例会速報 2015/02/15富士見丘中学校・高等学校


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授業研究:波の性質 宮崎さんの発表
 宮崎さんは、今年度高校物理基礎で実践した「波の性質」の単元の授業を紹介してくれた。以下、宮崎さん自身によるコメント。
 この分野の学習では『グラフの読み取り力』『グラフの記述力』が大事だと思い,授業を構成した。授業素材(アニメーション,グラフ表示ソフト)の紹介も併せて行った。また,アクティブラーニングの講演を河合塾で何度もやられている小林昭文氏(現産業能率大学経営学部教授)の実践の追試を行いたいと思い授業を計画した。
 

 『波の進むグラフを描け』という指示にほとんどの生徒が同じ図形を描く(写真左)。そこに生徒の波に対する素朴な概念が見える。媒質の振動形のグラフの表記はより困難であり,クラスの半分近い生徒が間違えることもある。実際の波の進行の様子や動画,アニメーションを見せてもなかなか認識を改めない生徒がいる。自分の素朴な概念から抜け出せない。
 

 動画・アニメを用いて説明,作業課題を与える,ある程度の範囲を終えたら,問題演習,理解度の確認のための小テストの実施。生徒からの評価は良かったが,授業時間とのマッチングが十分できていなかった。今後の課題は内容のグループ化細分化。生徒の理解力は今まで私が勤務してきた学校と大きな差を見いだせなかった。逆に互いに教え合う関係が生徒の間に出来ていない。この点への私の働きかけがより必要であった。また,この分野のPIに適した課題が必要である。
 

 宮崎さんは、アクティブラーニングに加えて、多彩なソフトウエアや動画素材を駆使して、多面的にアプローチしている。その組立が大変参考になった。YPCではおなじみの、水上さんの動画集(写真左)も活用されていた。

増強モーゼ効果 中川さんの発表
 株式会社エヌエフ回路設計ブロックの中川さんは、かつて東京大学工学部応用化学科の北澤宏一先生の研究室で派遣研究員をしていた。そこで行っていた様々な磁場効果実験の中から、「増強モーゼ効果」の実験を披露してくれた。第1回サイエンス展示・実験ショーアイデアコンテストで奨励賞をj受賞した演示実験である。
 この現象は、通常は永久磁石で作れる0.5T程度の磁場では目に見えた変化が起こらない非磁性の液体を、2種類重ね合わせて磁場を加えることにより、それらの界面の形状が目に見えて変化するものだ。北澤研究室で発見されて、「増強モーゼ効果」と名付けられた。

 はじめの実験では、硫酸銅水溶液と塩化ナトリウム水溶液を用いた。それぞれの比重は約1.1だが、硫酸銅水溶液の方は塩化ナトリウム水溶液より若干比重が大きくなるように濃度調整してある。それぞれの水溶液を単独で永久磁石磁場(最も強い位置での磁場強度約0.5T)の中に入れても特に液面の変化は見られない。

 次にこれらの2液を、下が硫酸銅水溶液、上が塩化ナトリウム水溶液になるように重ね合わせて磁場中に入れると、硫酸銅水溶液は磁場が強い方に集まって盛り上がる現象が見られる。この変化は、磁石のN極とS極を入れ替えても同様に見られる。以上の実験では、水溶液同志を重ね合わせるため、お互いの混ざり合いが起こって界面がはっきりせず、時間が経つと完全に混ざって変化は見られなくなる。
 

 これに対して、塩化ナトリウム水溶液に代えてモノクロロベンゼンという有機の液体を重ねると、上記のような混ざり合いは起こらずいつまでも2液は分離したままとなる。これらの2液を同じ磁場中に入れると、2液の界面ははっきりと見えるため、変化が良く分かる。動画(movファイル8.8MB)はここ
 

