例会速報 2017/06/11 県立向の岡工業高校


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創立20周年記念「午後の日」 岡本太郎氏の彫刻
 本日の例会会場、向の岡工業高校は初めて使わせていただいた会場である。校門をくぐるとこんな素敵な彫刻が出迎えてくれる。なんと岡本太郎氏が創立20周年記念に制作してくれたものだそうだ。

授業研究:中3の力の学習 鈴木健夫さんの発表
 鈴木さんは今の学校に移って10年目になるが、今までは高校物理ばかり受け持ち、今年実質的に初めて中学の理科1分野の授業を自分のペースでできるようになった。中高一貫校なので、受験の縛りもなく、物理分野については高校での物理にどうつなげるかを考えればよいので、自由度は大きい。1学期は物理分野で、力の学習から始めて、運動と力・慣性の法則を行っている。


 例会では力の単元の授業レポートがあった。基本的に高校物理基礎で行ってきた課題をほぼそのまま実施しているそうだ。それでも、ほとんど中学3年の教科書に沿う内容になっている。それだけ中3理科1分野と物理基礎で共通する部分が多いということの表れである。課題方式(到達目標学習課題方式)での授業も入れて、じっくりと考えさせるようにしている。ただ、ベクトルの概念を使えなかったり、力の成分も教えないので、鈴木さん自身が戸惑うことも多いという。作用反作用は、バネの直列接続の場合の伸びを考えさせる課題をやってから説明する。
 

密度をはかる 天野さんの発表
 地学基礎で海洋地殻・大陸地殻の単元を教えるときの話題。学校のデジタル計量器と100円ショップの水槽や計量カップを使い、台湾産ピンク花崗岩・隠岐ー西島のアルカリ玄武岩・鉄の文鎮の密度を測定、比較した。それぞれ、大陸地殻、海洋地殻、核を代表する物質のつもり。
 水を入れた水槽や計量カップをデジタル計量器に載せ、0調整後、糸でつるした試料を宙づりに水没させる。壁や底に触れさせないのがポイント。このとき増えた重量は試料と同体積の水の質量分に相当し、水の密度1g/cm3から試料の体積Vが求められる。つまり表示された数値にcm3の単位をつけたものがVである。前もって測った試料単独の質量M(g)をVで割れば密度が求まる。なお、質量Mは、試料を吊る手を放して完全に底に沈めて数値を読んでもよい。
 測定結果はピンク花崗岩2.6g/cm3、玄武岩3.0g/cm3、鉄7.1g/cm3となかなか良い値。できればマントル物質がほしいところだが・・。
 

おもりの位置を変えた独楽 古谷さんの発表
 前回パチンコ玉を外周に接着したCD独楽の発表後、「同じ質量にしてパチンコ玉を可能な限り外周と内周に配置した場合の比較をしてみてはどうか」という要望に応えて、古谷さんは新たにモデルを製作し、実験してみた。結果は次の通り。
 1.外周タイプ(写真左)は負荷(上で独楽を回転させる)の場合も無負荷の場合も回転数に大きな差はなく、1分間以上回転した。
 2.一方内周タイプ(写真右)は無負荷の場合、30秒未満と回転数が少ない。
 3.内周タイプは無負荷時よりも負荷をかけた場合、10秒以上回転時間が長い。(無負荷:24秒~29秒、負荷時:34秒~43秒)
 

 下の写真の左側が外周タイプ、右側が内周タイプで、鉄球の数は同じにしてある。最後に親・子・孫の3段独楽に挑戦し、見事成功。感動の動画(movファイル8.4MB)はここ


理科教育ニュースに「乗り出す板」 成見さんの発表
 少年写真新聞社の理科教育ニュース5月号に、成見さん考案の教材、『乗り出す板』が特集され、成見さんが監修した。少年写真新聞社の加藤さんデザインの絵も素敵である。


フライステーション 市原さんの発表
 越谷レイクタウンに、4月中旬に屋内スカイダイビングをする施設「フライステーション」がオープンした。機会があって見学してきた市原さんから報告があった。
 建物の中心部は高さ20mの縦方向の風洞になっており、空気を循環させている。空気を加速させるのに、ロスを減らすためだと思われる。
 

 4歳以上、体重120kg以下の人なら体験可能。インストラクターの人がつけば、10m上空へ舞い上がることもできる(写真左)。インストラクターのデモ演技はまるで宇宙遊泳のようだ(写真右)。市原さんは見学だけで、残念ながら体験はしなかったそうである。確かに2分間で14000円はちと高いか。でも、面白そう!!
 

