例会速報 2019/06/23 慶應義塾高等学校
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授業研究:3年理系物理の探究的授業展開 小河原さんの発表
小河原さんが、3年理系物理のクラスで近年行っている授業の展開について、実験を交えながら発表してくれた。
まず背景として、慶応義塾高校では2010年から物理科共通授業アンケートを行っており、当初小河原さんの3年理系物理クラスの結果は先輩教員達に遠く及ばなかったのだそうだ。アンケート項目は、シラバスから抽出した6項目で行っている。(下の写真:Background参照)
それから小河原さんは試行錯誤を重ね、2014年度の米国研究留学で学んだ事柄、特に探求的要素を取り入れたところ、アンケート結果がかなり向上したということである。主な探究的な取り組みの場面は次の通りである。
1. 探求課題(写真左:Method参照)
(1) 角速度:円に6本の直線を描き、回転するとどう見えるか予想
(2) 遠心力:ホースを回すと下端から紙屑を吸い込むが、どうすれば短い時間でA4紙片1/4を全て吸い込めるか(写真右)
(3) 天体運動:米国製貯金箱VORTXに小球を投げ入れ、運動を観察
(4) 等温変化:真空調理器の内部圧力測定方法(小型測定器のレンジは300hPaから1100hPaと記載されていて300hPa以下の値が表示される)
2. 実験レポートの考察で探求
(1) 向心力:生徒に任せて提出させ、考察部分の探求的要素を解説
(2) 熱気球:浮上する最低温度の理論値と実測値が異なる理由
(3) 平行板コンデンサー:静電容量の理論値と実測値が異なる理由
(4) 直線電流の作る磁場:直線電流の1,2,3,4,5cm上で方位磁針のふれ角を測定すると電流予想値が同じにならない理由(どの測定値が信頼できるのか)
例会の場では、実際にVORTXへ小球を投げ入れ、その軌道を観察した。この貯金箱は、おおまかに反比例曲線で作られており、ケプラーの第1,2,3法則が観測できる。ただし、写真を撮影して半透明化したエクセルグラフと重ねてみたところ、外側ほど1/rカーブからずれるので、ハイスピードカメラ映像で第3法則の測定を試みると、半分より外側はデータが式と合致しないということである。詳細は、The
Physics Teacherの2018年11月号に小河原さんの論文が掲載されている。同論文には他に、コインが立つ計算、第1,2宇宙速度、電位、ラザフォードの実験などについての記述もあるそうだ。
YPCメンバーでも、探求活動を取り入れている方々はそれほど多くない模様で、そのことからも現場での種々制約の厳しさがうかがえる。小河原さんは、今後も生徒にとって魅力的な授業展開を模索していきたいということで、多くの方々との情報交換を期待している。他の方も含め、探究的要素を授業に取り入れた次の報告が待たれるところである。
コペンハーゲンのおもちゃ 車田夫妻の発表
コペンハーゲンの雑貨屋「フライングタイガー」で見つけたというおもちゃ。筒の両端が電極になっていて、両手で持つと微弱な電流を検知して、中にあるLEDが光り音がが鳴る。お友達と筒を持ち、反対の手で握手をしたり(写真右)、遊び方を工夫すると面白いかもしれない。乾燥肌だと握手をしても反応しないことがあるが、なぜ手が乾燥していると反応しないのかを考えさせるのもいい。このおもちゃの価格はなんと¥100(税抜)!!。店舗毎に取り扱い品が違うので見つけたらラッキーかも?!ちなみにAmazonだと¥1000くらいで売られている。
動画(movファイル4.4MB)はここ。
科博の物理教室 車田浩道さんの発表
車田さんは国立科学博物館で行われている「自然の不思議-物理教室」の講師をつとめた。今回のテーマは「船の汽笛の音がする ゴム手袋ホーンを作ろう」にした。まずは学校のリソグラフの紙筒(マスターロールの芯)と薄手のゴム手袋とストローを使ってゴム手袋ホーンを作った。
手袋の中指をぐいっと下に引っ張って、ストローから息を吹き込むと、手袋の手のひらの部分がリードになって振動し音が出る。これが紙筒で共鳴して船の警笛のような独特の音になる。動画(movファイル6.1MB)はここ。
これをもとにして筒の長さを変えたり、太さを変えたり、手袋の素材を変えたりと様々なパターンを作り、音を鳴らす前には考察をさせた。また、手袋の押さえ方、引っ張り方なども変えながら音を鳴らしてみた。透明な筒にして発泡スチロールの小球を入れると、クントの実験っぽい観察もできる。動画(movファイル2.8MB)はここ。
2本の筒を継ぎ足して音の変化を聞く実験。動画(movファイル1.8MB)はここ。
