例会速報 2015/05/17 三浦学苑高等学校
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授業研究:剛体のつりあい 勝田さんの発表
勝田さんは高校物理の「力のモーメント」について、授業研究を行った。
例によって、課題について予想を立てて話し合いながら、演示実験と生徒実験を通して決着をつけ、概念を構築していくという授業スタイルを取る。
初めの時間は、「回転を生じさせる量は、力や重さとは異なる」ということに気づかせるのを目的としている。ものさしに重りをつるして、ものさしを持っているところから重りをどんどん遠くしていくと腕がつらくなっていくが、秤に乗せて重さを測ると値は変わらない(写真左)。しかしながら、2つのはかりに載せると、値は変わっていく(写真右)。
次の時間は、2時間目は力の作用線上での移動は、力のモーメントを変えないということを示すため、2本の棒を交差させたものをつるし、上の棒から重りを下の棒へ付け替えても、棒はそのまま水平を保つということを示す。
次の時間は、重心をテーマにあつかった。ものさしを2枚重ねたものと、1枚だけのものを互いに直角になるように重ね、重心の位置を考えさせる(写真左)。計算は簡単なのだが、生徒は「重心は物体の内部にある」と思っているので、なかなか見つからない。その後、複雑な形をした物体(北海道とかオーストラリアの形の厚紙)の重心を生徒全員に実験で求めさせ、次の授業の「偶力」へとつなげる。
最後の時間は、偶力を扱う。「壁に身体の左側をぴったりくっつけたまま右足を上げてみろ」という指示を生徒に出すが、当然誰もできない。偶力の解説をした後、板に箱を載せて傾けていくと、どの角度になったら箱が倒れるかという課題に移る。
以下、例会後の勝田さん自身のコメント。
「授業研究として発表したが、YPCメンバーから有益な情報や、授業実践例をたくさんいただけた。特に、ワインスタンドを細い棒の上においても倒れないというのは、理屈としては当たり前なのだがかなり驚いた。来年は自分の授業でも見せようと思う。」
ビール缶凹面鏡 車田さんの発表
ビールのアルミ缶の底を磨き粉「ピカール」で磨いて凹面鏡にする。ストローで照準器を作り、太陽光が缶の底に垂直に当たるようにする。マッチ棒を凹面鏡の中心から徐々に垂直に動かし、光が一点に集中する焦点を探る。焦点の位置でしばらく静止するとマッチが発火する。日差しが弱いときなどは、マッチ棒の先端を黒マジックで塗るとよい。車田さんの生徒実験では、台風一過のカンカン照りの昼間に行い、生徒全員がマッチに火をつけることができた。
成功のコツは、顔が鏡のようにうつるぐらいまでよく磨くこと。コーラやファンタなどのアルミ缶では、いくら磨いてもピカピカにならない。ビール缶が最適だ。動画(movファイル4.3MB)はここ。車田さんの投稿動画はこちら。JAXAのプログラムもご参照いただきたい。
宇宙エレベータ 車田さんの発表
昨年度、神奈川大学が神奈川県と協働して実施した「宇宙エレベーター競技会」に出場した実機の紹介。県下の高校生がラジコンカーを改造した宇宙エレベーターの簡易実験機で性能を競った。予選会では、25mを4往復し、本選では100m上空のアドバルーンまでのタイムを競う。
今年度は、三浦学苑科学部と工業科(昨年度優勝)、鎌倉学園(昨年度準優勝)のほか、YPCメンバーの勤務先では翠嵐高校も参戦する。神奈川県内限定だが、県からキットが無料配布される。(昨年度は県外からも何校か出場していたが。)
車田さんが例会で披露してくれたものは、三浦学苑科学部の生徒たちの作品。ラジコンカーの部品を神奈川大学提供のアルミ板シャーシに移設して作ったものだ。動画(movファイル6.1MB)はここ。
宇宙エレベーター競技会(神奈川大学)については次のURLを参照されたい。http://space-ev.kanagawa-u.ac.jp/SPIDER-Challenge/spiders.html
光と色 水野さんの発表
水野さんが4月26日の「神奈川の理科教育を考える集い」のお楽しみ広場で行った発表を例会で再現してくれた。
光の3原色は「赤・青・緑」で、色材(絵具)の3原色は「赤・青・黄」と言うことがあるが(水野さんも以前はそう呼んでいた)、これは厳密には正しくない。この認識からは、光の3原色をすべて加えると「白色」になるが、色材の3原色をすべて加えると「黒色」になる、ということが理解できない。正しくは、色材の3原色は「マゼンタ(赤紫色)・シアン(空色)・イエロー(黄色)」というべきだ。
アーテックの光の3原色の投光器で実験してみる。赤と青を加えると「マゼンタ」(左)、赤と緑を加えると「イエロー」(右)になる。
