例会速報 2019/07/21 東洋英和女学院中学部高等部
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授業研究:力学台車を輪ゴムで引く 喜多さんの発表
喜多さんは、この4月より1年間、非常勤講師として2つの学校(K高校とT高校)で教壇に立つことになった。K高校は2年生の物理基礎3単位3クラス、T高校は1年生の物理基礎2単位2クラスである。計週13時間、持ち時間数は専任並みである。
「運動の法則」を扱うところで生徒実験を一つやりたいと考え、最終的に「力学台車を輪ゴムで直接引くこと」にしたという実践報告である。
報告の前に例会参加者に以下のアンケートに答えてもらった。質問は「生徒実験として『力学台車に一定の力を加えて引き、その動きを記録テープにとり分析する実験』を、今年度既に行いました(または、これから行います)か?」である。16件の回答があり、以下の通りの結果だった。
「行いました(行う予定である)」:12、 「行わない」:4
「行いました」と回答した学校の内訳は、
(1)ゴムひもを用いて引く:3、(2)ばねはかりで直接引く:3、(3)定力装置で引く:1、(4)おもりを用いて引く:3、(5)その他:2
喜多さん自身はこれまで(4)の「おもりを用いて引く」で実践してkて、(1)~(3)は一度もやったことはなかった。(2)の「ばねはかりで直接引く」は、自身がやってみて、うまく一定の力で引くことができなかったので断念した。
喜多さんは今回、力学台車を一定の力で引く体験はやる価値があると判断し、最終的に「輪ゴムばかりで引く」方式に挑戦した。輪ゴムの方がばね定数が小さいため、少し引く力がずれても調整しやすいからである。
K高校では、工作用紙などで長さ30cmの厚紙を作り、輪ゴム2本をつないだもので行った。T高校では、A3用紙を丸めて筒状にしてから折りたたんだもので輪ゴムはかりを作った。何人かの先生方と話して、現時点では定規に養生テープを貼る方法が手軽でよいのではと考えている。いずれの場合も輪ゴムごとに微妙に伸び方が違うので、個別に校正して目盛を振る必要がある。
写真右は1kgの台車を「輪ゴムはかり」で引いた時の予備実験のv-tグラフで、加速度はほぼ一定という結果が得られた。加速度の値は、0.25Nのとき0.28m/s2、0.50Nのとき0.43m/s2、0.75Nのとき0.68m/s2、1.0Nのとき0.93
m/s2だった。
以前、力学台車を滑車にかけた糸におもりをつけて引く実験を行っていたとき、糸が台車に及ぼす力の大きさについて生徒の考えを事前調査したことがある。集計するまで喜多さんは、ほとんどの生徒が「糸が台車に及ぼす力は静止している時と同じ」だと考えているだろうと思いこんでいた。ところが、回答者総数152名の分布は以下の通りだった。
「静止している時と同じ」86名(57%)
「静止している時より大きくなる」31名(20%)
「その他」35名(23%)
結果を見て教える側がいかに教わる側の状況を理解していなかったかを痛感させられたという。
さて、実験のまとめをした後の展開は、「1Nの力で直接引く代わりに、1N(102gw)のおもりで引いたらどうなるか」を考えさせることにした。さらに重くして、10N(1020gw)で引いたら台車に生じる加速度は?と問い、単純に10倍になると考えると加速度が10m/s2となり、重力加速度を越えておかしいということに気づいてもらう筋書きである。
蛇足ながら、写真右の50Hzの交流打点式タイマーについている黒いパーツ(指さしている)について紹介があった。取扱説明書によると、これは記録テープを簡単に半折にする道具だという。パーツには隙間があり、そこに記録テープの端を少し半折にして通し、引き抜く。こうしてテープ全体を簡単に半折にすることができる。テープをそのまま使用すると、テープが波打ったとき等間隔の打点にならないが、あらかじめこのツールを通して山形にすると波打つことなく、きれいな等間隔の打点が得られるのだそうだ。製造時期により付いていない場合があるかもしれない。
