例会速報 2019/05/19 東京学芸大学附属高等学校
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授業研究:力と運動 櫻井さんの発表
櫻井さんは今年の4月から、今回の会場校である東京学芸大学附属高等学校で、非常勤講師として物理基礎の指導を行っている。例会では、本年度から行っている「力と運動」の授業について、発表があった。
附高では生徒実験を頻繁に行い、現象を確認してレポートを書くことで学習を進めていくやり方を採用している。既に中間試験までの10回の授業のうち、2,4,6,7回目の授業で実験を行い、生徒達は実験レポートを3回提出済である。
力と運動の学習では、「引く力や質量と加速度の関係を測定する」「落下する物体の運動を測定する」など、記録タイマーを用いて運動の様子を測定し、その結果から運動方程式や落体の運動について、パラメータ同士の関係がどうであるか、どのような物理的法則があるのかを一つずつ確認しながら進めた。
レポート課題は生徒にとっても教員にとっても大変ではあるが、双方とも得るものが多く、有意義であると櫻井さんは感じている。生徒は物理の学習に加えて科学的思考とアカデミックライティングの経験を積むことができ、教員は生徒の未知や誤解・誤概念をその文章から直接読み取ることができ、指導に反映させることができる。
例会の参加者からは、慣性の法則を明確に示すことの重要性、相関係数の使い方と意味の指導、生徒に示す板書や実験プリントをきちんと見直すこと、レポート課題の頻度についてなど、様々な指摘や意見が寄せられた。櫻井さんは「更に魅力的で効果的な授業を目指して勉強します。また次回も、よろしくお願いします。」と抱負を述べた。
綱渡り 喜多さんの発表
左の写真は、2002年9月19日の朝日新聞の記事である。万里の長城の上での長さ 1004mの綱渡りが報じられている。
喜多さんは、この綱渡りの状況を示そうと、ダイソーで園芸用の「弾力があるグラスファイバー製U字に曲がる支柱」(写真右)と「キーホルダーの人形」を購入した。
タコ糸を張り、その上にファイバー製の棒を持った人形が乗っている。実はこのときの重心は糸の下にある。やじろべえと同じ原理で、人形でも自然にバランスがとれるわけだ。
しかし、本物の綱渡りでは棒と人の重心は綱(ワイヤ)より上にある。これは不安定なつり合いで、バランスを保つにはフィードバック制御が必要になる。そこが「技」だ。長い棒は慣性モーメントを大きくすることで角加速度を小さくし、応答時間を稼ぐためと考えられる。
喜多さんは当初、重心が綱より下にあると思いこんでいたというが、発表・討論することで自分の思い込みを修正できたと語った。
CD・DVD独楽3種 天野さんの発表
天野さんは、5月4日、伊勢原市立子ども科学館のイベントで、子どもと保護者を対象にミニ工作を指導した。子どもでも短時間で作れて確実に回る3種類のCD・DVDのコマを新たに考案した。
(1)はCDの穴にタレビンを挿すだけでできあがる。左図のようにタレビンの矢印で示した4箇所の角をハンダごてで融かして穴をあけてあるのがミソ。ここにCDがはまって水平が出る。タレビンの四角い形状も子どもが回すときにホールドになって好都合。タレビンのキャップの微妙な曲面が軸先になる。
(2)はタレビンを半分に切って(1)と同様に差し込み、写真のようにビー玉をはめ込む。蓋のぎざぎざがホールドになって子どもでも回しやすい。裏返しても回せるリバーシブルコマである。
(3)は両手で軸をはさんで回す「手もみコマ」。タピオカストローを軸に使った。穴の径を合わせるのにひと工夫した。ストローにちょうどはまる12mmのカットビーズを軸先にしている。軸の垂直をうまく調整すれば、手もみで勢いよく回せて長時間持続する。
ニュートンメーター 渡辺さんの発表
株式会社ナリカより、ひずみセンサを利用して、力の値を瞬時にデジタル表示できる新教材「ニュートンメーター」が発売になった。従来のばねはかりよりも手軽に力の値を確認できる。ばねによる固有振動がなく、測定レンジが±20N(2kgw)と幅広く、0.01N(1gw)の精度で正確に測れることがばねはかりよりも優れている。gとNの表示単位切替が可能である。ゼロ点調整や測定値のホールドもボタン一つで可能だ。つり下げ用のフックを外せば、押しはかり(写真右)にもなる「押し引き両用」である。気になるお値段も¥3900とリーズナブルで、ばねはかりを何種類もそろえるよりは安い。
ナリカの渡辺さんからは、「フックを外せば押す力を測定できるフックの構造や、実験で使いやすい形状などにこだわりました。」と、開発サイドの苦労話があった。ばねはかりのよさももちろんあるが、デジタル測定器「ニュートンメーター」の登場で、これまでにないいろいろな実験が開拓されればとの思いで発売を開始したとのこと。
デジタルスケールのしくみ 宮田さんと山本の共同発表