同様に青と緑を加えると「シアン」(左)になる。赤、青、緑の三色の光を適当な比で加えると「白色」の色覚を生じる(右)。
そこで、逆の発想で「マゼンタ」は白色から緑色の光を除いたものととらえる。同様に「イエロー」は白色から青色の光を除いたもの、「シアン」は白色から赤色の光を除いたものと考えるのだ。
ビーカーに100均で購入したインクジェットプリンタ用の詰め替えインクを薄めた液を用意する。左からイエロー、シアン、マゼンタである(写真左)。それぞれ光の三原色のうち2色が反射または透過され、一色が吸収により除かれると考えればよい。右の写真は、水野さんが科教協全国研究大会のお楽しみ広場で購入した光の3原色調光器(RGBフルカラーLED使用)を光源として、「シアン」のビーカーの下にかざしたところ。もとは白色だが、透過光を直交回折格子で観察すると、見事に赤の光が取り除かれて、青と緑だけになっている。
したがって、「マゼンタ」「シアン」「イエロー」の色材をすべて加えると、光の3原色「赤・青・緑」のすべてを吸収してしまうことになるから黒色になるのである。色光の混色を「加法混色」と呼ぶのに対し、色材の混色が「減法混色」と呼ばれるゆえんである。
黒板用回路Ver.2 山本の発表
スチール黒板や白板に磁石で貼り付けて使う演示用回路板を、2015年1月例会や同4月の「神奈川の理科教育を考える集い」で発表してきたが、最終的に電池、抵抗、導線部などをそれぞれ独立したユニットパーツとして(写真左)スチール黒板上で自由にレイアウトすることができるようにしたものがこれ。左端が電池ユニット(アルカリ006Pを使用)、右端が抵抗ユニットと豆電球ユニットである(LEDも可)。使用した材料は、銅箔テープ(幅15mm、長さ20mで約1000円)とダイソーのマグネットテープ(写真右)、および基板材として「カルトナージュ用厚紙2.5mm厚」、接着用マグネットはダイソーの「超強力マグネット・ミニ」(直径6mm、8個入り108円)。抵抗は3Wのセメント抵抗(100Ω、50Ω)を用いた。
電池ユニットと抵抗ユニット、豆電球ユニットには、基板材の厚紙にペーパーパンチで穴を開けてネオジム磁石が埋め込んである。これらは表面から裏面にかけて、銅箔テープを回してあり、マグネットバーのようにして導線ユニットの上に重ねて置くだけで導通が確保できる。導線ユニットはダイソーのマグネットテープと銅箔テープの粘着面どうしを貼り合わせたもので、片面だけ伝導性がある。写真は抵抗の直列接続(左)と、電球の並列接続(右)の例で、黒板上で自由にレイアウトでき、教科書の回路図通りのイメージで実際の回路が動作する。なお、2015年1月例会で紹介した「超小型2線式デジタル電圧計」で各部の電圧を表示している。ミノムシクリップが鉄製なので、磁石の部分に近づけるだけで接着し、手軽に電圧が測定できる。
電流を測定したいときは、デジタルテスター(これも磁石で黒板に貼り付ける)に接続したプローブを電流を測定したい部分の磁石と導線ユニットの間に挟み込むだけでよい(写真左)。右は電流測定用プローブの先端部。透明なポリプロピレンシートをサンドイッチするように銅箔テープを両面に接着し、ビニルコードをハンダ付けしてある。これで、基本パーツはそろった。あとは工夫次第でいかようにも拡張できる。
理科部会発表報告 西村さんの発表
西村さんは、5月15日に開催された「神奈川県高等学校教科研究会 理科部会研究大会」で、昨年度の授業実践について発表した。その発表の中で、YPCの市江さん、益田さんに手伝ってもらい、参加者にアンサーパッドを配布し、実際に聴衆応答システムSunvoteによる投票を体験してもらった。例会ではそこで得られた結果について興味深い報告があった。
質問としては、授業における生徒実験の割合をたずねた。写真のような結果であった。やはり生徒が主体となって行う実験を授業に取り入れるのは、多くの教員が苦労していることなのだとわかる。
西村さんはYPCで勉強した実験ネタを、自分の授業で実践するだけでなく、今度は他の教員へと広げていく必要があるのかもしれないと感じている。様々な環境、制約が学校ごとにあるが、より良い授業作りのための取り組みは、なんとか続けていかなければならないのだろう。
ARS個別学習票 西村さんの発表
西村さんは、昨年度に引き続き、授業改善のために聴衆応答システム(Audience Response System、ARS) を導入した授業実践を試みている。ARS
は、木村情報技術株式会社から借用している Sunvote アンサーパッドを使用している。今年度は、教育科学総合研究会(教科総研)のフィードバック票をモデルとして、ARS 設問に対応したフィードバック票である「ARS 個別学習票(仮称)」を作成し、生徒へ配布することで、形成的評価の実施を研究課題とすることにした。ARS