単純な実験でも実験の条件を変えたり、実験結果を予想したりすることの大切さを子どもたちは感じたようだ。
黒板につく車 喜多さんの発表
喜多さんは、摩擦力が垂直抗力に関係することを示すための何かがないかと考えていたとき、以前どこかの会合か本で見たことを思い出し、黒板につく車を作成してみた。 当初は力学台車にフェライト磁石を付けたもので試したのだが、余りにも重すぎて失敗。その後いろいろ試行錯誤した結果、発泡スチロールの直方体に車輪をつけ、裏側にネオジム磁石を付けたもの(写真左)にたどり着いた。薄い鉄板をペンチで四ケ所折り、右の写真のような形にして車体底面に取りつける。その中央に百均のネオジム磁石を付けただけである。黒板面をこすらないよう、適当な吸着力になるよう鉄板を調節する。
少し斜めに黒板に付けるとするすると下向きに動いていくのがよい。動画(movファイル1.3MB)はここ。
kinovea実演 益田さんの発表
益田さんは、今年4月の例会で紹介したフリーの動画解析ソフト「kinovea」を実際に放物運動の解析に使うやり方を実演してみせてくれた。写真は、等速で走行する力学台車の上から飛び出したアンパンマンのジャンピングトイが、黒板を背景に放物運動する様を、ハイスピードカメラで記録し、kinoveaで処理しているところ。座標軸や原点の位置は任意に設定でき、画面上で目標物を指定するとあとは自動的に追跡し、座標を読み取ってログを出力してくれる。その場で軌跡を描くこともできる。
表計算ソフトなどに移してデータを加工することも簡単にできる。
ちなみに、益田さんがハイスピード動画撮影に使用したソニーのデジタルカメラ「Cyber-shot RX100M5A」は、お値段は実売9万円台と少々お高めだが、フル画面毎秒960フレームのハイスピード撮影や、撮影ボタンを押した直前の一定時間を記録する「エンドトリガー」モードを備え、物理実験には魅力的なスペックのカメラだそうだ。
あの日から50年 車田里奈さんの発表
車田さんは、6月のはじめにひとりで米国ハワイ州へ行ってきた。街の本屋さんなどに行くと、表紙に宇宙飛行士が載った本や雑誌が多数並べられていて、それは不思議な光景だった。「なんで宇宙飛行士の本がたくさん並べられているんだろう、父の日のためのコーナーにも宇宙飛行士の本が山積みになっているのはなんでだろう…」と気になって近づいて手に取った時、その答えが分かった。今年はアポロ11号の、人類初月面着陸50周年だったのだ。
車田さんは急いで雑誌を手に取り読んだ。月面着陸の記事も面白かったが、雑誌の広告に目が釘付けになった。50周年記念のグッズがたくさん売られていたからだ。その中でも、記念硬貨のデザインと形のセンスの良さに心を奪われたので買ってみた。このコインの説明によるとニール・アームストロングが撮影した有名な写真が図案で、コインそのものが曲線になっているのはバズ・オルドリンのヘルメットをイメージしているからだそう。そしてバズ・オルドリンのバイザーにはモジュールの横に立っているニール・アームストロングの姿が反転して映っている。裏面は人類にとって大きな1歩になった、アームストロングの足跡だ。50セント硬貨を40ドルで買うのは勇気がいることだったが、思い出の品になった。なお、写真は白銅貨だが金貨も発売されている。
アポロ11号月面着陸50周年記念の出版物は多数出回っているが、車田さんが特に気に入ったのがこれ。著者のロッド・パイルは宇宙開発やNASAの内情に詳しく、NASAのジェット推進研究所およびカリフォルニア工科大学の教育支援プログラムに携わるライター。収録されている写真や資料も豊富だが、スマートフォンやタブレット端末でAR(拡張現実)体験ができるインタラクティブ・ブックになっている。仕掛けのあるページに、専用アプリをインストールしたスマホをかざすと・・・
臨場感あふれる動画・音声、細部まで再現した3D立体模型、などが画面に現れる。(写真左)
本書は三省堂から邦訳が出ている。「アポロ11号月着陸50周年記念 月へ 人類史上最大の冒険」 3600円+税。
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/dict/ssd16244
インド式かけ算 天野さんの発表
先日のNHKニュースでインディアンインターナショナルスクールが取り上げられていた。その中で2桁と2桁の掛け算の紹介があった。天野さんは、足し算はできるが掛け算の理解が不十分な生徒の役にたつのではと、自らの解釈を紹介してくれた。
30億分の1太陽系モデル 平田さんの発表
