例会速報 2019/02/17 多摩大学附属聖ヶ丘中学・高等学校
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授業研究:物理基礎「熱」の授業 小沢さんの発表
非弾性衝突での力学的エネルギーの行方を、おもりを輪ゴムで木枠に取り付けた「分子運動モデル」で説明する。非弾性衝突するとき、おもりがよく揺れることが、熱運動が激しくなったことを表す。つまり、衝突物体の温度が上がることに対応する。非弾性衝突(結合)の動画(movファイル1.4MB)はここ。壁への非弾性衝突の動画(movファイル1.42MB)はここ。
台車に輪バネ(プラ板リング)を取り付けて衝突させると、おもりは揺れない。弾性衝突だ。壁への弾性衝突の動画(movファイル1.0MB)はここ。力学の学習で「分子運動モデル」を用いることが、このあと熱の単元で内部エネルギーを扱うことへの布石となる。
参考:『いきいき物理わくわく実験〔改訂版〕1』日本評論社、p.170「そろった運動をバラバラに -ランダム運動台車」
100℃の銅100gを室温の水100gの中に入れると何℃になるか、考えさせてから行なう演示実験。銅は10円玉(本当は青銅)22枚で代用。デジタルはかりや、デジタル温度計の値をワイヤレスカメラとプロジェクターで示しながら授業を進める。銅は水よりも比熱が小さいことを、生徒に気付かせる。このあと比熱の計算をするが、熱の単位にはあえてcalを使おうというのが小沢さんの主張。
参考:前掲書、p.174「コインと紙コップでモル比熱」
次に、小便小僧のおもちゃ(ナリカ)を演示して、どういう仕組みでおしっこが飛ぶのか考えさせる(写真右)。人形の中の空気の温度が上がることを、分子運動や内部エネルギーの増加と関連づけるきっかけにする。ここでは「熱によって温度が変化した」ことに着目させる。
動画(movファイル2.9MB)はここ。
最後に手作り圧気発火器(写真左)を演示して、「仕事によって温度が変化した」ことに着目させる。動画(movファイル1.3MB)はここ。「熱〔cal〕」と「仕事〔J〕」という全く別な量が、ひとつにつながるところが熱力学第1法則の醍醐味であり、ジュールの実験の意義である。だから、「導入段階では熱の単位はcal」と小沢さんは主張する。
参考:『いきいき物理わくわく実験〔改訂版〕2』日本評論社、p.152「寝てた生徒がアンコール2 -飯田式圧気発火器」
ビデオトランスミッター 小沢さんの発表
エントリーされた発表ではないが、上の授業研究の発表の時に、小沢さんがスワネック(フレキシブル書画カメラ)に接続して使ったビデオトランスミッターが会場で注目を集めた。本来は車載のバックカメラ用のワイヤレスキットで、FM電波でビデオ信号を送受信できる。つまりビデオケーブルによる配線をせずに、またWiFi環境がなくても、カメラ映像をワイヤレスでプロジェクターに飛ばせる。高画質は望めないが教室で使うには十分だ。送受信機がセットで800円程度と格安。電源は付属しないので、写真のように9~12Vの電源を用意する。
水熱量計の熱リーク宮﨑さんの発表
関連で、ナリカの水熱量計(写真左)を使って、10分程度の時間でどれだけ温度が変化するか例会の場で実験してみた。初期水温35℃、室温20℃ほどで、右の図のような結果になった。最初の5分で1度、20分で3度下がった。この程度はリークがあることを念頭において実験を組み立てるのがよい。水熱量計での実験では、熱量計の初めの水の温度は気温よりやや低く、金属投入後は気温よりやや上回る程度になるように水の量や温度を設定することが大事だと宮﨑さんは考えている。
イッテコイを大型化する過程で古谷さんの発表
古谷さんは、以前例会で発表した「イッテコイ」(既成の円筒状の容器を利用、輪ゴムとおもりをセットし、転がすともどってくる)の大型化にとりかかった。たまたまグリコのヨーグルトの容器の底の部分とガムテープの芯の内径がほぼ同じであることに気づいた。そこで、芯を介してヨーグルト容器を背中合わせに接着(カップリング型)を作成した。床で転がしてみたところ、一直線に回転させることが難しく、カーブやシュート回転しがちであることに気づいた。一方、「芯」を外し、容器の底を切り抜いて接着したタイプのものは回転方向が定まり易かったという。
「中央に芯を取り付けたことで回転方向が不安定になるのはどうして?」という報告だが、残念ながら例会の発表時には再現できなかった。参加者からは「取り付けが不均一という問題があるのでは」との意見があった。古谷さんは一瞬、「そうかも」と思ったが、帰宅後よくよく考えた結果、まだ納得はしていないようだ(事前の実験の際は組み立てを慎重に行ったので)。もっと他の要素があるのではないだろうか!
