。それを「台車に乗らない人」という普通の場合に戻って、作用反作用の認識を確実なものにするプロセスが大切だ。力のベクトルの図示や、圧力の図表現など、細かな点でもノウハウが交換され有意義な議論だった。
 

センターテストの変圧器の問題 右近さんの発表
 愛知物理サークルの川田秀雄さんから右近さんのもとへ、中日新聞2月5日の記事が送られてきた。それは,今年の物理,センター試験第一問[問1]に対する川田さんの疑問を取り上げたものだった。一次コイルと二次コイルの巻き数の比が2:1のとき,一次コイル側に50Hz,10Vの電圧をかけると,二次コイル側の周波数と電圧はいくらになるか,という問題だ。周波数の答えは50Hzで問題ないが,電圧は5Vという答えはどうだろう。もちろん教科書の公式そのままの答えなのだが・・・。
 しかし掲載されている変圧器の図をみると,鉄心に一次コイル,2次コイルを巻きつけただけのもので,教科書にある変圧器の図とは異なる。そこで川田さんは,実際に問題の図のような変圧器を造って実験してみた。一次,二次の巻き数をそれぞれ160回,80回として一次側に10Vをかけたところ,二次側は約1.8Vにしかならなかったとのこと。
 

  右近さんはさっそく一次,二次の巻き数を50回,100回のものと500回,1000回のもの2種類を作成して試したところ,同一条件の二次側電圧は,前者で0.49V,後者で1.63Vだった。例会の席でも実験して確認した。
 棒状の鉄心による変圧器では磁束が漏れてしまうので,公式の通りにはならないのは物理教育・電気工学関係者の間では常識になっている。現在の教科書で棒状の変圧器の図解を掲載しているものはない。実は右近さんは以前,川田さんらと電磁気学教材の取り上げ方について話し合ったことがあり、「このような棒状変圧器ではまずいね」などと議論したことがあった。たまに受験問題集などで見かけていたからだ。

 「物理」を単に公式の集まりとしか捉えていない生徒はたくさんいる。現実をしっかりと踏まえた物理教育を心がけたいものだ。

S-310-37号機打上げ報告 竹前さんの発表
 竹前さんはJAXAの宇宙基幹システム本部/宇宙科学研究本部におつとめで、ロケットの打上げにたずさわっている。最近内之浦で打ち上げたS-310-37号機では、自身の手で発射ボタンを押したという。例会では打上げまでの苦労と工夫の過程や、知られざるエピソードなどをパワーポイントで詳しく解説していただいた。
 

 S-310-37号機は下部電離層の地上100kmあまりの高さに生じる高温度層の生成メカニズムを解明する観測のために打ち上げられた。弾道飛行の後、九州南東方200kmほどの海面に落下した。
 左の写真は搭載された観測機器。噛み合わせ試験前に実際に配線を行って机上動作チェックを行っている様子である。

民芸品「ギリギリトンボ」の原理 寺田さんの発表
 山口県からはるばる初参加の寺田さんは、学校に地域の方から学校にお尋ねのあった竹製民芸品「ギリギリトンボ」の原理について発表された。
 割り箸にヤスリでギザギザをつけた自作トンボで実験開始。
Q1.回転運動の起こるわけは?  Q2.回転方向がこする場所で反対になるわけは?
 回転羽根の代わりにCD板やセロテープの輪で実験してみると、回転方向はプロペラと同じになる。
 

 ギリギリとこすることは、細かい振動でたたき続けていることと同じだ。軸と輪の間の遊びが必要で、慣性の法則で回転運動が起こると考えられる。輪と軸が一瞬離れたあと、再び接するときに、斜めに振動している軸は、輪を一定方向に押すことになる。回転方向がこする場所で反対になるわけも、CD板やセロテープの輪で実験するとよく分かる。
 寺田さんは中学校の校長先生。全校集会の「わくわくどきどきサイエンス」の時間で披露し、生徒昇降口の同名の展示コーナーで生徒にふれさせている。今年度、科学グッズを21紹介した。生徒が通りすがりにさわっているのを楽しみにして、アンテナを張った生活を送っているという。寺田さんのHPにその様子が載っている。山口自然情報「わくわくどきどきサイエンス」http://www.geocities.jp/terada26911/

クリップモーター 上原さんの発表
 クリップモーター(左)のエナメル線の被覆はがしは、単に機械的作業としてやらせてしまうと、直流モーターの原理を理解しないまま「面白い」だけで終わってしまう恐れがある。直流モーターは電機子と整流子の角度関係が重要な調整ポイントなのだ。何となく回ってしまうのでは教育的でない。上原さんは、あえて細い銅線を用い、竹ひごに固定して、ブラシと整流子が触れあう位置関係がわかりやすいように工夫した簡易モーター(右)を考案して工作指導に生かしている。
 

