例会速報 2019/01/20 慶応義塾高校


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授業研究:原子分野の授業 西村さんの発表
 西村さんは高校3年生物理の原子分野の授業について発表してくれた。
 

 教師の講義が中心となってしまいがちの分野ではあるが、西村さんはピア・インストラクションやコロラド大学のPhETシミュレーションを利用した教材を作り、できるだけ生徒同士の議論や活動を取り入れようとしたとのことである。
 例会では、原子分野で何を教えたいのか、どのようなストーリーで展開していきたいのか、ということについて議論が集中した。
 

 原子分野はそれまで学んできた力学や電磁気学、波動などの知識や考え方を組み合わせて、当時の科学者たちの発見の歴史を追体験できるのが魅力である。西村さんは、その魅力を生徒に十分に伝えられるよう、今後も授業改善に取り組んでいきたいと話していた。
 

静電気の実験 武捨さんの発表
 武捨さんは、クーロンメータを使って電気量保存則を示す授業を行った。ティッシュを手で持つかわりに絶縁素材のトングで挟んだらどうかと思ったが、絶縁が十分ではなかったようで、うまくいかなかった。ラシャ布をビニタイでアクリル棒に巻きつけて、塩ビ棒とこすり合わせると、塩ビ棒の負電荷とラシャ布の正電荷とが、ほぼ正負等量であることを示すことができた。
 

 iPhoneで撮影したクーロンメータの画像を、ワイヤレスでAppleTVに飛ばし、プロジェクターで拡大投影する演示法(写真右)も、参加者の注目を集めていた。
 


 武捨さんはさらに、2014年5月例会で紹介のあった箔検電器に出入りする電荷をクーロンメータで示す実験を授業で演示してみた。大型の箔検電器と塩ビパイプを使うと、出ていく電気量と戻ってくる電気量が等しくなってくれずに困っていたが、帯電体を集電板やクーロンメータに近づけすぎないというアドバイスをもらい、うまくできるようになった。
 

ペンデュラムウェーブ 天野さんの発表
 12月4日に開催された神奈川県教科研究会理科部会の物理研修会で、講師の滝川洋二先生が、このペンデュラムウェーブを実演してくれた。少しずつ周期が異なる8~10個の振り子が、はじめはサインカーブを描いて揺れているが、1分後に一直線に整列するという動きをする。天野さんは、身近に手に入る100円ショップの廉価な品だけを使って、同様の実験器具を作った。動画(movファイル14.2MB)はここ
 

空気モデル 平田さんの発表
 平田さんが会場に持ち込んだのは、一辺1mの白い立方体。商品名は「メートルフレーム」( 5000円、分子模型つき 6500円)、YY-SHOP わいわいショップで通販購入したが、現在は販売していないとのこと。
 仮説社の「一億倍分子モデル」に合わせて、一辺1億分の1mの立方体中にある窒素分子と酸素分子の総数は1気圧20℃に於いては25個であることを、空気の1億倍模型で掲示する。室温の空気の分子密度はこんな感じなのだ。分子間の空間はもちろん「真空」である。
 

 写真左は仮説社の「一億倍分子モデル」の水と窒素の分子。写真右は、液体の水の1億倍模型上に、固体の水(氷)の1億倍模型を乗せ、氷が水に浮くことを示した。固体の方が密度が低くなる物質は珍しい。他に、1億倍の実体積型分子模型で作ったブドウ糖分子も見せていただいた。
 

光通信 喜多さんの発表
 前回のナリカ例会での発表の際、手違いでうまくいかなかった喜多さんオリジナル「光通信セット」のリベンジ発表。写真左はメロディICの出力をLEDにつないだ光送信機。右はその光を太陽電池に当てて増幅・再生する受信機。
 

 下の写真、左は一見抵抗にみえるが、マイクロインダクター(L=22μH)である。これをアンプの入力側につなぎ、メロディICの出力につないだ100巻のコイルに近づけると相互誘導の実験ができる(写真右)。マイクロインダクターは微小なピックアップコイルとして使える。
 

 メロディICの出力側に高輝度LEDをつなぎ、ダイソーの虫眼鏡の焦点に配置する。虫眼鏡からの光は(理論的には)平行光になる。写真左は教卓からの光を実験室の後ろ約13m先に送っているところ。中央の赤い光束は受信機の太陽電池に当たっている。この演示はフィゾーの実験で何故凸レンズが必要かの説明に使える。
 右は,虫眼鏡を二つ使用して焦点距離を短くした光送信機。A4サイズに収納できるようにしたのだが、レンズ二つよりは一つの方が単純でよいと喜多さんは感じている。
 