 ガラス容器を横にスライドすると、硫酸銅水溶液の山は磁場中にとどまろうとする。動画(movファイル5.4MB)はここ。2液を攪拌したあと磁場中に差し入れると、液胞がはじけながら次第に分離して、上の写真と同様に山を形成していく様が面白い。動画(movファイル9.4MB)はここ
 

新作おもちゃ 成見さんの発表
 手作り科学おもちゃの開発で次々とヒットを飛ばしている成見さんの、新作も含めた作品紹介と即売会が行われた。
 写真は昨年12月の例会でデビューした「ころころボール」(磁力を利用したおもちゃ)は、スヌーピーのぬいぐるみになってさらにカワイさアップ。ボールがくるくるスピンしながら進む。
 

 同じく磁力を利用したおもちゃ、「魔法スティック」。原理は上の「ころころボール」と同じだが、演出が魔法っぽい。
 

 こちらは新作の「乗り出す板 乗ってる人」。重心と剛体のつりあいを考えさせる教材だが、側面に絵を描いたところがオリジナルで、大変好評だった。演示実験用教具としてのみならず、インテリアとしても十分通用するアート性の高い作品だ。
 

 小さな人間のフィギュアを配置したところがアクセントで、成見さんのセンスが光る。

黒板用フレキシブル斜面と放物すだれ 山本の発表
 水上さんの黒板実験に啓発されて、より簡単に作れて、より手軽に実験できる黒板用斜面を開発した。ダイソーの配線モールをレールにして、裏側に15cm間隔ぐらいでストローを接着しておく。マグネットフックのフック部分を角度が直角になるように加工したものをスチール黒板にはりつけ、そのフックをストローに差し込むようにして固定する。マグネットを動かせるので黒板上で自由に変形することができる。左右どちら向きにとりつけてもよい。先端にはビースピを載せる台を取り付けておく。ビースピは両面テープで接着する。ビースピと鉄球以外はすべてダイソーで調達した。
 

 次に、投射された鉄球がたどる軌道を「放物すだれ」で予測する。0.05秒刻みで0.45秒までy=1/2×gt2で計算した落下距離に合わせて、紙テープを切り、先端には一円玉をおもりとして貼り付ける。これをゴムひも(衣服用の織りゴム)に等間隔にとりつけておく。自由な角度で自然に垂れ下がるように取り付け方を工夫する。
 フレキシブル斜面上に任意のスタート位置を決めて鉄球を転がし、数回予備投射してビースピで初速度(秒速)を計測しておく。次に、初速度×0.5秒の距離まで(例:初速度が1.4m/sなら70cmまで)ゴムひもを射出方向にまっすぐ伸ばし、マグネットクリップで黒板上に固定する。すだれの間隔が一斉に伸び縮みするところがこの装置の工夫だ。ゴムひもが、重力を考えない場合の鉄球の経路に相当し、紙テープはその位置からの重力による落下距離を表す。したがって垂れ下がったすだれの先の一円玉が、合成された放物運動の予想経路である。経路上に的を置く。これに命中すればおなぐさみ、という演出である。
 スタート位置から転がした鉄球は、見事に一円玉の前を通って的に当たり、固唾をのんで見守っていたギャラリーからは歓声が上がった。放物運動は斜めの射出方向への等速直線運動と、重力方向への自由落下との合成なのだということを強調したい。動画(movファイル1.1MB:武捨さん撮影)はここハイスピード撮影(movファイル2.2MB:西村さん撮影)して見せればさらに効果的だ。
 

 使用した的はこれ。ダイソーのおもちゃ「ピンポンキャッチ」のかごの部分をはずしてフィルムケースにつけた。フィルムケースは磁石にねじ止めしてあり、黒板に貼り付けて使う。フィルムケースの中には脱脂綿などの緩衝材をつめておく。

