例会速報 2020/05/17 Zoomによるオンラインミーティング
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今回はYPCとしては(正式には)初のオンライン例会だった。参加者は57名で、最大規模の例会となった。東北・北海道から沖縄まで全国からのご参加をいただけたのも、オンライン例会ならではのことだ。ピンチはチャンス!新しい活動の形が見えてきた、記念すべき例会だった。
授業研究:物理基礎「波」探究活動を念頭に置いた授業設計 西村さんの発表
西村さんは,高校2年生対象の物理基礎「波」の授業について発表した。
単元の前半に波に関する授業を行い,後半はその知識やスキルを活用して「音速の測定」に取り組ませるという授業計画で,教師が実験方法を提示するのではなく,インターネット上の先行研究を参考にしつつ,生徒自らで実験をデザインするよう求めたそうである。
西村さんは,生徒たちの実験デザインと実験結果の間を何度も往復しながら探究している姿が印象的であったとのことで,今後は探究の資質・能力がどの程度伸長されたのか,という評価方法の開発にも取り組んでいきたいとのことである。
西村さんの発表スライド資料(PDFファイル839KB)はここ。レジュメ、授業プリント(PDFファイル2.2MB)はここ。
オンライン授業の簡単な実践報告 西尾さんの発表
西尾さんが勤務している日本薬科大学は、4月当初からオンライン授業をほぼ当初のスケジュールどおりに実施している。1年生を担当しているが、学生はたった1日登校しただけで、そこで教科書販売と説明およびスマホなどの端末設定を行ってオンライン授業に突入した。当初はそれなりのトラブルがあったが、学生のIT対応能力は高く、なんとか授業を実施できている。
授業は薬学導入科目の物理で、1クラス50~80名程度を対象にして、内容的にはほぼ高校物理の内容を前期10コマ(1コマ90分)、後期10コマで実施している。前期は力学、波動、電磁気、後期は原子および熱力学を扱う。オンライン授業はMicrosoftのTeamsの会議で、教員はリアルタイム型と録画型を選べる。西尾さんが実施しているのはリアルタイム型のPowerPointの講義形式で、埋め込んだ動画やウェブ上のシミュレーション(例示した図はhttp://sgs.gozaru.jp/cdr/sutanbai/namikasane.html)や動画などを活用し、授業の所々でMicrosoftのFormsによる課題(多肢選択クイズ)を実施したり、カメラによる板書や実験演示をしている。
課題はオンライン前から授業に取り入れており、ピア・インストラクションで用いるような概念理解を図るための課題も入れるが、教員が簡単に解説してしまう「これくらいはすぐわかるだろう」というものもあえて入れている。ここでは周期と振動数の関係の例を示す。公式導入前の課題とは言え、意外に不正解者が多いことがわかる。
オンライン授業のメリットは、学生がチャットなどで質問しやすいことで、個人的な質問はもちろん、授業のTeamにつくった質問ルームというChannelでもそれなりにやりとりできている。ただ、このような質問など学生個別の対応と出欠管理や確認試験チェックなどのさまざまな業務が増え、実質的な労働時間がかなり増えているのはつらいところである。
なぜ氷の上は滑りやすいのか 水野さんの発表
昨年12月27日に放送されたNHK総合の番組「チコちゃんに叱られる!」で「なぜ氷の上は滑りやすいの?」というテーマが取り上げられていた。これまでの2つの説「圧力説」と「摩擦熱説」を否定して「分子コロコロ説」が正しいと言っていた。この説は、2018年5月にドイツ・マインツにあるマックスプランク高分子研究所の永田勇樹氏たちのグループが初めて提唱したと番組では紹介していた。番組の中では、以下のような説明をしていた。
まず「圧力説」では、氷に加わる圧力で氷の中から水が押し出され、氷の表面にできた水の膜で滑るとするが、普通の靴のように広い面積で踏んで滑ってしまうことが説明できない。
次に「摩擦熱説」では、氷の上を歩くときに氷が擦れるにつれて氷が溶けて表面にできた水の膜で滑るとするが、どんなに足や手を擦りつけても水はできない。そもそも氷の上で滑りやすい理由に氷が溶けて水になるということはあまり関係なかったのだという。