不動弁付きDVDホバークラフトの改善 天野さんの発表
天野さんが開発した、不動弁付きDVDホバークラフトに、さらに改良が加えられた。以前はPETボトルの口金の輪をはずしていたが、取らずにそのまま風船のゴムを押さえるのに使うというもの。工作の工程が一つ減り、一石二鳥だ。
風船と不動弁は以前にも紹介のあった、百円ショップの製品をそのまま使っている。空気の注入は風船用のハンドポンプが使える。
共鳴の謎 長舩さんの発表
長舩さんは、APEJの実験講習会で共鳴の実験を紹介しているときに、担当メンバーの中で出た次の疑問を例会で相談した。
写真にある右のむき出しスピーカーで紙筒(開管・外径59mm、内径50mm、長さ845mm)を200Hzで共鳴させると音量が大きくなったのだが、写真にある左の木箱がついているスピーカーで同じ筒を共鳴させると、音量が小さくなったのはなぜかという疑問だった。筒を変えてドレミパイプの音階がドの筒でやってみると、どちらのスピーカーでも共鳴で音量が大きくなった。
当初長舩さんは筒に依るのかと思っていた。ところが、例会の場で1.0Hzずつ変化させる提案を受けて実施してみると、196Hzで音量が大きくなる共鳴を観測できた。つまり、微妙に振動数がずれていたのだ。バッフルのある木箱つきスピーカーでは共鳴する振動数の範囲が狭いということも分かった。わかってみればあっけない結果だったが、解決してよかったと長舩さんは喜んでいた。動画(movファイル2.5MB)はここ。
気柱共鳴のエネルギー源 西尾さんの発表
物理教育研究会(APEJ)の物理教育通信 No.176に、勝田仁之さん(筑波大附属高)が共鳴時の大きくなる音のエネルギーはどこから供給されるかという“素朴な疑問”を元に、スピーカーを音源にして行った実験結果を報告している。西尾さんはその概要と共に、昨年度まで勤務していた埼玉県立本庄高校で、顧問をしていた物理部のある生徒にたまたま行わせていた、同様の目的の音叉による実験を紹介した。
また、物理教育学会誌の昔の論文で、音叉とスピーカーの両方を用いた詳細な実験(写真右)も併せて紹介してくれた。
これらから、気柱共鳴で生じる音のエネルギー源は、音源であるスピーカーや音叉から供給されていることは明らかである。しかし、大きな共鳴音が観測されるメカニズムは簡単ではなさそうだ。
裸の音叉やオルゴール本体は、そのまま鳴らしてもかすかな音しか出さないが、机などの板に接触させることによって大きな音が出る。これは気柱共鳴ではなく、音源単体では必ず存在する逆位相の音による干渉を防ぎ、振動面が大きくなることで、音源の振動のエネルギーが効率よく音のエネルギーに変換される(音響インピーダンスのマッチングが取れる)ということなのだろう。
気柱共鳴で音が大きくなるのも、共鳴することによって音響インピーダンスのマッチングが取れるということが大きいのではないだろうか。また、単体の音叉は四方に均等に音を出すが、共鳴が起こると、管口から方向性をもった音が出ることも寄与している気がする。
共鳴の謎2 市原さんの発表
市原さんの勤務校に左のような6組の共鳴音叉があった。音叉の振動数は6種類あったのに、共鳴箱は3種類しかない。しかし、組み合わせが書かれており、一対で対応しているようだった。そして、振動数が倍音になっている音叉は、同じ形状の共鳴箱がセットになっていた。ということは、共鳴箱の中にできている気柱の状態は、基本振動に限らず、水面を上下させる気柱実験と同様に、倍振動で共鳴していることもあるのだろうか?