音の授業・他 高橋さんの発表
 高橋和光さんはYPC例会には久しぶりの参加だ。中学校での音の授業を実演してくれた。以下、高橋さんからのコメントを掲載する。

 中学校では音の学習を1年生で行います。今回例会で紹介したのは、音の単元の最後の段階で、音の大小や高低とオシロスコープの波形の関係などを学習したところです。基礎的な学習では、サインカーブのような単純なオシロスコープの波形を見せて、振動数と音の高低が関係あることや振幅の大きさが音の大小に関係あることを習います。単純な波形であるため、わかりやすいですが、あまり意欲的に取り組める教材ではないように思います。
 そこで、実際の楽器の波形を生徒に提示して、どの波形がどの楽器か見分ける学習を試みました。既習事項を適用しながら生徒たちは、複雑な波形の中からどの波形がどの楽器か探究させる授業になりました。4人で話し合う段階では、学習があまり進まない生徒でも盛んに話し合うことができて、教室の多くの生徒がアクティブラーニングらしい取り組みになりました。波形としてはなるべく難しいぐらいがちょうど良いようです。
 

 こちらは高橋さんが行った光の授業のアクティブラーニングの一シーン。放物面鏡2枚を向かい合わせて、底にある5円玉の像が浮かび上がる「ミラージュ」という実験器具を見せて、その像が「虚像か実像か」を班別に討論させる。ホワイトボードには様々な生徒の考えが示されている。
 

ヤングの実験 小沢さんの発表
 小沢さんは、生徒実験でヤングの実験を行うときの工夫について発表した。従来、光の波長を測定させる場合、スリットの間隔を測らせるのが難しく、その値は与えてしまうことが多い。そこで、小沢さんは次のように工夫した。
 横8cm縦4cmの黒い長方形に複スリットを描いた原版をOHPシートに25%の縮小コピーをする。このときスリット間隔が0.3mmになるように、原版は作成されている。コピーされたOHPシートを切って、スライドマウントに取り付ける。それを洗濯ばさみで立てて、レーザーポインターの光を当てると、光の干渉を観察できる。
 生徒には、原版を原寸で実験プリントに印刷して配布する。原版の下側には、スリット幅と同じ間隔で、60本の短い線が描かれている。生徒は、この60本の端から端までの長さをものさしで測り、59で割って25%をかける計算をして、スリット間隔を求める。実は25%という縮小率は、こちらから知らせる必要はない。プリントに印刷された原版と、スライドマウントに取り付けた縮小コピーにものさしをあてて、長さの比を求めればよい。つまり、あらかじめ与えておく定数は何もなく、すべて生徒による測定で光の波長が求められる。

 スライドマウントを洗濯ばさみではさんでスリットスタンドとするのもちょっとした工夫だ。二重スリットを通ったレーザー光線を壁に投影すると、等間隔の干渉縞が見られる。スリットは2本なのに、明点が多数並ぶのが光の波動性の証である。
 

 お手軽に済ませるならば、瞳に近づけた複スリット越しに直線フィラメント電球を見るという方法でも、干渉を観察できる。電球を赤と青のセロハンで半分ずつ覆うと、両方の干渉縞を一度に見ることができる。青の干渉縞が赤よりも間隔が狭いことから、何がいえるかを生徒に考えさせる。複スリットはコピー機で量産できるので、生徒全員に同時に観察させることが可能である。
 注意:このとき絶対にレーザー光を見ないこと!他の実験でレーザーポインターを用いた場合、この観察の前に確実に回収しておくこと!
 

でんたま 水野さんの発表
 水野さんは「でんたま」というおもちゃを横浜駅西口ダイヤモンド地下街入口横でやっていた物産展で購入した。このおもちゃ、宣伝文句にもあるように「何度転んでも走り続ける」。全体が卵形で、車輪がついている方に重心が偏っているため、車輪側を上にすると、ひとりでにひっくり返って車輪を下にして走り出す。動画(movファイル1.9MB)はここ
 重心の学習の導入の投げ込み教材に使えそうだ。ちなみに、1個1080円とちょっと高いなと思いながらで購入したそうだが、ネットで「でんたま」で検索したら740円で売っていたとのこと。
 

