例会速報 2017/05/21 関東学院中学校・高等学校
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授業研究:単振動の授業 勝田さんの発表
勝田さんの授業報告について、みんなで討論した。以下、勝田さん自身のコメントでレポートする。授業スライドのデータはここ。
今回の授業研究は、単振動をテーマに選んだ。正直なところ、単振動の単元は、何を目的・目標にして授業をして良いのか分からないまま授業をしているので、YPCの例会で勉強させてもらおうという魂胆。
授業では、単振動というより一般的な「振動」を扱っていて、解析性の良い振動の例として単振動を扱うといったスタンスを取った。単元を通じて、「常に振動中心を向く復元力こそが振動の源である」というスタンスを取った。大きく分けて、3つの課題について話し合いながら、授業を進めた。
1題目は、「台車がバネに繋がれて振動している際、台を傾けていったら周期は変わるか」これは、重力は常に一定方向を向いているので、復元力ではなく、振動の性質を変えないということに注目させたかった。
2題目は、「バネに繋がれた台車におもりを載せて単振動させる。振動の端に来た時におもりを取り除くと、周期は変化するか」これは、運動方程式 ma=F
のFは変わらないがmは変わる、つまりバネの復元力がバネの伸びだけで決まるので、台車の質量が変化すると加速度も変化してしまうというものである。実験の動画(movファイル2.8MB)はここ。
3題目は、「同じ長さの糸に繋がれた 500g と 1kgのおもりを振り子にすると、どちらの振動の周期が大きくなるか」これは、先の問題では台車の質量が変化すると周期も変わったが、ふりこの場合は復元力も質量に比例するので、周期は変化しないというもの。結局、運動を考えるには、質量だけでも力だけでもダメで、両者のバランスで運動が決まっているのである。最後の授業では、単振動の応用として、「モード分解」の考え方に定性的に触れ、大学教育への接続を狙った。フーリエ解析を通じて、振動体は様々な振動数の単振動の集まりとして表現できる。その例として、音の周波数分解を行なった。(写真右)
例会参加者からは次のような意見が出た。
「力は合力で考えるべきだ。物体にかかっている力のうち、特定のものだけを復元力と呼ぶべきではない」、「変位に比例した力を復元力と呼ぶのか、それとも振動中心に向かっていれば復元力と呼ぶのか」、「この授業展開では生徒が置いてけぼりになって、理解できないのではないか」。生徒を置いてけぼりにしないために、コンピュータを併用して生徒活動に多くの時間を割く展開にしたつもりなのだが、耳の痛い指摘であった。
2次会でも様々なコメントが頂けた。自転車こいで、発表して、飲むビールは格別。(注:ちゃんと自転車をたたんで電車で帰りました。)
水の輪について 林さんの発表
大磯中学校の林さんが、「水の輪について」という科学部の研究を紹介してくれた。水道の蛇口から真下に流れ落ちて、ステンレスシンクに広がる水は、左の写真のように輪を作る。日頃、よく目にするが、気にもとめず見過ごしているこの現象に、中学生たちは興味を持った。調べてみると流下する水の速さと輪の内部の面積はきれいに比例している。輪の内側の水の膜は薄くて流速が速く、外側は厚くてよどんでいるようだ。その境目に立ち上がった壁が「輪」となって見えているようだ。この輪はどういうメカニズムでできるのか、輪の大きさはどのようにして決まるのか。中学生たちの着眼は鋭く、測定も徹底している。研究は途上であり、顧問の林さん自身思索中だが、いくつか新たな実験のアイデアも温めている。会場の参加者の間でもいろいろな推論が飛び交った。この先の展開が楽しみだ。
例会後、ネットで検索してみると、愛知県の中学生によるこんな研究もあることがわかった。類似の現象で、実験の方法などが参考になりそうだ。この現象はなかなか奥が深そうで、興味深い。身近な現象なので探究活動、課題研究にうってつけのテーマだろう。
プチメーター 山本の発表
株式会社ナリカから新しいコンセプトの教材用計測器「プチメーター」が発売された。青色の直流電圧計CT-Vと緑色の直流電流計CT-Aの2種類ある。ミノムシクリップ付きリード線一体型のコンパクトな設計で、回路にとりつけるにあたって煩わしい配線作業がいらず、しかもワンボタン操作のオートレンジ・デジタル表示だから、計測器の方に神経を使わずに、本題の回路学習に集中できる。小中学校にはもってこいの教材だと思う。
