例会速報 2010/11/14 慶應義塾高校
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授業研究:電磁誘導 小沢さんの発表
物理Ⅱ「電磁誘導」の授業報告。演示実験にとどめず、生徒が実際に手を動かす場面をつくるように準備したという。
まず導入として、コイルのブランコにネオジム磁石を近づけたり遠ざけたりする実験。コイルの両端を導線でつないだときのみ、揺れる。及ぼし合う力の背後に電流があることに気付かせる。(班実験)
「リニアモーター」も発電機になる。金属棒をレールをこすりながら素早く動かすと、磁束が貫く面積が変化して、検流計の針がやっと振れる程度だが、誘導起電力が生じることを示せる。(演示実験)
アルニコ棒磁石を高さhから自由落下させて、400回巻きのコイルを通過させるときの誘導起電力Vを調べる実験。hと「Vの2乗」が比例するのだが、そのことを、通過する速さと起電力との関係、磁束の時間変化と起電力との関係、のように解釈する考察を期待して行った。
オペアンプを用いたピークホールド回路(写真右)を自作し、ふつうの電圧計で起電力の最大値を測定できるようにした。(班実験)
会場校が用意してくれた長いコイルとストレージオシロスコープを用いると、磁石が入ってくるときよりも、出ていくときの方が起電力が大きい(すなわち、速さが増している)ことが明瞭に示せた。
モーターと発電機 田代さんの発表
(写真左)発電機A,B,Cを直列につなぐ、Aは発電機、Bはモーター、Cは電流計がわりに使う。Aを回し、他の2つを回転させる。Bに負荷をかけたり極端な場合は逆回転させるとCの回転は増す。Bの負荷を無くすとCの回転は遅くなる。極端な場合としてBを同じ向きにまわすとCは止まる。
発電機と豆電球で、回路を閉じたり開いたりする実験はよく行われるが、その延長で、遊び気分でできるが電力需要と発電所の負荷の関係の説明になる。
(写真右)小沢さんの最初の実験とほぼ同じであるが、磁石を振動させてコイルに誘導電流を流すと振動の減衰が観察される。
試験管の中にネオジム磁石が入っている。試験管を用いたのは準備を容易にするためである。
コンデンサーに発電機で充電し、しばらくして発電機から手を離すと、コンデンサーの放電で発電機が回転をするが、電流の向きは逆になっているのに、回転の向きは発電していた時と同じ向きである。最初はちょっと意外な感じがする。田代さんはこれを次のように考えた。
充電中の電流の向きを(順)とする。発電機の回転速度を一定にするとフル充電で発電機をまわす手応えが小さくなる。この時電流は流れていない。
それならば、電流(順)で手応え(大)→電流(0)で手応え(小)→電流(逆)で手応え(小どころか手放しても発電した向きに回る)のように考えれば感覚的にも納得できるのではないか。
色素増感型太陽電池 水野さんの発表
先月の例会で残念ながら失敗した実験のリベンジ。
水野さんによると、失敗の原因はどうやら、純正電解液がなくなったので理科室にあったヨウ素液(ヨウ素ヨウ化カリウム溶液)を代用品として使ったかららしい。今回は改めてキットを購入したペクセル・テクノロジーズから電解液、酸化チタンペースト、色素液(点眼瓶のような容器1本で各500円)を購入して実験し、見事に成功した。強い光を当てると2個直列で電子メロディが鳴る。しかし、点眼瓶1本で各500円とは少し高額な気がする。
全反射 小林さんの発表
水中から空気中へ光が進むとき、入射角が約50°を越えると全反射が起きることはスリット光やレーザー光線で示すことができる。しかしこれから誤解し、全反射の事例として岸に立つ観察者の目から魚影が見えなくなることがあると思いこんでいる人は理科教師にもいる。
実際には魚に反射する光はあらゆる方向へ進むので、全反射を起こさない入射角で水面で屈折し観察者の目に入るものが必ずあるから、水面に障害物さえなければ水中の魚影は岸から必ず見える。誤解している人は水中の光が見えることを実験で示しても、目をもう少し水面に近づければ見えなくなるのではと受け入れない。それほど、レーザー光線の実験による思い込みは強い。
写真のようにCDとフィルムキャップの下5cmほどの深さにペットショップで購入した模型の魚をつるす。模型の魚は同じ深さにあるのにふたの大きさを変えるだけで見えたり見えなかったりする。CDの方は視点をどこに移動しても水面より上からは見えない。生徒に臨界角の境目を実体験させることができる。
一方、水槽の側面から水面を眺めると全反射によって水面が鏡のようになり水中の景色を映す。この現象が水槽の底の下から水面を見上げても起きると思い込んでいる人も多い。実際には水面と平行な水槽の底を通して見上げるとどんな角度で見ても水面は鏡のようにならない。実際に水中に潜るか、水槽の底に透明半球を埋め込み、そこから水面を眺めれば、真上を中心に約50°の範囲だけ外の世界が見え、臨界角の境界線から先が全反射で鏡のようになって見える。このような実験を見せることは全反射に対する理解を促進する。
立体カメラ? 竹内さんの発表
四つ目の不思議なカメラ、BABYLON 4。35mmフィルムを装填して撮影するトイカメラだ。4眼同時撮影の他、上下2眼ずつ同時撮影や1眼ずつ順に独立撮影も可能。もちろんタイミングを少しずつずらしての4眼連写も3スピード備えている。フレキシビリティの高い連写カメラだ。残念ながら現在は販売終了している。ふたを開けて背面から見ると一コマを4つに区切ってそれぞれ独立したカメラとして機能させていることがわかる。