仮説実験授業の「太陽系と宇宙」の授業展開紹介。写真左「30億分の1の太陽モデル」は巣鴨の仮説社にて、税込4320円で入手できる。この太陽モデルの表面には、水星から海王星までの各惑星が同縮尺で描かれている。右の写真は30cm定規の目盛り上に、13cm離して仁丹(またはアラザン)とBB弾をセロテープで貼りつけ、それぞれ月と地球の30億分の1モデルとしたもの。この月・地球モデルを太陽モデルから50m離して置けば、太陽・月・地球の30億分の1モデルとなり、BB弾(地球)を自分の目のに近付け、仁丹(月)を太陽モデルの方向に向けて覗くと、太陽と月がほぼ同じ大きさに見える。皆既日食・金環日食・部分日食・月食も分かりやすく説明できる。
黒板に掲示したのは、平田さんの勤務校を太陽の位置とした30億分の1太陽系モデル図。学校事務室常備の25000分の1住宅地図をコピーし、切り貼りして作成したもの。このモデル図を授業で扱うことにより、太陽系の正しいイメージが伝わる。
Formscanner 宮本さんの発表
宮本さんは、Macでも動く無料のマークシートリーダを探していて、非常に使い勝手の良いアプリケーションを見つけたと紹介してくれた。
公式HP : http://www.formscanner.org/ 使い方はグーグルで「Formscanner」と検索すればいくつかヒットする。
宮本さんは実際にこれを使って読み取りを実行したが若干精度が悪かった。今後、改善を加えてもう一度チャレンジする予定である。主な改善目標は以下の通り。
・塗りつぶし用のサークルは平行等間隔にする
・丸数字(①②など)はやめて、数字とサークルを別に作る
・コピーするのではなく、直接印刷機にデータを送って印刷する
・答案をScanする際は台形補正してくれる丁寧なScan機で読み取る
また、マーク読み取り結果はcsvで出力されるが、「秘伝のcsvの分析エクセルは、もう少し改善を加えて頑健性を確かなものにしてからこっそりとお頒けする予定。完成の日までしばしお待ちください。」とのこと。期待しよう。
太陽系トポロジー 市原さんの発表
宇宙ネタついでにと、市原さんは最近知ったという「太陽系トポロジー」という考え方を紹介してくれた。下のリンクにある動画は、太陽の周りを回る地球と金星を線分でつなぎ、その線分を一定時間間隔で残していくと、包絡線が幾何学模様をなす様子を示している。もちろん、正確には円軌道ではなく楕円軌道であるし、他の惑星による摂動などは考慮していないだろう。地球とほぼ同じサイズであるはずの金星がやや小さいのも気になる。調べていくと、いろいろアヤシイものにも出会うが、惑星の軌道を幾何学的に解析することから、色々と見えてくるのは面白い。動画のURLはこちら:https://www.youtube.com/watch?v=r_DYZWpp95g
なお、国立天文台による天文学的な解説は、ここにある。金星と地球の公転周期はほぼ8:13でシンクロしているのである。
日本語のロジック 市原さんの発表
市原さんは2013年頃に見かけたが、最近また話題になっていたというので紹介してくれた。
「頭が赤い魚を食べた猫」という文を、どの語句がどれにかかるか、で解釈が変わる。「頭が→食べた」としてしまうと、左の写真のキメラのような猫になってしまう。どの語を修飾するかで、右のように5つのパターンが派生する。
当該サイトのURLはこちら:https://twicolle-plus.com/articles/394744
これに近いロジックで、「私は笑いながら逃げる弟のあとを追いかけた。」という例がある。笑っているのは姉なのか、弟なのかという二通りの解釈が可能だ。それに比べ、この「猫」の事例はかなりやっかいである。右の図の5種類、全て意味がわかるだろうか。
定期試験の時期だが、「誤解をされないような問題文を作らないと」と、市原さんはの自戒を込めて語った。
質量変化と温度市原 さんの発表
カップ麺の容器にお湯を入れた時に、質量の変化はどの程度あるのだろう。市原さんは気になったので実際に測定してみた。
実験に際して、手持ちの温度センサは島津製品、力センサはナリカ製品だったため、温度センサの方に合わせて島津製品で統一することにして、少々乱暴だが力学台車(スマートカート)をスタンドに固定し、内蔵力センサにカップを吊り下げた。
温度変化と質量(正確には重量)変化を記録し続けると、60℃を下回ったあたりから質量変化が落ち着いてくる。(=ほぼ減らない。)測定時の室温は24℃であった。逆にいうと、80℃付近では1分で4gくらい減っていることになる。こんなに減っているのも意外、温度が下がるとこんなに減らないのも意外だった。気温だけでなく、湿度や気圧など、どの程度関係しているのかも気になる。
いい探究の材料だと思うが、1回実験するのに小一時間かかるのが、ややネックである。生徒の課題研究のテーマにいかが?
