例会速報 2009/03/22 県立横浜桜陽高校


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授業研究:電流回路の授業 右近さんの発表
 右近団さんはセンサー回路を自分たちで設計し、製作する探求活動を通じて、学習した事柄を実際の問題解決に活用することのできる能力を養うことを目指した授業を行っている。例会では授業記録DVDなどを視聴しながらその流れを追った。
 前時までに静電気を一通り終えて、写真左のような電気振り子の演示から電流の概念へと誘導が行われている。さらに、電位分割の概念は学習済みで、以下の授業に入る。
 電圧降下の考え方をブレッドボード上に実際の回路を組みながら,グループ別ワークショップ形式で授業を進める。回路素子としては電池,抵抗,豆電球,発光ダイオード(LED)、可変抵抗、光依存抵抗(LDR)等を使用。また,併せてデジタルマルチメーターやブレッドボード(写真右)の使用法を学ぶ。


 電位分割の考え方やその具体例として燃料ゲージモデル(写真左)の設計、光センサー回路の設計(写真右)の実習などを盛り込んだ。燃料ゲージモデルや光センサー回路の実習はアドバンシング物理ASで取り上げられて以来、よく知られている学習課題だ。昨年の夏、京都同志社高校で行われたアドバンシング物理研究会京都グループによる夏期特別講座による実践を参考にして授業を組み立ててみたという。
 

光の単元での生徒課題 大和田さんの発表
 ポリ袋に入ったカードを袋ごと水に沈めると、書いてある文字や絵が変化する。袋の中に空気層があるために、袋の外からの光は袋の表面で全反射し、袋の中からの光は屈折により正面方向に集中するため、袋の中の紙に書いてある字や絵は水の上からは見えない。正面からなら下左の写真のように見える。
 大和田さんは、光の屈折・全反射の単元でこの演示を行い、生徒に考えさせて、その原理がわかったところで各自に作品を作らせた。下右はその生徒作品の一部。

 

 「封筒に入れたまま中の紙の文字を読むには?」という「透視術」の課題も、実際に光の単元の授業で生徒に出した。封筒も少しは光を通すから、筒などでまわりの光をさえぎれば透過光で字が読める。右はプロジェクターのレンズの前に封筒をかざしたところ。原理さえわかればいろいろな工夫ができる。
 

沖縄の牛乳パック 大和田さんの発表
 2008年10月例会で小河原さんが紹介してくれた「沖縄県のパック牛乳は内容量が若干少ない」という話を、大和田さんは詳しく追試した。一見同じパッケージ、同じ値段のローソンの牛乳の体積だが、表示通り沖縄473mL、神奈川500mLと沖縄がやや少ない。かつて米軍規格が使われていた頃の名残で、1ガロン(=3.784リットル)の8分の1(パイント)が基準量となっているためだ。
 

 当然ながら質量も沖縄の牛乳の方が少ない。そしてなんと、エネルギー量や脂質も体積比以上に沖縄の牛乳の方が微妙に少ないのだ。調べた大和田さんにもその意味はわからなかったそうだが・・・。

電束電流 石井さんの発表
 電束Dの時間変化率は「電束電流」と呼ばれ、マクスウェル方程式では電流と等価に扱われる。すなわちコンデンサの極板間の電束が変化すれば、たとえ真空であっても、そこに電流が流れたのと等価である。それならば電流のまわりに磁束が生じるように、コンデンサの極板間にも、変化する電束をとりまくような磁束が生じるはずだ。この。きわめて本質的な実験を石井さんは見せてくれた。
 発泡スチロールトレイに貼った約10cm角のアルミホイルと、上に乗せるアルミブロックがコンデンサを形成する一対の電極で、その間に円形のコイルを絶縁してはさむ。コイルは直径90mmのカードリングにホルマル線を6000回巻いてLEDにつないである。茶色の補助コンデンサーを充電し、電極に指で交互に触れるとそのつどLEDが光る。
 

 左は電源用の高電圧発生装置。ダイオードとコンデンサからなるコッククロフト・ウォルトン回路である。右のように無接触電流計「クランプメータ」でも、電束の変化はちゃんと電流として測定できる。回路の電流は導線、負荷、電源のどこでも等しい。コンデンサのように導線が途切れているところでも電束電流で回路の電流が連続していることをぜひ教えたい。
 