竹内さんはこのカメラを立体写真の撮影に使ってみた。左右2眼ずつ同時撮影すると左下の写真のような像が得られる。左右の像は数cm離れた視点から撮られているので視差を生じていて立体視できる。右下は竹内さんお手製のステレオビュアー。ただし、フィルム上の像は倒立実像となるため、このカメラの撮影法では右眼で撮影した像が仕上がり写真の左側に来てしまうので、平行法で立体視するためには写真を切断して左右入れ替える必要がある。
PhET 益田さんの紹介
科学のシミュレーションソフトのサイトhttp://phet.colorado.edu/の紹介。益田さんはよせなべ物理サークル例会で、湯口先生から教えていただいたとのこと。
物理系のソフトが豊富で、ウェブ上で起動させることも、ダウンロードしてPC上で起動させることもできる。ソフトによっては細かい設定もでき、授業にそのまま使えるものもありそうだ。頻繁にアップロードされるソフトもあり楽しみなサイトだ。どう授業に反映させるか是非実践事例を交換したい。
日本賞 佐々木さんの発表
日本賞は、音と映像を用いた教育コンテンツに関する世界最大規模の国際的コンクールである。NHKの提唱でスタートし当初は放送番組コンテストだったが、 インターネットが普及し、世界の教育現場が大きく変化していることに対応し、2008年からは審査対象をテレビ番組だけでなく、ビデオ、映画,、ウェブサイト、教育ゲームへも広げた。第36回の今年は世界65の国と地域の196機関より、324作品もの応募があったという。
そのコンテンツ部門は対象年齢別に5つのカテゴリーに分かれるが、児童向けカテゴリーでNHK/アルジャジーラTVの「大科学実験 音の速さを見てみよう」が文部科学大臣賞を受賞、グランプリには、生涯教育カテゴリーで最優秀賞となった「素数の魔力に囚(とら)われた人々~リーマン予想・天才たちの150年の闘い~」(NHK)が選ばれた。
写真は授賞式に出席した佐々木さんが見せてくれた参加者ハンドブックと祝杯の一合升。
にんげんセルオートマトン 佐々木さんの紹介
セルオートマトンはライフゲームに代表される単純な規則で格子状のパターンを動かすプログラムである。理論生物学などの研究手段としても使われる。例えばサッカーのウエーブは「隣の人が立ったら、次に自分が立ちすぐに座る。自分が座ったら次のコマはお休み。」という規則で動く。
日本科学未来館の野田さんやお茶大助教の郡さんらはこのセルオートマトンをたくさんの人間で実演することを企画した。実験は10月31日にお茶大附属小学校で行われた。その映像はここ。
ISSを見よう みんなで観察
例会当日の宵に国際宇宙ステーション(ISS)の上空通過があったので、予報時刻に全員でグラウンドに出て観察した。
11/14 18:03:30 北西11°→ 18:06:30 南南西66°(ここで地球の影に入って消える)
という予報通りにISSは出現したが、残念ながら真上にあった雲に隠れ、最も明るくなった瞬間や消える瞬間は見られなかった。
おすすめのはやぶさ本 山本の書籍紹介
奇跡の帰還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」がわが国の宇宙開発史上空前の大ブームを巻き起こしている。ブームに乗ってたくさんの解説本も出版されつつあるが、帰還後出版された良書を3点紹介しよう。
■山根一眞著「小惑星探査機はやぶさの大冒険」マガジンハウス¥1300税別
帰還後最も早く出版された。著者はジャーナリストだが、7年間非常によく追跡取材しており、関係者へのインタビューも収録してあり、丁寧に編集されている。文章が読みやすい。一般向けの良書。
■的川泰宣著「小惑星探査機はやぶさの奇跡」PHP研究所¥952税別
JAXA名誉教授で「宇宙活動の語り部」「宇宙教育の父」と称され内部事情に精通した的川先生が思いを込めて書いた一冊。現場の迫力が伝わってくる。資料的価値が高い。8月に1週間で書き上げたと言うからすごい。
■的川泰宣著「小惑星探査機はやぶさ物語」NHK出版生活人新書¥740税別
上の本とほぼ同じ時期に書き進められた同著者による新書。気楽に読めるが数々の舞台裏の秘話も収録されていて、ある程度事情を知っている人にも喜ばれそう。
カシオEX-H20G新発売 佐々木さんの情報提供
カシオが新たに発売するハイスピードデジカメEX-H20Gの紹介。先行機種に比べハイスピード機能は特に強化されていないが、GPS機能と世界の地図データを組み込み、ポケナビとしても活用でき、撮影日時のみならず撮影した位置情報も同時に記録する。フィールドワークや取材には重宝しそうだ。
二次会 日吉駅前「海彦山彦」にて
14人が参加してカンパーイ!酒席でも物理談義は続く。そのうちのひとつをご紹介しよう。
「水中の物体にはたらく浮力の反作用の作用点はどこにあるか。」この問いに対し、「水の重心」と主張する人たちがいるという。細長い水槽を中央で支えて天秤とし、その一端の水面に物体を浮かべ、あるいは糸でつるして水没させても天秤は傾かないからだそうだ。しかしこれは誤り。沈んでいる物体が排除した体積を水で埋めてみれば天秤が傾かないことはあたりまえで反証になっていない。
正しくは「浮力の反作用の作用点は浮心」である。作用線上を移動することはかまわないが、横に移動してはいけない。作用反作用の法則により反作用は「作用と同一直線上、等大逆向きの力」でなければならないからだ。
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