例会速報 2019/03/21 学芸大附属国際中等教育学校


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授業研究:エネルギーの実践報告 北岡さんの発表
 北岡さんは、学芸大附属国際中等教育学校の中学3年生に対して3学期に実施した、「エネルギー」の単元の授業について実践報告をした。
 学習指導要領の配列を少し変えて、1学期に力と運動、2学期に電流と磁界、3学期にエネルギーという順番で授業している。
 

 本単元のねらいとしては、仕事と力学的エネルギーから始まって、様々なエネルギーについて学習することを通して、エネルギー問題についての自分の意見を持つことだった。
 

 仕事や仕事率の概念から授業を進めて、「運動している物体が仕事をする能力」として運動エネルギーを導入する。球を物体に衝突させる実験で、衝突直前の球の速さと、物体が押し動かされた距離を測定してその関係を考察させた。
 

 授業では、YPCではおなじみの、コロラド大のシミュレーションソフト、PhETも活用した。
 例会では、個々の授業や実験に関するコメントとともに、中学校の物理において力学的エネルギーをどう扱うかなどについて意見が交わされた。
 

 以下は発表後の北岡さんの感想。「本単元を通して、エネルギー問題について、電力量などの視点から考えさせることができた。しかし、データに基づいていない意見も見られ、生徒に物理としての見方を獲得させることの難しさを感じた。物理として、「エネルギー」をどう扱うか、今後も検討していきたい。」
 北岡さんは、国際バカロレア教育派遣研修を終えて、4月から本務校に戻るが、引き続き情報交換していきたい。お元気で!
 

コールドプレート式霧箱 西村さんの発表
 西村さんは北岡さんの授業研究に関連して、コールドプレート式霧箱を紹介した。東京学芸大学の鎌田先生、窪田さんが数年前に開発したもので、現在はナリカで製品化されている。コールドプレートとは要するに保冷剤なので、ドライアイスや液体窒素の手配が不要で繰り返し使うことができるのが利点である。ただし−40度の冷凍庫が勤務校にある必要がある。 
 

 箱は窪田さんのアイデアで、100円ショップのプラスチックケースの内側にフェルトを貼り付け、アルコールを染み込ませることができている。ケースの上に金属製のカップを載せてその上に熱湯を注ぎ、アルコールを蒸発させることができるようになっている。
 

 例会では実際に自然放射線と放射線源からの放射線の飛跡を観察した。参加者全員でわいわいと観察を楽しみ、「こういう実験は、いつまででも楽しめます」との声もあがった。班の数だけ用意できる工夫はやはり大切だと思わされる。


ダイソーの新リングキャッチャー 車田さんの発表
 ダイソーの手品コーナーで、YPCではおなじみの「リングキャッチャー」のセットが販売されているが、同じコーナーに新商品「チェーンを貫通するリング」があったので、車田さんは買ってみた。「貫通」するのはYPCでも見たことがない。
 ネタバレになるが、最初から貫通したリングを手の内に隠して、チェーンをたらし、別のリングをチェーンにゆっくり通し、その手を下に素早くおろすと同時に、上に隠し持っていたリングを落とすだけだった。語りで目をそらし隙をついてすり替えるという単純な手品である。
 ちょっとメカニカルな仕組みを期待しただけに残念な結果だった。


V-tグラフから2αS=V2−Vo2 天野さんの発表
 移動距離と速度の関係式において、昔は移動距離をSで表していたが、最近はxを使うことも多い。しかし、これはSのままで表記した方が良いのではないか、というのが天野さんの提言である。vーtグラフの面積は移動距離に対応し、面積は通例Sで表されるからだ。Sは、「和」を表すsumあるいはsummationの頭文字、もしくは「領域」を表すsphereの頭文字である。そういえば、ライプニッツによって考案された積分記号のインテグラルも、Sである。初速があって加速していくときのグラフの面積は、台形型になるが、それを写真右のようにv軸方向に折り返して長方形にすると、2αS=V2−Vo2の公式ときれいにリンクする。
 

福島報告 水野さんの発表
 水野さんは、(株)たびせん・つなぐ、という旅行会社が企画した「池田香代子さん(ドイツ文学翻訳家)と行く8年目の福島~飯舘村職員に転職したTVマン、農業再建をめざす青年、町の復興のいま、それぞれの思いを受けとめる旅・3日間」というツアー(3月9日~11日)に参加してきた。水野さんはこれまで何回か福島に行っているが、全村避難を経験した飯舘村には行ったことがなかったので参加した。
 

 水野さんが持参した簡易線量計では、飯舘村に入ってからはどこで測っても0.1~0.3μSv/hと、横浜の2~6倍程度の線量だった。
 

 飯舘村での最初の出会いは飯舘村職員に転職したTVマン、大森真さん。会社上層部からの指示に違和感を持ち、直接被災現場に足を運ぶことを決意して転職した人だ。「ふくしま再生の会」では理事長の田尾陽一氏と菅野宗夫氏の話を聴いた。菅野さんは飯舘牛を育てていたが、8年前の地震、それに続いた福島第一原発の事故のため飯舘村から避難を余儀なくされた。今はIT技術を生かした新しい農業に取り組まれている。
 

 田尾理事長からは飯舘村再建の現状について話を聴いた。「ふくしま再生の会」は手作りの放射線計測小屋を建て、その中に放射線測定器を設置し、作った野菜などの線量測定に利用しているとのことだった。
 