センサーを用いた授業 宮崎さんの発表
 宮崎さんの勤務校では、学芸大の新田先生の講演と実験指導を含め、3日間の連続講演を実施した。昨年度の京都APのリアルタイム物理のテキストを元に実施した。3日目には生徒自身が実験を組み立てることとした。生徒が実際に実験を計画する過程で気付いていくことがとても大切だということが実感できたが、宮崎さん自身にとっては、生徒が気付くまで待つことが非常に大変であることがわかったとのこと。
 

 下の写真は、実験で使用したデータロガー「パスポート」シリーズの、超音波距離センサー(左)と力センサー(右)。宮崎さんは実験の準備の際にセンサーの不具合を発見したという。高価な実験器具をひとつ購入しただけではわからないことなのでメーカーは品質管理をしっかりしてほしいものだ。

SPPの広報 岩堀さんの発表
 岩堀さんはJSTのSPP担当。新年度の申請の時期を控えて、熱心に広報活動を行っている。パンフ、申し込み書類、プロモーションDVDなどが配付され、申請時の留意点などについて解説があった。
 

マジックウエーブステッキ 越さんの発表
 「米村でんじろう先生もおすすめ!世界初!静電気を使って物を浮かす事のできる浮遊トイ。ヴァンデグラフ静電気発生装置内蔵」という謳い文句が箱に書かれている。ステッキの先は+に帯電する。「フローター」とよばれるアルミ蒸着メッキの薄いポリエステルフィルムをステッキの上から落とすと始め引き寄せられ、一旦ステッキに触れると+に帯電するためステッキと反発しあい浮遊する。
 

 グリップの部分を分解してみると確かにヴァンデグラフ起電器と同じ原理で、ゴムベルトが2種のローラーにかけられ、モーターにより回転する。左側下に飛び出ている部分に模型用のモーターが入っている。その先のステッキの棒の部分は紙筒である。紙を導体として用いているのが面白い。帯電性能は条件のよいときの塩ビパイプ程度。ティッシュペーパーで作った「一反木綿」はよく浮遊したが、スズランテープはーに帯電しやすいので、「電気クラゲ」をマジックウェーブステッキで浮遊させるのは難しい。
 販売元は株式会社テンヨートイザらスなどで2500円程度で売っている。

ロボQ 越さんの発表
 高さ約3.5cm、世界最小級、赤外線コントロールロボット。一応2足歩行。4台まで同時コントロール可能。ロボット本体の電源はリチウムイオンポリマー充電池。コントローラーが充電器になっている。自分で充電器を探して充電する「自足歩行充電」の機能がすばらしい。
 

 2台以上あれば、サッカーゲームができる。多面体サッカーボール付属。AI(人工知能)モードでは、障害物をよけたり、ボールなどを追いかけたりする。タカラトミーより定価3675円。Amazonなどで2500円程度。
 

揺れるハート 越さんの発表
 図を上下、左右に細かく動かしながら見ると、ハートが遅れて動くように見える錯視。 これは「動く錯視」の中でも錯視が起こる理由が比較的はっきりしている。コントラストが高い部分では、脳内処理が速く、動きが遅れずに見えるが、コントラストが低い部分では、脳内処理に時間がかかり、やや遅れて感じる。このためにコントラストが低く描かれているハートの部分が遅れて動くように見える。詳しくは、「人はなぜ錯視にだまされるのか?」北岡明佳 著 株式会社カンゼン 1680円ISBN978-4-86255-020-0または、北岡明佳氏のHP参照。

頑張れ!回転おじさん 大和田さんの発表
 メタボスタイルのおじさん人形がカオスでユーモラスな振動・回転運動をするモビール。ニュートンスタイルなどで販売中。楽天価格\924。台座の部分は2001年11月例会で紹介され、YPCで流行したダイソーの「ミニバランス」と同じ金型を使っているようだ。台座の内部には二重コイルとトランジスタからなる回路が仕込まれていて、永久磁石の運動を電磁誘導でフィードバック加速して、運動を持続する。

マジックジャンピングフィッシュの自作 越さんの発表
 越さんは、マジックジャンピングフィッシュ(テンヨー) を牛乳パックの厚紙と両面テープ、輪ゴムで自作してみた。太めの輪ゴムと両面テープの組み合わせでほどよい結果が得られる。