もちろん、電圧計は測定対象に並列に、電流計は直列にとりつけるわけだが、電圧計の方は本体からリード線が出る位置が微妙にずらしてあって、並列に組み込むことが自然にわかるデザインになっている。この点も電気回路初心者向けによく考えられている。回路学習にとって革命的な教材だと思う。
深海魚的伝承館・第1回:静電気の実験 平野さんの発表
「深海魚」こと平野さんは「元気で例会に参加できるうちに、YPCのみなさんに私の伝えたいことを、少しずつ発表していくことにした。」とMLで宣言し、その第1回として「静電気と電荷の移動」を題材にAPEJの研修会風に説明してくれた。
帯電させるときの「摩擦」の意味、帯電と湿気の影響、効率よく帯電させるための条件、静電気と電流の関係、2台のはく検電器の間の電荷の移動を、実験とともに理論的側面を再認識した。平野さん提供の資料(PDFファイル336KB)はここ。
紙袋付きストローをはく検電器の上皿にテープ止めし、ストローを半分引き抜くとはくが開くが、ストローを戻すと箔は閉じる。帯電棒を摩擦するときは往復でこすってはいけない。片道一回だけこするのが効果的。
こすることよりも剥離することにより帯電が起こる。空き缶に巻いたラップをはがすだけで帯電する。
養生テープをはがした直後に、クーロンメーターに近づける。はがしたテープは正に、元のリールの方は負に帯電している。
「湿気があると静電気の実験はうまくいかない」はウソ。帯電棒の表面を純粋エタノールで清浄にすれば、お湯入りビーカーを入れ、湯気で曇っている水槽内でも、検電器のはくはちゃんと開くし、電荷もリークしない(写真左)。静電気実験の敵は水蒸気ではなく油汚れなのである。
増幅器付き検流計の1000倍モードで、「静電気」の電荷移動を確認(写真右)。これも立派な「電流」である。
はく検電器の上皿を木綿糸でつなぎ、一方に電荷を与えると、糸を伝わってゆっくりと電荷が移動し、両方が同じ開きになったところで落ち着く(写真左)。木綿糸に霧を吹いて濡らすと、電気伝導度が上がり、電荷が速やかに移動するようになる(写真右)。
親子独楽・パチンコ玉強化版 古谷さんの発表
CDを使った「親子独楽」の「親」の改良の結果報告。CDの外周にビニル被覆の針金を接着させたものが従来型だった。今回は外周にさらに質量の大きなパチンコ玉(33個)を接着し、親独楽としての機能の向上をはかった。
回転時間を計測すると、無負荷では予想に反し従来型より若干劣り、2分を切ることが度々あったが、負荷をかけた状態(本体の上で子独楽を回転させる)で計測したところ、従来型よりも大幅に長く、慣性モーメント増大の効果が発揮されたという。うまく回せば新型が親の場合、親・子・孫独楽の三世代回転もできるそうだ。
参考データ:小独楽:20g、従来型親独楽:64g、パチンコ玉型親独楽:222g。
相対速度の動画 西村さんによる米山さんの代理発表
平成28年度放送のNHK高校講座物理基礎の『「速い」「遅い」を比べる〜速さと速度〜』では、相対速度を学習する場面で、招き猫がカメラに向かって前後する動画がある(写真左)。一見、招き猫が前後に動いているように見えるが、実は、招き猫とカメラは台車に乗っていて、招き猫が近づいてカメラを載せている台車にぶつかってからは、招き猫は静止し、カメラが後ろに動いていたのである(写真右)。
この動画を西村さんが、運動の相対性がよくわかる動画だと、品川女学院中高の米山美咲先生(当時は学芸大の院生)にオススメしたところ、米山さんが実際に撮影して教材を提供してくれた。西村さんが実際に授業で使用し、生徒の感想とともに紹介してくれた。米山さんの撮影した動画は、背景が暗く、怖い招き猫が前後するNHKとは趣向を変えて、背景を白く、「すみっコぐらしぬいぐるみ」が前後するという、可愛らしいものに仕上がっていた。動画(movファイル2.9MB)はここ。
物理が嫌いな生徒でも興味をもって視聴できる工夫がされている。西村さんの勤務校では、動画を見た生徒のほとんどが、正解発表の動画(横から撮影したもの)を観た時に「おー!」と歓声をあげたり、授業終わりにまとめる振り返りに「すみっコぐらしの動画に驚いた」というコメントがいくつもあったりと、とても良い反応だったとのことである。