宮田さんは壊れて廃棄になったデジタルスケール(電子上皿はかり)を分解してみた。ずいぶん古いものなので、回路基板は複雑だ。上皿の下にあたる、一見さっぱりした部分の中央にあるアルミニウム製のブロックが「力センサー」である。金属ブロックの一端が本体に固定され、他端が浮いた形になっている「片持ち梁」という構造で、上から加わった力による金属ブロックのわずかなたわみを電気的に測定している。上で渡辺さんが紹介してくれた「ニュートンメーター」も基本的には同じ原理である。
左の写真は金属ブロックを取りだして横倒しに観察している。下面が手前側に見えている。二箇所に穴が開けられ、穴同士をつなぐようにスリットが切られている。金属が薄くなっていてひずみが集中する上下4箇所にひずみゲージ(ストレインゲージ)というセンサーが貼り付けてある。茶色いシールのようなものがそれだ。
ひずみゲージを拡大してみたのが右の写真。視野円の直径は約5mm。絶縁フィルムに白く見える金属薄膜がプリントしてある。幅2mmで左右に往復している部分が一つながりの細い金属線で、この部分が左右に引っ張られて伸びると電気抵抗が増す。電気抵抗の変化→ひずみの大きさ→加わった力、という換算をして測定値を表示する仕組みである。4つのゲージの伸びる部分どうしを足し算し、縮む部分を引き算して平均している。
下は山本の自宅にあったキッチンスケール。千円ほどで手に入る安物である。まだ使用中だが、比較のため分解してみた。左の写真のように中身は非常にさっぱりしている。回路部分は1チップ化されて表示器も含めて一体化し、量産化されている。センサー部分は上と同様の「片持ち梁」構造で原理は同じだが、ひずみゲージは上下二箇所に減らしてあり、小型化と同時に部品点数を減らしてコストダウンと製造工程の簡易化が図られていた。その分精度が犠牲になっているのだろう。なお、蛇足ながらこのキッチンスケールはその後、現役に復帰した。
関連記事:デジタルヘルスメーターのしくみ(2009/07/26)
授業に使えそうなコンデンサーの映像 水上さんの発表
「理科ねっとわーく」の中にある映像教材である。サイト内検索で「コンデンサー」でヒットする。
1つ目の映像:電気容量C1=8.52mF、C2=5.60mF、C3=2.68mFの3つのコンデンサーの直列接続。3つともはじめは端子電圧が0V(初期電荷が0C)である。これに電圧(単1電池2個)を加えると端子電圧がそれぞれ0.549V、0.832V、1.760Vになる。
2つ目の映像:映像1と同じ接続で初期の端子電圧が0V、0.839V、0Vである。これに電圧を加えると端子電圧が0.402V、1.455V、1.288Vになるいずれも映像中で測定値が示される。
授業では以下のように利用できる。
1つ目の映像:各コンデンサー蓄えられた電気量は8.52mF×0.549V=4.68mC、(以下計算式省略)4.66mC、4.72mCなので有効数字2桁の精度で電気量が保存されていることがわかる。教科書の「初期電荷0の場合、直列接続されたコンデンサーに蓄えられる電気量はどれも等しい」の確認に使える。
2つ目の映像:各コンデンサーに蓄えられた電気量は8.52×0.402=3.43mC、8.15mC、3.45mCなのでC1の負側とC2の正側の電気量の和は(-3.43)+(+8.15)=+4.72mC、C2負側とC3正側の和は(-8.15)+(+3.45)=-4.70mC、C3負側とC1正側の電気量の和は(-3.45)+(+3.43)=-0.02mCになる。いずれの部分も有効数字2桁の精度で電気量が保存されている。→初期電荷≠0のスイッチの切り替え問題の説明に使える。
2019.5.20は何の日? 市原さんの発表
YPC例会の翌日の5月20日は、タイムリーなことに世界計量記念日で、特に今年の2019年は質量の単位「キログラム」の定義が更新されることとなる。
2018年11月16日に第26回国際度量衡総会 (CGPM) で決議・承認された新しい定義が今年5月20日から施行されるのだ。
産総研は特設サイトを公開し、プランク定数の値を決めるデータに貢献してきたことをアピールしている。19世紀から使われてきたキログラム原器も本日でついに役目を終えるが、産総研のyoutubeには日本国キログラム原器紹介の動画もある。
新しい定義では、1kgをエネルギーで定義することになる。E=mc^2 と光子のエネルギーE=hνを使い、「周波数がc^2 /h の光子のエネルギーと等価な質量」が1kgの定義となる。他にもアンペア、ケルビン、モルも変更される。さて、授業にどう活かそうか。
二次会学芸大学駅前「海の家 あそなる~」にて
11人が参加してカンパーイ!昨年10月にもお世話になった、学芸大駅近くの感じのいいお店である。二次会の最中、鈴木さんが「今日はISSの通過があるんじゃなかったっけ?」と発言。時計を見ると19:45、ちょうど天頂通過の時刻だ!すぐに店の外に飛び出して見上げると、ビルと高架の隙間の狭い空に、ギラギラ輝く明るい点が北に向かって動いている。「集団食い逃げ事件」になるとまずいので、交替で外に出て観察した。飲んでいても「科学」を忘れない集団である。
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