光学台を使わない凸レンズの焦点距離測定 宮﨑さんの発表
宮﨑さんが現在勤務している職場では、ロウソクの炎と虫眼鏡を使ってレンズの実験をしている。生徒が実験をすると良い結果が得られないので「物理実験ハンドブック」p146
(藤井清、中込八郎編:講談社)を参考に電球を横にして使用して実験した。
白熱電球の頭部には規格の印字があるので、光源と物体が一つになる。この文字がはっきり見える位置を結像位置として測定させたところ、今回の生徒実験ではロウソクのときよりも良い結果が得られた。ロウソクの炎の奥行きやゆらぎが、誤差の原因だったようだ。
ソコロフ先生のレンズの実験追試 宮﨑さんの発表
昨年夏に東京都市大学で開かれたソコロフ教授講演会での演示実験を追試した。ソコロフ氏が使った豆電球は明るく輝いていた。6.3Vよりも大きなもの?でアメリカ製という話だった。宮﨑さんは明るいLEDライトを使って、同様の実験をしてみた。実験の際の生徒の反応から
1)レンズの後方で光が集まったり広がったりする様子を見せる。
2)凸レンズの後方に光が届いていない場所があるを確認する。
ことが大事だと思った。
明るいLEDライトがなくても、ダイソーの「4LEDタッチライト・ブロック」(写真)でも部屋を暗くすれば十分実験ができる。LEDは4個ついているが、1個隠して3個にしたほうがわかりやすい。
RICOH THETA 櫻井さんの発表
櫻井さんは、新しい理科授業のツールとしてRICOHが販売している全天球カメラのTHETAを紹介してくれた。初号機については2015年3月例会で益田さんが紹介している。そのアップグレード版である。本体は前面・背面に魚眼レンズが1つずつ配置されており、それぞれが半球範囲をカバーすることで、全方向のシームレスな映像を一度に撮影できるように作られている。
例会の席で撮影した画像(左:解像度を落としてある)は実際には前後左右360度の情報が記録されていて、スマホなどでビューアーを操作して(写真右)後ろを振り向いたり、天井を見上げたりもでき、その場にいるかのような臨場感が味わえる。
櫻井さんは、本当はこれを使って「理科室の同じ実験机で、何人かいる友達が誤った器具の使用や手順で実験を行っている」映像を撮影して、その間違いを生徒がタブレットで探す授業や、自然の風景を撮影し、その中から目的の草花を見つける授業などが可能であり、そのような教材づくりが始まっている……という話をしたかったのだが、参加者がそれぞれのスマホで再生し始め、興奮して盛り上がったため発表がそっちのけになってしまった。「当日は参加した皆さんの勢いに呑まれて、何も喋れませんでした!YPCの皆さんの、新しいもの、新しい教材に対するモチベーションの高さに感服致しました。」とは、発表者の櫻井さんの弁。失礼いたしました!