関連して・・・ 武捨さんの発表
西村さんの発表に関連して、すかさず武捨さんが参入し、「たまたま持参していた」自前の動画を紹介してくれた。これがYPC例会のすごいところだ。
力学台車の衝突を、接触面の種類を変えて撮影した。プラスチック消しゴム、ハネナイト(動画movファイル1.6MB)、吸盤を用いて、それぞれはね返り係数の大中小に相当させた。衝突される台車にカメラを載せて撮影すると、はねかえり係数が衝突前後の相対速度の比であることを示せる。
ニュートン私蔵の「プリンキピア」の自筆メモ 車田さんの雑誌記事紹介
ニュートンの「プリンキピア」の初版は、日本には放送大学(千葉県の本校舎)と金沢大学、その他の図書館に保管されている。ケンブリッジ大学に保管されているニュートン私蔵の「プリンキピア」にはニュートン本人が表紙に訂正のメモを残している。WEB上でも閲覧できるが、これほどはっきりと読めるメモと解説が掲載されたものは、車田さんも初めて見たという。
表紙のメモに「王立協会長サミュエル・ピープスの認可にり印刷、1686年7月5日」となっているところを1703年にニュートンが協会長に就任して前任者のピープスの名前に線を引いて消し、自らの名前のわきに王立協会長と書き足してある。権威にこだわったニュートンの人柄があらわれているのだろうか。
この記事は「数学セミナー2017年6月号」に掲載されたもので、現ケンブリッジ大学のトリニティーホール数学主任である日本人の時枝正先生の紹介文である。記事には、ニュートンのりんごの木の「直系子孫」がトリニティーカレッジ正門・数学科玄関・植物園にあるが、なぜか3本とも異なる種だったというこぼれ話も。
慣性力の教科書配置への問題提起 勝田さんの発表
勝田さん曰く、「高校物理の教科書で、なぜ「慣性力」が等速円運動の後に配置されているのか、全く理解できない。あたかも、”遠心力を教えるために”慣性力があるような印象を受ける。相対運動の中で、力学法則がどのように変換されるか、というもののはずである。水平方向に加速する斜面の上を滑る物体なんてつまらない問題より、『なぜ我々は目の前の台車の運動方程式を考える時に、太陽からの引力は考えなくてよいのか』とかそういうスケールで議論したいものだ。」
勝田さんの授業では、力学の最後に、運動量保存則が作用反作用の法則のより一般的な形であることを示し、さらに等速運動 or 加速度運動しながら物体の運動を見るとどうなるかということで、慣性の法則と運動方程式を再考する。そこで慣性力は自然に導入される。さらに、最後に特殊相対論に定性的に触れるという。
美ノ谷さんの本 鈴木健夫さんの書籍紹介
鈴木健夫さんがかつての勤務校で同僚だった岩波栄一さん(YPCも古くからのメンバー)からの紹介です。岩波さん、鈴木さんと同時期に同僚だった生物の美ノ谷憲久さんが、今までの研究の成果を「日本と世界のホシミスジ」として出版されました。高校の教壇に立ちながら、チョウの研究を続けてきた方です。理科教育を担う物理担当教員にも非常に有益な書物であると思います。興味のある方は鈴木健夫さんまで。
NAOKOアサガオのタネ 武捨さんによる松本さんの代理発表
慶應高校の松本さんが、宇宙飛行士山崎直子さんと一緒に宇宙を旅したアサガオのタネの子孫「NAOKOアサガオの種」をたくさん分けてくれた。
magnetic NOTES 益田さんの発表
授業でも使えるちょっとした文房具。やや大判の透明な「付箋」である。「マグネティック」のネーミングとは裏腹に静電気で貼りつくらしい。黒板にも使え、はったりはがしたりが容易にできるので、文字や矢印を描いておいて、板書の補助とするような使い方もできそうだ。
二次会 伊勢佐木モール「北京楼」にて
16人が参加してカンパーイ!伊勢佐木町の入口(出口?)付近にある、なじみの中華料理屋を借り切っての二次会。リーズナブルなお値段でたらふく食べられるのがうれしい。例会参加者25人の3分の2がここに集まっている。初参加の人も含めて、ベテランから若手まで、層が広いのがYPCの強みだと思う。
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