 さらに、光ファイバーによる本格的な光通信の演示もできる。左は市販の光通信用の光ファイバーの一端に光送信機のLEDを当て、他端から出る光を太陽電池に当てている。写真右はプラスチック製の透明な光ファイバー「エスカ」で同様の実験をしているところ。暗くすると光が一部ファイバーの中で散乱しているのが観察される。
 

ホッコリする昔の遊びおもちゃ 古谷さん・天野さんの発表
 1月18日相模原市こども科学フェスティバルに参加した時の出し物の紹介。1997年7月1日毎日小学生新聞、2001年8月22日朝日小学生新聞に空き缶・ベットボトルを本体にした「糸巻戦車」の記事があるが、これをリニューアルした「輪ゴムで動く車」を発表した。天野さんは平成20年ごろこの紙コップ2つを重ねる本体を考え「輪ゴムで動く紙コップ自動車」を作った。ポイントは滑り摩擦を小さくするハトメである。
 例会ではフェスティバルの余りの材料が振る舞われ、参加者全員で工作も体験した。
 

酸素が見える!? 車田さんの紹介
 空気亜鉛電池を使った酸素センサーの紹介があった。神奈川県理科部会・化学実験講習会に講師として来てくださった東京工業高専の高橋三男先生が開発されたものだ。市販品もあるが、こちらはとても小型で、そして安価に作ることができる。基盤はオリジナルプリントで作られているがブレッドボードでも作れそうだ。高橋先生自身による解説本も出版されている。
 

 小学校6年生の理科の教科書には気体検知管を用いて空気中の酸素と二酸化炭素の濃度を調べる実験がある。しかし、気体検知管は、コスト面の問題や、破損による怪我のリスクがある。
 この酸素センサーは、空気亜鉛電池の起電力が酸素濃度に相関があることを利用する。可変抵抗によって適度な負荷に調節すると、酸素濃度の値をデジタルテスターにより電圧で表示できる。酸素濃度が20.9%ならば電圧は20.9mVと表示されるわけだ。
 応答速度も速いので、リアルタイムで酸素濃度の変化を測ることができる。例えば「考えるカラス」の「2本のロウソクの実験」の検証などに使えそうだ。例会では車田夫妻がそのデモンストレーションを見せてくれた。
 

RLC直列回路の位相 金子さんの発表
 抵抗、コイル、コンデンサを直列にした交流回路で、各素子のリアクタンスや位相の周波数による変化を同時に視覚的に確認できる演示方法の紹介があった。
 例会の演示では、10Ωの抵抗、2200μFのコンデンサ、500回巻きの鉄心入りコイルが使われた。それぞれの接続点に52kΩの抵抗を介して3台の検流計をつなぐ。検流計に流れる電流はごくわずかなので、その針が示す値は各素子の電圧の瞬時値(に比例した値)を表しているとみてよい。使用している信号源は秋月電子の「ファンクションジェネレータminiDDS」。1Hz~200kHzの正確な正弦波、矩形波、三角波などを出力することができる。この演示では1Hzと2Hzを使う。
 

 まず1Hzの交流を加え、抵抗から順次検流計に接続していく。針の振れの幅とタイミング(位相)に注目する。位相が90度ずれている様子を、視覚的に実感することができる。次いで、周波数を2Hzに上げる。コイルにつないだ検流計の針はより大きく振れ、コンデンサにつないだ方は振れが小さくなる。リアクタンスが変化したのだ。
 1Hzの動画(movファイル14.6MB)はここ。2Hzの動画(movファイル10.0MB)はここ。3台の検流計は左から、コイル、抵抗、コンデンサの電圧を表している。
 

山本の発表
 株式会社ATシステムの「カラーコンパスMF」(秋月電子通商で¥34200)は、極めて廉価なデジタルスペクトロメータ(分光光度計)である。センサーとして浜松ホトニクス製のマイクロ分光器モジュールC12880MAを使用して、小型化と低価格化を達成している。同モジュールは反射型回折格子とCCDフォトセンサにより分光光度をチャンネル出力する。
 USBでPCに接続して使う。ドライバと分析ソフト(写真右)は製造元のHPからフリーで入手できる。右の写真の光源は部屋の天井の旧型の蛍光灯。励起された蛍光体によるふたコブの連続スペクトルと、水銀の線スペクトルの鋭いピークが重なって見えている。写真のグラフは「棒表示」モードで色分けして塗りつぶしている。この表示モードはわかりやすい。
 