そこで登場してきたのが「分子コロコロ説」。番組の中では次のように解説していた。
「氷の上が滑る原因、それは氷の表面にある水の分子がコロコロと動いてしまうからです。氷の断面を分子レベルまでに拡大してみると水の分子がくっつき合っている。氷の内部にある水分子を見てみると、水分子一つに対して4つの水分子が繋がっています。しかし、氷の表面では水分子の繋がりが2つや3つしかないため、表面の水分子が固定されずに動いてしまうのです。簡単にいうと、床一面にビー玉が敷き詰められているような状況が氷の表面です。氷の表面では分子がビー玉のようにコロコロと自由に動き回り、人や物を滑らせていたのです。」
最後に、水の膜ができて滑るのはハイドロプレーニング現象で、別の現象だと言う説明もあった。
例会では、氷の上で滑るのはまだよくわかっていないという意見もあった。水野さんは番組で紹介された「分子コロコロ説」がかなり有望であるという印象を受けた。
上の画像を引用した原論文のレターはここ→https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpclett.8b01188
低倍率タブレット虫メガネ 寺田さんの発表
100円ショップで売っているスマホにつける接写レンズをタブレットにとりつけると、顕微鏡のように使える。インカメラに接写レンズを取り付けるだけ。ピントの位置に塩ビ板でステージを作り、サンプルを載せる。昆虫、小動物など動きのあるものは特に面白い。動物は下から見上げる観察となる。ズームや動画や写真撮影も簡単。タブレットは画面が大きい分だけ、スマホよりも迫力があり使いやすい。
寺田さん自身がYoutubeにあげた動画はこちら。
https://youtu.be/kt05gGuhKPs
https://youtu.be/xgxCvSFgpmk
https://youtu.be/93avRfehe8I
新型コロナウイルス感染検査をベイズ統計で考える 夏目さんの発表
あらゆる感染症検査には、感染していても「陰性」になる場合、および感染していないのに、「陽性」になる場合がある。実際、新型コロナウイルス感染症の検査を受けると「陽性判定」なり「陰性判定」なりを受けるが、それにどう対応するか示されていないため、極端な楽観論とか極端な悲観論に陥りやすい。夏目さんは、ベイズ統計を用いて、判定が何を意味しているかを説明してくれた。
検査結果の意味するところは、検査を受けた人の属する集団の感染状況によって大きく変わる。夏目さんはまず、集団が、既に感染の疑いが強い場合の「陰性判定」の危うさを指摘した。次に、集団がほとんど感染していない場合の「陽性判定」の持つ意味を論じた。集団の感染率の情報を加えて、図のように面積で評価しなければいけないということだ。
これらの例では、集団の感染状況という(確定的でない)推測が入ってくるが、得られた(推定)統計結果の示唆は、より妥当性を増すという意味で実用的になっている。これは新たな情報による「学習」のモデルでもある。これこそがベイズ統計の特徴であってAIなど各方面で使われている。
詳しくは夏目さんの発表スライドを。夏目さんのスライド資料(PDFファイル153KB)はここ。
振り子と水平投射の動画 米田さんの発表
石川県から参加の米田さんとは、実に久しぶりの再会。遠隔地からも簡単に参加できるのは、オンライン例会ならではのメリットだ。米田さんは、実験室で撮影した実験つき授業の動画を自宅学習中の高校生に配信した。
以下、米田さんからのメッセージをご紹介する。
20年ほど物理に関してだけでなく,環境や人権など自分の伝えたいことを伝える授業をしてきました.3年前から授業の最後の5分間に,リフレクション(振り返り,感想ではなく何がわかったか何がわからなかったか)シートを書いてもらっているのですが(現在はGoogleClassroomでスプレッドシートのやり取りをしています),久しぶりに,生徒の「〇〇がわかった」が嬉しくて「××がわからない」に応えたいと思い,自分の伝えたいことよりも生徒の望むものを,,,に戻って一生懸命に物理しています.
そこで,昔やっていた授業開きと授業締めにおこなう同じ実験(授業を聞く前後で実験がどのように違って見えるか)も復活,休校期間に動画にしました.
