例会速報 2016/05/22 國學院大學久我山中学高等学校


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授業研究:共鳴の授業 勝田さんの発表
 勝田さんは、4月に勤務校で、中国全土の理数授業コンテストで優勝した大学生と「共鳴」をテーマに授業対決する機会があった。相手は倍率4000倍の優勝者だし、慣れない英語での授業だしどうしようかと散々悩んだ結果、「マーブルチョコの紙筒の蓋を開けた時のポンという音は、なぜいつも同じ音程なのか」を題材に、以前から疑問に思っていた「ブランコの共振と楽器の共鳴は本当に同じ現象なのか?」という内容を検討していく授業に題材にした。これから教員になる中国のエリート学生たちに、実験を基軸に置いた生徒とのインタラクティブな授業展開を知ってもらいたいという野望も抱いていた。


 例会ではまず、昨年度の物理基礎で音の授業について報告があった。音が縦波であるということをスピーカーの前に置いたガスバーナーの炎のハイスピードカメラ映像で示し(上の写真)、続いてSonic Visualiser (http://www.sonicvisualiser.org)という信じられない精度のオシロソフトとFFT PLOTという周波数分解IPhoneアプリを使って、音の3要素と音波の対応、音速測定、唸りの解析、倍音や調律と音階などを実験的に探っていく。音は一貫して「楽器の仕組みを探る」というテーマで行っていくことにし、できる限り実際の楽器の音を解析していった。
 

 続いて、弦と菅の楽器の共鳴を扱う。1mのプラスチックパイプにBluetooth接続のワイヤレススピーカーで正弦波の音を送り込み、気柱共鳴の実験を行った。音の送り込み方は、音を小さめに、スピーカーを動かす時のコツを教われたので大変勉強になった。弦・菅ともに、チューニングの方法を題材に、両者の違いを考えていくことにした。
 

 さて、特別授業では、まず「マーブルチョコの蓋を開けた時の音を変えられるか?」ということで生徒全員に試行錯誤してもらう。もちろん変わらない。その後固有振動の復習としてブランコを見せ、固有振動数にあった振動を与えることで振動を増幅させていることを確認した。その後、蓋を開けた時の音を周波数分解して、固有振動数が648Hzであることを確認して、生徒は「毎回その音しか出ないんだ」ということで一応納得する。
 そこで、ちょっと待てよ、ブランコならともかく、みんな蓋を開けるときに1秒に648回も震わせてるのか?!と問う。そこで、「ノイズ」に対する共鳴を探っていく。まずは2つの音が混ざった音で気柱共鳴の実験を行う。両方固有振動数、片方だけが固有振動数の組み合わせでそれぞれ行うと、固有振動数の音だけが選び出されて共鳴することがわかる。その後、ザーというノイズをスピーカーから出し、パイプにスピーカーを近づけると和音の共鳴が聞こえる。ノイズを周波数分解するとすべての振動数の音が混ざっていることがわかる。手を叩く、息を吹きかけるなどの音も同様だった。デルタ関数をフーリエ表示してみれば自明ではある。
 

 生徒に、ではノイズで気柱共鳴している時のFFTのグラフを予想せよと問う。結果は、パイプの固有振動数の音がすべてピークとして現れる。これまでの結果をすべて組み合わせて、再びマーブルチョコの蓋を開けた時の音がなぜいつも同じなのかを自分の言葉で説明させた。全員ちゃんと書けた、中には英語でまとめた生徒もいたというから素晴らしい。

 以下は例会発表を終えての勝田さん自身の感想。
 「ブランコの共振と楽器の共鳴の違いを強調した授業設計のつもりだったのだが、例会では『むしろ自励振動もフーリエ変換を通して固有振動数の共振として理解できる、ブランコと楽器の共通点を強調した展開になっているんではないか』との指摘を受け、例会翌日から自励振動についてかなり勉強したところ、まあ確かにそうも言えるかな、という結論に落ち着いた。ただ、やはり生徒に教える際には立場をきちんと区別してから、最後に共通性を提示するという方法でないとまずいと考える。」
 「毎度ながら、YPCの授業研究は本当に自分のためになるし、侃々諤々で大好きです。ていうか、YPCの人たちのあのマニアックな知識はどこで知るの・・・。笑」

 勝田さん提供の詳しい発表資料や音源ファイルはここ↓
https://www.evernote.com/l/AX6C_OXGT61I2b4c-1HQzvBmzzDjTgODoR4
 

手づくり蜃気楼 夏目さんの発表
 夏目さんは子ども教室などで蜃気楼の原理を液体に置き換えて説明する実験を試みている。濃い食塩水などの重い透明液体を真水の層の下に設けて、境界面すれすれを観察すると向こう側の像がゆがむ。ただし、食塩などを溶かすのが結構手間だった。
 

 模索の後にたどり着いたのが、この「ヒアルロン酸配合化粧水」だ。透明で液状なのでそのまま使える。注射器などで水の入った水槽の底に静かに注入する。
 

 揺らさなければ二液の境目はけっこうはっきりしていて安定している。境界面に沿って水槽の奥のパネルを見るとゆがんだり上下逆さになったりした模様が見える。 夏目さんの詳しい発表資料(PDFファイル4.3MB)はここ
 

定常波のおもちゃ 成見さんの発表
 成見さんが海外のネットショップ http://www.teachersource.com/ で見つけて衝動買いしたという「3D Standing Wave Machine」を紹介してくれた。お値段は$26.95。
 

 左右のモーターが同期して回転すると、アームの間に緩く張り渡されたひもが紡錘形の「定常波」を作る。中央の操作盤で回転速度を制御すると腹の数が変わる。波と言うより回転しているのだが、カラフルな照明もついていて、ディスプレイとしても楽しめる。
 