小学1年生の反応 竹内さんの発表
 竹内さんは渋谷区の5つの小学校と湘南台小学校の理科室で「ミニエクスプロラトリアムのハンズオン実験で科学の原体験居場所に」という企画を実施した。実験の後でアンケートとして子供達が面白かった実験の絵を描いてもらった。理科室が面白ければ理科のの吸収力が格段に上昇することが証明された。
 1年生、2年生が自分達の記憶で描いた実験道具の細かい構造や遊び方。しかも遊ぶ自分の姿も描きこんでいる。大人には出来ないすばらしい観察力と表現力だ。竹内さんは「理科室が変われば子供達が変わる」と確信したという。
 
 楽しい理科室ミュージアムの実施効果と子供達の面白かった実験スケッチは、お茶の水女子大での「科学コミュニケーション教育講座」と立教大学理学部での「立教理学部学生による豊島区の小中学校理科支援プログラム」シンポジウムでも報告した。小学校への理科支援員派遣制度SCOTへの大事な参考事例にもなる。気に入って理解すれば、子供達は次には自分たちで実験を工夫し始める。

 電気通信大学正門脇のリサージュミュージアムには、竹内さんの30種類のミニエクスプロラトリアムが常設展示になっている。

書籍紹介 越さんの発表
 越さんから、3冊の本の紹介があった。

「地球のなおし方」 限界を超えた環境を、危機から引き戻す知恵 ドネラ・H・メドウズ、デニス・L・メドウズ、枝廣淳子 著 ダイヤモンド社 1200円税別 ISBN4-478-87107-8
 ローマクラブによる「成長の限界」から30数年。2005年に発行された第3弾の「成長の限界、人類の選択」のエッセンスと、「システム思考」をわかりやすく解説した入門書。「有限の世界で、何かが無限に増え続けることはありえない」このだれにでも簡単にわかる事実に直面しているのに、その限りない増加や成長を止めることができずに、さまざまな地球環境問題を引き起こしているのが、私たち人間の状況です。」生活の中で省エネをやりましょうという結論で終わるのではなく、どのようにしたら持続可能な社会が実現できるかを、10のシナリオによる地球の未来のシミュレーションに基づいて論じている。

「不都合な真実」アル・ゴア著 ランダムハウス講談社 2800円税別 ISBN978-4-270-00181-3
 アメリカ元副大統領が、1000回以上にわたって世界中で行ってきた地球温暖化についての講演をまとめた本。ここ30年ほどでの急速な氷河の後退など、衝撃的な映像が印象的。学校の図書室に置いておきたい本。同タイトルのドキュメンタリー映画も必見。TOHOシネマズ六本木ヒルズ(TEL03-5775-6090) 他にて上映中。

「いちばん大事なこと」〜養老教授の環境論 養老孟司 著 集英社新書 660円税別 ISBN4-08-720219-4
 「環境問題の重大性は、戦争、経済などとも比較にならない。100年後まで人類がまともに生き延びられるかは、この問題にかかっているとさえいえる。だからこそ、環境問題は最大の政治問題なのである。そもそも「人間社会」対「自然環境」という図式が、問題を見えにくくしてきたし、人間が何とか自然をコントロールしようとして失敗を繰り返してきたのが、環境問題の歴史ともいえる。」養老孟司氏による初の環境論。独特の切り口で、自然という複雑なシステムとの上手な付き合い方を論じている。
 

レールが熱膨張するとどれだけ曲がるか 高橋さんの発表
 全長2kmの橋が1本の鉄棒でできているとして、もし熱膨張で長さが2mm伸びたら中央部分はどのくらい持ち上がるかを予想する。実際の橋はそんな作りにはなっていないのでこれは数学の問題。
 盛り上がった状態を橋の中央を頂点とする二等辺三角形で近似すれば、持ち上がった高さは三平方の定理から sqrt( (1000.001)^2 − 1000^2 ) で求められる。必ず予想をしてから計算してほしい。
 

南極の氷 神谷さんの発表
 神谷さんが国立極地研究所から分けてもらったという南極の氷を披露してくれた。12月に横浜翠嵐高校の卒業生で日本初の南極越冬隊員・坂野井和代さんの生徒向け講演会に合わせて行った南極展示用に分けてもらったものの余りだそうだ。
 水に浮かべるとプチプチと泡がはじける音がする。数万年前の雪が圧密されて氷河となる際、隙間の空気も圧縮されて閉じこめられ、それが氷が融けるときにはじけるのだ。
 物理実験室の冷蔵庫で保管されていた氷のブロックは、下記の二次会場に持ち込まれ、「南極ロック」として参加者の胃袋へ・・・。ただし衛生面の保証はない。

二次会 横浜駅西口「笑笑」にて
 21名が集まって、カンパーイ!山口の寺田さんを囲んで盛り上がる。先月の広島の土肥さんをしのいで、最遠方からの例会参加記録である。寺田さんにはさらに3次会までおつきあいいただいた。


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