本の紹介 市原さんの書籍紹介
 「難問・奇問で語る 世界の物理 -オックスフォード大学教授による最高水準の大学入試面接問題傑作選」
 2016年11月例会で宮崎さんからも紹介があった本の再度の紹介。昨年の9月に発売されたもので、物理オリンピック日本委員会が翻訳に当たっている。問題をすすめていくと、理想的に考えていれば気にしていなかったところが、現実的に考えると矛盾が生じてしまい、問題で設定されている物理的条件を問い直す、という場面設定をされている問題も見受けられる。ただの問題集ではなく、深く考えることができるので、読み物としても面白そうである。
 

演示実験・3力のつりあい 武捨さんの発表
 武捨さんは、水上さんが以前YPCの2011年6月例会で発表された実験をずっとやってみたいと考えていた。
 専用の台車を自作しないとうまくいかないかなと思っていたが、普通の力学台車でもそれっぽくできたので、さっそく授業でも実際に演示して見せたという。
 

 500gの台車と1kgの台車で、それほどやりやすさは変わらなかったので、大きく見せられる1kgの台車を使った。台車を斜面と垂直に吊る糸は、あらかじめ重心を考慮してセロテープなどで位置を固定しておくとよい。
 

パワポとスマホの活用 成見さんの発表
 成見さんは、このごろパワーポイントで教材を作るのに凝っている。PCで作り、スマホに蓄えて授業時に持ち歩き、ちょっとした説明にも、活用している。
 

 作ってしまえば板書より見栄えがするし、アニメ効果も加えられるので生徒の注目を集めやすい。文字通りスマホの「スマート」な活用法である。
 

砂時計が浮く 市原さんの紹介
 2012年の科学の祭典全国大会で井手義道さんが演示されていた「水中での砂時計の不思議な運動の実験」。水中に沈められた砂時計が、砂が落ちると浮いてくる。なぜ浮き上がるのかは、出展者も言わないし、市原さんの授業のネタなのでここでは伏せるが、一見不思議に見えることも、丁寧に考えるようにと市原さんは指導している。動画(mp4ファイル22.5MB)はここ
 

何かおかしくない? 市原さんの発表
 日本学生支援機構が,「学校毎の貸与及び返還に関する情報」という資料をHP上で公開し、それを元に分析グラフを作っている人がいた(写真左)。これをどう読み解くか、が問題である。
 データとしては、偏差値40以下の私立大学の奨学金延滞率は、国立大学の4倍である、というのは事実かもしれないが、そのような分析に意味があるのかどうか、という話。母数も違えば卒業後の生活水準も違うので、一概に比較できない。更に言えば、「返還している人の割合」で比べると、99.35%と97.31%で、ほとんど大差ないようにも思えてくる。
 宝くじを1枚買うのと4枚買うのは、確かに当たる確率は4倍になったのかもしれないが、当たらない確率でみると、意味のある比較と言えるのだろうか。グラフは、誰かが意図を持って作っている。それに振り回されないように、と市原さんは授業で伝えている。

 一方、右の問題は、ずいぶん昔に電車の広告にあった、某中学入試問題。ジェンダーフリーの観点で見ると、この広告には課題があるのだが、そこに気づけるか?
 

音色と波形 市原さんの発表
 音の三要素では、音量は振幅で、音程は振動数で、音色は波形で決まるとされている。確かに、音色の違う音、例えばバイオリンとピアノの波形は違っている。しかし、波形が違ったからと言って、音色が違っていると言えるのだろうか?
 波形を合成してスピーカーに流し込んだ時に、オシロスコープ上で視覚的には違う波形に見えるものが、スピーカーで聞こえる音が、人間の耳には区別できないこともある。下の2つの波形は一見異なるが、実はフーリエ成分は同じである。
 つまり、「音色が違う→波形が違う」は言えるが、「波形が違う→音色が違う」とは必ずしも言い切れない。
人間の耳の分解能がその違いを認識できない場合、それを音色が違うといえるのか、という問題点を含むが、波形と音色は両矢印で対応しているものでは無いかもしれない。
 

タコマ橋の崩壊 MLの情報提供と山本によるまとめ
 YPCのメーリングリストで話題になったことを振り返り、情報を共有した。
 米ワシントン州のタコマ海峡にかかる長大な吊り橋、タコマナローズ橋が1940年11月7日に崩落事故を起こしたことは有名である。昔の物理の教科書にはこの事故が「共振」の事例として必ず載っていた。しかし、ビラーとスキャンランの論文(1991)で橋のねじれ振動の固有周期と、風速19m/sという当日の風によるカルマン渦列の発生周期は全く一致しないことが示され、「共振」ではなく「自励振動」とすべきであることがわかった。
 YPCでも右近修治さんの2000年9月例会での発表をきっかけに、かつてひとしきり話題になった。もう17年前の話になる。詳しくは右近さんがAPEJの物理教育通信に載せた記事を参照されたい。

右近修治・タコマ海峡橋はなぜ崩壊したか・物理教育通信No.107(2002)

 それ以来、高校物理の教科書からは、この「タコマ橋の崩壊」を「共振」の例とする記事は消えていった。
 MLでは武捨さんから、先頃丸善の「パリティ」2016年11月号(写真)に関連記事が載ったとの情報があり、例会で内容が紹介された。3人の著者、オルソン、ウォルフ、フックは、当時撮影された16ミリムービーからビデオ映像に変換する際のテレシネ変換のフレームレートなどについて詳しい検討をし、「共振」という誤った解釈が当初定着した過程についても追跡している。

二次会 久地駅前「やるき茶屋」にて
 8人が参加してカンパーイ!本日の例会は参加者が13人と大変寂しかった。発表時間も余ってしまうほどだったけど、その場のアドリブでいくらでもネタが出てくるところはさすが!この時期はみんな部活なんかで忙しいのかなあ。しかし、二次会の出席率は6割を超えている。ストレスフルなときこそ、集まって息抜きをしよう!「二次会だけ参加」もあり、です。ちなみにこのうち半数は三次会に流れた。


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