以上のような推測から、音叉を鳴らして直接共鳴箱の口に近づけてみた。仮に、音叉Aと共鳴箱1がセット、音叉Bと共鳴箱2がセットだとする。このとき、音叉Aは共鳴箱1でも2でも共鳴が聞こえるのに対し、音叉Bは共鳴箱2にしか反応しない、というような現象が見られた。ただ、AとBは、特別倍音の関係になっているわけではなかった。
よくわからないことも多いのだが、想像できることとして、共鳴箱は特定の振動数にピンポイントで共鳴するわけではなく、共鳴する振動数の値にある程度の幅を持っているのではないか、ということと、倍音でも共鳴するのではないか、ということである。もちろん、閉管構造になっているので、3倍5倍振動には対応するのだろうとは思うのだが、そこまで振動数の違う音叉はないので、スピーカーなどで実験しても良いかもしれない。
動画(movファイル4.0MB)はここ。
黒板に付く車Ver.2 喜多さんの発表
喜多さんは、6月例会で発表した「黒板に付く車」を電動自走式に改良した。購入した材料は以下の通り。メーカーはすべてタミヤ、価格は秋葉原の千石電商店頭価格(税込)である。
①ユニバーサルプレートセットno.98 \340
②3速クランクギヤーボックスno.93 \620
③オフロードタイヤセットno.96 2つ \311
④単3電池ボックス(2本用・逆転スイッチ付) \340
3速の中で一番低い回転数のものに設定、裏側に鉄板(5cm×2.5cm、厚さ0.3mmm)を固定し、そこに磁石を付けた。たまたま手許にあった一つのネオジム磁石で黒板上に固定できた。動かすと少し滑るので,更に小さなネオジムを付けたら、しっかりと黒板に付いた形で走らせることができた。動画(movファイル1.9MB)はここ。
光の屈折 川島さんの発表
川島さんが見せてくれたのはプロジェクターを光源として使ったプリズムによる屈折の実験。左側が赤色に右側が青色の画像をプロジェクターで投影する。その光路の途中に3角プリズムを置き、像が天井に映るように屈折させる(写真右)。
そうすると、天井に映った赤色と青色の像がずれる(写真左)。これは、光の色によって屈折率が違うからだ。白色光を入射させれば虹のような連続スペクトルが得られる(写真右)。屈折率の教材として使えるわかりやすい実験だ。
「血の奇跡」の再現 夏目さんの発表
ナポリにあるサン・ジェンナーロ礼拝堂で毎年5月、9月、12月のミサで公開される「血の奇跡」という儀式がある。聖人ヤヌアリウスの凝固した血の液状化現象を見て、吉凶を占うのだそうだ。聖遺物の真偽はさておき、夏目さんは似たような現象が台所にある材料で再現できることを示した。
レシピと配合の手順は以下の写真の通り。はじめは粘性のある液状だったものが、一見固まって動かなくなる。しかし、これをしばらく振ったりたたいたりしていると、流動性が復活して流れ出すことがある。
いわゆる「液状化現象」のダイラタンシーと似ているが、これは水素結合が絡んでいる「チキソトロピー」という、よりミクロな分子レベルの現象なのだそうだ。水酸化鉄(Ⅲ)のコロイドで実験することができるという。コロイド1molあたり50~100molの水を混ぜておくと、酸化水酸化鉄のOHと水分子が水素結合で緩くつながり固まるが、揺り動かすと結合が外れて流動するという。ソフトマター科学ではよく知られている現象だが、材質や周囲の条件や揺り動かし方で現象は微妙に変わってくるそうだ。
アポロ11号月着陸50周年 山本の発表
例会当日の7月21日は、アポロ11号月面着陸50周年の記念日だった。ちょうど50年前のこの日、日本時間の早朝5時17分、月着陸船(LM)イーグル号が月面の「静かの海」に着陸し、同日昼11時56分20秒にニール・アームストロング船長が、人類初となる第一歩の足跡を月面に記したのだった。続いて、約20分後、バズ・オルドリンもLMを出て月面に降り立ち、二人は約2時間半の月面活動の後、帰還した。
山本は当時高校1年生。夏休みに入った初日だった。午前中2時間の夏期講習を終えたあと、自宅に帰宅すると月面第一歩に間に合わないので、藤沢駅前の電気屋に飛び込んで、店主に頼んでテレビを見させてもらった。西山千の同時通訳で生中継される月面からの鮮明とは言えないモノクロ映像を固唾をのんで見守ったものだ。店主は親切にも椅子を出してきてくれて、二人でテレビの前に座って見ていた。そのうちだんだん人が増えてきて、店のテレビの前には人垣ができた。その時間、街頭から人影が消えたと、夜のニュースで聞いた。