 NPO法人野馬土代表理事の三浦広志氏の話は、福島の農業再建の展望を明るく語るものだった。福島の米や野菜は全量放射線量を検査し、基準以下のものしか出荷していないそうだが、「安全」であっても消費者が「安心」と感じるとは限らないとのこと。三浦さんが語る「福島のおコメは安全ですが、食べてくれなくて結構です」という言葉を私たちはどう受けとめるのか?水野さんは、風評に流されることなく、安全な福島産の米などは購入していこうと思った。三浦広志さんの息子さんで、農業後継者となっている三浦草平さんと交流する機会もあった。農業のことをよく勉強されており、ツアー参加者の様々な質問に的確に答える姿は頼もしかった。


 水野さんは「被災地と共にあるとはどいうことか」を以下の三点にまとめた。
・被災地の実情を伝え続ける、忘れない。
・福島産の米・野菜などの農産物に対する風評に流されず、科学的認識を持ち、購入する。
・TPP11など、小規模農業を潰す恐れのある農政を進める現政権の政治に批判的立場を取る。
 8年前の地震発生時刻、3月11日午後2時46分にはツアー参加者全員で富岡駅そばの海岸近くで海に向かって黙祷を捧げた。
 

脚注の多い書籍紹介 市原さんの紹介
 スタンフォード大卒のマンガ家とカリフォルニア大の物理学者が書いた、世界一わかりやすくておもしろい宇宙入門というアオリ文句を持つ本。 現在何がわかっていないかが平易な文でわかりやすく書かれている。やや冗長で本が分厚いのが難点とも言える。 感想としては「脚注がとても多く、そこに含まれるジョークに日米の壁を感じることもしばしば。でも面白い。」だそう。

理由って難しい 市原さんの発表
 「同じ量で同じ温度のお湯を、フタのある鍋とフタの無い鍋に入れてしばらくしたとき、どちらが早く冷めるか。またその理由は。」と聞かれた時に、 高校生ならなんと答えるだろう。理由として「フタが無いから」だけ答える生徒がいるが、これだけで理由の説明になっているだろうか、という問題提起。 フタがないのは事実であって、なぜフタがないと早く冷めるのか、に言及させたい。
 

センター地学基礎 車田さんの発表
 車田さんは、今年のセンター試験・地学基礎の第1問について初見で即答できなかったので問題提起した。
 地球が球形であることを示す経験的事実の例として適当でないものを選ぶという問題だ。選択肢は以下の4択である。地学基礎の教科書には、①~③の例示があり、正答は④だった。
①月食のときに月に映る地球の影が円形である。
②船で沖合から陸地へ向かうと,高い山の山頂から見えてくる。
③北極星の高度が北から南へ行くほど低くなる。
④岬の先端から海を見渡すと,水平線が丸く見える。
 ところで銚子市観光協会のHPにある「銚子ポートタワー」の案内では、「高さ57.7mのツインタワーです。4階展望室からは360度の大パノラマが広がり、陽光に輝く太平洋を背景に銚子漁港、丸みを帯びた水平線、利根の河口の雄大な眺望を満喫することができます。」とあり、さらに「地球の丸く見える丘展望館」の説明には、「どこまでも果てしない海、屋上の展望スペースから見る360度の大パノラマは、本当に地球が丸く見えることが実感できます。」とある。
 東進ハイスクールの問題解説では、「地上から水平線が丸く見えるのは目の錯覚である」となっていた。
 「丸く見える」が「湾曲して見える」の意味か、「水平に一周して円をなす」の意味かあやふやなので、④の言葉の表現が不適切なのだが、さて、人工衛星の高度からは明らかに湾曲して見える地球の輪郭が、肉眼で「湾曲している」と認識できる最低限の高さは、地上何kmぐらいなのだろう。

THETAを用いた授業について 櫻井さんの発表
 櫻井さんは、先月に引き続いてTHETA-Vを用いた発見学習教材について、実際に使用された「実験方法の間違い探し」「正しい表示の方位磁針はどっち」の360°画像を持参して紹介してくれた。実施された実証授業では、生徒が一人一台のタブレットを使用して360°画像を自由に見回して、気付いたことをワークシートに書いた上で意見交換する形を取った。
 

 生徒の動機付けや能動的な授業参加が期待できるのはもちろんだが、実験における危険な状況や行為を発見させることで、同じようなことがないよう注意喚起することもできる。右下の画像は点火したアルコールランプ越しに物を受け渡しているところ。
 櫻井さんは、「難しいツールではあるが、使い方次第で面白い授業が作れそうという実感があるため、今後も利用法を考えていきたい。」と語った。
 プレスリリースは右のURLから。https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000043401.html
 

越谷北高 清水先生の「自習書」紹介 宮﨑さんの書籍紹介
 YPCのメーリングリストで、4月から生物基礎を持つことになったメンバーから、授業の参考になる本を求めて質問があった。MLでは「仮説実験授業のABC」や「埼玉県立越谷北高校の清水龍郎先生の「自習書」」などが紹介され、宮﨑さんが例会に実物を持ってきてくれた。後者は、宮﨑さんが生物を教えることになるかもしれないときに清水先生から分けてもらったものだそうだ。あいかわらず幅の広い横浜「物理」サークルである。なお、「仮説実験授業のABC」(仮説社)は現在、第五版となっている。
 教員免許状は「理科」だから、物理だけではなく地学も化学も生物も教えなくてはならない時もあるが、科学的思考として、生徒に教えたいことで共通するものもあるだろう。新たな授業を模索する先生には、ぜひ頑張ってチャレンジし、可能なら授業の報告もしてもらいたい。
 

二次会大泉学園駅前「山内農場」にて
 12人が参加してカンパーイ!今年度もみなさんお疲れ様でした。例会会場としては2回目の学校だったが、駅からのアクセスは悪くない。YPCの例会は「横浜」にとらわれずに幅広く各地で行われる。4月からは所属や立場が変わる人もいるが、月に一度の「物理息抜き」を楽しみにがんばっていきたい。


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