黒い炎 宮﨑さんの発表
ナトリウム光源の下で紙を燃やすと、吸収によって炎が黒く見える。簡単にできる実験だが、例会参加者にも初めて見るという人が少なくなかった。ナトリウム光源の光をトレーシングペーパーで減光・拡散した。大型ナトリウム光源の光は強すぎるので、直接見ないようにとの指摘もあった。メタノールに食塩を溶かしてアルコールランプで燃やすと、その炎はナトリウム光源の下では黒く見える。炎色反応の逆過程である。
実像の位置から見たレンズ 成見さんの発表
成見さんはレンズの授業時には、スクリーン側から見たロウソクの像もなかなか不思議なことも生徒に伝えている。左の写真は、金魚すくいの「ポイ」をスクリーンにしてロウソクの炎が逆さに映っているところ。この炎の位置にスマホのレンズをかざすとレンズ全体が赤く見える(写真右)。炎の一点から出た光はレンズ全体を通って実像の一点に集まっているわけだから、その位置から見ればレンズ全体が真っ赤になるのである。もちろんロウの像の位置から見るとレンズは白く見える。なお、肉眼で観察する場合は、太陽光はもちろんのこと、強い光源を使わないこと。スマホカメラによる観察がオススメだ。カメラレンズが小さいことも都合がよい。
ルーベンス・チューブ 成見さんの発表
音波の学習時に見せるクント管は、発泡スチロールの粒が密度変化の少ない(横波表示の腹)部分で立ち上がる。山の立ち上がる位置が同じなため、その様子を横波表示そのものと勘違いする生徒がいる。成見さんは、何か他によい音波の可視化の例はないかと探しているとき、ある動画サイトを見つけた。たくさんの小さな穴を開けたガスチューブにガスを流し、それぞれ均一の炎ができるようにしておく。ガス管の内部に一定周波数の音波を送ると、炎が波の形になるというものだった。「ルーベンス・チューブ」と呼ぶらしい。日本ではあまり見かけないが、Rubens'Tubeで検索すると多数の海外の動画サイトがヒットする。
なぜ密度変化の激しい節の部分で炎が大きくなるのかなど、参加者でいろいろ議論をした。その他、波の干渉の腹、節部分の教え方で迷っていた点についても相談があり、参加者からアドバイスがあった。釈然としないこと、教えていて不安なことなど、気軽に相談できる雰囲気がYPCの例会のよさではなかろうか。
コップ一杯の水を海へ 喜多さんの発表
「コップ一杯海に注いだら」の問題はアボガドロ数を実感する上での良問である。喜多さんはもう二十年くらい前のある学会の講演会で聞き、気にいっていた。2018年12月18日の朝日新聞の、生物学者「福岡伸一の動的平衡」というコラムに、この問いがシュレーディンガーの「生命とは何か」に記載されているとあった。喜多さんは早速復刻版を図書館で借りて読んだら、そこには次のように記述されていた。
『ケルビン卿の使った次のようなたとえほど印象的なものはないでしょう。いま仮に、コップ一杯の水の分子にすべて目印をつけることができたとします。次にこのコップの中の水を海に注ぎ、・・後略・・』
シュレーディンガーではなく、ケルビン卿だったのだ。
解くヒントはコップ一杯180mL、10molとすることである。答えを出したらネットで検索してみよう。有名な問題なので簡単にヒットする。
センター試験と教科書の記述 市原さんの発表
2019年のセンター試験物理の第5問、熱分野のPV図に関する問題があったが、問題文に問題があるだろう、という指摘である。
問題は「気体が外部にした仕事の総和」という聞き方をしているが、それだけで正味の仕事を表すとは言い切れない。カルノーサイクルのように、外部に対して正の仕事をする箇所が二ヶ所以上存在するかもしれない、ということを言っているに過ぎないとも言える。
市原さんは現在使用されている教科書5社全てで、どのような表記を使っているかを調べてみた。共通して言えるのは、最初は「気体が外部にする仕事」と「気体が外部からされる仕事」を別の記号を使って使い分けていることである。WとW'などである。定圧・定積・等温・断熱の四つの変化をやっている間は、「気体が外部にする仕事」という言葉に、外からされる仕事を含ませることはない。(W=−W’という関係は触れているが)
熱機関、熱効率の学習に入った時に、「気体が外部にする仕事」の定義が上書きされる。した仕事とされた仕事の差し引き、正味の仕事、実質的にする仕事、として使われるようになる。
啓林館は、「気体がする仕事」「気体がされる仕事」「正味の仕事」を、記号を使い分けをしている。東京書籍は、「気体が外部にする仕事」の定義を、正味の仕事を意味するものに上書きしておきながらも、それを問う例題は扱っていない。
熱機関や熱効率を求める、という文脈で使うならまだしも、ただPV図を与えておいて「気体が外部にした仕事の総和」だけでは、気体が外部からされた仕事を差し引いて良いのか、カウントに入れていいのかは不明瞭である。直前の問題では「気体が吸収する熱」と「気体が放出する熱」を区別させているだけに、余計に混乱する問題構成になっている。どっちとも取りうる文章で、どちらの答えも選択肢に存在するのもいただけない。
日本語読解力ではなく、空気を読む問題は、物理として不適当であろう。パターン問題に慣れて、四角い図が出てきたら面積を出せば良い、と深く思考しない受験生と、書かれてある言葉の意味を忠実に受け取って、定義から考えられる受験生と、どちらを大事にしたいだろうか。よく考える生徒が不利益を被るような問題は、センター試験は気をつけてもらいたい。
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二次会永山駅前「瞬彩」にて
11人が参加してカンパーイ!例会本体は22名の参加だったから、半数は二次会にも参加していることになる。今回はちょっと平均年齢が高かったかな。このあとさらに「ラーメンを食いに行こう」という元気な人もいるが、コレステロールには気をつけよう。
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