L字電流が作る磁界 田代さんの発表
 田代さんは、2008年8月例会2009年8月例会と L字型電流にこだわってきたが、今回は磁界の強さに重点をおいた。直流電流が作る磁界は鉄粉や磁針でその様子を見ることができるが、磁界の強さは簡単にはいかない。前回のクランプメーターを参考に、ホール素子を使わない方法として田代さんが思いついたのは、交流が作る変化する磁界ならば、その変化する磁界の強さを鉄心に巻いたコイルを流れる電流を測定することで、磁界の強さの比較ができるということだ。ただし磁界の向きはわからないが。
 

 上の図1で示す数値は、電流がL字に曲がった部分を中心にした立方体の、12個の稜線の磁場を連立方程式を解いて算出した理論的な電流比である。大きな矩形コイルに流れる電流を調節するのに、例会ではスライダックを使ったが。なければ制限抵抗として100W白熱電球を直列につなげばよい。田代さんが自宅で改めて測定した値は次のようになった。
10:5:4:2:1 → 1.37 : 0.65 : 0.53 : 0.18 : 0.10 (mA)
 

熱と仕事 平野さんの発表
 銅パイプの片側を閉じて水を入れ、側面を糸などで摩擦することで熱と仕事の関係を演示する実験は古くから行われているが、意外に器具の作製が難しかったり水の温度上昇が少なかったりで、いまひとつだった。そこで平野さんは、製作方法が非常に簡単で、税込みの材料費が100円未満の器具を開発した。「一文字」という金具に銅パイプを通しただけの簡単構造(写真左)。銅パイプに水を入れるのは百均の「化粧品用スポイド」(写真右)が便利。
 

 机の端にクランプ金具(これも百均で可)でしっかりととりつける。太いたこ糸を2回巻き付けて、両手で糸を往復させるように何回か引くと、中に入れた水が沸騰して5cm以上飛び上がるのが観察できる。

簡易すっとびボール 山本による宮田さんの代理発表
 宮田さんは、すっ飛びボールの原理がよくわかる、簡単構造の「簡易版」を作った。ピンポン球に穴を開けてスーパーボールに挿した竹串に通すだけ。大きさではなく質量の比が重要なことがよくわかる。また、飛び出す球が大きいので見失うこともない。ハイスピードカメラ映像(movファイル7.0MB)はここ
 

虹を作る水滴のモデル 宮崎さんの追試報告
 宮崎さんも楽しみにしている『岐阜物理サークルニュース』が届いた。掲載記事の一つを早速追試してみた。
 『岐阜物理サークルニュース』No 301 p6 通算p6842の村田憲治さんの記事「直径60mmの透明アクリル球でつくる虹」だ。アクリル球にミラースプレーで半分だけ塗装すると、塗装面の裏面(アクリル側)が鏡面のようになる。
 

 ここに強い白色光源で光を当てると光源の後方においたスクリーンに反射光が映り、外周にスペクトルが見える。例会では、光源やスクリーンの距離をさまざまに変え、スマホのLEDで点光源も試しながら、最適の見え味を求めて試行錯誤が行われた。詳しくはYPCニュースの宮崎さんの記事を。
 

物質の三態と分子運動 鈴木亨さんの発表
 教職課程の模擬授業でのやりとりから話は始まった。「液体は固体よりも分子運動が激しい状態」という学生に対し、「60℃の鉄と40℃の水銀でも?」と鈴木さんはツッコミを入れたという。固体、液体、気体の順に分子運動が激しくなると信じ込んでいるものが、生徒のみならず教員にも広がっているようだ。
 

 生徒・学生の誤解は責められない。教科書の記述(上段)、NHKの教育番組(下段)でさえ誤ったものが存在する。某社の入試問題解説に載っている埼玉大の2007年の問題解説もそうだ。出題者は正しい理解の元に出題していると思われるが、おそらく教員が書いたと思われるこの解答は誤っている。
 

 三態の違いは分子・原子の結合状態の違いによる。物質の分子運動のエネルギーの平均値は温度のみで決まる。
 

浜松ホトニクスに行ってきました 成見さんの報告
 水野さんが企画した今年3月の「YPC浜ホト見学ツアー」の報告があった。参加者18名で貸し切りバスを仕立てて楽しんできた。ノーベル賞を支える浜ホトの技術と企業努力を改めて知る機会となった。
 

 スーパーカミオカンデの20倍の規模の「ハイパーカミオカンデ」の計画も進んでいるとの、最新情報もあった。帰路は連休の大渋滞にはまりたいへんだったとのこと。お疲れ様でした。

 あいにく物理学会と日程が重なってしまったため、ツアーにさんかできなかった人は大変悔しがった。

まんが「科学偉人伝」 竹内さんの発表
 くもん出版から出版されている「まんが・発明発見の科学史『科学偉人伝』」(ムロタニ ツネ象著)の紹介。出版は1997年なので新刊ではないが、よい本だ。原子やDNAからロケット、宇宙、相対性理論まで科学者達の苦闘の歴史を6大テーマでまんが化している。
 

二次会久我山駅南口岩通通り「ジャイジャイカー」にて
 16人が参加してカンパーイ!。今回の会場、國學院久我山は初めてだったが、二次会会場もYPC例会としては初めての本格インド料理店。初参加の人も多く、新鮮な雰囲気。仕事で例会には参加できなかったが二次会には駆けつけた人もいて、賑やかにたらふくインド料理をいただいた。美味しくてお値段もとてもリーズナブル!


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