例会速報 2011/04/17 慶應義塾高等学校


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授業研究:授業開き みんなの発表
 三宅さんの理科総合Aの授業開きは、授業の進め方勉強のしかたの解説から始めた。物理を学ぶと物事の本質が見抜けるようになる、論理的に物事が考えられるようになる、日常生活における科学的・社会的判断ができるようになる、などの効用を説いた。
 その時のアンケートによれば、新入生は平均的には理科が「やや好き」かつ「やや不得意」であると考えており、中学の時実験は「比較的多くやった」が、自分の考えを発表する時間は「少なかった」という印象を持っているという。

 水野さんの授業開きは、3月11日の東日本大震災について、理科の教師として生徒に何も語らない訳にはいかないと考え、主に新聞の切り抜きを編集して作った冊子を使って解説した。
 内容は福島第一原発と放射能・放射線、エネルギー問題に限定した。それでも40分くらいは語り続けた。話の全体のトーンは、根拠のない「安全神話」でもなく「風評被害」に流されるでもなく、「科学的に正しく恐れる」というものにした。生徒の反応は、最初は真剣だったと思うが、放射能・放射線の単位の話のあたりではこっくりする生徒もちらほら見受けられた。しかし他人ごとではない現在の原発災害と今後のエネルギー問題についてなので、全体としてはよく聴いていたそうだ。

 市江さんの授業開きは、入学したばかりの中1、内部進学の高3と外部進学の高3の3パターン。チェルノブイリ原発事故を扱ったビデオを見せた後、おそらく見たことがないであろう中1と外部進学の高3には、はかるくんによるγ線の測定と霧箱によるα線の観察をさせた。時間的な制約から説明は、放射線と放射能、放射性物質のちがいや単位など報道でよく耳にするキーワードに絞って行い、最後に神奈川のモニタリングポストのデータを見せた。
 図は、3/14~4/13までの久里浜の空間線量率の推移を表すグラフである。はじめの2、3本の針状のピークは、3/12~15に福島第1原発の1~4号機で立て続けに起こった爆発のいずれかで飛散した放射性物質(主にヨウ素131?)の飛来によるものと思われる。その後、3/21に現れるピークは、空気中に浮遊していた放射性物質が雨とともに降下し、その後地面にとどまり続けた結果、なかなか線量率が減少しなかったと考えられる。
 これを見た瞬間、生徒達からは響めきが起こり、自分たちが置かれている状況を実感できたようである。あわせてその値はピーク時でも平常時の3倍程度で心配ないレベルだということも説明した。

 越さんの授業開きは、「身のまわりの現象や理科的なことで、不思議に思う事。」、「東日本大震災、原発事故について、知った事、良くわからなかった事、考えた事」などについて自由に書かせた。
 その後、3月下旬に支援物資を運びながら自身で撮影してきた福島から北茨城の地震・津波の被害の状況のスライドを見せた。写真は小名浜港の埠頭に打ち上げられた漁船。中型の漁船とはいえ、海に戻すだけでも、復興には時間がかかるという事が実感できたそうだ。
 大震災について生徒が書いたコメントから、彼、彼女らは予想以上に心を痛め不安になり、学校に来て友達と一緒にいると元気になれる、といういような様子が読み取れたという。

 鈴木健夫さんの物理・理科総合Aの授業開きも「原発・放射能・放射線」の緊急特集だ。まず、報道でよく目にするキーワードの解説からはじめ、スリーマイルやチェルノブィリの原発事故の歴史をふりかえり、この時点ではまだ「レベル7」とは発表されていなかった福島事故の位置づけを試みた。
 20年ほど前に原発事故を扱った「石棺」という演劇を生徒に鑑賞させた際に鈴木さん自身が書いた解説記事にはこう書いてあった。

 (前略)この(スリーマイル島がキーワードになっている)SFは1979年以降1986年までの間に書かれたわけである。もしも1986年以降に書かれたのなら、(ラストシーンで主人公が見つけた)その地名は間違いなく「チェルノブイリ」になっていただろう。そして今から数年(数十年)後に書くSF作家は、別の地名を書くことになるのだろうか。それは我々の知らないカタカナの地名か、それとも「美浜」とか「伊方」とか「福島」という地名なのだろうか。「チェルノブイリ」という地名が人類の歴史に永遠に残るものであって欲しいと願うのは僕だけではないだろう。(後略)