 写真左の光源は白色LEDを使ったトーチ。照明用の白色LEDは青色LEDの光で周囲の蛍光体を励起して連続スペクトルを作り出している。その励起用LEDの青い光が極めて強いことがわかる。これが噂の「ブルーライト」だ。人間の目の感度が落ちている領域なのであまり感じないが、白内障などへの影響が懸念されている。
 このソフトでは、二つの観測結果を赤と緑の線グラフで重ねて表示することもできる。スペクトルの比較や同定に便利だ(写真右)。
 従来だと分光光度計は20万円は下らなかったから、「カラーコンパスMF」は超格安だ。しかもその割にまともで、教育用には十分な性能を発揮していると思う。
 

黒板演示用回路(簡易セット)の授業案 山本の発表
 黒板演示用回路はこれまで汎用性の高い「黒板演示用回路キット」として供給してきたが、はんだ付け工作が苦手な方でも利用できるように、小中学校向けに特化した「黒板演示用回路(簡易セット)」として、完成品(格納箱付き)の提供を2018年8月例会から開始した。当面、YPCの例会や科教協の大会での頒布を計画している。
 今回の発表では、この簡易セットを使って、どのように授業を展開するかという授業プランを発表した。
 

 授業プランでは回路図と対応させながら、1箇所ずつ回路を変形していく。電池1個、電球1個の基本回路からスタートして、導線を伸ばす、電球を2個並列にする(写真上右)、電池を2個並列にする、電池も電球も2個ずつ並列にする(写真下左)という順番で、仮説実験授業風のアクティブラーニングを展開する。前半は徹底的に並列パターンで攻めて、並列ではどうやっても電球の明るさがほとんど変わらないことを体感する。日常生活への応用上一番重要な回路は並列回路だからだ。次に、電球や電池を直列につなぐと、明るさが劇的に変化する(写真右)ことから、その意味を考えさせ、電流・電圧の概念形成をしていく。
 簡易セットの説明書と授業プラン素案は公開している。PDFファイル(677KB)のダウンロードはここ
 

おもしろ科学たんけん工房の新年会ネタ 山本による島田さんの工作紹介
 神奈川県東部を拠点に活動する認定NPO「おもしろ科学たんけん工房」のスタッフ新年会に参加した。新年会では毎年いろいろな余興が披露されるが、島田さんは、参加者全員にその場でできる簡単工作を楽しませてくれた。
 材料はフェライト磁石2個と板目紙など。今はなき大神楽の名人、海老一染之助・染太郎兄弟の写真が貼ってある。レバーを動かすと、染之助の傘の上でシールで装飾した円盤がくるくると回る。
 両面テープやカラーシールで5分でできる工作に作り込んだ設計、微妙に磁石を傾けて確実に回転するようにした構造、アルミのくるみボタンの利用など、随所にアイデアが光る。動画(movファイル2.2MB)はここ
 

プロパノータ 竹部さんの発表
 音の出る円盤「プロパノータ」。葛飾区に工房を構える菅井肇さんの作品。プロパンガスのボンベを切断・溶接して作る。竹部さんは東京ビッグサイトで開催された、ハンドメイドフェスタにて購入(8000円)。磁石をつけたり、キャップを被せると音が変化するので、何かに使えるかもしれない。詳しくは菅井さんのWebページを参照されたい。
 

ダイソーの手品グッズ 竹部さんの発表
 ダイソーの手品コーナーで見つけた、跳ねる・跳ねないボールのセット。こんなものまで百均市場に出回るようになったのは驚き。この他にも活用できそうな手品グッズがあったそうだ。百均の手品コーナーは要チェックだ。

波のパラパラ漫画を作った 伊藤さんの発表
 東京物理サークルの『たのしくわかる物理100時間 [新装版] 下』に波のパタパタブック(パラパラ漫画)が紹介されていた。教科書などにその波のパラパラ漫画があるかと思って探してみたがなかったので、伊藤さんは自分で作ってみた。
 作り方は波の重ね合わせの動画をFree Video to GIF Converter (フリーソフト) を用いてmp4からgifに変換する。次に、GIFPRINTでgifをpdfにする。できたpdfを切り取り、順番通り並べる。ホチキスで止めると持ち運びしやすい。一般的に使われるホチキス(10号針)は30枚くらいまでなら綴じられるので、ホチキス止めを前提とするなら、gifにする際の画像の枚数は30枚以内にするほうがいい。動画(movファイル5.8MB)はここ
 

二次会日吉駅前「小青蓮」にて
 19人が参加してカンパーイ!今日の例会は、発表希望が多く、とりわけ実験を伴う発表が豊富だったので、エントリーされたテーマを時間内に消化しきれなかった。せっかく準備してくれたのに発表できなかった方はごめんなさい。

 飲みながらも、小ネタの披露が続いていた。乾パンの缶に書いてある「ご注意」の日本語はおかしい、だとか、紙コップにアップルのロゴシールを貼り付けて糸電話を作り、「iPhone」だとか、たわいないネタでも酒席は盛り上がる。
 


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