ゆっくりと回るモーター 田代さんの発表
 写真左はフレミングの左手の法則を観察する装置。「コの字型」の厚紙に約1.5cm幅のアルミホイルをたるみを付けて渡してある。アルミホイルをアルニコ磁石が作る磁界の中に入れ電流を流す。磁界と電流が垂直だとアルミホイルは大きく変形する。この写真では上に押し出されている。厚紙の枠に取り付けておくのは使いやすくてよいアイデアだ。磁界の向きが縦横上下のどの向きでも対応できる。
 写真右は素麺(揖保乃糸)の入っていた大小の箱とダイソーで売っていた長いプラスドライバー、スピーカーのドーナツ型フェライト磁石などで組み立てた直流モーターの大型モデル。電流を通じるとゆっくりと回る。動画(movファイル2.0MB)はここ。軸を縦にしたのは少々バランスが悪くても影響が少ないからだそうだ。
 

 写真左は整流子とブラシの部分。どちらも銅線である。回転しているコイルが、フェライト磁石のすぐ近くを通るタイミングの時だけ電流が流れる方がうまく回転する。磁界のないところでコイルに電流を通じても無駄だからだ。そのため整流子も銅線である。
 ドライバーの長さが余ったので上の部分に説明用のモデルを色画用紙で追加した(写真右)。常に赤の部分がプラスだと半回転したあと逆向きの力が作用し、回転しない。そこで半回転ごとに赤がプラス、青がプラスになるような装置が必要になる。それが整流子であると説明するのに使う。
 

立体ゴマ(改良版) 古谷さんの発表
 古谷さんは、車田さんからの資料(CDで作る重ねゴマ-古野博先生)のゴルフのティーを心棒に利用したというアイデアを参考に、改良版の立体ゴマを製作した。古谷さんは以前から、CDの中心部に耐油チューブを差し込み、それを心棒とした独楽作りをしていた。今回の試作のポイントは次のとおり。動画(movファイル3.2MB)はここ
1.台になる独楽は外周に太めのビニル被覆の針金を二枚のCDの間に挟み込み、慣性モーメントを大きくした。結果、心棒を軽く回しただけでも回転が持続するようになった。
2.上に重ねる独楽は耐油チューブに差し込むティーがぐらつかないように径の細い二種類のチューブを使って固定した。
 

科学技術と人間 高橋さんの発表
 中学校3年の最終単元として「科学技術と人間」がある。その取り組みとして、高橋さんは「電力」を取り上げた。以前から、「科学と社会」の教材として取り組んで来たものだが、学校を異動したのを機に、新しい生徒たちとあらためて教材をつくり直してみたという。以下、高橋さん自身のコメントを紹介する。
 
 イギリスで取り組まれている教材を参考にしました。そこでは、立場の違う人たちが科学技術にどうかかわるいくつかの資料から調べる取り組みがあります。ただ調べ、写すのではなく、自分の考えを再構成させるような取り組みにしたいと思っています。この単元は4〜5時間程度の配当ですが、調べ学習を行い、発表まで終えたときには9時間が必要でした。内容を精査し子どもたちに取り組みやすいものにしたいと思います。
 

スコットランド研修の紹介 萩谷さんの発表
 萩谷さんは、学生をつれて毎年スコットランド研修を実施している。ジェームズ・ハットンによる近代地質学発祥の地で、歴史を塗り替えた有名な露頭などを巡る旅だ。昨年度の例会でも報告があった。今年も5月の中旬に実施する予定で、その計画の紹介があった。大学の寮などを活用してきわめてリーズナブルな旅行代金で実現しているところは、毎年手がけていればこそのノウハウで、さすがと感服する。

二次会 笹塚駅前「ワイガヤ」にて
 20名が参加してカンパーイ!たまたまお誕生日だった二人にお店からサプライズのプレゼントサービス。ハッピーバースデー!この日は例会の時間が早かったので、この後さらに三次会に流れる人も。
 


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