はじめの授業・福島第一原発をめぐって 鈴木亨さんの発表
 鈴木亨さんも新年度のスタートにあたり、担当する高2の3クラスは1時間、高3の2クラスは2時間、最初の授業で、福島原発事故に関連して原子核・放射線の話をした。また、放課後、一般生徒対象に特別セミナーを行った。


 福島第一原発の事故をめぐる一連の報道で、報道各社は核物理についての無知をさらけ出した形だが、実は正直なところわれわれ理科教員も今回の事故について正しく説明できる十分なスキルを持ち合わせているとは言い難い。わが国の理科教育は風評を抑止できるだけの正しい科学リテラシーを国民に定着できていない。

 もともと核物理が専門の鈴木さんの話には重みがある。事前にメーリングリストで話題にしていたことも含めて、例会参加者からは多数の質問が出て、鈴木さんがそれに答えるという形で大変有意義な勉強会になった。

ゼロバランスバード 海後さんの発表
 1月例会での平野さんの授業研究「剛体の重心」発表の質疑の中で、平野さんが手作りされた針金に、重心点までの支持棒を付けることが出来たら・・・ という話を聞いて、どのようになるのかとても興味が湧いた海後さんは、得意の工作を試みた。
 まずは平野さんの針金と同じものを作って支持棒を固定しようとしたが、素材選びや固定方法、重心点調整に苦労して1週間がかりでやっと完成。無重量感のある優雅な動きは感動もの。


 次に海後さんは木製のデッサン人形の腰にボールペンの先を埋め込んだものを作って、宇宙遊泳を再現(AVIファイル6.0MB)(写真左)。重心点で支持すると、支点をどう動かしても最初の姿勢が変化しない(動画AVIファイル5.3MB)。
 さらにこれをヒントにデザインしたのが、ゼロバランスバード(写真右)。プラスチック板をはばたく鳥の形に切り抜いて、くちばし部に針を差しこんだだけのシンプルなものだが、見事に安定する。 
 考えてみれば「マクスウェルのコマ」も、しっかり重心点調整をすれば回転させなくても任意の角度で安定するのだ。安価に「ステディカム(カメラスタビライザー)」を自作するための設計の参考にもなる。
 発表や質問・雑談での何気ない一言から新たなアイデアが生まれるのが、例会参加の醍醐味のひとつだ。

水電池NoPoPo 車田さんの紹介
 約10年長期保存できる災害時用の電池。乾燥状態で保存し、使用時は電池の底からスポイトで水を注入し、化学反応を起こす。電池式で書くと
   (+)マンガン/空気(酸素)│水│マグネシウム合金(-)
となる。消費電力100mA以下の低電流消費型の機器(リモコン、電卓、デジタルタイマー、ポケットラジオ、LED懐中電灯など)に適している。豆電球は、点灯するがすぐに消えてしまう。ソーラーモーターは、車田さんの実験では1週間回り続けたという。
 緊急時、水注水用のスポイトがない時は、水に全体を水没させればよい。水がなければ、酒、ビール、コーラ等、唾液、尿でも電力を生成できるとか。製造元はこちらを参照。



立体絵本 竹内さんの発表
 3-D PETSというタイトルのかわいらしい動物写真集。机の上に広げて赤青メガネで見ると、まるで本の上に立ったり座ったりしているように浮き出して見える。

レーザーペン 越さんの発表
 越さんは高出力のレーザーペン(グリーンレーザー)を都内で入手した。出力が大きいので透過型ホログラムシート(レインボーシート)により室内の照明を点けたままでも、およそ10次の回折光まで見える。透過型ホログラムシートを2枚重ね、片方が回転できるアダプターを着け回転させると回折光の格子状の模様が変化し、面白い。夜空に向けると、光跡がはっきり見えるので星座観察用のポインターに適している。高出力なのでまちがっても目に入らないよう、取り扱いには十分な注意が必要だ。