乾燥剤で水酸化カルシウム水溶液(石灰水)を作る 天野さんの発表
生石灰(酸化カルシウム)を主成分とした乾燥剤がある。これを水に溶かすと、二酸化炭素検出用の「石灰水」が簡単に作れるという天野さんからの紹介。ダイソーで売っている乾燥剤や、海苔などの食品の袋に入っているものなど、生石灰を使ったものなら何でもよい。湿気て乾燥剤としては使えなくなったもの(水酸化カルシウム(消石灰)に変化している)でも使える。ガラスビンに袋の中の粉を入れ、大量の水で溶かす。発熱するので水をたくさん入れるのがコツ。溶解度が低いので沈殿するが、数日おいて上澄みをとれば「石灰水」(水酸化カルシウム飽和水溶液)になっている。水をつぎ足せば何度でも作れる。
炭酸水を注げば真っ白になり(写真左)、ストローで息を吹き込めばほんのり白濁する(写真右)。強アルカリなので飛沫が目に入らないように注意する。子どもにはゴーグル着用が必須だ。なお、石灰水をPETボトルで長期保存すると加水分解が起こってボトルがひび割れてくるので、PETボトルは使わないこと。昔の先生が「一升瓶」を使ったのには意味がある。
Processing(Python)で感染のシミュレーション 櫻井さんの発表
櫻井さんは、小沢さんが休校中に出した課題の一つである、アドバンシング物理で紹介された山火事問題や、車田さんから紹介いただいたウィルス流行のシミュレーション計算に関するWebページに影響を受け、実際にそれらをProcessingでプログラムしてみた。ProcessingはJavaをベースとした、いわば「お絵かきが簡単にできちゃうプログラミング言語」で、結果をグラフィックとして表示したいときにそれを簡単につくることができるという特徴がある。また,標準のJava以外にJavascriptCS5,pythonなどの言語モードがあり、それぞれの言語ライクに記述できるため、これらの言語を触ったことがあるならば比較的簡単に修得できるのも嬉しい。
感染シミュレーションのプログラムでは、コード内の感染確率、回復確率、初期感染者割合、接触数平均・標準偏差、空隙率を指定して感染の広がりを視覚的に確認できる。下の3枚は、感染シミュレーションの実行中の画像。
山火事シミュレーションでは、アドバンシング物理に記されたルールの上において、森林割合が40%あたりを境目として山火事の広がり方が大きく変化することが確認できる。下の3枚は、山火事シミュレーションを、森林割合50%、40%、30%で実行した最終結果。
左は実行時のIDEの画面。プログラムはPythonモードで書いてせいぜい100行~200行程度だという。櫻井さんは、「実際に書いてみて、二次元のリストを利用して感染の状態を進めていく部分がやや難しいものの、分量や難易度は
大学生のプログラミングに関する講義の最終課題くらいかなと感じた。」という。
櫻井さん提供のコードは下のリンクから。動かすためにはProcessingIDEのインストールして、Pythonモードにしてからコードを貼り付けてRUNボタンを押すだけ。
感染シミュレーションのコードはここ。
山火事シミュレーションのコードはここ。
二次会Zoomによるオンライン二次会
オンライン例会終了後、19:40から開催した有志によるオンライン二次会にも16名の参加があり、初の試みとして、国際宇宙ステーションISSのZoomの中継による遠隔同時観測にもチャレンジし、成功した。この日のISSのコースは東京の予報で
5/17 19:54:30 西南西10゜→19:57:30 西北西52゜→20:01:00 北東10゜
という好条件。可能な参加者は携帯端末を持って自宅の外に出て、出現を待ち受けた。関東では西側の山沿いに薄雲がたなびく条件だったが、上空はおおむね晴れ。最初に発見したのは、いちばん遠い千葉から観測していた越さんだった。その後、関東各地から「見えた」コールがほぼ同時に届いた。
離れて暮らしていても、体験を共有できるのが天文現象だが、ISSは地域により若干のタイムラグを伴う、地球のスケール感を確認できる好適な現象だ。特に、今のように離れて暮らさざるを得ない状況下で、現象を共有できる体験は貴重である。遠隔同時双方向通信を活用した様々な取り組みが報道でも紹介されているが、天体やISSの同時観測と体験の共有は、新しい理科教育の可能性を示唆するものだと思う。
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