EX-F1を波動の授業で使う 水上さんの発表
 カシオのハイスピードデジカメEX-F1は、映像+写真プレーヤーとして用いることで強力な提示用教具となる。レンズのズームレバーを動かすことで必要部分を拡大でき、映像選択やコマ送り早送り等の制御が容易である等、授業中の使い勝手はパソコンより数段上である。水上さんは映像を単元ごとのSDカードに整理して教室に持参している。(詳細は例会速報で)
 下左の写真は普通速の映像を一時停止で提示したもの。正弦波の山や谷(速さ0)は点に,中間(速さ最大)は棒状に写っている。振動する媒質の速度が一目瞭然だ。右の写真は左右から送ったパルス波が出会って大きな山ができた瞬間。ウェーブマシンは,バックを黒くし,棒の先端に蛍光塗料を塗ってブラックライトを当てた。
 

 下左は7倍振動の定常波を0.6秒間シャッター開放で撮影した静止画。節と腹の動きが一目瞭然である。ゴム管の定常波(2008年1月例会速報)と合わせれば定常波の演示は完璧?
 下右は振動している音さを水面に着けた瞬間の10倍速映像である。飛び散る水しぶきの一粒一粒がはっきり写っている。音さが振動していることを端的に示せる。もちろんおんさ自身の振動も超スローモーションで観察できる。
 

簡便な「影が空中に浮く装置」 野呂さんの代理発表
 青森県の野呂茂樹さんが、平成20年度東レ教育賞奨励賞を受賞した。その装置のより簡便なバージョンを、鈴木のところに送って頂いたので、例会で紹介した。作り方などの資料をYPCニュース252に掲載した。また、以下のウェブページでもより詳しい解説を見ることができる。
 例会では、赤青メガネを多めに用意し、多くの人が見られるようにしたが、意外に遠くからでも立体的に浮いて見えることが確認できた。人数によっては授業でも見せることが可能かもしれない。また、反射光で見る場合は影を作るための実物が視界にはいるため邪魔になるが、透過光(クリアケースをスクリーンにする)で行うと、実物は見えないため見やすいことがわかった。ぜひ広く紹介したい実験ネタである。
 

認知心理学の動き 宮崎さんの発表
 認知心理学の発展を教育の現場に取り入れることは重要なことである。現場の教員は、この分野の情報に触れることを意識的にしないといわゆる世間での論調に左右されてしまう危険がある。教育がまだ科学としては未成熟なためである。
 いやしくも物理の教員である私たちは、感覚ではなく、教育も科学にするための意識をもたねばならない。しかし、悲しいかな、多くの諸先輩の実践も科学的な検証をうけていないものが多い。
 宮崎さんは教育も科学にするために、この論文を読んでほしいと訴える。

授業評価アンケート 鈴木さんの発表
 鈴木さんは以前から、年度末に個人的に授業評価のアンケートをとっている。毎年同じアンケートをとり続けることに意味がある。5,6年前からは宮崎さん提供のアンケートにして、その集計結果の経年変化を見ている。例会ではそのデータの解説があった。鈴木さんのHPでも公開している。
 上からの指示で人事評価も絡む形で授業評価をとるのは、アンケートの内容も含めて抵抗を感じるが、自分のために自分だけが見るというアンケートは、大いにとるべきだと鈴木さんは語る。
 経年変化を見ると、年々若干上昇している。特に今年は職場が変わってとまどいながらの授業だったし、学年によっては手応えが浅かったというが、それでも評価は下がっていなかった。
 生徒の理解度を把握することに腐心して、全員に教えたい内容は全員が分かるようにという意識を持ち続けていることが一因だろうかというのが鈴木さんの自己分析だ。

ノーベル賞受賞者DVDアンケート 右近さん、大和田さんの発表
 以前NHKで放映された小林、益川両先生をスタジオに招き、高校生達が遠慮のない質問をぶつける、という番組を録画し、3月のテスト後の時間を使って生徒に視聴させ、感想を書いてもらった。想像以上に、生徒は興味をもって見てくれた。特に益川先生や下村先生の「努力」や「学問に王道はない」のメッセージは強く受け取られていたのは正直意外だった。現代っ子には努力などという言葉はすっかり色褪せているとばかり思っていたもので。やはり一流の人の言葉にはかなりの説得力がある。もっと早くこのビデオを見たかったの声も。また、南部先生の論語の引用にも大きく頷き、しっかりと書き写していた。ただのお勉強ではなく自分で考えることの重要性にほんとうに納得した様子だった。

二次会 戸塚駅前「北海道」にて
 12名が参加してカンパーイ。年度末の異動情報がそろそろ明らかになって、それぞれ期待と不安を胸に新しい職場に赴く心の準備をしているところだ。この春、初任研を終了した人、これから新採用になる人、若い仲間も加わってYPCはますます意気が上がる。お疲れ様、また四月からガンバロー!


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