疑問に思っていること 堀内さんの発表
堀内さんは、日ごろの授業を展開する中で疑問に思っていることを発表し、例会参加者の意見を求めた。その場での議論には時間が足りなかったが、後日のMLでの討論も加え、皆で理解を深めた。
●その1:コンデンサーを電池で充電する場合、電池のした仕事はQVであり、コンデンサーに蓄えられたエネルギーはQV/2である。残りのQV/2は、どこに行ったのかという疑問。
これは、コンデンサーが理想的で誘電損失がないとしても、電池の内部抵抗や導線の抵抗で発生するジュール熱を積分してみるとちょうどQV/2となることで説明できる。なお、抵抗ゼロの極限では、電磁波の放射が卓越することになるだろう。
●その2:「コイルには電流を一定に保とうとする性質がある。」という表現はコイルに生じる誘導起電力を説明するのに適切な表現かという疑問。
この表現自体は詳しく議論されなかったが、回路に含まれるLC振動回路の過渡的応答の方に興味が集中した。
●その3:RLC共振回路は、直列共振も並列共振も力学的な強制振動の類似として説明してよいのかという疑問。
MLでは、「ファインマン物理学」でもかなりのページを割いて取り上げられているアナロジーで、イメージを作るための力学的モデルとして適当だろうという結論になった。直列と並列の共通性・関連性についても議論した。
「教養の物理学」の枠組み 内山さんの発表
内山さんは、昨年度に神奈川大学で実践した「教養の物理学」の実践報告の第1報として、「教養の物理学」の枠組みについて、発表を行った。リベラル・アーツの発想でシラバスを書いたことにより、「教養の物理学」の非常勤講師に採用された。例会では、シラバスを材料として、「教養の物理学」の枠組みについて紹介があった。
内山さんのシラバスとその前後年のシラバス「教養の宇宙物理学」「教養の物理学」を比較すると、当該大学の「教養の宇宙物理学」「教養の物理学」の構造(及び担当教員の出身分野)が、その前後で大きく変化したことがわかる。「リベラル・アーツ」、科学史、地球物理学の視点を導入したことにより、物理学教室の教養教育改革に大きな影響を与えた、と結論づけられる。
内山さんの発表資料(PDFファイル340KB)はここ。
おもしろ科学たんけん工房のDVD 山本の紹介
横浜・藤沢を拠点に活動する認定NPO「おもしろ科学たんけん工房」は、実験・工作を中心とした小中学生向けの科学体験塾を展開している。そのうち人気の定番13テーマを選んで、実験の指導の仕方・工作の手順などのノウハウを詳しく動画で解説したDVD(全13巻)を制作し、このほど一般販売を始めた。
スタッフ養成用の手引きビデオという位置づけて、送料込み1巻500円で分けてもらえる。タイトルの一覧や、申し込みの方法などのPDFファイルはここ。
二次会日吉駅前浜銀通り「小青蓮」にて
12人が参加してカンパーイ!いつもの店で、いつものように打ち上げ。今回のように交通の便がいい会場での例会は、参加者も発表件数も多い。結果、毎回時間が押せ押せになってしまい、消化不良を生じてしまう。これは長年の課題である。飲みながらも皆でその解決策を考える。二次会は反省会であり情報交換会であり運営会議でもある。ただボーッと飲んでいるわけではないのだ。
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