例会では、当時新聞各社から発売された「グラフ誌」の実物を披露した。高校生の小遣いでは高価な写真集には手が出なかったが、グラフ誌は紙質は悪いが大判で写真が多く、何より週刊誌並みに安かったのである。参加者には50年前の感動を当時の出版物で味わっていただいた。
アポロ11号月着陸50周年記念番組 車田さんの発表
人類月着陸の記念日に合わせて、さまざまな番組・イベントが企画されている。
7月20日のGoogle検索画面はマイケル・コリンズ(アポロ11号司令船(CM)パイロット)のナレーション付きの、アポロ11号ミッションのアニメーションだった。当日限定だが、YouTubeにも公開されていて、こちらから再生できる。字幕ボタンを押すと日本語字幕が出る。
スミソニアンの50周年記念プロジェクションマッピングは、例会ではうまく再生できなかったが、こちらからどうぞ。
50年後の発射時刻に合わせて、コリンズ宇宙飛行士が生出演する番組も放送された。これらも録画映像がYouTube で視聴できる。
Apollo 11 Astronaut Michael Collins Talks Launch on 50th Anniversary
生物史のイメージ 平田さんの発表
仮説実験授業研究会作製の授業書「生物と種」の中に、40億年の生物の進化の歴史を40mの紙テープに書くとホ乳類やヒトの歴史はどれくらいの長さになると思いますか、という問題がある。平田さんは、紙テープではなく50mのメジャーを使っている。46mと40mの位置に印をつけてそれぞれ地球誕生と生物の誕生の位置であることを示し、教室の周りをぐるりと囲むように伸ばして固定する。生徒たちの予想を集計し、予想の理由があれば発表してもらい、議論があれば議論してもらう。
正解はホ乳類が2.5m、ホモ・サピエンスは2mm、人生100年とすれば0.001mmだ。40mの生物の歴史に対して我々の一生はたったの0.001mmしかないことが教室の周りにはりめぐらせた50mメジャーによって明確にイメージすることができる。わずか
0.001mmの存在に過ぎない我々が、40mの歴史を理解できることも補足するといいと思う。
なお、50mメジャーは安いものは数百円でネット販売されている。また、学校の体育科にはきっとあるだろう。体育科と仲良しなら借りられるのではないだろうか。ちなみに平田さんは、理科の消耗品で買ってもらったそうだ。
大学の「教養の物理学」教育の実践報告2 内山さんの発表
先月の例会に続き、大学での「教養の物理学」の実践の第二報。
内山さんは、これまで教養の理系科目や学際科目で、アクティブ・ラーニングを導入した授業を行ってきた。この経験を活かして、2018年度に担当した「教養の物理学」において、毎回、演示実験かグループ学習を導入した実践を行った。
第1回~第4回は古典物理学の題材の演示実験とグループ学習、第5回~第11回は宇宙物理学をテーマとしており、大学の研究室ではなく、科学館等巡りをして教材開発を行った。グループ学習のテーマは、例えば、「スペクトルを見よう!」「オーロラ」「ロケットを飛ばそう!」等である。
学生の感想の主なものを、以下に示す:「皆でロケットを飛ばすのが、楽しかった。」「国立科学博物館の紹介をして頂いたので、行ってみました。」「JAXAに行ってみたくなりました。(=
JAXAの博物館など)」「オーロラについて知ることができて良かった。」「スペクトルを見ることができて、良かった。」「他学科の人と話すことができて、良かった。」「これまでに無い授業形態で、面白かった。」「物理は難しいと思っていたけれど、面白い。」「最後にグループ学習があるので、飽きない」
当該大学の物理学教室の「教養の物理学」「教養の宇宙物理学」において、毎回アクティブ・ラーニングを実践したのは、内山さんが初めてであった。結果として、2019年度の当該大学の物理学教室の教養教育改革に大きな影響を与えた。内山さんは、本実践をにあたり、大学内外でお世話になった方々に感謝している。
二次会六本木駅前「てけてけ・六本木店」にて
12人が参加してカンパーイ。初めての人、久し振りの人も常連さんも、なごやかに語り合う。アポロ月着陸をこの目で見たという人もいれば、まだ生まれていなかったという人もいる。年齢層の広いYPCである。
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