マジックペット 越さんの発表
 2009年8月例会で紹介されたものの新製品。アザラシの形をしていて、胸びれ、尾びれが動く回転浮沈子。アザラシであれば、回転しなくてもいいから尾びれをもっと大きく動かしドルフィンキックしながら浮き沈みする方がおもちゃとしては面白いと思う。税込735円。

ブルーラインの速度計から駅間距離を求める 三宅さんの発表
 三宅さんは北新横浜~新羽間を走る横浜市営地下鉄ブルーラインの運転台のデジタル表示の速度計(左)をビデオに収め、v-t図を描いて面積を計算し、駅間距離を求めた。地図上では935mのところ計算で求めた距離は920mと良い一致を示した。授業でも活用しているという。


旧型ラジカセの待機電力 伊藤さんの発表
 伊藤さんは電力計を使ってAC入力付きの旧型ラジカセの消費電力を測定してみた。カセットテープを再生するときは100V交流で2.8Wの電力を消費していた(写真右)。


 ラジオだけだと1.9W(左)。モーターを動かさない分だけ消費電力が少ない。しかし、どちらも止めて音を出さず、ただ待機しているだけのときにも、1.1Wもの電力が消費されていた(写真右)。メーカーに問い合わせると、電源オフ時にも内蔵トランスには少量の電流が流れてしまう「仕様」だという。これがいわゆる「待機電力」だが、何もしていなくても使用時の半分程度というのはいかがなものだろう。使わない電気器具は節電のためコンセントからプラグを抜いておこう。

3Dカメラのレンズ間距離 竹内さんの発表
 竹内さんは現役の技術者だったころ、某大手電機メーカーで立体カメラの開発を担当していた。その竹内さんが、立体カメラの撮影原理やさまざまな種類をわかりやすく紹介してくれた。

 ハーフミラーを使ってレンズ間距離を調節できるタイプもある。しかし、構造が大型になってしまうのが難点。

 レンズ間距離3cm以下のものを微小視差立体カメラといい、その方が自然な立体感になるという。普通のビデオカメラやデジカメのレンズの前にコンバージョンレンズとして取り付けるタイプもある。

すなっぷ 竹内さんの発表
 出前実験で全国行脚をしている竹内さんは、手づくりの実験道具100種類を携え渋谷区立猿楽小学校を訪問。生徒達が自由な発想で様々な科学の実験を行った。テレビ東京「すなっぷ」11月17日放送


宇宙研のアルゴリズム行進 車田さんの番組紹介
 NHK教育の人気番組「ピタゴラスイッチ」の1シーン。いきなり「Μ-V」の打ち上げシーンから「はやぶさ」の映像が飛び出し非常にインパクトがある出だしで、相模原宇宙研「ISAS」の構内のMV-2ロケットの前でアルゴリズム行進が始まる。さらに、アルゴリズム行進MAX・・・1.5倍の速さで、さらにアルゴリズム行進MAX1.75倍と続く。
 NHKでは当初、宇宙飛行士を登場させる企画もあったようだ。先頭のお二人は森本ご夫妻、赤外線グループから4人が参加で、3人が「はやぶさ」のチームジャンパー、最後尾が科学者らしく白衣という編成だ。最後の決め台詞、MAX1.5倍は「宇宙の謎を解き明かそう!」、MAX1.75倍は「飛び出せ、宇宙へ!」。子供たちだけでなくJAXAを応援する私たちにも「はやぶさ」の感動が呼び起こされる作品となっている。夏の宇宙研一般公開では、アルゴリズム行進のコーナーができるかも?


二次会 日吉駅前「かまどか」にて
 12人が参加してカンパーイ!先月は3.11大震災の影響でYPC史上初の例会中止となってしまったので、2箇月ぶりの再開だ。原発談義にも熱が入る。新年度がスタートしたが、神奈川県でもまだ震災の影響は残っている。いつまでも沈んでいては日本は復興しない。科学技術立国日本を立て直すために、理科教育ガンバロー!


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