個別学習票の内容は、次のようなものである。
1. 出題の意図
2. 各選択肢についてのコメント
3. クラス全体の正答率
4. クラス全体の選択肢毎の解答状況
学習の観点に基づき ARS設問とその選択肢を分析し、ARS個別学習票を実際に作成してみたことで、西村さんは授業で教えるべき内容が明確になったり、生徒の持ち合せている知識を意識した授業作りに繋がったりすると感じたという。
例会参加者からは、選択肢が生徒の素朴概念に対応しているのかどうかの検証や、ARS個別学習票を実際に受け取った生徒の反応、そして教育効果を調べて欲しい、という声があった。西村さんはARS個別学習票による形成的評価を通じて、生徒に暗記するのではなく考えることを大事にするような学習観を育てていきたいと思っている。西村さんの論文はここ。
非等速な円運動の扱いについて 勝田さんの発表
写真のレールの問題のように、等速円運動の運動方程式を、等速でない円運動にまで適用させる問題が、問題集や入試問題でよく見かける。
勝田さんは、これを高校生に合理的に説明することはできないと感じていて、高校物理を担当するYPCメンバーに、どう考えているか/どう教えているのか、質問がてら課題を投げかけた。
「意外にも、高校での取り扱いに肯定的な人が多くて驚いた。その後もだいぶ考えたが、やはり納得がいかない。」とは勝田さんの弁。「大学入試に出る」という既成の事実を「あたりまえ」と思わずに、もう一度点検してみる必要があるかもしれない。
新しい本を出しました 山本の書籍紹介
本年4月に工学社から新たに出版した本の紹介。「高校教師が教える物理実験室」―家庭でできる高校物理「力学」「波動」「電磁気」の実験 (I・O BOOKS) 税込み2,484円、工学社ISBN-13: 978-4777518913。
比較的安価な材料で、家庭でもできる物理実験、先生が器具を自作して授業に使えるような物理実験・工作を紹介した本だ。高校の時に物理を教わらなかったことを残念に思っている社会人、学校の授業で実験が少ないことを物足りなく思っている中高生、そして経験が浅く身近に指導者もいなくて授業づくりに行き詰まっている若手の理科の教員などをイメージして執筆した。
集録した実験・工作の多くはYPCの活動に由来し、ヒントをいただいたYPCメンバーのお名前が各所に登場する。すでに、このサイトで公開している情報も多いが、本書の出版を機会に新たな材料で実験しなおしたり、改良を施したりしたものもあり、未発表の記事も含めて他書にない新鮮さを感じていただければ幸いだ。
なお、著者の原稿にはなかった、「カギ括弧」が多用されていること、「ら」抜き言葉が用いられていることは、「社の編集方針」とのことであるが、著者としてはいささか残念に思っている。
山本義隆さんの新刊本 宮崎さんの書籍紹介
あの山本義隆さんが、駿台千葉校で行なった講演内容に加筆して出版された本の紹介。
「講演が元だけに読みやすく、あっという間に読んでしまうでしょう。」と宮崎さんは推薦する。
内容は原子、原子核から放射線まで。途中に、『では休憩にしましょう』と入るのですが、それを数えると、この講演はいったい何時間行なったのかという疑問が生じる。
ワインバーグの『電子と原子核の発見』やエミリオ・セグレ『X線からクオークまで』と内容は重複しているが、コンパクトにまとめられた本だ。
高温拡散型霧箱 三浦学苑理科室の展示
放射線を観察する「霧箱」が理科室前に展示されていた。島津製の高温拡散型霧箱だ。エタノールを用いる霧箱と異なり、エチレングリコールを用いて比較的高い温度で過飽和状態を作り出す。冷却の必要がないので、比較的装置が簡略になる。放射線が飛ぶことによりエチレングリコールが凝結し、飛行機雲のように放射線の飛跡を観察する事ができる。
車田さんによると、観察槽の周りにLEDテープを巻いたところ、非常によく観察できるようになったとのこと。従来の霧箱は懐中電灯などで横から照らして観察したが、LEDテープを巻くことで観察槽が明るくなり、β線や自然放射線も観察できる。LEDテープのアイデアはドライアイス冷却の簡易霧箱でも使えそうだ。
二次会 衣笠駅前「お多幸」にて
13名が参加してカンパーイ!三浦学苑での例会は久しぶりだ。三浦半島の先端近くなので、距離的には遠く感じるが、横須賀線・総武線快速一本で千葉からずっとつながっているので意外と交通の便は良い。千葉県や東京方面からの参加者もゆっくりと二次会を楽しんだ。
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